U-NEXT社長 堤天心さんの語る動画配信市場の日本代表として世界に挑む経営論

インタビュー          
       
       
     

代表取締役社長 堤 天心 さんの経歴

東京大学工学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。約4年に渡りセールス分野及び経営企画室にて実績を上げた後、2006年に株式会社USENへ転じ、SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オンデマンド)サービスの立ち上げを担った。USENより分離独立した2010年以降は一貫してU-NEXTを事業本部長として率い、2017年に株式会社U-NEXTの代表取締役社長に就任。

株式会社U-NEXT

株式会社U-NEXTは、最高クラスのエンターテイメント環境をインターネットを通じて提供しています。現在は5つの事業を展開。(1)日本最大級の動画配信サービス「U-NEXT」の企画開発、運用、 マーケティング。(2)他の動画配信サービスの作品調達・編成から、 アプリ開発・配信インフラまで一貫して提供するコンテンツプラットフォーム事業。(3)マルチMVNOの格安SIM、格安スマホサービスのモバイル通信事業。(4)集合住宅向け固定通信事業。

 

新卒でリクルート、経営企画室で見た経営のジレンマ

 

高野:堤さんにお話をお伺いすることを非常に楽しみにしておりました。まずはご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

堤:2002年に新卒でリクルートに入社しました。最初の1年はHRの営業をしていました。

 

高野:なぜ新卒でリクルートを選ばれたのですか?

 

堤:最終的にはメディアエンターテイメント、特にメディア系のビジネスをやりたいと考えていました。その中で、新卒では可能性が無限にありそうなリクルートを選びました。

営業を経験した後、リクルートの経営企画へ異動となり、当時のリクルートの成長戦略を描くことになりました。今のリクルートの勢いからすると想像しにくいかもしれませんが、当時は、長年背負っていた借金の返済が終わって今後どう投資していくのか、というのが成長戦略のアジェンダでした。1000億の使い道を考えるテーマは2年目にしては楽しそうだなと思っていました。

 

高野:新卒2年目で1000億円の使い道を考えていたのですか(笑)。

 

堤:確かに今思えば、新卒2年目でかなり貴重な仕事をさせて頂きました。個人的には、メディア事業をやりたいという強い想いがあり、代理店事業やメディアを買収することができたらいいなと考えていました。

しかし、当時のリクルートの状況としては、この領域には近づかないという雰囲気があったのです。

リクルートが得意とするHR領域においてスケールし拡大するため、情報誌の領域で市場を取り、ネット化することに集中しているフェーズでした。これ以外の領域は行けたらいいねというWantレベルで、近づきにくいのだと感じました。

 

高野:最終的にはメディアエンターテイメント、特にメディア系のビジネスをやりたいと考えていた堤さんには何かもどかしさがあったのですね。

 

1本の電話から生まれた、USENとの出会い

 

堤:リクルートでは社内のキーパーソン、社外の優秀な戦略コンサルタントと一緒にプロジェクトに参画させてもらいました。とあるプロジェクトでリサーチ対象として名前があがった企業名の中に、USENの名前があったのです。これが、私がUSENを知ったきっかけです。

(編集注:2010年12月に株式会社USENから分離独立して設立されたのが株式会社U-NEXT、という経緯があります。)

 

高野:最初の接点はそんなキッカケだったのですね!

 

堤:当時のUSENは映画配給事業を展開するギャガを買収していて、IR上、日本初のメディアコングロマリットを目指すのだとPRし、「GyaO!」を立ち上げようとしていました。コンテンツの配給から流通まで成し遂げようとしていたのです。

そんな折、私のデスクで電話が鳴りました。スカウティング会社から「会社の近くにいるのでお茶しませんか?」と、連絡を頂戴しました。いわゆるヘッドハンティングです。そして、「USENの宇野さんとお会いしませんか?」とお話を頂戴したのです。

何だ何だ、リサーチ対象企業の社長に直接お話を聞く機会を得られるのかと思い、「お会いできるなら是非、お会いしてみたいです。」となりました。その後、宇野さんをはじめ役員の方と会食も設定して頂きました。

 

高野:その時点では全く転職のご意向はなかったですね?

 

堤:はい。過去にリクルートを辞めようかなと考えたことはありました。しかし、そのタイミングで経営企画へ異動となり、エキサイティングな仕事に携わることができていました。また、仕掛中の仕事を投げ出すわけにはいかなかったのです。

 

高野:圧倒的当事者意識ですね!

 

堤:経営企画の業務ではコンサルタントと一緒にひたすらPowerPoint・Excelワークをしていました。コンサルタントはこんな感じで仕事をするのかと気づきも多く、仕事は非常に楽しかったです。コンサルタントに必須な本も複数冊読み、フレームワークや座組などを基礎から学ぶことができました。

しかし、半年くらい経つとコンサルタントの方が次にどんな仕事をするのか、仕事のフローが読めてくるんです。資料の展開とかも次はこうですねって読めてくるんですよ。そういった状況もあり、1年くらいで飽きてきました。また、リクルート全体を見渡したとき、自分が決裁権を持つには最低10年はかかると痛感しました。

 

高野:堤さんはスピードを求めるのですね。

 

堤:ここで改めて、自分のやりたいことはメディア系のビジネスであると再確認できましたし、自分で意思決定できる環境を求めていたこともあり、USENに転職する決断をしました。結局、転職はヘッドハンターからの電話の約1年後でした。

 

高野:当時のUSENは堤さんの目にはどう映っていましたか?

 

堤:転職当時はメディアコングロマリットに挑戦していること、メディア領域に事業を立ち上げていることが魅力的でした。

 

 

 

U-NEXT立ち上げの軌跡と成長スキーム

 

高野:USENに転職されてからはどんな業務を担当されたのですか?

 

堤:2006年7月にUSENに転職してから、USENの中で「GyaO!」に半年関与し、その後、U-NEXTの前身となる「GyaO NEXT」をゼロから立ち上げました。「GyaO NEXT」は有料動画配信サービスです。「GyaO NEXT」のビジネスモデルは、広告モデルに比べると営業的なレバーを効かせやすい月額のサブスクリプションモデル、SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オンデマンド)です。

 

高野:ちなみに宇野さんはどのように堤さんの仕事を見ていたのですか?

 

堤:宇野は細かいことは気にしない、おおらかな人でした。組織のルールに対する考え方や投資判断も柔軟性に富んでいて、仕事がスムーズでした(笑)。良くも悪くも私はUSENの中で、外から来た明らかに変わった人だと思われていたでしょうね。

 

高野:リクルートからUSENにジョインされどんな気づきがありましたか?

 

堤:当時のUSENは、事業投資に対する意思決定がとにかく早くて驚きました。この楽しさはリクルートとは少し違っていたかもしれません。いい意味で新鮮でした。カオス感がありどうなるかもわからないところもありましたが、面白いと思いました。

 

高野:カオス感を楽しんでしまうのが堤さんですね。

 

堤:最終的にUSENは様々な事業を整理することになったのですが、色々切り離して残っていたのが「GyaO NEXT」です。これに投資するか、どこかに売却するかと悩んだ時、当時の宇野が残す、投資すると判断し、株式会社USENからスピンオフして生まれたのが株式会社U-NEXTです。

 

高野:その状況からどのようにして、U-NEXTを軌道に載せたのでしょうか?

 

堤:2つのポイントがあったと思います。1つ目はマーケティングのスキームです。当社内で「アライアンス」といった言葉を使っているやり方があります。アライアンスは、すでに多数のお客様を抱えている流通事業者様と一緒に顧客開拓をして、互いに売上を立てるという手法です。

自社のみで実現する場合に比べて利益は劣るかもしれませんが、流通事業者様は初期投資なしに映像サービスを展開でき、当社はマーケティングコストを抑えることができます。

これは、流通事業者様も私たちもリスクを抑えて顧客を獲得する施策として、成功事例を打ち立てることができました。時間もコストも圧倒的に削減することができましたね。

 

高野:堤さんのビジネスのセンスはすごいですね。

 

堤:複数の利害関係者が関与して各々に得たいものや避けたいものがある時、その力学を読み解いて参画者全員が満足できるようなスキーム作ることは、好きだし得意な領域かもしれません。

このアライアンスが軌道に乗り、業界からU-NXETなら様々な視点から仕事をしてくれると思っていただき、横展開していくことができました。

 

高野:全て堤さんの経営戦略通り動いていったのですね!

 

堤:もちろん結果的に上手くいったという面もあります。全て最初から戦略として描いていたと言うと嘘になりますね。

そして2つ目に、今では当たり前のことですが、マルチデバイス化にうまく対応できたのもポイントだと考えています。ネットで動画を見ることが当たり前になったのも、セットトップボックスやPCだけではなく、スマホやタブレットで再生できるようになったことが大きいです。

詳細は省きますが、マルチデバイスへの対応は権利処理から技術的課題解決、配信コスト増大への対応まで一筋縄ではいきませんでした。当時あのタイミングで有料動画配信サービスとしてこの流れにしっかりと追随できたのは大きかったです。特にスマホ経由でU-NEXTをご利用いただくユーザーは日増しに増えていますから、成長に大きく寄与したと言って良いでしょう。

 

高野:今後のさらなる成長に期待です!

 

 

いかにしてAmazon、Netfilxと戦うのか?U-NEXTの成長戦略

 

高野:有料動画配信の市場は日本でも過去3〜4年で急激に拡大し、2017年時点で1700億円規模まで成長していますね。今注目の市場です。2〜3年後には現在2000億円台規模である映画興行市場を抜き去るかも知れません。

今後、U-NEXTさんが戦うのはAmazonやNetflixになっていくと思います。グローバルで実績を築いてきた競合にどうやって勝っていくのでしょうか?

 

堤:まず、前提として「テクノロジーに対する理解と投資」が必須だと考えています。AmazonやNetfilxはアメリカの西海岸でもルールーメーカーとして君臨している企業です。彼らはテクノロジーを何より重要視しており、インターネットという新たな力を使って既存の流通網を根本から置き換えてしまいました。企業力の源泉と言っても良いです。先駆者にして、今なお最先端にいる彼らと私たちが競っていくためには、「テクノロジーに対する理解と投資」なくしては話にならないでしょう。

 

高野:「テクノロジーに対する理解と投資」に常に着眼されているのですね。その上でどう戦うのでしょうか。

 

堤:AmazonやNetflixと正面からぶつかり頑張って競争する領域・ある種リトリートする領域・そして確実に勝ち取りに行く領域、それぞれをシンプルに明確にし、ブレずにやり続けるとことが大切だと考えています。

 

高野:戦える領域が堤さんには見えているのですね。

 

堤:わかりやすい例でお話すると、U-NEXTがアメリカのコンテンツで競って勝つというのは現実味が薄いでしょう。ハリウッドで作られる映画や海外ドラマを扱うには、当然アメリカの会社に利があります。アメリカの文化とビジネスを熟知しているからできることです。

しかし、これは言い方をかえると、日本やアジア、北米以外のコンテンツは彼らにとってはアウェイであり、同じ土俵に立てることも意味します。

 

高野:メイドインジャパンの強みですね。

 

堤:また、エンターテイメントビジネスはホームエンターテイメントだけではなく、劇場・ライブ・イベント興行やマーチャンダイズなど複合的なビジネス領域があり、動画配信を軸にそれらの領域を取り込める可能性は高いと思っています。すでに実績を作れており、拡大を目指したいところです。

加えて、もう1つのエンターテイメントビジネスの特徴は、商品であるコンテンツそれぞれが常に新商品であり、顧客にとって唯一無二なもので、代替商品が存在しないということです。ゆえに、後発でもオリジナルコンテンツが競争力の源泉になりえますし、今後、U-NEXTならではのオリジナルコンテンツの強化が競争戦略の主軸の一つになるでしょう。

あとは、資本とやり方と人の差です。日本市場に関しては、やり方では負けないですし、人材レベルでも十分勝負ができる手応えを感じています。いい人材を集めて、いいチームを作る、勝てるチームを作ること、結論、採用が大切になります。

 

高野:U-NEXTさんは社長の堤さんご自身も採用に前のめりであるからそ、素敵な方が集まっていますよね。

 

堤:最終的には人が全てです。人への投資を怠ることなく、世界レベルで見ても優秀な人が活躍できる環境を用意するのが私の役割です。

 

高野:映像コンテンツ以外の領域で勝とうとしている部分はありますか。

 

堤:AmazonやNetflixが構造的に重視していないBtoB、BtoBtoCの領域でマネタイズしBtoCへ活かすという戦略はこれからも強化していくつもりです。アライアンスはひとつの形ですが、他にもいくつかネタがあります。いずれ公表できる機会がやってくると思います。

 

高野:挑戦の幅は広そうですね。

 

 

会社のカルチャー、人は千差万別

 

高野:堤さんは開成高校を経て東京大学工学部卒業というご経歴でありながら、ベンチャー企業の経営をされています。これはめずらしいことですよね。

 

堤:そう思います。私の同級生には医者が一番多いイメージですね。あとは、開成金融会というOB会もあるほど、政府系・民間問わず金融関連へ進む人が多いです。アカデミックな領域やコンサル・メーカー・弁護士になった人もいます。

今、改めて同級生の経歴を思い出してみましたが、知る限り同級生にベンチャー系やメディアエンターテイメント系のビジネスに関与している人は多くありませんね。

 

高野:これは近年の良い傾向だと思うのですが、最近、開成高校出身の方がベンチャー界隈に増えましたね。勝手にベンチャー業界が盛り上がってきている証拠だと解釈しています!

 

堤:それは嬉しいですね。

 

高野:マネックス証券株式会社 代表取締役の松本大さんが開成高校出身で知られていますが、最近ですと、メドレーの代表取締役社長 瀧口 浩平さんや取締役医師 豊田 剛一郎さん、freeeの代表取締役CEO 佐々木 大輔さんやマネーフォワードのCFOの金坂 直哉さんも開成高校出身ですね。

引き続き日本のトップをいく皆様にベンチャー業界を盛り上げて頂きたいです。

また、リクルート出身の方は、転職され経営者になったり、起業して成功されたり本当に優秀な方が多いですよね。

 

堤:リクルートの出身の方が優秀というよりは、元々、起業家的な気質がある人を採用しているのだと私は認識しています。

 

高野:U-NEXTはいかがですか。

 

堤:U-NEXTは国際色豊かなメンバーで多様な価値観にあふれています。日本的真摯さ・職人気質とアジア的野心・上昇志向と北米的ビジネスセンス・合理性、欧州的クリエイティブセンスがほどよく入り混じっています。

様々な強みやバックグラウンドを持つ人々が、自律的に協調しながら挑戦を楽しんでいるカルチャーです。

 

 

U-NEXTはこんな方を求めています

 

高野:最後にU-NEXTさんの求める人材を教えてください。

 

堤:先ほどお話させて頂いた通り、企業の成長のドライバーは人です。競争環境で勝ち抜くことをいい意味でフラットに受け止め、健全なプライドと自信を持った方と一緒に働きたいですね。

新しいことやまだ世の中にないことを打ち出したい感覚を持っている方には、最高の環境を提供できると思います。国籍もポジションも問いません。

 

高野:ポジションを問わずチャンスは無限大ですね!

 

堤:加えて人としての成熟度を大切にしています。手段にこだわりすぎるのではなく、結果のために純粋に考え行動できる人がいいですね。課題に向き合い、人と違う発想を恐れない勇気を持つ、そんな気概がある皆さんと一緒に挑戦をしていきたいです。

 

キープレイヤーズ高野のコメント

 

U-NEXTさんが設立からかなり早期で上場をされた時に、ベンチャー界隈の多くの方があっと驚いたと思います。大黒柱の堤さんはソーシャルメディア等では発信をされていないため、関係者の方以外はあまり詳細をご存知ない方が多いのではないでしょうか。

そもそも私は、隠れた優良企業さんやあまり発信をされていない優れた経営者の方を取材し、より多くの方に知っていただきたいということでメディアをやっております。そのような意味でも今回はとても有意義でした。エンターテイメントビジネスに興味がある。通信や動画に興味がある方は沢山いるかと思います。

また、今できたばかりのスタートアップではなく、一定の土台がある中で、さらにサービスや会社の発展に寄与したいという方も多いかと思います。

まさにU-NEXTさんは第二の創業的な位置付けの会社でもあり、伸びしろの大きな事業領域で世界のグローバル企業と戦っている会社さんです。やり甲斐はかなりあると思います。上場前よりお付き合いさせていただいておりますが、着実に前進、成長をされており、益々飛躍される企業だと確信している次第です。

本当に素晴らしいプロダクトですので、皆さんも是非、U-NEXTのサービスに触れてみてください!私も会員です(笑)31日間は無料で見放題とのことでございます!

 

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U-NEXTでのお仕事に興味がある方は、是非、ユーザー体験をしてみてください。また、動画配信市場の日本代表として世界に挑むU-NEXTのサービスを使い、みんなで日本代表を応援しましょう。

 

<取材・執筆・撮影>高野秀敏・田崎莉奈

執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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