先日、靴屋さんに行きました。きつかけは、あるテレビ番組の靴特集で、ランキング一位にあがっていた「ロイドフットウェア」という店を知ったことでした。英国製の靴を、もっと日本人に合う木型で提供したいとの思いから生まれた国産ブランドですが、品質とコストパフォーマンスの高さに定評があります。

ハッキリいって、一足のお値段は高いです。高級な靴は一足も持っていなかった私なのですが、知り合いの経営者の先輩から「靴や身なりには気をつけたほうがいいよ」と再三いわれていたので、「よし、今日こそ購入するいい機会だ!」と腹を決め、お店に足を踏み入れました。ところが、特に接客をされるわけでもなく、私は、どの靴を選んでよいものか思案にくれながら店をひと回りしました。

「あのお、履きやすい靴ってどれでしょうか?」「履きやすい靴はないです」

……(内心、げっ!)

「あのですね、うちには、履きやすい靴っていうのはないんです。ですが、履いているうち

に、だんだん自分にフィットしてゆく靴はあります」

……(そして沈黙)なんていうんでしょうか。普通、お店の人は、お客さまからの質問に笑顔でニコニコ、相づちを打ちながら接客するものとばかり思い込んでいた私は、ふいをつかれた感じがしました。ふと、最近読んだばかりの、「営業マンは断ることを覚えなさい」といた内容の本を思い出したほどです。今、目の前でまさに実践されている……といっても、ご本人には、そんな意識はまったくないようです。

「うちのお店にくる方は大きく分けて、二パターンしかいらっしゃらないのです。結婚式な

り何なり、どうしても必要なイベントが身近に迫っている方か、社会的に高級な靴が必要な立場になったなど、自分の環境に変化があった方なんですよ」

特に営業をするわけではなく、淡々とではあれ、私の質問には簡潔かつ丁寧に答えてくれます。私はしだいに、その人のプロフェッショナルトークに、ぐいぐい引き込まれてゆきました。

彼の話には、今まで聞いたことがないような、靴についての基礎知識、必要知識がつまっており、なにより「この人は、靴のことなら、なんでも答えてくれるんだろうな」と思わせる確かな信頼感をこちらに抱かせるのです。

押しつけがましさはいっさいありません。知識をひけらかすというのでもありません。ただ、淡々と話す口調には、その人の確固たる誇りのようなものが滲み出ていました。業界はまったく異なるものの、プロフェッショナルと呼ぶべき人に、久しぶりにお会いしたようなすがすがしい気持ちがしたものです。

購入を決定してから、唯一最後に強く勧められたのは、500円程度のクリームでした。靴を購入してからの保存法や磨き方のアドバイスの中には、せっかく購入してもらうのだから、長く履いてもらいたいという真摯な気持ちが汲み取れました。

どちらかといえば、ぶっきらぼうな、まさに職人タイプの人で、40代とお見受けしました。

「私たちの靴が、あなたにとってかけがえのない一足になることが私たちの願いです」いただいたバンフレットの最後には、そう書かれていました。淡々としたあの接客から、このメッセージを感じさせる力量は、この人ならではの人間力。独自のプロフェッショナルを極めていれば、時流の変化にとらわれることなく、自分の能力を発揮し続けることができるのかもしれません。

 

高野 秀敏

キープレイヤーズ 代表取締役

99年に株式会社インテリジェンスへ入社。2005年に株式会社キープレイヤーズを設立。3000名以上の経営者の相談と、10000名以上の個人のキャリアカウンセリングを行う。また、55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。

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