弁護士から転職!グロービス・キャピタル・パートナーズ野本遼平さんのキャリア論

インタビュー          
       
       
     

今回は、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以後、GCP)の野本 遼平さんにお話をお伺いします。野本さんは弁護士出身で事業会社も経験し、現在はVCで働いているという珍しい経歴の持ち主ですので、お話できることをとても楽しみにしていました。

弁護士の方はもちろん、自分の可能性・選択肢をもっと広げたい、という方には、ぜひ読んでいただきたい内容です。どうぞ最後までご一読くださいませ!

 

株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ

GCPの投資実績には、IPOにアイスタイル(東証3660)・オークファン(東証3674)・カヤック(東証3904)・ピクスタ(東証3416)・メルカリ(4385)、M&Aにしまうまプリントシステム(CCCグループ入り)・ナナピ(KDDIグループ入り)などがある。現在支援先には、ランサーズ・メルカリ・ビーバー・タイマーズ・クービック・リブルー・ミラティブなどがある。

グロービス・キャピタル・パートナーズ 野本 遼平氏

法科大学院を卒業後、弁護士として3年間、主にベンチャー企業をクライアントとした企業法務の業務を担当。その後、KDDIグループのSupershipホールディングスに転職し、3年半の間、全社戦略策定・戦略的提携・政策企画・M&Aとそれに伴うPMI業務や子会社役員を経験。現在はGCPのキャピタリストとして、案件ソーシング・投資実行・ハンズオン支援の業務を担当している。

 

プロフェッショナルとしての弁護士

高野:事前に経歴をお伺いして、ツッコミたいところがたくさんあるので、一つひとつお伺いさせてください!
まず、ファーストキャリアですが、法科大学院を卒業したということは、周囲でも弁護士になる方が多かったのでしょうか?

野本:制度上、基本的には司法試験を受験するために法科大学院に通うため、法科大学院では多かったですね。もちろん、裁判官・検察官志望の方もいましたが、弁護士志望の人の比率が高いです。ちなみに、予備試験という試験をパスすることで、法科大学院を修了せずに司法試験を受験することもできます。

一方で、法科大学院に進もうと決意した学部の時だと、投資銀行や商社を志望している友人が多かったです。僕は個人の力量で人のために尽くすプロフェッショナルな仕事に憧れていたため、法科大学院に進学しました。

高野:人のために働くプロフェッショナルとして弁護士以外にもいろいろ仕事があるという印象なのですが、野本さんは当時、どういった点で弁護士を選択したのでしょうか。

野本:当時は、大きい会社に就職してしまったら、自分という存在は基本的には組織の部品になってしまい、使命感に基づき直接的に人助けをすることは難しいと思っていました。

今となっては、大きい会社に就職しても、個人の力量で人や社会のために働くわけだし、大きい仕事を動かすことで人助けのレバレッジも効くのだと分かるのですが、当時は無知でそういう発想がありませんでした。そんな背景の中、私が当時知っていた仕事で、人助けをする仕事として分かりやすかったのが、弁護士という仕事でした。

高野:なるほど、その結果が弁護士ということにも納得しました。

汎用的なスキルとは何か考える

高野:ただ、弁護士からセカンドキャリアで事業会社に転職されたというのも、最近では増えてきましたが、驚かれる方も多いのではないかと思います。他に弁護士のどういったキャリアパスと比較されたのか、お伺いしたいです。

野本:いまの時点では、弁護士の主なキャリアパスは大きく2つに分けられると考えています。

① ファームに所属する弁護士としてプロフェッショナリズムを極める
② ベンチャーを含めた企業に所属する弁護士、いわゆるインハウスロイヤーとしてやっていく。

②のパターンはCLOや管理部門責任者として経営チームの一員になるのが最終形ですね。

私自身は、まだまだ選択肢が少ないと思っていて、

③ 事業や投資に軸足を移していく

今後は、この③の人が増えてもおかしくないと思っています。現時点だと、リーガルテックで事業サイドに回る弁護士を除けば、この方向性はまだプレイヤーがほとんどいないので、僕としてもチャレンジングだと感じています

高野:「事業や投資」と聞くと、リーガル領域とは畑が異なるように思う人は多く、確かに選択肢に入りづらいような気がします。弁護士から事業や投資に進む場合、どのように経験が活かせるのでしょうか?

野本:表面的なリーガルの知識自体は、時間が経てば陳腐化していきますし、弁護士資格の有無にかかわらず調べればわかることも多いので、そこまで価値を感じてはいません。それに、10年から20年のスパンで見たら、知識自体の提供は自動化されていくようにも思います。一方で、

・リーガルマインド(広く言えば、ロジカルシンキング)
・ルールメイキングの発想
・代理人根性
・クライアントと適切な関係で相対する力

この4つは汎用性の高い、弁護士の能力だと感じています。

弁護士としての汎用的なスキルとは

野本:それぞれ詳しく説明しますと、

リーガルマインドとは、目的達成に必要な要素を構造的にブレイクダウンし、ブレイクダウンされた要素を一種の判断のモノサシとして、それぞれの要素の有無をファクトベースで確認して意思決定するという思考方法です。リーガルマインドにはいろんな定義がありますが、少なくとも私はこのように考えています。事業や投資においても、事業成長に必要なポイントを構造的に整理し、ファクトと評価/意見を切り分けて意思決定することが大切です。この点は弁護士の経験が活きると感じています。

ルールメイキングの発想とは、ルールは誰かに与えられて守るものではなく、自分で解釈して運用して、必要に応じて変えていくべき対象であるというダイナミックな発想です。特に日本人が顕著だと言われたりしますが、ルールは「与えられるもの」であり「守るもの」であるという考えが根強いので、ルールメイキングの発想は、強みになりえます。最近では技術の変化に法制度が追い付いておらず、新しいビジネスにチャレンジする際の競争力として、ロビイングの力の存在感が増して来ています

また、いわゆる業界慣行もある種のルールです。最近では、古い業界慣行や伝統に寄り添いつつも、これをシームレスにアップデートしていかなければならないというミッションを負ったスタートアップも多いと思います。ルールメイキングは、まさに新興産業領域で重宝される能力といえます。

代理人根性とは、僕の勝手な造語なのですが(笑)、目の前の困っている人の立場に成り代わって、寄り添って、何としてでも助ける、という弁護士のDNAのようなものです。4つ目のクライアントと相対する力とも関連するのですが、よくも悪くも、「誰か」の代理人なので、立場が変われば自分の担うべき役割も変わり、発言の内容も変わってくるというのが特徴です。

クライアントと相対する力は、イメージがつきやすいかと思います。時にはプロフェッショナルとしてクライアントに対して厳しいことも言いますし、時には適切な情報を聞き出すために懐に入っていくことが必要です。弁護士をやっていると、こういった「間合い」の調整力が身につくと思います。

これらのファンダメンタルなスキルは、環境が変わっても活かされるように感じます。逆に言えば、弁護士でありながら、クライアントとの距離が遠かったり、与えられた作業だけをこなす仕事をしたりしている場合は、上記のようなスキルが身につかないので、もったいないかもしれません。

高野:そういった点で共通するものがあるのですね。

何のために働くのかを考える

高野:反対に、弁護士事務所、事業会社、ベンチャーキャピタルの三種類での業務を経験して、どういった違いを野本さんは感じていますか?

野本:「何のために働くのか」という点が一番の違いかと思っています。

事業会社で働く場合、究極的にはその会社のビジョン・ミッションを達成するために働くことになります。利益を出すことも当然必要なのですが、その利益も、会社を継続・維持するための手段であって、ビジョン・ミッションを達成するのが会社の最終目標であるはずです。これは稲盛さんの考え方ですね。

弁護士はクライアントありきの仕事なので、クライアントの利益のために働きます。もちろん、弁護士は社会的・公益的な責任も負っているので、直接的に公益活動にも従事しますし、クライアントの不当な利益のために動いたりすることはNGですが、やはり中心にあるのはクライアントファーストの発想です。

VCはLPに対してリターンを返すというのが究極のゴールですが、それを実現するために、投資先はもとより、スタートアップ産業全体が成長することにコミットします。

働き方という切り口だと、弁護士とVCは、究極的にはプロフェッショナルとして個人のパフォーマンスが求められることや、勤務の時間・場所的な制約が少ないという点で共通するところが多いと感じています。

高野:なるほど。そう考えると、働く視点が違うので、どういった立場に自分は向いているのか、やりたいのか、を考える必要がありますね。

リーガルだけでなく、全方位的に会社を見れる存在に

高野:野本さんは、それぞれ転職される際、どういった考えで転職をご決断されたのでしょうか?

野本:まず、弁護士からSupershipホールディングスに転職した理由ですが、学生時代の身近な友人・先輩たちがインターネット関連の事業で起業しはじめたのを見て、スタートアップなるものに興味を持つようになったのが一番のきっかけです。「同世代が何かを生み出そうとしていて、一緒に何かしたい。その一端を担いたい。」と思いから、まずはリーガル領域からスタートアップ支援をはじめました。

そうこうしているうちに、全体像を俯瞰できるようにビジネス全体に取り組みたい、という思いが強くなってきました。起業している友人たちは、当然ですが、事業・会社のことを全方位的に考えています。リーガルについてしか語れないと、その一部分しか支援できないんですね。事業サイドの経験・ノウハウを体得しないと、「どんなシーンでも彼らを支える」ということは実現できないと思い、ジョブチェンジを意識しはじめました。

MBAも考えたのですが、すでに法科大学院や司法修習を経てだいぶモラトリアム期間が長かったので、むしろ現場で揉まれて、独学では手に入らない暗黙知・身体知を体得するほうがいいかもしれないと考え、スタートアップや事業会社のビジネスサイドで修行しようと決意しました。

そんな折に、たまたま経営戦略部門でメンバーを募集していたのがSupershipホールディングスでした。

何かを成し遂げようとしている同世代の力になりたい

野本:その後SupershipからGCPに移ったのも、「何かを成し遂げようとしている同世代の力になりたい」という原点がベースになっています。僕は基本的に、日本の次の産業を創るのはスタートアップなどの新興勢力だと信じていて、Supership在職中も、経営戦略・戦略提携・M&Aの経験を活かして、ボランティアとしてスタートアップの支援をしていました。

ただ、あくまでも余った時間での限定的な活動だったので、徐々に、本業としてもっと広い範囲のスタートアップを支援して、業界全体を下支えしていきたいという思いが強くなってきていました。特定のスタートアップに所属するのもあり得ると思いつつも、いろんな「クライアント」を支えたいという気質が勝りました。これは弁護士時代に身についてしまった「代理人根性」のせいかもしれません(笑)。

ハンズオン型のベンチャーキャピタルでは、投資をするだけでなく、担当キャピタリストが投資先スタートアップが成長するように全方位で支援します。最近では、バリューアッド(※)の専門チームが採用・事業開発・エンジニアリングなどの側面から出資先を支援するスタイルも主流になりつつあります。ベンチャーキャピタルが自分のやりたいことに最も近いのかもしれないと思い、ご縁のあったグロービスキャピタルパートナーズに入りました。

※バリューアッド:積極的に収益性を高め、企業価値を増加させること。

高野:そういった判断軸でそれぞれ決断されたのですね。

採用の肝は、弁護士個々人の社会的使命に目を向けること

高野:事業会社を選択する弁護士については、まだまだ増え切っていない印象があるのですが、弁護士を採用したいベンチャー・スタートアップが弁護士を採用するためにはどのようなことが必要なのでしょうか。

野本:私のところにも、キャリアに悩んでいる弁護士から相談がたくさん来ますが、まずはそういった弁護士に話を聞いてもらえる状態を作ることが大事かと思います。

相談を受けていても感じているのですが、弁護士は社会的使命に燃える人が多い傾向があるので、会社のビジョンとかミッション、事業の社会へのインパクトについてしっかり伝えることが採用力につながるかもしれませんね。

また、弁護士は先輩の姿を見て、10年後とか20年後に自分がどのような仕事をしているのかイメージがつきやすい傾向にあります。「見えてしまった将来」にワクワクしていない若手弁護士もいるので、未来の仕事の幅の多様性、例えばコーポレート全般を統括できる可能性とかを提示できるとよりよいかもしれません。

とはいえ、なんだかんだ弁護士の収入は良いので、ストックオプションなどで収入ギャップを埋める工夫が、オファーフェーズでは必要だと思います。先ほどの社会的使命とのバランスだったりもしますが、双方が適切に評価しあい、フラットに様々な選択肢を比較できるようになれば、企業にとっても、弁護士にとってもよい環境が整っていくのではないでしょうか。

高野:企業の社会的使命をどう世の中に伝えていくかは、採用の中で磨かれていく部分もあるので、弁護士の採用はスタートアップが自分たちの価値を高める一つの契機になるかもしれませんね。

キープレイヤーズ 高野のコメント

長い間、キャリア相談に乗ったり、投資家の方とお話させていただいたりしましたが、弁護士・事業会社・VCの3つを経験されている方は、野本さん以外にお会いしたいことがなかったので、非常に貴重なお話を聞くことができました。ありがとうございました!

法的な問題さえクリアできればチャンスがある領域もたくさんあります。ただ、法的な問題をクリアしつつ、同時に事業を継続的に成長させていくというのは非常に難しいです。企業側は、こうしたリーガル面での環境を整えるために、企業内弁護士を雇用する流れが進んでいます。

実際に私のところにも、弁護士の方を採用したいという相談がきています。弁護士の方も、ぜひ選択肢を広げるためにもお話させていただければと思います。LINE@からお気軽にご相談ください!

 

執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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