藪ノ賢次
大阪府出身。2004年に大阪府立大学工学部卒業後、すぐに起業。 食の専門学校とタイアップした学生向けアルバイトサポート「cook+biz」を開始。 2007年、クックビズ株式会社を設立。 「フード産業を人気業種にする」をビジョンに、飲食店とそこで働く人材のミスマッチを無くすため採用活動・転職活動を支援する人材サービスを行う。
クックビズ株式会社
2007年設立、飲食業界に特化した人材サービスを提供。 取引社数8,000社以上、正社員としてのマッチングは年間2,000名を超える。 大阪を中心に東京、名古屋に拠点を設けて、事業を拡大中。 『フード産業を人気業種にする』のビジョンの下、人材サービスのみに留まらず、様々な事業開発にも取り組み、SNSアプリの提供や研修事業サービスも展開。また関西注目のベンチャーとして、メディアへの掲載も多数。 上場を視野に今後も業界の発展に寄与すべく、積極的な事業展開を進める。
目次
大学院を卒業後、25歳でフリーターそして起業
高野:まずは藪ノさんご自身のキャリアについてお伺いさせてください。
藪ノ:大阪府立大学工学部数理工学科にて統計学を修めました。同じ学科出身で起業している方は少ないですが、起業家の先輩に、ソースネクスト株式会社の松田憲幸さんがいらっしゃいますね。
大学を卒業して、最初大学院に進むつもりでしたが、院試も受けず、就職活動の経験もありませんでした。
高野:就活してない系ですね。
藪ノ:教員免許を取ろうと思っていたのですが、教育実習に行くことを忘れていました(笑)。
高野:大変なことになってますね(笑)。
藪ノ:教育実習の当日、母校から電話かかってきて、「来ていないのは、お前だけだぞ」と怒鳴られて。それで教員の道が閉ざされたという訳です。
その結果、「院試も受けてない・就活もしてない・教育実習行くのを忘れた」これは相当まずいと思いましたが、単位は取れていたので、大学は卒業しました。こんなキャリアです(笑)。
キャリアと語るのも烏滸がましいですね(笑)。その後、1年間ぐらいフリーターをしていました。僕は一浪しているので、「25歳でフリーターはまずい」と思い、1社目を起業しました。それが2005年頃のことです。クックビズとは違う会社で、1~2年ほど当時の流行であったインターネット回線を頑張って売る代理店・取付け業務をやっていました。
クックビズ創業秘話
世界最大の食に関わる人材バンクになる
高野:1社目の事業内容はクックビズの事業とかなり異なっていますね。どんなキッカケがクックビズの設立へと繋がったのですか?
藪ノ:インターネット回線の取引があったお客様に、食の専門学校がありました。その学校さんにはかなり懇意にして頂きましたね。
その時、「地方から来た学生にアルバイトを探してあげたいが、なかなか手が回らない。」というお話を頂戴しました。そこで、在校生を対象にアルバイトの斡旋サービスを始めました。それが、クックビズの本当の始まりです。この仕組みを株式会社にしたのが、2007年のことです。
高野:藪ノさんと飲食業界のつながりはこれが最初ですか?
藪ノ:私の母方の祖父がお寿司屋、父方の祖父が漁師だったんですよ。寿司屋と漁師の見合い結婚で生まれたのが僕です。それで、魚を食べ過ぎて、いまや身長は2m近くまで伸びました(笑)。
最初から、「食×人材」でやろうと決めていました。食の専門学生へのアルバイトの斡旋サービスの成功体験もあり、やはり人材を手掛けたかったです。飲食業界向けの人材紹介業の前例が少なく、飲食業界のお客様から感謝の声を頂戴することも出来ました。
飲食業界のお客さまは、職人気質な方が多くそのニーズを汲み取ることを意識しました。これは、金融やweb業界の方とは異なる職人としての雰囲気があります。クックビズも私も職人さんに成長させて頂きました。
資本が薄い中でも独立系として生き残るには、未開拓の地を見つけるしかありません。その中で、職人のプロ意識がある飲食業界に特化して人材紹介業を始めたことに間違いはなかったと思います。試行錯誤を繰り返し4~5年で芽が出ました。
飲食業界の皆さんにスポットライトを
クックビズのビジネスモデル
高野:飲食業界に特化した人材紹介事業は業界独特の難しさがありますよね?
藪ノ:そもそも人材紹介のマーケットがありませんでした。つまり、人材紹介のご提案をさせて頂いても、「で、人材紹介って何?派遣だよね。」と怪しまれることがほとんどで3~4年ほど言われ続けていました。
加えて、飲食業界向けの人材データべースがそもそも世の中に存在していませんでした。飲食業界の求人はフリーペーパーや求人広告誌で動いているため、人材データベースの介在価値がなかったのです。しかし、近い将来、飲食業界にもITが介在して行くことは至極当然の事実でしたので、私たちが作ることに。
しかし、まだまだITリテラシーが低い業界のため、「データベースに登録してください。」「レジュメ登録をお願いします。」と依頼しても必要性を実感してくれる方は少数でした。なんとなく弊社に興味を持って頂いた飲食店様から求人をもらい、そこで興味を持って応募頂いた転職希望者様に連絡して面談をする、という地道な形で事業を進めました。
高野:見た目は求人サイト・中身のサービスは人力人材紹介というモデルですね。
藪ノ:これが、僕らのオリジナリティのあるビジネスモデルですね。地道に成功体験を重ねることで、業界の方から違和感なく使って頂くことが出来ました。
もちろん弊社から連絡すると「なんで店舗からの連絡じゃないんだ」と驚かれます。実際に面談に来られると、「なんで店舗ではなくクックビズのオフィスなんだ?」と、まずオフィスに入ることを躊躇する方もおります。しかし面談が進む中で、エージェントを通して転職することのメリットや成功体験を提供しアーリーアダプターを集めることが出来たことが、初期の成長ポイントでした。
高野:ここまで藪ノさんが飲食業界に熱中できる理由は何なのでしょうか?
藪ノ:波乱万丈のキャリアでしたので、一念発起で起業したという背景もありますが。本気でフード産業を人気業種にしたいという使命感があります。
日本と飲食ビジネスのマーケットフィットは高いのにも関わらず、飲食業界自体は未だに人気業種とは言えず、日の目が当たることもありません。
例えば、飲食業界の方の転職にフォーカスを当ててみると、かなりレガシーなものになっています。技術があるのに「料理長と喧嘩したから」といった突発的な理由などで、知り合いの店舗にまずは皿洗いとして転職する方、駅前にあった情報量の少ないフリーペーバーから転職する方も少なくありません。また、面接現場も、口下手の料理長と候補者さんの面接になるため、お互いスムーズな会話が成り立たず、しっかりとしたアプローチがないまま、人出が足りないから採用というのが常です。
高野:私もこの業界に20年近くおりますが、確かに飲食業界のキャリアアップというお話を耳にすることは少ないです。飲食業界を人気業種にすることでどんな世界観を考えていらっしゃいますか?
藪ノ:先ほどもふれましたが、日本と食ビジネスは相性がよいのに、日本では人気がない職種となっております。まずはこの固定概念を払拭したいです。
「飲食業界でもキャリアアップできるんだ!」「飲食業界で働いても給与が上がるんだ!」と皆さんが思えるようなポジション印象を浸透させて行きたいです。そして、飲食業界に優秀な若者が飛び込んでくるそんな社会を目指します。
日本の飲食業界は、皆さんもご存知の通り、世界最大級のブランドもクオリティもある。それを支えている、飲食業界の皆さんにスポットライトを当てるそんな仕事がしたいです。
国内最大の食に関わる人材バンクから世界最大の食に関わる人材バンクへ
高野:今後の事業展望をお聞かせください。
藪ノ:まず2020年の東京オリンピックまでは国内最大の食に関わる人材バンクを目指します。そのあとに世界を、グローバル展開を目指します。
訪日外国人のマーケット規模総額は15兆円とされており、内訳は宿泊領域が30%・飲食領域が20%となっております。今後、訪日外国人は増加傾向となりさらにマーケット拡大のチャンスです。
皆さんも旅行の際に経験されると思いますが、観光になると短時間に美味しいものを複数種類食べたいニーズがあり、客単価が高く飲食が成長していくチャンスです。
高野:藪ノさんの身長のようにマーケットも会社もグングン伸びていきますね!
藪ノ:お陰様でここ数年、クックビズは倍以上の成長をしています。現在、複数の事業を展開しておりますが、各事業がシナジーを発揮してきました。また、マーケット認知に関しても、今ではほぼ全ての飲食店様とお仕事をさせて頂いております。
高野:商品開発とマーケティングの賜物ですね。では、一方で困っていることはありますか?
藪ノ:現状として、飲食業界内で人材採用の総合デパートのようなポジションを獲得することが出来て来ました。しかし、現在社内でイノベーティブなことが難しくなってきております。現在、社員数は170人ですが、イノベーティブなことよりも、今あることをうまく踏襲し、仕組み化することが得意なメンバーが多い印象です。
これからの時代を勝ち抜く企業であるために、既存のリソースを生かしたイノベーションを起こすことが出来るか、これからが勝負です。
クックビズに既存事業に加えて、下記の3つの事業には社内的に注力しております。
▽フージェント
飲食業界に特化した、ハイクラスの人材向けサービス。飲食業界の皆様にキャリアアップの機会を提供しております。
▽クックビズ フードカレッジ
フード産業特化の訪問型研修サービス。50種以上の実践型カリキュラムで、学びを行動に変え、定着させる仕組みをご提案。
▽フージョン
フード産業で働く料理人・サービス、またその道を志す方々のための情報共有アプリ。日本や海外で活躍する、一流料理人たちのインタビューも発信。
クックビズさんはこんな方を求めています
高野:どんな方と一緒に働きたいでしょうか?
藪ノ:現在、企業としての変革期と位置付け、採用を行っております。会社の規模が小さかった頃は、ボードメンバーに仕事の権限移譲をしてきました。それは彼らが、それぞれの分野において私よりも詳しかったからです。人材業界出身・営業マネージャー経験があるなど、様々なバックグランドの社員が弊社にはおります。
現在、企業としてその先の権限移譲が難しい状況です。彼らの部下となるマネージャークラスに優秀な方を採用したいです。ここのポジションの採用は急務となっており、空きポジションも多数あるため、キャリアアップを望まれている方にはかなりチャンスに恵まれた環境ですね。
高野:たくさんの優秀な読者様がいらっしゃると思いますが一緒に働く方には能力に加えて何を求めますか?
藪ノ:資質と言ったら変ですが、求める資質は3つです。
(1)食に興味を持っていること
(2)数字に強いこと
(3)細かいことに気を配れるか
まず1つ目は、食に興味を持っていることです。弊社は食に特化したサービスですので、やはり一緒に働く方には、食に興味を持っていてほしいですね。3食ファーストフードで良い方は合わないと思います。例えが悪いですが、食べログの評価が3.7のお店よりも、実は3.4のどこどこのお店の方が美味しい、と知っている方は絶対楽しく仕事が出来るはずです。
高野:そういう方はモテますよね(笑)。羨ましいです。
藪ノ:そうなんですよ。大阪を担当しているマネージャーはすごくモテます。知られていない、美味しいお店とかに詳しくて、女の子を連れて行っていつも喜ばせています。
高野:デート本の1ページ目に載っている鉄板のお店よりも、女性から「大丈夫!?ここ、路地裏だけど……」と言われるような佇まいだけど、実はすごく美味しいお店とかに連れて行った方がモテると思います。確実に。
藪ノ:弊社では、仕事を通してそんな美味しいお店によく出会えますので、弊社で働くとモテるかもしれないです(笑)。1つ加えておくと、飲食業界の知識があるとお客様とのコミュニケーションが円滑になります。客単価・回転率というワードはお客様との共通言語になります。
2つ目に数字に強いこと。営業マンの数値分析は必須となります。弊社を問わず営業マンは人情で売っていくことも可能ですが、最終的にはロジカルに考えて仕組み化できる方が活躍するイメージがありますね。
3つ目に、細かいことに気を配れるか、です。つまり多くの採用候補者をきちんと把握できる、マネジメントできることです。例えば、予定人数は20人だとします。そうなると内定段階で20数名・2次面接で40人・1次面接でその倍以上・エントリーではさらに…とかなり大きな母集団形成が必要となります。もちろん対応するクライアントは一社ではありません。
しかし、ビジネスマンとして候補者様の仕事の選択という意思決定に関わっている以上、流れ作業にならず一人一人に気を配れることが求められます。
高野:なかなか採用難易度が高いですね藪ノ社長。
最後に読者の皆様にお伝えしたいメッセージをポップな感じでお願いします。「モテる会社」のようなイメージです!
藪ノ:ポップにですか………。
日本でレストランに入って、4000~5000円払うと極上の2時間を過ごせます。「安くておいしいしサービスもそこそこ良い」。これが日本のレストランに対する標準的な評価だと思います。
でも、その向こう側では泣いている店員さんがいます。日本の飲食はすごく良いですが、浮かばれていない人がやっぱりいるんです。みなさんも一度は「こんなに美味しくてサービスも良いのに、店員さんのお給料が低いのはなぜだろう。」と、お客さんとして思ったことがあると思います。
私たちの仕事は、飲食業界を支えている、そんな人たちに正当な光を当てることです。そして、飲食業界を超人気業界に変貌させ、日本の食の魅力の向上に尽力します。
キープレイヤーズ高野のコメント
広い意味では私も人材業界経験20年弱ですので、知見がないことはない分野。それがクックビズさんの飲食×人材の領域です。
人材業をやっている方なら一度は考えたことがありそうな領域ですね。一方でそこを深堀りするのか覚悟が決まらないといいますか。経営をやると事業ドメインは自分で選択できますので、色々やりたくなったりしがち。
そんな中でドメインを絞り、深堀りを徹底的に行ってきたクックビズさんは業界内でも圧倒的で強みがあると言えます。
昨今インバウンドですとか、日本の良いところを海外にといったグローバル化が叫ばれておりますが、日本の食事というのは本当に美味しい。バリエーションも豊富。どの外国の方にも評判が良く、世界の中でも自慢ができることの一つだと思います。
その飲食業界を人を介して、支援するクックビズさんの社会的な役割は大変大きなものですし、飲食業界のなくてはならない存在。インフラ構築のようなやりがいのあるお仕事だと思います。
日本の少子高齢化が社会問題化していますよね。その飲食業界の問題点である「人」の問題を解決できる。社会問題を解決できる企業がクックビズさんだと思います。マーケットのニーズがとにかくありますので、成長の余地、伸びしろがかなりありますね!
<取材・執筆> 高野・田崎