こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を27年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。
「VCに行きたい」というご相談を、私は毎月のように受けています。ところが話を聞いていくと、多くの方がVCの仕事を「投資を決める人」だけだと思っておられるのです。実際のVCは、投資を決める人、ファンドを回す人、投資先の採用を助ける人という複数の職種で成り立っています。そして求人の数でいえば、投資職より管理部門のほうがずっと多い年もあります。
私自身、エンジェル投資家として80社以上に投資し、9社が上場しました。VCのパートナーの方々とは日常的に情報交換をしていますし、VC自身の採用のご相談も受けます。その立場から見ると、VC転職でいちばんもったいないのは「アソシエイトの枠が空くのを待ち続けること」です。入口は4つあるのに、1つしか見ていない方が多すぎます。
この記事では、VC業界の4つの職種を分けて、それぞれの仕事内容・年収・求められる経験・入り方を整理します。投資職を目指す方にも、管理部門やHRから業界に入る道を考える方にも使っていただけるように書きました。
この記事でわかること
- VC業界の全体像と、日本に何社のVC・CVCがあるのか(一次資料ベース)
- アソシエイト/パートナー/管理部門/HRの4職種それぞれの仕事内容と年収
- キャピタリストの1日のスケジュールと、実際の選考フロー
- 未経験からVCに入るための現実的な5つのルートと、年代別の戦い方
- 独立系VC・金融系VC・CVC・大学系VCで報酬の決まり方がどう違うのか
- キャリー(成功報酬)の仕組みと、それを当てにしてよいのかの判断軸
- 私が見てきたVC転職の失敗パターンと、VC側が人を採れない理由
VC業界の全体像|日本には415社の投資家団体がある

まず業界の規模を押さえておきましょう。ここは推測ではなく一次資料で確認できます。
一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が2026年6月に金融庁の検討会へ提出した資料によると、JVCAの会員数は計415社で、内訳はVC会員176社、CVC会員139社、賛助会員100社です。VCとCVCを合わせた投資家会員だけで315社あります。2002年の設立から会員数は増え続けており、直近でも393社から415社へと伸びています。
この数字の読み方で大事なのは、CVC会員が139社あるという点です。独立系VCだけを見ていると業界が小さく見えますが、事業会社が運営するCVCを含めると投資の現場はかなり広い。そしてCVCは親会社の人事制度で採用するので、事業会社からの転職者を受け入れる余地が独立系より大きいのです。
| 区分 | 社数 | 転職市場での特徴 |
|---|---|---|
| VC会員(独立系・金融系・大学系) | 176社 | 投資職の枠は少なく、1社あたり年1〜2名の採用も珍しくない |
| CVC会員(事業会社) | 139社 | 親会社の異動・出向が中心だが、外部採用も増加。事業会社出身者の受け皿 |
| 賛助会員(法律事務所・監査法人など) | 100社 | VCの周辺で専門性を活かす道。ここからVCの管理部門へ移る人もいる |
| 合計 | 415社 | ー |
資金の流れ側も見ておきます。INITIALの調査では、2026年上半期の国内スタートアップ資金調達額は3,779億円で前年同期比12%増。ただし内訳を見ると、50億円以上を調達した企業が4社から9社へ倍増し、その合計額は345億円から780億円に伸びた一方で、50億円未満の調達は1%減とほぼ横ばいでした。上位20社で調達総額の31%を占めています。
つまりお金は増えているが、集まる先は絞られているという状況です。新設ファンドは79本と前年と同水準で、独立系VCの参加社数は41社から45社に増えました。EXIT側ではM&Aが103件から141件へ37%増えています。
どの種類のVCがどのステージを見ているのかは、VC業界地図に1枚の図でまとめました。社名を挙げて配置しているので、狙う先を絞るときに使ってください。
これは転職を考える方にとって重要です。ファンドの組成が続いている=運用する人が必要ということですから、VCの採用ニーズ自体は消えていません。ただし投資先を絞る局面なので、「とにかく件数を回す人」より「1社を深く支援できる人」が求められます。ベンチャー転職の市場全体の動きについてはベンチャー転職の完全ガイドでも整理しています。
VCの4つの職種マップ|投資職は入口のひとつに過ぎない

ここが本題です。VCの職種を、私は次の4つに分けて説明しています。
| 職種グループ | 主な役職名 | ミッション | 求人の出やすさ |
|---|---|---|---|
| ①投資職(ジュニア) | アナリスト/アソシエイト/シニアアソシエイト | ソーシング、デューデリジェンス、投資実行の実務 | 枠は少ないが定期的に出る |
| ②投資職(シニア) | プリンシパル/VP/パートナー/ジェネラルパートナー | 投資判断、ファンドの収益責任、LP対応 | 公募はほぼ出ない。実質は紹介と引き抜き |
| ③管理部門(オペレーション) | ファンド管理/ミドル・バックオフィス/経理/法務・コンプライアンス | ファンドの計理、契約実務、LPレポーティング、規制対応 | 最も求人が出やすい |
| ④HR・プラットフォーム | HRマネージャー/タレントパートナー/コミュニティマネージャー | 投資先の採用支援、人材ネットワーク構築、情報発信 | 数は少ないが新設ポジションが増加中 |
私がご相談を受けるとき、最初に確認するのは「あなたがやりたいのは投資判断ですか、それとも起業家を助けることですか」です。この2つは重なりますが同じではありません。投資判断をしたいなら①②しかない。起業家を助けたいなら③④も十分に選択肢になります。
ここを混同したまま①だけを狙って何年も足踏みしている方を、私は何人も見てきました。もったいないと思います。
キャピタリストの仕事内容と1日のスケジュール

4職種の話に入る前に、投資職の実際の動き方を見ておきましょう。イメージと実態がいちばんズレやすいところです。
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| ソーシング(案件発掘) | 起業家との面談、紹介ネットワーク構築、ピッチイベント参加 |
| デューデリジェンス | 事業計画分析、市場調査、財務分析、リファレンス取得 |
| 投資委員会への稟議 | 投資メモ作成、パートナーへのプレゼン、投資条件交渉 |
| 投資契約・実行 | タームシート交渉、株主間契約、法務対応 |
| 投資先支援(ハンズオン) | 取締役会出席、採用支援、追加調達支援、事業戦略 |
| イグジット | IPO準備支援、M&A紹介、セカンダリー |
| ファンド業務 | LPレポート作成、新ファンド組成、IR |
アソシエイト〜プリンシパルクラスの1日は、だいたいこう流れます。
| 時間 | 業務内容 |
|---|---|
| 9:00 | 投資先CEOとの朝会(事業進捗確認) |
| 10:00 | 起業家ピッチ面談(新規案件) |
| 11:30 | 投資メモ作成・市場分析 |
| 13:00 | 起業家とランチMTG |
| 14:30 | 投資先取締役会出席 |
| 17:00 | 社内投資委員会(IC) |
| 19:00 | 業界イベント・ネットワーキング |
見ていただきたいのは、「人に会う時間」が1日の大半を占めていることです。分析は空き時間と夜に押し込まれます。「腰を据えて事業を分析する仕事」だと思って入ると、必ずギャップに苦しみます。ここは選考の前に必ず確認してください。
①アソシエイト・アナリスト|VC転職のもっとも現実的な入口

投資職の入口です。ソーシング、起業家との面談、市場調査、デューデリジェンス、投資委員会向け資料の作成、投資実行後のモニタリングを担当します。パートナーやプリンシパルの下で、投資の一連の流れを実務として回す役割です。
未経験からの転職について、率直に申し上げます。完全な業種未経験であれば、第二新卒から社会人5年目くらいまでが現実的なラインです。ただしこれは「VC業務の未経験」という意味であって、隣接する経験があれば話は変わります。
| 前職 | 評価されるポイント | 弱点として見られやすい点 |
|---|---|---|
| 投資銀行(IBD) | ファイナンス・バリュエーションの精度、契約実務への耐性 | アーリー期の「数字がない会社」の評価に慣れていない |
| 戦略コンサル | 市場分析力、仮説構築、資料の完成度 | 実際に事業を動かした経験がないと起業家に見透かされる |
| 事業会社の新規事業・PdM | 事業の解像度、業界ネットワーク、投資先のバリューアップ直結 | 財務モデリングと契約知識の不足 |
| 起業経験者 | 起業家の心理と現場感、ソーシング力 | 「自分ならこうする」が強すぎて投資家に回りきれないことがある |
| 公認会計士・弁護士 | 財務・法務の専門性、デューデリジェンスの即戦力性 | ソーシングの経験値ゼロからのスタート |
| 研究者・エンジニア | ディープテック領域の技術評価。近年もっとも需要が伸びている | ファイナンスと商流の理解を後から埋める必要がある |
私の実感としてお伝えしたいのは、アソシエイト採用でいちばん効くのは「すでにソーシングができている状態」を見せることです。面接で「この会社は面白い、なぜならこうだ」と具体名で語れる人は強い。逆にVCの事業モデルを説明できるだけの人は落ちます。
年収レンジはアナリスト〜アソシエイトで600〜1,000万円、シニアアソシエイトで800〜1,200万円が目安です。未経験でもポテンシャル評価で1,000万円近くを出すファンドもありますが、これは例外に近いと考えたほうがよいでしょう。
技術系の方はディープテック業界の転職ガイド、金融領域に関心がある方はフィンテック業界の転職ガイドもあわせてご覧ください。同じ投資ファンドでもPEを検討される方はPEファンド転職完全ガイドで違いを比較できます。
②プリンシパル・パートナー|キャリーを取りにいくキャリア

プリンシパルは、ソーシングから投資実行、バリューアップ、EXITまでの一連のフローを自分で推進する立場です。パートナーになると、ファーム全体の投資方針と収益責任を持ち、LP(出資者)への説明責任も負います。
ここで押さえておきたいのが報酬の構造です。VCの収入源は2つあります。
| 収入源 | 一般的な水準 | 誰の給与になるか |
|---|---|---|
| 管理報酬(マネジメントフィー) | ファンド総額の年2%程度 | ここから全社員の給与・オフィス費用が出る |
| 成功報酬(キャリー/キャリード・インタレスト) | 元本を超過したリターンの20%程度 | 配分対象・比率はファンドごとに異なる。パートナー中心 |
この構造を理解すると、VCの年収の説明がつきます。ベースは管理報酬の枠内でしか上げられないので、100億円のファンドなら年2億円で全社員を賄うことになる。だからジュニアの給与は事業会社の同年次より劇的に高くはならないのです。大きく稼げるかどうかはキャリーの配分次第です。
転職の際に必ず確認していただきたいのは次の3点です。
- キャリーの配分対象に自分が入るのか。入らないポジションも普通にあります
- 何号ファンドのキャリーなのか。これから組成するファンドなら、回収は7〜10年後です
- ベスティング(権利確定)の条件。途中で辞めたときにどうなるかを書面で確認してください
私がご相談を受けるなかでいちばん多い誤解が、「VCは儲かる」をキャリー前提で理解してしまっていることです。キャリーは大きなアップサイドですが、現金になるのは何年も先で、しかもファンドの成績次第。ベース年収だけで生活が成立する条件になっているかを、必ず先に確かめてください。
ウォーターフォール(分配の順序)、ハードルレート、キャッチアップ、クローバックといった条項がそれぞれ何を意味するのかは、キャリーの仕組みの解説記事にまとめました。
パートナークラスの採用は、公募がほぼ出ません。実質は既存パートナーの人脈からの引き抜き、あるいは実績のある投資家が独立してファンドを立ち上げる形です。経営幹部クラスの採用がどう動くかについてはCxO転職・経営幹部キャリアのガイドもあわせてご覧ください。報酬やストックオプションの設計の考え方は年収・報酬・SOのまとめで整理しています。
③管理部門(ファンド管理・オペレーション)|3人で350億円を回す職種

ここが、私がこの記事でいちばんお伝えしたい職種です。
VCには「管理部門」「アドミ」「ミドル・バックオフィス」と呼ばれる部門があり、海外の著名VCにならって「オペレーション」と呼ぶファンドもあります。業務は想像よりずっと広い。
| 業務領域 | 具体的な仕事 |
|---|---|
| ファンド管理・計理 | キャピタルコール、残高・分配管理、ファンド事業報告書の作成、公正価値評価 |
| ディール実行 | 投資契約書・株主間契約の内容詰め、NDA締結、KYC手続き、クロージング |
| 投資先管理 | 投資後の業績モニタリング、ポートフォリオのデータベース管理、投資委員会の運営 |
| LP対応・IR | 出資者向けレポーティング、定時報告会の運営、新ファンド組成時の資料作成 |
| コーポレート・規制対応 | 金商法対応、ケイマン籍ファンドを含む複数国の規制対応、個人情報管理 |
Coral Capitalが公開している記事では、同社のオペレーションチームは創業パートナーを含む3名体制で、約350億円・100社以上の投資先を管理していると書かれています(2023年9月時点)。この人数で、契約実務から規制対応、LPレポーティングまでを回しているわけです。
この「少人数で広い範囲を持つ」という構造が、管理部門がVC転職の現実的な入口になる理由です。投資職はパートナーの目線に合う人を厳選するので枠が狭い。一方で管理部門は、ファンドが1本増えれば確実に業務が増えるので、採用しないと回らなくなります。実際に、ある大手転職エージェントの公開求人だけでも、東京都のVC関連のバックオフィス・ミドルオフィス職が数十件掲載されています(2026年9月時点)。投資職の公開求人がほとんど出てこないことと比べると、差は歴然です。
求められるスキルとして、記事では英語力(海外LP投資家や海外投資先への対応)、業務のデジタル化への対応力、複数国の規制に対応できることが挙げられていました。ここは監査法人、信託銀行のファンド計理、証券会社のバックオフィス、PEファンドの管理部門、法律事務所のパラリーガルといった経歴の方がそのまま強みになります。
私の実感として、管理部門からキャリアを始めてVCの中で投資側に移った方も実際におられます。投資契約を何十本も見て、投資委員会の議論を毎回聞いている人は、外部から来たアソシエイトより業界の解像度が高い。この横移動の可能性を、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。
④HR・タレント・プラットフォーム|いま最も新しいVCの職種

4つめが、投資先の採用と人材ネットワークを担う職種です。VCによって「HRマネージャー」「タレントパートナー」「プラットフォームチーム」「コミュニティマネージャー」など呼び方が違います。
なぜVCがHRを内部に持つのか。インキュベイトファンドの事例が分かりやすいので紹介します。同社ではゼネラルパートナーの和田圭祐さんのもとで、壁谷俊則さんがHRマネージャー、清水夕稀さんがコミュニティマネージャーを務めておられます。壁谷さんは投資先のHR支援、人材マッチング、求人情報の打ち出し方のアドバイスを担当されています。
同社が投資先に行った調査では、82.7%の企業が創業メンバー獲得に最も有効だった手段として「リファラル採用」を挙げたそうです。だからこそVCが人のネットワークを持つ意味がある。同社の「IF Talent Network」は270名以上が登録し、VCと投資先と個人をつなぐ仕組みとして機能しています。
| 仕事内容 | 活かせる前職 |
|---|---|
| 投資先の採用戦略の設計、求人票・採用ピッチ資料の改善 | 人材エージェント、事業会社の採用責任者、RPO |
| 候補者データベース・タレントネットワークの構築と運営 | ヘッドハンター、ダイレクトリクルーティング運用経験者 |
| CxO候補・幹部人材のサーチとマッチング | エグゼクティブサーチファーム出身者 |
| イベント企画、情報発信、投資先と候補者のコミュニティ運営 | 広報、マーケター、コミュニティマネージャー |
正直に申し上げると、この職種は求人の絶対数が少ないです。VC1社に1〜2名、置いていないファンドも多い。ただし新設ポジションとして増えている領域であり、人材業界にいる方がスタートアップエコシステムの中心に入る、ほぼ唯一の正面ルートでもあります。
私自身が人材の側からスタートアップ支援をしてきた立場なので、この職種の価値は身に染みて分かります。投資先が採用に失敗すると、どれだけ良い事業でも伸びません。企業側の採用・人材戦略の考え方は企業側の採用・人材戦略のガイドにまとめています。
VCの年収は「職種」と「運営母体」の掛け算で決まる

年収の話を整理します。まず役職別の目安です。
| 役職 | 年収レンジの目安 | キャリーの配分 |
|---|---|---|
| アナリスト/アソシエイト | 600〜1,000万円 | 原則なし、または少額 |
| シニアアソシエイト | 800〜1,200万円 | ファンドによる |
| VP/プリンシパル | 1,200〜1,800万円 | 配分対象に入り始める |
| MD/パートナー | 1,500〜2,000万円以上 | 中心的な配分対象 |
| 管理部門(担当者) | 500〜800万円 | 原則なし |
| 管理部門(マネージャー・責任者) | 800〜1,500万円 | ファンドにより一部配分あり |
| HR・タレント担当 | 600〜1,200万円 | 原則なし |
業界平均で見ると、JAC Recruitmentの集計ではVC業界の平均年収は911.1万円、課長未満のメンバー層で789.8万円、課長以上の管理職で1,113.0万円。日系が850.8万円に対して外資系は1,410.0万円と、ここは大きく開きます。ボリュームゾーンは800〜1,200万円です。
そしてもう一つの軸が運営母体です。同じ「VCのアソシエイト」でも、独立系と金融系とCVCでは報酬の決まり方がまったく違います。
| 運営母体 | 報酬の決まり方 | 転職難易度 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 独立系VC | ベース+賞与+キャリーの設計が前面に出る。ファンドの成績が直接響く | 高い。枠が少なく、パートナーとの相性で決まる | リスクを取ってアップサイドを狙いたい人 |
| 金融系VC(銀行・証券・保険系) | 親組織の給与テーブルの影響を強く受ける。安定的 | 中。金融出身者との相性がよい | 安定と投資経験を両立させたい人 |
| CVC(事業会社) | 親会社の給与テーブルに準じる。キャリーがない場合も多い | 中〜低。事業会社出身者の受け皿になりやすい | 事業シナジーや事業共創に関心がある人 |
| 大学系VC | 公的性格が強く、安定寄り。ディープテック案件が中心 | 中。研究バックグラウンドが効く | 技術の目利きを活かしたい人 |
CVCについては、シニアキャピタリストで1,000万円程度、事業共創の担当者で1,400〜1,600万円という水準も出ています。CVCは「年収を上げる転職」ではなく「投資経験を積む転職」と捉えたほうが期待値がずれません。
なお、この年収表の裏側にある仕組み――給与の原資である管理報酬の料率、キャリーの分配順序、そして税率が約20%と最高約55%に分かれる条件までは、VCの給与とキャリーの仕組みで数字を追って解説しています。オファーを受け取る前に一度読んでおいてください。
未経験からVCに入るための現実的な5つのルート

ここまでの内容を、実際の動き方に落とします。私がご相談者に提示している5つのルートです。
| ルート | 内容 | 向いている人 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|---|
| ①直接アソシエイト | 投資職の求人に直接応募する | IBD・戦略コンサル・会計士で20代〜30代前半 | 半年〜1年(枠待ち含む) |
| ②CVC経由 | いま在籍する事業会社のCVCに社内異動、または他社CVCへ転職 | 事業会社で新規事業・事業開発の経験がある人 | 3か月〜1年 |
| ③管理部門経由 | ファンド管理・オペレーションで入り、業界の中で横移動を狙う | 監査法人・信託銀行・証券バックオフィス・法務出身者 | 3〜6か月 |
| ④HR・プラットフォーム経由 | タレント/HRポジションで入り、投資先支援から関与する | 人材エージェント・採用責任者・広報 | 半年〜1年(求人待ち) |
| ⑤起業・事業側で実績を作ってから | 一度起業するか事業責任者を経験し、パートナー級で入る | 30代後半以降で投資判断をしたい人 | 3年以上 |
このなかでもっとも見落とされているのが③と④です。①だけを見て「求人がない」と止まってしまう方が本当に多い。業界に入ってから中で動くほうが、外から正面突破を狙い続けるより確率が高い場面はあります。
②の社内異動は、実際に動いている人がいます。サイバーエージェントの人事から、グループ内のサイバーエージェント・キャピタルへ異動し、2026年10月からキャピタリストとして働き始めた野澤玲さんです。ご自身の自己紹介noteに、タイミーでのインターンから人事を経てVCに移るまでの経緯が書かれています。
私は野澤さんを以前から存じ上げていますが、「人事からキャピタリストへ」という動き方があることは、外からはまず見えません。こうした社内ルートは求人票になりません。だから本人の発信から知るしかないのです。
また、どのルートでも共通して効くのが「起業家と会っている実績」です。副業で創業期のスタートアップを手伝う、ピッチイベントに通う、投資先候補を自分でリスト化して考えをまとめておく。こういう蓄積が面接で決定的に効きます。逆に、資格の勉強だけをしてVCに行こうとするのは、私は効率が悪いと思っています。
VC転職の選考フローと突破のポイント

投資職の選考は、一般的な転職とはかなり違います。流れはこうです。
- 書類選考(職務経歴書+投資意向書のような自己プレゼン)
- パートナー1次面談(人物・志望動機・業界理解)
- ケース面接(投資判断のロールプレイ)
- 投資メモ作成課題(特定スタートアップの分析)
- パートナー全員との面談
- リファレンスチェック(業界人脈経由が多い)
- オファー
選考期間は2〜4か月が一般的です。リファレンスの取り方についてはリファレンスチェック完全ガイドを参照してください。
| 突破のポイント | 具体的に何をするか |
|---|---|
| 「なぜVCか」を自分の言葉で語る | 「面白そうだから」はNG。具体的な投資哲学を用意する |
| 特定領域の深い知見を見せる | 「SaaSのバリュエーションについて30分話せる」レベルを目指す |
| 投資メモ課題は本気で書く | 実際の投資判断に堪える質を目指す。ここで差がつく |
| リファレンス対策 | 業界の知人に「もし聞かれたら推薦してほしい」と事前に依頼しておく |
| ネットワーキング実績を語れる | 「過去1年で起業家◯名と会った」と数字で言えるようにする |
管理部門やHRの選考は、これよりずっと一般的な転職に近い流れです。投資メモ課題やケース面接がないぶん、準備の負担は軽いと考えていただいて構いません。
VC転職の年代別アドバイス
年代によって、狙うべきポジションはまったく変わります。
| 年代 | 狙うポジション | 戦い方 |
|---|---|---|
| 20代 | アナリスト・ジュニアアソシエイト | 投資銀行・PE・コンサル出身者が中心。学歴・職歴のブランド力が効く時期 |
| 30代 | シニアアソシエイト〜プリンシパル | 事業会社・起業経験を活かしたキャリアチェンジが現実的。専門領域(SaaS・FinTech・ヘルスケア等)の深い知見が武器 |
| 40代以降 | プリンシパル〜パートナー、CVC責任者 | 経営者経験・上場CFO経験・大型M&A経験が必須。加えて「資金を集められる人脈」が問われる |
| 年代を問わず | 管理部門・HR | 年齢より専門性で評価される。40代以降の転職も十分に成立する |
40代以降で投資職を狙う場合の考え方は40代のベンチャー転職完全ガイド、年代全般の戦略は年代別キャリア戦略にまとめています。
私がよく申し上げるのは、40代で「アソシエイトからでもいいので入りたい」というのは、ほぼ通らないということです。年齢に見合ったポジションで勝負するか、管理部門など別の入口を使うか。このどちらかで考えたほうが現実的です。
VC転職に向いている人・向いていない人
率直に書きます。VCは全員に向く仕事ではありません。
| 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|
| 自分から人に会い続けられる。ソーシングは待っていても来ない | 与えられた案件を処理したい。VCには「降ってくる仕事」が少ない |
| 7〜10年のスパンで成果を待てる | 四半期ごとに成果を評価されないと不安になる |
| 自分が決めたことの結果を引き受けられる | 失敗の責任を組織に分散したい |
| 他人の成功を心から喜べる。主役は起業家だと割り切れる | 自分が事業の主役でいたい(それなら起業や事業会社のほうが幸せです) |
| 知らない領域を学び続けるのが楽しい | 専門領域を1つ深掘りしていたい |
4つめが実は大きいと私は思っています。VCは起業家を主役にする仕事です。自分が前に出たい方には、投資職よりも起業や事業会社の幹部のほうが向いています。ここを正直に見極めておかないと、入ってから苦しくなります。
私が見てきたVC転職の失敗パターン

ご相談に来られた方の実例をもとに、つまずきやすいところを挙げます。
| 失敗パターン | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| キャリー前提で年収を計算していた | 入社後、ベースが前職より下がったまま数年が過ぎる | ベースだけで生活が成立するか、配分対象・号数・ベスティングを書面で確認 |
| 投資職しか見ていなかった | 枠が空かず2〜3年が過ぎ、年齢だけが上がる | 管理部門・HRも含めて業界への入口を4つで考える |
| ソーシングの負荷を軽く見ていた | 「分析の仕事」だと思って入り、営業的な動きに疲弊する | 現職のキャピタリストに1日の動き方を具体的に聞く |
| ファンドの残存期間を見ていなかった | 投資期間が終わりかけのファンドに入り、新規投資ができない | 何号ファンドの何年目か、次号の組成予定を必ず確認 |
| パートナーとの相性を軽視した | 少人数組織なので、合わないと逃げ場がない | 選考中に複数のパートナー・現場メンバーと会わせてもらう |
| 事業会社に戻る道を考えていなかった | 投資経験は評価されるが、事業の実行経験のブランクが効いてくる | 数年後の出口(事業会社のCxO、起業、他ファンド)を入る前に描く |
特に1つめと4つめは、選考中に確認すれば防げる話です。VCは会社の数が少なく情報が出にくいので、質問しないと分からないことが多い。遠慮せず聞いてください。聞いて気を悪くするファンドなら、入らないほうがよいと私は思います。
転職の失敗や後悔をどう避けるかという観点は転職の失敗・後悔・リスクのまとめにも整理しています。
VC転職でやってはいけないNG行動
選考で確実にマイナスになる行動を挙げておきます。
| NG行動 | なぜ致命的か |
|---|---|
| 「楽そう」「華やか」で志望する | 実態は地道な分析と長期投資。志望動機の浅さはすぐ見抜かれる |
| 特定領域への興味を持たずに応募する | 領域の土地勘がないと投資判断ができない |
| 業界人脈を作らずに転職活動を始める | リファレンスチェックで詰まる |
| キャリーの仕組みを理解せずに年収を語る | 報酬構造を知らないことが即座に伝わる |
| 過去の投資先や他ファンドを批判する | 業界は狭く、必ず巡り巡って耳に入る |
最後の1つは本当に気をつけてください。VC業界は数百社しかない世界です。面接で誰かを悪く言うと、その場では盛り上がっても、後で必ず跳ね返ってきます。
VC転職のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 多数のスタートアップ経営に関わる経験が得られる | 採用枠が極端に少ない |
| キャリーで大きな報酬を狙える | 成果が見えるまで5〜10年かかる |
| 経営者・投資家ネットワークが広がる | ファンド業績が悪いと報酬が伸びない |
| 業界知見が一気に深まる | ハンズオン支援は精神的・肉体的に負荷が高い |
| 次のキャリアの選択肢が広い | 投資判断の責任が重い |
私の見方を申し上げると、最大のメリットは「ネットワークと業界知見が資産として残ること」です。仮にVCを辞めても、この2つは持ち出せます。逆に最大のデメリットは、成果が出るまでの時間の長さです。5年やっても「自分が正しかったか」が分からない期間があるのは、人によってはかなり辛いと思います。
キャピタリストのキャリアパス(出口戦略)

VCに入った後、どこへ行くか。主な進路は5つです。
| 出口 | 内容 |
|---|---|
| パートナー昇格→ファンド独立 | 自分のファンドを立ち上げる王道。資金を集められる人脈が前提 |
| 投資先スタートアップへCxOとして転身 | CFO、COO、CSOとして経営側へ。実行力が問われる |
| 自分で起業 | 豊富な投資知見を活かして連続起業家に |
| 事業会社のCSO・経営企画 | 大企業の新規事業・M&A戦略責任者 |
| 政府機関・大学系ファンドへ | 公的セクターでのインパクト投資 |
VCのキャリアは「投資ノウハウ」「経営者ネットワーク」「業界知見」という転用価値の高い資産を残します。ポストコンサルのキャリア設計と考え方が近いので、ポストコンサルのキャリアパスも参考になります。
ただし繰り返しになりますが、「事業を自分で回した経験」のブランクは年数が経つほど重くなります。事業側に戻る可能性を残したい方は、5年を一区切りに考えておくとよいと思います。
VC採用側の話|なぜVCは人を採れないのか
ここは採用する側の視点です。VC自身の採用のご相談も受けるので、両側から見えることを書きます。
VCが人を採れない理由は、だいたい次の3つです。
1つめは求人票が存在しないこと。パートナーの頭の中に要件はあるのですが、言語化されていない。だから候補者に説明できず、選考が長引き、その間に候補者は他社に決まります。少人数の組織ほどこれが起きます。
2つめは選考が「相性の見極め」に偏りすぎること。少人数で長く働く前提なので相性は大事なのですが、評価軸が明文化されていないと、面接官によって判断がぶれます。結果として「なんとなく見送り」が積み上がります。
3つめは報酬を説明できないこと。キャリーの配分設計を候補者に開示していないファンドは珍しくありません。候補者からすれば年収が分からない求人に応募することになるので、当然決まりません。
この3つは、いずれも採用の技術で解ける問題です。私はVCのパートナーの方に、まず求人票を書くところから一緒にやりましょうとお伝えしています。母集団を増やす前に、要件と報酬を言語化するほうが効きます。
VC転職でエージェントをどう使うか
VC・PE業界は専門性が高く、求人が表に出てきません。だからエージェントの使い方も、一般的な転職とは変える必要があります。
| 確認すること | なぜ重要か |
|---|---|
| そのエージェントはVCのパートナーと直接つながっているか | VCの求人は求人票になる前に人づてで決まることが多い |
| ファンドの号数・残存期間まで教えてくれるか | ここを知らないエージェントは、その現場を知らない |
| キャリーの配分設計を確認してくれるか | 年収の本体部分。踏み込めるかどうかで差が出る |
| 管理部門・HRのポジションも扱っているか | 投資職しか扱わないと、入口が1つに絞られてしまう |
キープレイヤーズは、VC・スタートアップ業界の経営者と日常的に接しており、求人票には出てこない非公開のVC案件を扱っています。私自身がエンジェル投資家としてファンドのパートナーの方々と情報交換をしているので、「このファンドは次号の組成が近い」「ここは管理部門を増やしたがっている」といった、表に出ていない状況をお伝えできることがあります。
エージェントの選び方の基本は転職エージェントの選び方ガイド、CxOクラスの案件についてはCxO・経営幹部向けエージェント比較もご覧ください。
よくある質問
Q1. VCに転職するのに資格は必要ですか
必須の資格はありません。公認会計士や証券アナリスト、MBAが評価されることはありますが、資格そのものより「事業を見る目」と「起業家に会える力」が優先されます。資格の勉強に何年もかける前に、スタートアップの現場に関わったほうが早いと私は考えています。
Q2. 30代後半・40代からVCに行けますか
アソシエイトとしては難しくなります。ただし事業側で明確な実績がある方なら、プリンシパル級やCVCの責任者として入る道があります。また管理部門であれば年齢よりも専門性で評価されるので、40代以降の転職も十分に成立します。年齢で一律に諦める必要はありません。
Q3. VCの年収は本当に高いのですか
ベースは業界平均で911.1万円、ボリュームゾーンは800〜1,200万円です。メガベンチャーの同年次と比べて劇的に高いわけではありません。管理報酬(ファンド総額の2%程度)から給与を出す構造なので、ベースには上限があります。大きく稼ぐならキャリーの配分を取る必要があり、それは回収まで7〜10年かかります。
Q4. CVCと独立系VC、どちらから入るべきですか
目的で変わります。投資判断の経験を積みたいなら独立系、事業シナジーや事業共創をやりたいならCVCです。事業会社出身の方はCVCのほうが入りやすいので、そこで投資経験を積んでから独立系に移るという二段構えも現実的です。ただしCVCは親会社の方針転換で投資が止まることがあるので、ファンドの継続性は確認してください。
Q5. VCの管理部門は、投資職へのステップになりますか
なる場合があります。投資契約を大量に見て、投資委員会の議論を毎回聞いている人は業界の解像度が高いので、社内での異動が実際に起きています。ただし自動的に移れるわけではありません。入る前に「投資側に移る可能性があるか」を確認しておいたほうがよいでしょう。「そういう例はない」と言われるファンドもあります。
Q6. VCのHR・タレントポジションはどうやって探せばいいですか
公開求人には出にくい職種です。VCのコーポレートサイトの採用ページを直接見るか、パートナーやキャピタリストに直接コンタクトするのが早いです。新設ポジションなので、「こういう機能を作りませんか」という提案から始まることもあります。私のところにご相談いただければ、ファンド側の状況をお伝えできる場合もあります。
Q7. VCの面接で必ず聞かれることは何ですか
ほぼ確実に聞かれるのは「なぜVCなのか」「最近面白いと思ったスタートアップは」「その会社にいくらのバリュエーションで投資するか」の3つです。3つめは答えの正解を見ているのではなく、判断のプロセスを言語化できるかを見ています。数字の根拠を自分の言葉で説明できるように準備してください。
Q8. 海外VC(a16z、Sequoia等)への転職は可能ですか
日本から直接入るのは極めて難しいのが実情です。現実的なのは、海外VCの日本拠点、またはグローバル投資を行う国内VCを経由するルートです。いずれにせよビジネスレベルを超える英語力と、海外の投資家に説明できる実績が前提になります。
まとめ|入口を4つで考えてください
この記事でお伝えしたかったことは、ひとつです。VC転職の入口はアソシエイトだけではありません。投資職のジュニア、投資職のシニア、管理部門、HR・プラットフォームの4つがあり、求人の出やすさも求められる経験もまったく違います。
そして年収を考えるときは、ベースとキャリーを分けて、ベースだけで生活が成立する条件になっているかを先に確かめてください。ここを曖昧にしたまま入ると、数年後に苦しくなります。
日本には415社の投資家団体があり、ファンドの組成も続いています。入口を4つで考えれば、選択肢は思っているよりずっと広いです。
キープレイヤーズでは、21年にわたりベンチャー・スタートアップの転職支援と採用支援を行ってきました。私自身がエンジェル投資家として80社以上に投資し、VCのパートナーの方々と日常的に情報交換をしているため、公開されていないポジションの状況や、ファンドごとの報酬設計の実態についてもお話しできることがあります。「自分の経歴でVCに行けるのか」「どのファンドを狙うべきか」という段階のご相談も歓迎です。VCへの転職をお考えの方、またVC側で採用にお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
すぐに転職をお考えでない方には、オンラインサロンもご用意しています。スタートアップの資金調達動向や、投資家・経営者の生の情報を継続的にお届けしていますので、情報収集の場としてご活用ください。
出典
- 一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会「JVCAの活動について」(金融庁 ベンチャーキャピタルに関する検討会 2026年6月18日提出資料)— 会員数415社の内訳
- INITIAL「総額増の裏で深まる選別――2026年上半期スタートアップ資金調達」— 調達額3,779億円、新設ファンド79本、M&A141件
- Coral Capital「ファンドの屋台骨 VCの『オペレーション』ってどんな仕事?」(2023年9月)— オペレーション3名体制・約350億円・100社以上
- FastGrow「VCが『HR』と『コミュニティ』に注力する理由」(インキュベイトファンド)— IF Talent Network 270名以上、リファラル82.7%
- JAC Recruitment「ベンチャーキャピタルの年収ガイド」— 業界平均911.1万円、日系850.8万円/外資系1,410.0万円
- コトラ「VC・CVCへの転職情報まとめ」— 役職別年収レンジ、CVCと独立系の報酬設計の違い

