国立大学の理系の学部を出て、外資系の大手メーカーに10年勤務。その後、都内の小さなマーケティング会社に勤務していた40歳の男性がいました。その方はとても慎重な方で、お会いするまで、仮名を使ってエントリーをされていました。

一見寡黙ですが、話しはじめると、とてもコミュニケーション能力に長けている印象を受けました。なんでも、前職のメーカー時代には、営業をされていたとのこと。その後、今のマーケティング会社で仕事をするうち、少しずつ、人とのコミュニケーションが苦手になってきたのだと話されました。

「特に今の会社に不満があるわけではない。条件もいい。けれど、東京のビジネススピードに少し疲れを感じはじめているのです」

今のマーケティング会社に転職したのも、どうやら、外資系でバリバリ働くことに疑間を感じ、少し仕事のペースを変えてみたかったという思いがあったようです。それでも、東京にいるかぎり、追われるように仕事をしていかなければならない強迫観念があり、そこに疑間を感じているということでした。

もともと地方出身者の彼は、ある日、残業を終えて、帰宅する途中、満員電車のつり革をつかみながら、

「本当にこのまんま、東京で仕事をしている価値があるのだろうか……」

そう思い至ったそうです。それまでは、地方に戻ることを考えたことはまったくなかったといいます。なんとなく地方コンプレックスもあったということで、やはりビジネスマンとして仕事をするなら、東京しかない……そう、思い込んでいたといいます。でも、その日を境に、地元に戻って、何かに急かされるのではなく、ゆったりとしたペースで仕事をしたいと考えるようになりました。

「地元に帰って、今まで培ったマーケティングスキルを活かして、働くことはできないだろうか?」

そこで、私は、彼の地元の会社をリサーチしてみることにしました。

経営者というのは、意外と、頭の中に具体的な求人イメージができあがっていないものです。組織の現状に対する理解、将来へのイメージはあるのですが、そこに向かうために何が必要なのか……どういった人材を採用しなければならないのかは、その課題を話しているうちに、ようやく形になってゆくケースが多いのです。

当初は、彼の地元企業からのコンタクト、人材ニーズがあったわけではないのですが、こちらから話を持ちかけてみると、「力のある人であれば、ぜひお会いしてみたい」という、ある日用品メーカーのクライアントを見つけることができました。

年収は二割ほど下がりましたが、実働時間は一日三時間ほど減り、通勤電車のラッシュからも解放……今は、悠々とマイカー通勤をしているそうです。その後お会いする機会があったときには、

「東京から地元に戻って生活してみると、東京なら当たり前にあったサービスや店舗、商品

がまだまだ浸透していないことに驚きました。自分でビジネスを起こすことなんて、想像したこともありませんでしたが、そういう視点で、物事を見るようになった自分にびっくりしているんですよ」

そんなことをいっていました。もしかしたら、そう遠くない将来、彼から「起業しました!」という連絡が飛び込んでくるかもしれません。

ファーストリテイリング創業者の柳井正さんも、ユニクロ一号店を出店したのは、地方都市の広島からでした。そこから彼の快進撃がはじまったのです。

みなさんも、次回、帰省した折に、Uターンによるセカンド就職について、一度考えてみてはいかがですか?

高野 秀敏

キープレイヤーズ 代表取締役

99年に株式会社インテリジェンスへ入社。2005年に株式会社キープレイヤーズを設立。3000名以上の経営者の相談と、10000名以上の個人のキャリアカウンセリングを行う。また、55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。

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