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ラッキンコーヒーがナスダック上場!日本では知られざる怪物ユニコーンを徹底解剖

今年、アメリカで上場されるアジアのスタートアップの中で、luckin coffeeは一番大きなIPOを果たしましたね。調達額は5億6100万ドル(日本円にしておよそ600億円)となりました!

2019/5/17にナスダックに上場し、上場時の時価総額約47.4億ドル→直近の株価は下がっておらず、むしろ上昇中、57億台ドルの時価総額が維持されているので、驚きです。

今回は、ナスダック市場に大型のIPOを成し遂げた、ラッキンコーヒーについて日本ベンチャーキャピタル(NVCC)劉宇陽(リュウ・ウヨウ)さんを取材させていただきました。

劉宇陽(リュウ・ウヨウ)氏

上海出身、京都大学卒、自らベンチャー企業3社の起ち上げと売却を経験。現在は日本ベンチャーキャピタル(NVCC)に所属し、バイオとITを中心に投資活動を展開し、さらに中国.日本でのビジネスに精通した経験を活かし、両国間におけるビジネスの橋渡しなども精力的に行っている。 国際電気通信基礎技術研究所 連携研究員も兼任。

日本ベンチャーキャピタル(NVCC)

起業家やベンチャー支援に熱意を持つ大手企業などが結集し、これまでとは異なる、支援型の本格的なベンチャーキャピタルをめざして、1996年に設立されました企業。各専門分野の経験豊かな事業家たちの協力のもとに、わが国の次世代を担う起業家・ベンチャー企業に対して、中立的なスタンスで支援することをモットーとしている。

 

はじめに〜時系列で見る、ラッキンコーヒーの資金調達歴と株価〜

2017年11月 瑞幸咖啡(luckin coffee/ラッキンコーヒー)設立
1億人民元融資(神州優車関連会社から)
2018年1月 1店舗目の営業開始
2018年5月 シーズ1.9億ドル
投資家:神州優車創業者(元上司)、エンジェル
2018年7月 シリーズA2億ドル 時価総額評価10億ドル(融資はすぐに返済しています)
投資家:Centurium キャピタル、シンガポール政府投資ファンド、レジェンドキャピタル
2018年12月 シリーズB2億ドル 時価総額22億ドル(4億人民元の融資もすぐに返済)
投資家:JOY キャピタル、Centuriumキャピタル、シンガポール政府投資ファンド、CICC
2019年4月 シリーズB+1.5億ドル 時価総額29億ドル (一週間後、ナスダックにIPO申請)
投資家:ブラックロック
2019年5月17日 ナスダックに上場

※当記事には、神州優車が多く登場するので、先に解説しておきます。

神州優車は2016年に中国の新三版(中国のマザーズ)に上場を果たした企業です。日本での殆ど知名度がないですが、時価総額400億人民元を超え、7000億~8000億円級の新興企業です。

事業はライドシェアのDiDiの競合にあたります。2017年の段階では中国国内にはbaidu派(Uber)、テンセント派(DiDi)、アリババ派(神州優車)と熾烈なMaaSプラットフォーマーの競合がいました。その後、Uberの撤退とDiDiとの統合を経て、今の中国はDiDiと新舟優車と併せて3強の状態となっています。

DiDiと比べて、神州優車はCar Sharing とRide SharingとEC中古車プラットフォームを持っており、DiDiに勝るほどの実力を持っている企業と言われています。その創業者である陸正耀という福建省出身の方が、今回のラッキンコーヒーの上場にも絡んでいると見られています。

取材本編〜ラッキンコーヒーの事業について〜

シリーズAで時価総額1000億円の衝撃ユニコーン

高野:日本ではラッキンコーヒーのスケールの大きさに対して、あまり話題になっていない感覚があります。今回はそのラッキンコーヒーについてお話できればと思います。
まず、シード段階で200億円近い金額で調達していることから驚きですよね・・・

劉:これは、創業者が元々所属していた神州優車の元上司が出資に絡んでいたり、実は創業者のバックに裏ボスがいたり、というのも関係しているかもしれませんね。

高野:いきなりすごい話を聞いてしまった気がしますが、順に質問させていただきますね。
2ヶ月後のシリーズAのタイミングで1000億円のバリュエーションがついているのも驚きです。すでに一定事業の結果が出ていたのでしょうか?

劉:シリーズAのリードVCの方は、時価総額10億ドルというのは適切な評価だった、とコメントされていましたね。

スターバックスコーヒー店舗との比較でみるバリュエーションの妥当性

劉:参考材料として、同業のスターバックスコーヒーと比較できたらと思います。

スターバックスコーヒーは2017年12月に、中国の上海を中心とした華東エリアの50%の株式を委託会社から買い戻しています。
当時のスターアックスコーヒーの店舗数はおよそ1400店舗で、時価総額は26億ドル。時価総額を店舗数で割った1店舗当たりの価値は186万ドルだったとしましょう。

一方のラッキンコーヒーは、シリーズAの調達の話がまとまったと考えられる2018年5月頃、すでに500店を超えている状態でした。これはスターバックスコーヒーの店舗数の35%ほどですね。500店舗にスターバックスの1店舗あたりの価値を乗じると、9億3000万ドルです。
ラッキンコーヒーの出店スピードはスターバックスを大きく上回っています。そうした実績もあることから考えると。妥当という見方をされていましたね。

アプリを通じて中央集権的にデータ管理をすることで全体最適を図る

高野:1店舗目を出してから、5ヶ月で500店舗を超える出店数だったんですね。
1年後、2019年5月に上場した際は店舗数が2400店舗ほどだったので驚きです。

ラッキンコーヒーの9割の店舗は、会計と注文が店頭で行われず、アプリだけで完結するピックアップ店舗であるのが特徴ですよね。店内はほぼコーヒーを作るだけと言われていますから、展開しやすい形態と言えるかもしれませんね。

劉:展開しやすさで言うと、データを徹底して中央管理して、現場で統計する必要がない体制になっているそうです。
エリアと地域によって、どの種類のコーヒーやメニューや稼働率などのデータが自動的に吸い上げる仕組みになっています。そのデータを生かし、原料仕入れと物流などのロスを限界まで抑えることで全体最適でコストを削減できるのも強みの一つですね。

顧客のコーヒーの消費体験も徹底的に効率化されています。
アプリ上には店舗の位置と工場の生産状況をリアルタイムにシェアすることで、一番安く、一番品質の高いコーヒーの消費体験を提供できるようになっています。

低価格高品質なコーヒー消費に特化したコスト設計

劉:ここからは私の推測も含みますが、スターバックスコーヒーのカフェラテの売値は32人民元、恐らくコスト24人民元ぐらいと考えられます。対して、ラッキンコーヒーの2019年3月時点での一杯の平均売値は24人民元、一杯のコストは13人民元と想定されます。スターバックスコーヒーの半分のコストです。

普通のコーヒーショップビジネスは基本立地ビジネスですから、家賃などのコストが嵩んでいます。ラッキンコーヒーは内装にコストをかける必要がないので、安い物件で出店しています。品質の高いコーヒーを安く提供するために、原価以外のコストの削減を徹底しているということですね。サードプレイスを提供するというコンセプトのスターバックスコーヒーとは戦略が異なりますが、日本でもコーヒーをテイクアウトする人やコンビニで購入する人の数を考えたら、安くて品質の高いコーヒーの需要があることはイメージがつくのではないでしょうか。

高野:コストを下げて、高く売るというのはビジネスの基本ですが、カフェという空間の特性上、高付加価値の業態が増えやすかったのを逆手にとったとも言えるかもしれませんね。

知られざるラッキンコーヒーの創業者・実態

ラッキンコーヒー創業者 銭治亜 氏の経歴

高野:ところで、冒頭にも少し出てきた創業者の方は一体どんな方なのでしょうか。

劉:銭治亜 氏ですね。
彼女は、1998年武漢紡績大学を卒業しています。最近、北京大学EMBAを修了したそうなので、そちらが最終学歴になりますね。

ただ実は、2005年までの履歴は明確な情報ソースがなく・・・。参考程度にしていただく前提でお話しますね。
1999年に武漢の建築会社の副社長になっています。その後、1999年から2005年まで武汉子会社の副社長を勤めていたという情報がありますね。

その後、2006年に上京し、ラッキンコーヒーの前職にあたる、神州優車に入社されています。そして、2007年に副社長に就任するのですが、それまでは社長室室長のようなポジションで、CEOの助手として勤務していたようです。

そして2017年に神州優車を退職して、ラッキンコーヒーを創立した、というキャリアですね。

中国版Uberとも言われる神州優車の副社長に

高野:情報の正否が分からないということでしたが、もし本当なら華々しいキャリアに見えますね。

劉:私は、武漢では安定した職につけていなかったという話の方が、中国の実情に合っていて信憑性が高いと思ってはいます。
中国の実情を考えると、卒業後すぐに副社長になるというのはなかなか難しいところもあるんですよね。2社目はペーパーカンパニーだったという噂もあります。

ただ、北京オリンピック前に上京してチャレンジをしたところからは、素晴らしいご活躍ですよね。
当時まだ小さかった北京のタクシー会社に入ったのですが、そのタクシー会社が10年間で中国大手のレンタルカー会社に成長して、IPOするまでになりました。神州優車は日本で言えばガリバー+オリックスレンタカー+Uberのような企業で、時価総額は400億元(日本円で6000億円)ほどの大企業です。

実は裏側に大きなネットワークが?深まる謎

高野:その後、luckin coffeeを創業して、一年でナスダックに上場したので、いずれにせよ敏腕な方だったのでしょうか。

劉:まさしくチャイナドリームを手に入れた女性起業家だったように見えていました。

ただ、実は本当のボスが別にいたんです。さらに、そのボスのバックには、中国福建省の蒲田系があったんですね。簡単に言うと、中国の民間美容クリニック市場を70%ほど支配している中国福建省の蒲田近辺の出身者が中心となって築き上げた起業家ネットワークです。

高野:実態はまだ謎に包まれている部分もあるんですね・・・。

ラッキンコーヒー目論見書に見る資本政策と今後の展開

 

神州優車創業者 陸氏が取りまとめる、超大型クラブディール?

高野:そんな謎に包まれているラッキンコーヒーですが、上場したので決算や目論見書も出していますね。

劉:私は目論見書を見て、色々と唖然しました・・・。例えば株主名簿ですね。

※以後、スマホからは読めないかと思いますが、文中に全て書いてあるのでそのまま読み進めていただけますと幸いです。

 

先ほどの創業者の銭治亜はご覧の通り、筆頭株主ではないです。こうしたところからも、バックに別の人物がいるという話が現実味を帯びてきますよね。

そこで、下のPrincipal Shareholdersの表を見てみると、神州優車の創業者の陸正耀が0.53%株式を保有しています。さらに、12.4%の株式を保有している、Mayer Investment Fund,L.P.を調べてみると、陸(LU)氏の親族だと中国国内のメディアで報じられています。この辺りは実質、陸氏が支配されている株式だと分かります。

また、VCで入っているCenturium CapitalもJoy Capitalは中国の新米のVCにも驚かされます。それぞれのトップは、神州優車と深く関わりがある人達だと分かってきました。かなりのクラブディールだと言えますね。

創業2年でナスダックへの上場を実現した株式ハック

せっかくなので、PLの情報についてもお話させていただきます。

1QごとのPLが公開されていますが、Net revenuesは2018年の3月の1295万RMB⇒2019年の3月の4.78億RMBへと37倍に成長しています。
ちなみに、2018年3月時点での店舗数は290店舗、2019年3月時点での店舗数は2370店なので、店舗数は8.17倍になっています。

PLの気になるポイントとしては(accretion to redemption value of convertible redeemable preferred shares)と記載のある部分ですね。
Redeemable preferred sharesとは償還される予定の優先株を意味します。償還株式は発行後、一定期間経過したあとに利益による償却が予定されているものです。これは社債と同じく、会社の短期的な資金ニーズある時に使われることが多いものですね。米国ではよく使われていますが、日本では知られていないのではないでしょうか。
平たく言うと、BS上では良く見せるための社債とも言い換えられますね。これほど大量の償還株式が実行されて、ここまで短期で大量の償還優先株を発行し、さらに償還されるのは極めて異例です。

なぜこれができたかは、正直分からないです。(笑)とんでもない敏腕なCFOというか、スキームを組める人がいたのでしょう。ナスダックにIPO申請する1週間前にブラックロックを株主に加えたのは、勝利の象徴とも言えるかもしれません。
これだけ自由資本主義をハッキングする会社はなかなか現れないでしょうね。

成長見込みの大きい中国のコーヒー市場で加速度的な成長を狙う

高野:かなりマニアックで、そんな手法があるのか、と私も驚きました。
今後の展望と言いますか、成長見込みについても見ていきたいです。

2019年1Q 売上4.8億人民元、経常損失5.3億人民元
2018年通期 売上8.4億人民元
経常損失16億人民元

また、2019年年末までに、2300店→4000店へと計画しているようで、今後も店舗出店への投資は続いていきそうです。

劉:中国のコーヒー市場はまだまだ成長市場と言えますから、出店計画さえ誤らなければ、コーヒーの消費量の増加に伴い、加速度的に成長していくと考えられます。
熟成市場の日本だと1人当たり年間279杯、台湾では209杯です。中国では6.2杯なので圧倒的に少ないですよね。嗜好性の違いももちろんあるとは思いますが、あまりにも違います。

日本も見習いたい、テクノロジーやモデルの横展開による確実な成長

こちらはスクリーンショットはユーザー体験を説明したものですが、嗜好性の問題についても、消費を進めるための取り組みが進められていることが見てとれる内容になっています。
個人の嗜好に合わせて、アプリで表示されるメニューやそれぞれおの地域で売り出すメニューも変わるようになっているんです。toC向けの個人データの活用としては非常に良いロールモデルになるのではないかと思います。

高野:高速なリアル店舗の出店スピードの裏側には、やはりこうしたテクノロジーが利用されているんですね。

劉:そうですね、その点、中国はイノベーションを横展開することにおいても長けている部分があるのではないかと思っています。
ラッキンコーヒーは、Uberが個人とタクシーの位置をマップ上に表示したように、フレッシュコーヒーのmini工場を各地に設けて、ユーザーが最短でコーヒーを飲めるようなモデルを急速に展開してきました。

この地図にはそれぞれの都道府県での出店数が記載されています。中国は広いので、これから10倍以上は伸びるポテンシャルがありそうですね。今後も注目の企業であることは間違いなさそうです。

高野:引き続き注目してまいりましょう。

日本企業や日本のコーヒー市場でも参考になる部分がありそうな有意義なお話が伺えました。

キャリアという観点で言いますと、中国の会社の日本法人の人材募集が以前より増えております。英語は大事ですが、その意味で中国企業経験や中国語ができることがより大事になってきています。中国発のグローバル企業は今以上の今後を考えますとチャンスがあり、給与も高くなるはずです。

また起業する際に中国で立ち上がった事業を参考に起業するという流れが今よりもさらに多くなると思います。バーチャルユーチューバーについては日本企業も中国でかなり結果が出ています。日中間のビジネスも目が離せませんね。

本日はありがとうございました!

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