代表取締役 山崎令二郎
高校卒業後、ニュージーランドに留学。ラグビー選手としてU21のクラブチームに2年間所属し日本に帰国。その後、アルバイトをしながらお金を貯め、2006年アールキューブ創業、2011年に業界初の「会費婚」サービスを立ち上げウェディング業界に革新を起こす。
株式会社アールキューブ
前年比170%で成長を続けるウェディングベンチャー企業アールキューブは「こころがつながる社会をつくる」をミッションに掲げ、会費制の結婚式に特化した「会費婚」事業、結婚式の実例を集めたメディア事業「ハナコレ」の運営をしています。2006年にアーティストの派遣事業で創業をし、2011年にウェディング業界初となる「会費婚」サービスを立ち上げました。現在、延べ2,300組以上の婚礼をプロデュースしています。2016年には、結婚式の自由化を目指し、8,000件以上の結婚式の実例が集まる結婚式メディア「ハナコレ」をリリースし、多くの新郎新婦の結婚式準備のサポートを行っています。
目次
本場ニュージーランドにラグビー留学。そこで見た世界トッププレイヤーの姿
高野:今回はアールキューブの代表取締役 山崎令二郎さんにお話をお伺いします。山崎さんはずっとラグビー選手だったのですよね?かっこいいです!
山崎:少年時代からラグビーに取り組んでいました。兄がバークレーに留学し、英語を学んでいた姿に憧れ大学には進学せずニュージーランドに留学しています。
高野:学生時代からグローバルな視座をお持ちだったのですね。なぜニュージーランドへ?
山崎:せっかく留学をするなら英語を学ぶだけでなく、世界で一番ラグビーの強い国を選びました。それが、ニュージーランドだったのです。
ニュージーランドに渡ってからは、U21のクラブチームに2年間所属しました。チームメートには身長2m超えの選手がいたり、上位のチームには、「オールブラックス」の愛称で呼ばれるニュージーランド代表がいたりとレベルが高く圧倒されました。
高野:世界トップクラスの環境でご活躍されたことは本当に貴重なご経験ですね。
山崎:ニュージランドには2年間滞在したのですが、生活は楽しく、ラグビーのレベルも高く最高でした。しかし、そろそろ帰らないと社会復帰できないと思い帰国を決意しました(笑)。帰国後は、大学に進学するか、就職するかの選択肢がありましたが、起業をすることに決めました。
高野:起業しようと思われたきかっけは?
山崎:ニュージランドから帰国するタイミングに、アスリート向けにスポーツ用品を売っている現地企業の社長に出会いました。
当時その会社は日本での取引先を持っていなかったので、私が日本の取引先を開拓することになりました。海外にある工場とのやり取りや在庫管理、販促物の翻訳から、企業のホームページ作成までをこなしながらスポーツ用品を売り歩く手伝いをすることになりました。何かと大変なこともありましたが私にとっては楽しい日々でした。その経験から、漠然と商売やビジネスは面白いな思いましたね。
高野:素晴らしいご経験です!
山崎:どこかの企業に就職し組織の中に入って仕事をする気がなかった私がイメージできる将来像は、自分のしたいことを自分で手掛けて実現していく姿でした。スポーツ用品店の日本との取引が軌道に乗り始める頃合いをみて、私は会社を離れ、程無くして自ら事業を起こすことにしました。
アールキューブの事業はアーティストの派遣事業からスタートした
山崎:スポーツ用品販売の経験を機にビジネスの世界に興味を持ち、お金と知識をため、日本の友人が社会人として働き始める23歳の年の2006年にアールキューブを創業しました。ちょうどこの頃、会社法が代わり会社設立に必要な資本金が1000万円から1円でも可能になったことも起業の追い風となりました。
高野:会社法の変化は、若手起業家には追い風となったのですね!
山崎:現在はウェディングがメインの事業ですが、創業時は音楽家をはじめとするアーティストの派遣事業を行っていました。私は幼少期からバイオリンを習っていましたし、弟は音楽大学に進んでたりと、音楽の世界は自分にとって身近な存在でした。
高野:バイオリンも習われていたのですね!アーティストの派遣事業をスタートした理由は?
山崎:日本の音楽大学に通う学生は英才教育を受け、音楽家の道を目指しますが、本当に音楽家になれる人は一握りに過ぎません。結果、卒業後は地元に帰り、学校の先生や音楽教室の先生として働く選択肢しかないのです。
しかし、音楽家たちの活躍の場は考えられている以上に大きな割合を占めていることを知っていましたし、結婚式や各種イベントで生演奏等をするニーズがあったりと実は活躍できる場はたくさんあります。その様な場へ彼らの代わりに営業する会社が必要だろうという発想からこのアーティストの派遣事業を始めました。
高野:素敵なお考えから生まれたビジネスですね。
山崎:当時は、自分ひとりで音楽大学の前などに立ち、チラシを配るところからのスタートでしたが、徐々に協力してくださる音楽家たちが集まってきました。
その頃ウェディング業界とは、結婚披露宴にジャズミュージシャンやゴスペルの聖歌隊を派遣する単なる営業先の1つでした。ウェディングの現場に出入りするなかで、ウェディング業界の裏側を知るようになり、結婚式を取り巻く状況に疑問を感じはじめ、自分が解決していきたい課題であると確信しました。
高野:事業を推進させていく中で、ビジネスを通して解決したい社会の課題がクリアになったのですね。
ウェディング業界の常識を変えるために生まれたビジネスモデル
山崎:結婚式の価格に着眼されたことはあるでしょうか?
高野:みなさん結婚式は高い!とよくお話されてますよね。
山崎:日本では、結婚式を挙げるのに約350万円かかると言われています。また、少子化に伴い婚姻組数が減ってきているため、式場側はさらに単価をあげようとしています。そのため価格は年々、上昇傾向にあり、日本では毎年10万組のカップルが挙式を諦めているのです。
この高額のカラクリを因数分解してみると、業界の負が見えてきます。結婚式は、一生に一度のイベントであることをいいことに料金設定が不透明な部分があり、それがそのまま放置されているのが現状なのです。
この高価格には、結婚式ならではのビジネスモデルがあります。例えば、ミュージシャンのギャラが2万円なのに対し、お客さんは15万円支払う必要があるのです。一見、結婚式場の利益率が高く見えますが、この利益分は販管費と広告費に当たるため、実は誰も得していません。
高野:そんな業界構造があったのですね。
山崎:そんな仕組みに疑問を感じ、業界平均価格の約半分の175万円で結婚式を提供する「会費婚」を事業を立ち上げようと考えました。しかし、私たちが行っていたアーティストの派遣事業はウェディング業界からお仕事をもらっていることも多く、一気にアクセルを踏むことは難しかったのです。
高野:そうだったのですね。
山崎:そんな中、2011年3月に東日本大震災が発生し、震災と同時に結婚式の自粛モードが高まりました。結婚式の内容や演出も控えめになり、ミュージシャンの生演奏もCDなどで代替することも多くなり、アーティスト派遣事業の仕事も9割減少し、会社の売上も半年ほど出ない状況になってしまいました。
それならば、ずっと構想していた「会費婚」をやろうと決めたのです。
会費婚は、御祝儀制ではなく会費制パーティーにすることにより、出席者にも負担を少なく、かつ確実性を持って費用を募り、新郎新婦の負担がほぼゼロで挙式・披露パーティーを実現させられるサービスです。
高野:どんなカラクリがあるのでしょうか?
山崎:ポイントは「持たざる経営」です。会費婚のビジネスモデルは、シェアリングとマッチングです。弊社は結婚式場もなければ、ホテルも持っていません。結婚式場の空いているバンケットや仏滅などの埋まりにくいお日柄などの「空き枠」を安く仕入れ、利用しています。
また、ウェディングプランナーはあえて雇用していません。弊社がお世話になっているウェディングプランナーさんは、過去に大手結婚式場のウェディングプランナーとしてご活躍されていた方が多いです。ご経験豊富で能力が高いにも関わらずご家庭や転勤、子育ての関係でスポットしか働けない方等にご活躍頂いています。
高野:非常に今の世の中にあっているビジネスですね。
山崎:まとめると、シェアリングとして空き時間と空きスペース、マッチングとして働きたいけどフルタイムで働けない方々、そして結婚式を低価格で賢く挙げたいお客様をマッチングしているのが会費婚です。これが、業界価格の半分で結婚式を提供できるカラクリです。
そして「結婚するお二人にとって本当に必要なもの」だけを提案し、不必要な部分の費用をできるだけカットしています。単価が安くなるため粗利は少なくなりますが、販管費が少ないので営業利益率が高い構造になります。
今の時代にフィットした結婚式を提供する
高野:実際にウェディング事業、会費婚を展開し、手応えはありましたか?
山崎:事業を進めるにあたり、想像もつかない様々な事情で結婚式を諦めざるを得なかった方々がこれほどまでに多くいることに気付かされました。その様な方々に対して、自分たちがより良いサービスをお届けできるということは本当にやりがいのある良い仕事だと感じます。
高野:事業成長のポイントはどこにあるのでしょうか?
山崎:ポイントは「お客様の紹介」であると思います。
そもそも、挙式を初めから諦めている人は結婚式場を探してすらいなかったのです。会費婚では、ご家族やご友人からの紹介で弊社まで足を運んでくれる方が多いです。親子3代で挙式されることもありました。
高野:結婚式の業界にもリファラルがあるのですね!
山崎:「より良いサービス」であることを守るために、私はお客様の満足度の基準を「お客様の紹介」に設定しています。自身に置き換えてみても、一生に一度の大切なイベントである結婚式を紹介するということは、とても勇気が要ることです。本当に満足して喜んでいただけなければ、他のお客様に紹介の輪が広がるということはないと思うのです。
少なくともこの業種では、数字での成果主義よりも、この「お客様の紹介」があることこそが、お客様に本当の意味でご満足いただけた証となると思っています。
高野:素晴らしいです!
山崎:そして会費婚事業の他に、メディア事業「ハナコレ」をスタートしています。ハナコレは実際の卒花嫁(結婚式を終えた花嫁さんのこと)さんたちの結婚式後の実例記事や商品写真などを掲載し、様々な結婚式のアイデアや理想の結婚式を見つけ出し、オリジナルの結婚式を作れるサービスです。
これまでは、ゼクシィを見る→広告順に判断する→見学に行く→プランナーがオススメするプランを良しとする→挙式するなど、新郎新婦の行動パターンは定型化されてしまっていました。
本来ならば、自分が着たいドレス、飾りたいお花、やりたい演出など幅広い選択肢の中から自由に決められて、それを結婚式に持ち込めるのが理想であると思っています。現在、結婚式場は持ち込み料を発生させることで自分たちの取引があるドレス・お花屋さん・音楽家を守っています。これは、業界構造的に仕方がないことでした。
しかし、これでは月に1着しかドレスを作ってない個人事業主の方や、素晴らしい音楽家などの新規参入を妨げていることになります。だからこそ、素晴らしい仕事をしてウェディング業界に関与する個々人の方にもハナコレの事業を通して、平等に仕事の機会を作れたらと思っています。
高野:アールキューブさんのお仕事を通して、ウェディング業界全体が素敵なあるべき姿になって行くのですね。
山崎:ウェディング業界のマーケットは1.4兆円です。まだまだ、できることはありますね。結婚式に対する飽き感や面倒くささも重なり、大手のホテルさんや式場ですら集客に苦戦していると聞いています。
SNSやWeb上に情報が増え、新郎新婦さんも賢くなってきています。今こそ、ウェディング業界はこれまでの固定概念を破り、時代にフィットした業界になるべき時であると思います。その先陣を切りたいです。
そして、既存産業の課題解決や世の中をより良くしていくことは、企業としての使命であり、ベンチャー企業の役目だとも思っていますし、日本のウェディング業界全体の底上げになるとも思っています。
ウェディング業界をアップデートする
高野:ここからは今後の事業戦略について教えてください!
山崎:私たちは2006年の創業以来、「こころがつながる社会をつくる」というミッションを追求し、事業を展開してまいりました。
アールキューブの大きな目標は、「会社の利益だけでなく社会全体の利益になること」です。日本のブライダル事業の固定概念を誰もが幸せな形で追求していきます。
だからこそ、このサービスを世の中に広げていくことで、まず日本で既成の結婚式のあり方、価値観を変えることが必要なのです。会社として世の中に良き影響を何か一つでも残せなければ、仕事をする意味もない、という心構えでいますので、5年スパンで大きな目標に近づいていきたいです。
高野:最近は順調にエリア展開もされていますよね?
山崎:「会費婚」では、既にこの1年間で名古屋・大阪・福岡に展開しています。どこの地域にも結婚式を諦めている人はいます。実は、平均所得は東京の方が高いのにも関わらず、結婚式にかかる費用に大きな差はなく、地方の方が結婚式を諦めている人が多いのです。
「ハナコレ」では今後、新郎新婦と事業者とを直接マッチングすることで、さらにウェディング業界の自由化をはかっていきたいです。
高野:ウェディング業界のさらなる活性化をお願い致します!
山崎:結婚式は新しい家族の初めての大きなお買い物です。ビジネスでは、結婚式をフックに、不動産やお子さん、自宅の購入などライフプランのデータを集めてさらに社会全体の利益になる事業として拡大させていきたいです。
アールキューブさんはこんな方を求めています
高野:ここからは採用に関してお聞きます。どんな方と一緒に働きたいですか?
山崎:人物面を一番重視していて、カルチャーフィットと、事業や働き方に対する共感を大切にしています。履歴書や職務経歴書に書いてあるスキルはあまり見ていませんね。
カルチャーとして特に大切にしているのは、礼儀作法や身だしなみなどの基本的なことを大切にできるかです。クリエイターやエンジニアであっても挨拶をすることは必要だと思いますし、社内全ての部署がコミュニケーションをしっかりととれる組織づくりを意識しています。
またお客様に対しては、営業 対 顧客としての関係ではなく、「人対人」として人間味のある信頼関係を築けるコミュニケーションづくりを大切にしています。
高野:かっこいいです!
山崎:実際に私自身もブライダルは全くの未経験で現場に立っていました。色々とご迷惑をおかけすることもありましたが、その時は、お客様自身も協力してくださったおかげで素敵な結婚式を実現することができました。例え不都合なことがあったとしても、人と人との信頼関係があれば、共にいいものを作ることができます。好きな人とご飯を食べていたら何でも美味しいと感じることと同じですね。
仕事の内容は多岐に渡りますが、この話に共感してくれる人に入ってもらいたいです。
高野:具体的にはどんな方が多いですか?
山崎:出身大学や職歴、能力は様々です。現在、正社員の約40名中、ウェディング業界出身者は4人しかいません。バックグラウンドは不動産や人材系・IT・広告代理店・航空業界など様々です。
現在は新卒採用も積極的で新卒の割合は3割になりました。ウェディング業界で働きたいというよりは、ベンチャースピリッツを持った事業への共感度が高い優秀な方が集まってくれました。
高野:ウェディングの現場はご経験があるプロの方がさらに磨き続け、ベンチャーマインドを持つ優秀な新卒・中途方がアールキューブさんの成長をさらに加速させて行くのですね!
山崎:この事業にたどり着くまでに色々な厳しい時期を通り抜けてきました。これからも社会はどんどん変わっていくでしょう。会社を存続させていかなければいけない時、一番頼りになるのは、特定の能力を持っている人ではありません。ハートの部分で通底している人です。
これから会社を大きくしていくなかで、気持ちを通じ合わせて走れる人であれば私たちと共に成長していけるはずですし、そんな環境は用意できています。
キープレイヤーズ高野のコメント
ウェディング業界といえばかなり歴史のある業界で、社歴の長い会社も多いかと思います。そんな中で時代のニーズにあった会費婚を生み出したアールキューブさんのオリジナリティは素晴らしいと感じます。
また、組織の作り方もクラウド的にうまくやっていると感じます。時代として今は全員が正社員というやり方では、組織が作れない時代です。そんな中効率的な組織運営が行われていると感じます。リアルだけではなく、ハナコレのようなメディアも行っており、自社でのマーケティング力も強化されています。
昨今ベンチャー業界といえば、ネット企業などの空中戦の会社が多いわけですが、リアル事業できちんと伸ばしてるアールキューブさん。ネット企業が簡単に真似してこない領域を着実に抑えており、時代のニーズにもフィットしていると感じます。社員の方のマインドも高く、礼儀も正しい方ばかりです。ますます今後期待できるベンチャー企業です!
ちなみに以前にメタップスの取締役副社長の山崎祐一郎さんにご紹介いただいました。なんと弟さんということで!感謝申し上げます!
<取材・執筆・撮影>高野秀敏・田崎莉奈