牧野 哲也
1980年生まれ、東京大学経済学部卒。株式会社エバーセンス代表取締役。新卒でトヨタ自動車株式会社に入社し、レクサスの事業企画に従事。 その後、株式会社リクルートで、経営企画・HR営業を担当する。 さらに広告系ベンチャー企業の幹部を経て、2013年WEBメディアの企画・運営、 子育て支援アプリの企画・開発を主事業とする株式会社エバーセンスを設立。
株式会社エバーセンス
エバーセンスは、2013年に設立以来、“家族を幸せにすることで、笑顔溢れる社会をつくる。” というビジョンの下、妊活・妊娠出産・育児の情報発信メディア「こそだてハック」をはじめ、妊娠中のママをサポートするアプリ「ninaru(ニナル)」など、「家族を幸せにする」サービスを制作・運営しています。
起業するまでに経験したトヨタとリクルートでのキャリア
高野:まず牧野さんの現在に至るまでのご経歴を教えていただいてもよろしいでしょうか?新卒ではトヨタに入社されたんですよね。
牧野:はい。大学を卒業後、新卒でトヨタ自動車に入社しました。
配属された部署名は「レクサス営業企画部」という名前でしたが、営業企画をしていたわけではなく、一つの車を一つの事業とみなす、事業企画でした。
車の価格や需給、仕様、デザインなどに関して、技術部や販売部、デザイン部と協業しながらモデルチェンジに向けて収益の最適化を考える、かなりダイナミックな仕事でした。学びも多く、仕事として面白かったですね。
高野:東大を卒業され、トヨタの「レクサス営業企画部」。うーん、輝かしいご経歴ですね。
牧野さんはなぜ、トヨタに入社されたのですか?
牧野:学生時代から「途上国に対してビジネスで貢献したい」という想いを持っていたからです。トヨタに入社すれば途上国に対して、ビジネスを通じて貢献できるのではないかと考えて入社しました。
高野:学生時代からそのような意識をお持ちだったのですね!
その後、牧野さんは4年程でトヨタから転職されていますよね。どんな、キッカケがあったのでしょうか?
牧野:トヨタでの仕事は本当に楽しくて、今でも自分の体が2つあれば、またやりたいと思えるほどです。毎日が学びの連続でした。しかしトヨタで仕事をするなかで、「そもそも途上国が、日本のようになっていいのか?」と思ったんです。
例えば、平日の朝の光景。日本では、会社に向かう人達の顔が、何だか鬱々としていますよね。働いている日本人が、あまり幸せそうじゃない。「仕事って楽しい!」と思いながら働いている人がそんなに多くない。入社する前はキラキラしていた大学の友人や同僚も、社会人歴を重ねるたびに、どんどん元気がなくなっていく…。
今の日本は、いきいきと働いている人が少ないなと感じるようになりました。
それに気がついてからは、この問題をどのように解決するのか、本気で考えました。自分がトヨタの社長になり、トヨタを通じて日本を変えようかと考えたこともあります。しかし、もしこれが実現できたとしても、早くて自分が60歳になる頃。確実に達成できる自信もありませんでしたし、時間も足りないと思いました。
それならば、自分でいい会社を作って社会に発信した方が、早いし、後悔もしない。未来の子どもたちが、「大人になって働くって、素敵なことなんだ」と思える社会を、自分が作った会社を通して実現しようと思い、起業を決意しました。
高野:たしかに、今の日本は残念ながら停滞していますよね。牧野さんはそこを、自分でいい会社を作ることで、変えていきたいということですね。
トヨタ退社後はリクルートに転職されていますが、なぜリクルートを選ばれたのですか?
牧野:起業しようとは思ったのですが、やっぱり起業するためには力が必要ですよね。起業する力を身につけるのに1番いいと思ったのが、リクルートでした。
これまでトヨタで行っていた事業企画の仕事はあまり現場感がなかったので、その感覚を身につけるため、営業を志望し、2年間は営業の経験を積みました。その後に異動させてもらい、1年ほど経営企画の仕事をしています。
高野:なるほど。ご自身で起業される前に、力をつけようと修行されていたのですね。
牧野さんとお会いしたのは、起業される前だったかと思うのですが、お会いする前から、「牧野さんという優秀な方がいる」ということは各所で耳にしていました。
業界の中で、牧野さんはとても評判のいい方でしたね。あの時から、「この方は違うな、将来何かやる方だろうな」と感じていました。
牧野:ありがとうございます。
「エバーセンス」という社名の由来は?
高野:そういえば、「ever sense」という社名。決めるとき結構時間かかりませんでしたか?
牧野:ever senseは「三つ子の魂百まで」ということわざを元にした造語です。この意味が私の達成したい世界観そのものだったので、さらっと、シンプルに決まりましたね。
生まれたばかりの子供は、真っ白なキャンバスです。幼少期のかけがえのない時間をママやパパと一緒に、幸せに過ごすことで、その白いキャンバスが素敵な色に染まっていく。そのために、家族の幸せにつながるようなサービスを作り続けよう、という想いを込めています。
高野:牧野さんが問題意識としてあげられた「働いている日本人が幸せそうでない」というテーマがさらに深掘りされ、家族というテーマにフォーカスを当てられた印象を持ちます。何か背景があったのでしょうか?
牧野:実は自分自身が、家庭環境について悩み、苦しい幼少期を送ってきました。
胸を張ってお話はできませんが、幼少期から高校生頃までは素行が悪く、親にも迷惑をかけてばかりいました。
自分がそうだった分、「家族の幸せ」についてはずっと考えてきたと思っています。今も家族、特に子供に対しての想いは、人一倍強い。その原体験もあり、働く人の幸せを作るために、その基盤となる家族の幸せを作っていこうと決めたのです。
エバーセンスは企業ビジョンと事業ビジョンが同じです。サービス・会社経営を通し、「家族を幸せにすることで、笑顔溢れる社会をつくる」。それが出来ると信じています。
高野:なるほど。牧野さん自身の体験があったから、事業内容や社名も自然に決まっていったのですね。
お話を伺う限りいろいろな経験をされてきたと思うのですが、牧野さんは弱音を吐かないイメージがあります。
牧野:弱音をはかない人間である認識はありますね…。苦労しているのかは分かりませんが、起業してからの3年で白髪が増えました(笑)。
白髪があるとどうしても苦労しているように見えるみたいで、知り合いの経営者からも黒染めを勧められたりしています。染めようかなー、、でもこのままでいいのかなーと……。高野さんどちらが良いと思います?(笑)。
高野:今のまま、ロマンスグレーでいきましょう(笑)!
エバーセンスのビジネスモデルについて
高野:では、既存のビジネスモデルと今後の展開に関してもお聞きしたいです。
エバーセンスさんのビジョンや事業はとても共感できます。しかし、どうやって収益を得ているの?この会社は経営的に大丈夫なの?と考えてしまう方もいるのではないでしょうか。
私も様々なメデイアを運営している企業様を見ていますが、「どうやって収益を得ているのか」という部分は、ユーザー様に届きにくいと思っています。
牧野:仰る通りです。でも、収益は大丈夫です。採用も行っていますし、きちんと給与も支払えていますよ。
エバーセンスはIPOの予定もありませんし、「世の中に対して、良いプロダクトをつくりたい」という、ただそれだけです。「この事業をやったらビジネスとして成功しそう」ということや、親和性がある家族の領域を超えたビジネスアイディアも、もちろんないわけではありません。
しかし、売上や利益にばかり執着し、ビジョンから外れてしまうと、社員からも、ユーザーからも、信頼を失うことになります。なのでエバーセンスは、これからも家族の軸を持った事業を展開していきます。
高野:なるほど。だけど企業の本質を見抜くのは難しいですよね。エバーセンスさんは外から見るとふわっとしているのに。
牧野:エバーセンスは、「儲かっていない会社」に見せたいなとおもっています(笑)。隠すことはなにもありませんが、「ゆるく見えるのに脱いだら実は筋肉質」みたいな。
そもそも前提として、できるだけ人がいらない組織を目指しています。仕組みを作ることで手離れをよくし、もっともっと会社を強くしていきたいですね。
例えばninaru [ニナル] は妊娠から出産まで、妊娠中の方への情報提供を目的に作られたアプリです。現在は妊娠中の女性の4人に1人が利用してくださっています。このサービスも、社内では多くの人数をかけているわけではありません。
できるだけ労働集約的でなく、持続的に売り上げをたてられる、仕組みのある会社にしていきたいと思っています。
高野:ちなみにどうやって収益を上げているんですか?アフィリエイトでしょうか?可能な範囲でお話し頂けますと。
牧野:基本的には広告とアフィリエイトです。メディアには、アクションに移りやすいものとそうでないものがあり、アクションまで促す「アクションメディア」の方が価値は高くなる。ゼクシィなどリクルートのメディアが良い例ですね。エバーセンスの事業は情報を提供する「情報メディア」ではありますが、限りなくその「アクションメディア」に近いと思っています。
CVRが高く、広告の成果を出す。ユーザーがアクションに繋げられるような情報を提供するメディアでありたいです。
そのためには、エバーセンスという会社やメディア、プロダクトを信用していただくことが必要不可欠。その仕組みをつくるため、本質を追求し続けたいと思っています。
高野:本質を追求する。具体的にはどのような方法でと考えているんですか?
牧野:特別な方法はなく、課題を一つずつ解決していきます。
エバーセンスの事業領域である妊活・妊娠・出産・育児のユーザーは、刻々と課題が移り変わります。
例えば、保育園問題。待機児童の多さが問題になっていますし、職場復帰したいママたちにとって
、保育園に入れないのは大問題。しかし入れたら、入れなかったときの悩みはもう過ぎ去って、また次の問題が出て来ます。一つ一つの課題は深いけど、過ぎ去ってしまいやすい。
それぞれの市場規模はそれほど大きくなく、解決しにくい問題が多いのですが、私たちはそれに対して、粛々と一つずつ、社会問題を解決していこうと考えています。
会社のテーマとしては、例えば、自分たちの親も含めて家族なので、シニア向けのメディアをやるかもしれませんし、婚活領域もやるかもしれません。婚活・教育・離婚・老後等全てテーマとなりますね。
高野:牧野さんが婚活領域始めたら、私が婚活相談員やりますよ。マッチングは得意です!でも自分がソリューションできていないのでマッチングはできますが結婚まで制約させるのが案外難しいんです。本当に結婚したいという意思決定まで持っていくのが難しい(笑)。
牧野:高野さんは結婚したいと思っているんですか?お一人様でご機嫌に生きるのかなと思っておりました(笑)。
高野:実は最近、こちら側(独身)に戻って来られる方に結構お会いします。なぜかホッとすることもありますね・・・。。。
様々な領域へのアプローチを考えていらっしゃるようですが、今後どんなテーマで会社の展望を描いているのか、もう少し具体的に伺えますか?
牧野:まずは昨今、家族の形・個人の価値観は多様化しているにも関わらず、法人が多様化してないということに問題意識を感じています。
例えば、営業などでハイパフォーマンスを出している女性は、「女性として活躍している」ようにみえますが、もしかしたら家庭生活にフォーカスを当ててみると、旦那さんが専業主夫だったり、家庭を諦めていたりするかもしれない。何が幸せかはその人その人の定義によりますが、やっぱり「家庭か仕事か」という選択肢を選ぶところがある。もっと法人が多様化すれば、いろんな幸せが選べるのになと思っています。
エバーセンスは社員1人1人が私生活を充実させながら、しっかりと仕事ができる会社を目指しています。
エバーセンスでの働き方や採用について
高野:具体的にはどんな働き方になるのでしょうか?
牧野:現在も、完全に裁量労働制です。コアタイムの設定はありますが、個々人にかなり管理を委ねていますね。
弊社には、子育てをしながら働いているママ社員が多く在籍しています。ママは2~3ヶ月に1度は子供の行事がありますよね。
例えば、こういった行事に参加した際の業務のカバー方法を、かなり自由にしています。半休を取る、朝少し早めに来て業務を行う、別の日にカバーするなど、本人に任せています。1人1人が自分の生活のアウトプット含めて、良い形にできるよう工夫しながら働いています。
それでも、原則リモートワークは禁止しております。過去に在宅制度を導入しましたが失敗しました。リモートワークは結局生産性が低くなってしまい、カルチャーも薄まるため、会社としての強みを活かせないと考えました。
しかし、子供の看病で自宅にいる必要があるときや、家族の予定がある際のリモートワークはOKです。原則的には禁止と言っておきながら、毎日社員の誰かが在宅しているかもしれないですね。ワークライフバランスは本当に整っている会社だと思います。
高野:最後に月並みの質問で恐縮ですが、どんな方と一緒に働きたいでしょうか?
牧野:素敵な方と一緒に働きたいです。
強いていえば、金銭欲求が全面的に出ている方や他者攻撃性が強い方は、合わないと思います。また、女性向けのサービスが多いので、女性の気持ちが分からない人も、エバーセンスで価値観を共有して働くのは難しいかもしれません。
現在のメンバーは、価値観は多種多様で、ストイックな人も多いのですが、人として良い人が多いと思います。たとえば、財布を拾ったら、全員届けると思う。困っているおばあちゃんがいたら、全員遅刻しても助けますね。仕事より困っている人を優先する。こんなカルチャーです。
高野:ある意味、大人な会社というイメージでしょうか?
牧野:精神的には大人ですが、生活にはだらしない人はいますよ。寝坊して遅刻してくるメンバーもいます。そんなことしたら、みんなに怒られますけど(笑)。しかし、「他者への思いやり」に関しては、全員強いですね。仕事ができても他者攻撃性が強い人はいません。ヒトに向かうか、コトに向かうかのスタンスの差です。エバーセンスのメンバーは、みんなコトに向かっています。
高野:これまでお話して頂いた内容を踏まえまして、どんな方にお会いしたいでしょうか?
牧野:特に、今すぐにでも会いに行きたいのは、「過酷な環境で勤務しながらも成果を出されている方」です。「過酷」の定義は何でもよくて、労働環境や時間など、一見、不合理な状況におかれながらも、そこでも「良いサービスをつくろう」「クライアントのために仕事をしよう」「自分を伸ばそう」という姿勢で仕事に取り組み、きちんと成果を出している方は素敵だなぁと思います。
そんな状況下で、世の中から本当に必要とされているサービスを世の中に広めたい。だけど家族やプライベートも大切にしたい。ワークライフバランスを重視したい。ある意味、贅沢なキャリアを望まれている方とお会いしたいですね。
高野:どんなお仕事をお願いしたいでしょうか?
牧野:ポジションはたくさんあります。営業(マーケティング)
)・メディアプロデューサー(編集)・エンジニア・デザイナーなど、積極的に採用しています。
例えば弊社の営業ポジションは法人営業も多いですが、webマーケティングの要素も含んでいます。自社アプリのDLをどう増やすか、自社内でのメディアの送客について思考し、PDCAを回す。営業起点でクライアントと商品企画を行うことも出来ます。
良いプロダクトを本気で追求したく、チームプレーが好きな方、そして何よりも会社の体質、ビジョン・私の考えに共感頂ける方と一緒に働きたいですね。
高野:素敵なお話ありがとうございました。
キープレイヤーズ高野のコメント
エバーセンスさんの魅力ですが、ビジョンや事業に社会性があること。とても良いと思います。
加えて、社会性と経済性のバランス。社会性のあるメディアやアプリを作り、集客をし、ユーザーに満足してもらい、収益をきちんと上げていく。このバランスが取れている点。
さらには、社員の皆さんが自由度を持ってイキイキと働いていらっしゃる点が素晴らしいと感じます。自由と自己責任。自由を得るには一人一人がプロフェッショナルでなければならない。
当社からご紹介させていただいた方々も自律的に成果が出せる方でした。柔らかい雰囲気、社風。それでいて、お仕事そのものはプロフェッショナリズムを追求。成果にコミットしていく。場所もスタートアップやベンチャーがよくある地域ではなく、少し離れた拠点で、静かに堅実に着々とやっている。トヨタ出身の牧野さんの性格が反映されているようにも感じます。隠れた優良ベンチャー企業エバーセンスさんを全力で応援しております!
<取材・執筆・撮影>高野秀敏・田崎莉奈