こんにちは、キープレイヤーズの高野秀敏です。約25年、7,500名以上のベンチャー・スタートアップ転職を支援してきました。近年、私のところに増えている相談のひとつが「医師(医師免許を持つ方)のキャリアの多様化」です。臨床医として病院で働き続ける道はもちろん王道ですが、産業医、製薬会社のメディカルドクター、そしてヘルスケアスタートアップの創業・経営——医師免許を活かせるフィールドは、この10年で大きく広がりました。
厚生労働省の統計によれば、日本の医師数は2024年時点で約34.8万人と過去最多。毎年の医師国家試験でも、第119回(2025年)は9,486人、第120回(2026年)は9,139人が合格しています。医師が増える一方で、働き方改革・地域偏在・医療システムの持続可能性といった課題も山積しており、「臨床の外側から医療を良くしたい」と考える医師が確実に増えています。
本記事では、臨床医のキャリアから、産業医・企業内医師・ヘルスケアスタートアップ経営まで、医師のリアルなキャリアパスと年収、そして納得のいく選択をするための考え方を、率直にお伝えします。
【この記事でわかること・要点まとめ】
- 医師のキャリアは「臨床(勤務医・開業医)/臨床外/経営・起業」で捉える
- 勤務医・開業医の年収相場【2024年最新データ】
- 産業医・製薬メディカルドクターなど臨床外の選択肢と年収
- 医師がヘルスケアスタートアップを経営・起業するというキャリア
- 臨床を離れるのが向いている人・向いていない人
- 臨床外・企業へキャリアチェンジする6ステップと失敗パターン
- 年代別(20代・30代・40代・50代)の医師キャリア戦略
- 事例:脳神経外科医からヘルスケア経営に転じた豊田剛一郎さん(メドレー)
- よくある質問(臨床に戻れる?年収は下がる?未経験の産業医でも大丈夫?)
医師のキャリアは「3つの軸」で捉える
まず全体像です。私は医師のキャリアを次の3つの軸で説明しています。かつては「臨床一本」が当然でしたが、2026年現在、臨床外や経営・起業を選ぶ医師が着実に増えています。
| キャリア軸 | 主なフィールド | 年収の目安 | 働き方の特徴 |
|---|---|---|---|
| ①臨床(勤務医) | 病院・診療所 | 1,200〜1,500万円 | 当直・オンコールあり。専門性を深める |
| ①臨床(開業医) | 自身のクリニック | 2,000〜2,600万円超 | 経営リスクを負う。地域医療を担う |
| ②臨床外 | 産業医・製薬MD・行政・保険 | 800〜1,400万円 | 当直が少なくQOL重視。予防・判断が中心 |
| ③経営・起業 | ヘルスケアスタートアップ等 | 役員報酬+SO(変動大) | 事業で医療課題を解決。裁量とリスク大 |
医師免許は極めて強力な資格ですが、「どのフィールドで活かすか」で年収も働き方も大きく変わります。専門資格を持つ方のキャリアという点では、公認会計士の転職完全ガイドや弁護士の転職・キャリア完全ガイド、税理士の転職・キャリア完全ガイドとも共通する論点が多く、あわせて読むと視野が広がります。
勤務医・開業医の年収相場【2024年最新】
最も関心が高いのが年収です。厚生労働省の各種統計をベースにすると、2026年時点の相場は以下の通りです。なお勤務医の平均年収は、コロナ特別手当の縮小などにより2023年(約1,436万円)から2024年(約1,200万円)へ一時的に下がった年でしたが、依然として高水準にあります。
| 区分 | 平均年収の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 病院勤務医 | 約1,461万円 | 医療経済実態調査(2023年)ベース |
| 開業医(診療所) | 約2,631万円 | 勤務医の約1.8倍。経営リスクを含む |
| 勤務医(男性) | 約1,450万円 | 2024年賃金統計ベース |
| 勤務医(女性) | 約1,040万円 | 診療科・勤務時間による差が大きい |
年収は診療科・地域・経営母体によっても大きく変わります。臨床外や経営に移る場合、額面が下がるケースもありますが、「当直・オンコールがない」「時間あたりの報酬」「中長期のアップサイド」で考えると判断は変わります。年収の考え方全般は転職時の年収・手取りガイドで体系的に整理しています。
臨床外の選択肢——医師免許を活かす道はこんなにある
「臨床の外側で医療に関わりたい」という医師が増えています。医師免許を活かせる臨床外の代表的な選択肢は次の通りです。
| 選択肢 | 仕事内容 | 年収の目安 |
|---|---|---|
| 産業医 | 職場の健康管理・メンタルヘルス・就労判断 | 専属1,200〜1,400万円/嘱託 日3万円〜 |
| 製薬会社メディカルドクター(MD) | 臨床開発・メディカルアフェアーズ | 1,200〜2,000万円 |
| 医療系スタートアップ・サービス企業 | プロダクト監修・事業開発・経営 | 役員報酬+SO(変動大) |
| 公衆衛生・行政(保健所等) | 感染症対策・政策・地域保健 | 600〜900万円 |
| 生命保険会社の社医・査定医 | 医的査定・アンダーライティング | 1,000〜1,500万円 |
特に産業医は人気が高まっています。労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は産業医の選任が義務付けられており、需要は安定的です。臨床医と異なり「治療」ではなく「予防」と「就労判断」が中心で、当直・オンコールがなくQOLを重視しやすいのが特徴です。専属産業医は勤務医と同等の年収を得られ、産業医長になれば2,000万円を超えるケースもあります。
ヘルスケアスタートアップの経営・起業という選択
私が最も可能性を感じているのが、医師がヘルスケアスタートアップの創業者・経営者になるキャリアです。オンライン診療、医療DX、予防・ヘルスケア、創薬——医療の課題は山積みで、「現場を知る医師」だからこそ描ける事業があります。医師免許を持つ経営者は、医療者・患者・行政の三方に対する説得力が段違いです。
これは会計士・弁護士がCFO・CLOとして経営に参画するのと同じ構造で、医師にとっての「経営参画」の到達点と言えます。役員報酬・SOを含めた経営幹部の報酬設計はCXO転職ガイドを、SOの税制・失効リスクはストックオプション(SO)完全ガイドで必ず確認してください。医師出身で活躍する経営者は医師出身の社長・経営者・起業家まとめにも多数まとめています。ベンチャーへ飛び込む前提知識はベンチャー転職 完全ガイドもあわせてどうぞ。
事例:脳神経外科医からヘルスケア経営へ——豊田剛一郎さん
臨床から経営へと踏み出した象徴的な事例として、株式会社メドレーの豊田剛一郎さんのキャリアをご紹介します。豊田さんは1984年生まれ、東京大学医学部を卒業後、脳神経外科医として国内の病院に勤務。その後渡米してミシガンの小児病院で脳研究に従事しました。日米での経験を通じて日本の医療の将来に強い危機感を抱き、臨床現場を離れることを決意します。
マッキンゼー・アンド・カンパニーでヘルスケア業界の戦略コンサルティングを経験した後、2015年にメドレーの取締役医師(当時)に就任。「医療ヘルスケア分野の課題をインターネットの力で解決する」というミッションのもと、オンライン診療などの事業を推進しました。著書『ぼくらの未来をつくる仕事』では、医師がキャリアを踏み出すきっかけになればという思いを込めています。
私が以前インタビューした際、豊田さんはこう語っていました。「研修医として働いていたとき、昼夜問わず働く医療従事者を見て、このままではシステムが持たないと感じた。先輩から『医療を救う医者になりなさい』と言われ、現場の外に出ることを決めた」と。悲観的な傍観者ではなく、当事者として医療課題を解決する——この姿勢こそ、臨床外・経営へ進む医師の本質だと思います。
なお豊田さんは、2021年に代表取締役を退任し(その経緯は各種報道の通りです)、その後も同社に関わり、2024年からはオープンイノベーションパートナーとして携わっています。キャリアには浮き沈みも伴いますが、「臨床から経営へ」という一つの道筋を示した事例として、多くの医師の参考になるはずです。医師・コンサルタント・経営者という3つの立場を経験した知見は、これからキャリアを考える医師にとって示唆に富みます。
臨床を離れるのが向いている人・向いていない人
| 臨床外・経営が向いている人 | 臨床が向いている人 |
|---|---|
| 医療の「仕組み」や「予防」に関心がある | 目の前の患者を治すことに最大のやりがいを感じる |
| 事業・経営・チームづくりに興味がある | 専門技術を極め続けたい |
| 当直・オンコールの負担を減らしQOLを重視したい | 臨床の緊張感・手技が自分の核だと思う |
| 不確実性やリスクを取ってでも大きな変化を起こしたい | 安定した専門職としての立場を大切にしたい |
臨床外・企業へキャリアチェンジする6ステップ
- 棚卸し:診療科・経験年数・得意領域と、「なぜ臨床外に興味があるのか」を言語化する。
- 方向性の決定:産業医・製薬MD・スタートアップ経営など、3つの軸から選ぶ。
- 要件の確認:産業医なら厚労省指定の研修や養成課程の修了が必要。必要資格・要件を早めに把握する。
- 臨床の残し方を設計:多くの臨床外キャリアは非常勤で臨床を続けられる。ゼロか100かで考えない。
- エージェント・情報源選び:医師専門の転職支援と、経営人材に強い支援を目的で使い分ける。エージェント活用は転職エージェントの選び方ガイドを参照。
- 意思決定:額面年収だけでなく、QOL・やりがい・中長期の市場価値で判断する。
年代別・医師キャリア戦略
| 年代 | 戦略のポイント |
|---|---|
| 20代(研修医〜専攻医) | まず臨床で「型」と専門性の基礎を作る。多様なキャリアの土台になる。焦って臨床外に出る必要はない。 |
| 30代 | 専門医取得の前後で、臨床を極めるか臨床外・経営に軸足を移すかを検討する好機。スタートアップ参画も現実的。 |
| 40代 | 臨床外なら産業医長・MD管理職、経営なら創業・幹部として組織を作れるかが評価軸。臨床との両立も設計する。 |
| 50代 | これまでの臨床・経営経験を掛け合わせ、顧問・社外役員・非常勤など複線的なキャリアで貢献する。 |
失敗パターン——医師がキャリアチェンジでつまずくとき
- 「臨床がつらいから」だけで飛び出す:逃げの動機だけだと、次の環境でも同じ不満を抱えやすい。
- 臨床を完全に捨ててしまう:多くの臨床外キャリアは非常勤で臨床を継続できる。退路を残す設計が重要。
- 肩書きや年収だけで企業を選ぶ:事業内容・カルチャー・経営の健全性を確認しないと後悔する。
- スタートアップの実態を確認しない:ランウェイ・調達状況・株主構成を必ず確認する。
失敗の構造はベンチャー転職の失敗・後悔ガイドで詳しく分析しています。専門職が事業会社へ移る「ポストプロフェッショナル」の考え方はコンサルからの転職ガイドとも共通します。
医師の働き方改革と「2024年問題」——キャリアを考える追い風
医師のキャリアの多様化を後押ししているのが、2024年4月から始まった医師の働き方改革(いわゆる「医師の2024年問題」)です。勤務医の時間外労働に上限規制が導入され、長時間労働に依存してきた医療現場は転換を迫られています。
- ①長時間労働の見直し:当直・オンコールの負担が問われるようになり、QOLを重視する医師が増えました。
- ②タスクシフト・DX:医師でなくてもよい業務の移管や医療DXが進み、医療系スタートアップの事業機会が拡大しています。
- ③キャリアの複線化:非常勤で臨床を続けながら産業医・企業勤務・経営に関わる「複線型キャリア」が一般化しつつあります。
働き方改革は、医師にとって「臨床一本」を見直し、自分らしいキャリアを設計するきっかけになっています。「臨床か、臨床外か」の二者択一ではなく、両者を組み合わせて設計できる時代になったのです。
医師が持つと強い「プラスα」の武器
医師免許そのものが強力ですが、次の「掛け算」ができると、臨床外・経営でのキャリアの幅が一気に広がります。
| プラスαの武器 | 効く場面 |
|---|---|
| 経営・ビジネスの知識(MBA等) | ヘルスケアスタートアップの経営・幹部で意思決定を担える |
| 英語(ビジネスレベル) | 外資系製薬のMD、グローバルヘルステックで評価が上がる |
| データ・IT・統計のリテラシー | 医療AI・デジタルヘルス・臨床開発で重宝される |
| 公衆衛生(MPH)・産業医資格 | 産業医・行政・予防領域で専門性を発揮できる |
| コンサル・事業開発の経験 | 医療課題を事業に落とし込むCXO・BizDevとして最上位評価 |
豊田剛一郎さんがマッキンゼーで戦略コンサルを経験したように、「医療の専門性」に「経営・ビジネスの言語」を掛け合わせられる医師は、圧倒的に希少です。臨床の外に関心があるなら、意識的に隣接領域を学ぶことをおすすめします。
実例:臨床から産業医へ——QOLとやりがいを両立
ケース:総合病院の内科医(38歳)→ 大手メーカーの専属産業医
当直と外来に追われる日々に限界を感じていた38歳の内科医。厚労省指定の研修を修了し、大手メーカーの専属産業医へ転身しました。年収は約1,300万円と勤務医時代と大きく変わりませんでしたが、当直・オンコールがなくなり、家族との時間が確保できるように。「治療ではなく予防と就労支援という新しいやりがいを見つけられた。月2回の非常勤外来で臨床の勘も維持している」と語ります。臨床を完全に捨てずに働き方を変えた、複線型キャリアの好例です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 一度臨床を離れても、また臨床に戻れますか?
戻れます。特に非常勤で臨床を続けていれば、ブランクを最小化できます。産業医や企業勤務をしながら週1〜2回の外来を続ける医師も多く、「ゼロか100か」で考える必要はありません。
Q2. 臨床外に移ると年収は下がりますか?
ケースによります。専属産業医や製薬MDは勤務医と同等かそれ以上のことも多く、公衆衛生・行政は下がる傾向、スタートアップ経営は基本給+SOで中長期のアップサイドが大きいです。目先の額面だけで判断しないことが重要です。
Q3. 未経験でも産業医になれますか?
なれます。ただし厚生労働大臣の指定する研修の修了など、産業医としての要件を満たす必要があります。臨床経験を活かしながら、非常勤の嘱託産業医から始める方も多いです。
Q4. ヘルスケアスタートアップに参画するのはリスクが高くないですか?
会社の存続リスクはあります。必ずランウェイ・調達状況・株主構成を確認しましょう。その分、事業で医療課題を解決するやりがいと、SO・経営参画という大きなリターンがあります。
Q5. 医師のキャリア相談はどこにすればよいですか?
臨床の転職は医師専門のエージェント、経営・スタートアップ参画はベンチャーに強い支援を使い分けるのが有効です。詳しくは転職エージェントの選び方ガイドをご覧ください。
臨床外キャリアを選ぶ前の自己診断チェックリスト
医師が臨床の外に一歩踏み出す前に、私がいつもお伝えしている確認ポイントをまとめました。動く前に一度、立ち止まって自問してみてください。
- 動機は「逃げ」ではなく「向かう」ものか:「臨床がつらい」だけでなく「何をしたいか」を語れるか。
- 臨床の残し方を設計したか:非常勤で臨床を継続するか、完全に離れるかを決めているか。
- 必要な資格・要件を把握したか:産業医研修・MPHなど、目指す道に必要な準備を理解しているか。
- 年収の変化を許容できるか:一時的に下がる可能性も含め、家計と中長期を見据えているか。
- (スタートアップなら)事業を見極めたか:ランウェイ・調達・株主構成・カルチャーを確認したか。
- 相談相手・ロールモデルはいるか:同じ道を歩んだ医師の話を聞いているか。
このチェックに自信を持って答えられるなら、あなたのキャリアチェンジは成功に大きく近づいています。曖昧な項目があれば、そこを埋めることが次の一手です。
キープレイヤーズの医師・ヘルスケア人材キャリア相談
キープレイヤーズでは、ヘルスケアスタートアップの経営幹部・事業開発ポジションを中心に、医師免許を持つ方のキャリアを支援してきました。「臨床の外側から医療を良くしたい」「事業で医療課題を解決したい」——そうした思いをお持ちの方に、25年で7,500名を伴走してきた経営者ネットワークをもとにお応えします。ヘルスケア領域の非公開求人も多数あります。医師としての次の一手を検討中の方は、ぜひキープレイヤーズまでご相談ください。
まとめ:医師のキャリアは「臨床の内と外」を自由に設計できる時代
2026年、医師のキャリアは臨床一本にとどまりません。産業医、製薬メディカルドクター、公衆衛生、そしてヘルスケアスタートアップの経営・起業——選択肢は広がり、しかも多くは臨床と両立できます。大切なのは、年収の額面ではなく「どんな形で医療に貢献し、どんな人生を送りたいか」から逆算することです。豊田剛一郎さんのように「現場の外から医療を救う」道もあれば、臨床を続けながら少しずつ軸足を広げる道もあります。医師免許という強力な資格を、ぜひあなたらしく活かしてください。
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