テクノロジーを活用した企業のIPOや株価高騰が続いていますね。企業の成長戦略の中で、テクノロジーは今や不可欠なキーワードとなりました。
そして、世界のテクノロジーの最先端の地といえば、シリコンバレーですね。今回は、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)、スクラムベンチャーズ(Scrum Ventures)の代表パートナー、宮田拓弥氏にシリコンバレーのベンチャー投資の現在についてお伺いしました!
シリコンバレーで生まれたビジネスモデルが数年後に日本に輸入されると言われているほど、シリコンバレーはイノベーションの中心地と言われています。早くからアメリカに渡り、その環境でキャリアを築いてきた宮田氏のお話、必見です!
目次
ジェネラルパートナー 宮田 拓弥 氏の経歴
早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了。卒業後、アメリカに渡り、EDS(Electronic Data Systems)に入社。ITコンサルティング企業を経て、生体認証のベンチャー企業を創業・売却。日本に戻り、2社目を起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後mixi America CEO を務めた。現スクラムベンチャーズ創業者兼ジェネラルパートナー。TechCrunchなど国内外のメディア、イベントでの寄稿、講演など多数。
スクラムベンチャーズ(Scrum Ventures)
サンフランシスコをベースに、米国のテックスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタル。これまでに、Mobility、Fintech、IoT、VR、コマース、ヘルスケアなど70社を超えるスタートアップに投資を実行している。
宮田拓弥さんのキャリア・経歴
ハードからソフトの時代に変わると考え、アメリカのIT企業に
高野:本日はScrum Venturesの創業者であり、ジェネラルパートナーを務めていらっしゃる宮田さんをお招きして、アメリカでのキャリアとシリコンバレーの現在についてお話いただきます!よろしくお願いします。
まずは、宮田さんのキャリアについてお伺いしてもよろしいでしょうか?
宮田:よろしくお願いいたします。
私のキャリアをざっくりとお話すると、大学院卒業後、アメリカに渡ってエンジニア、ベンチャー企業役員、企業の立ち上げ・売却を経験しました。その後、日本に戻って新しくベンチャー企業を立ち上げて経営をした後に、シリコンバレーに戻って現在のScrum Venturesを立ち上げたというのが概要です。
高野:まず、大学院を卒業してすぐにアメリカにいくのは非常に珍しいケースですよね。
なぜアメリカに行こうと思ったのでしょうか?
宮田:早稲田大学の大学院を卒業したのが、1997年のことなのですが、1995年にWindowsがリリースされたのが大きかったですね。工業化が大きく進んだ時代だったので、「ハードを作れる半導体ってすごいな」と思い、材料・物理工学の研究をしていたのですが、「次はソフトを作るITが来るのではないか」と思ってIT企業に進むことを決めました。
当時、IT/インターネットの企業は日本にあまりなかったので、自然と、じゃあアメリカだろう、という気持ちになりましたね。英語は全く話せなかったのですが(笑)。
高野:英語が話せない状態でも、躊躇しないで進むのがすごいですね・・・!
アメリカに行ってからはどんな仕事をされていたのでしょうか?
宮田:最初はElectronic Data SystemsというIT企業に入社しました。そこで、ソフトウェアのエンジニアとしての経験を積んだ上で、26歳の時にFrontline.JPというベンチャー企業に経営メンバーとして参画しました。1999年のことですね。
この企業はITのコンサルティング会社でした。私は英語を喋れて日本のデジタルビジネスも理解をしている人として、日本に進出したい海外企業のコンサルティングをしていました。ただ、この会社はエグジットを迎えることはありませんでした。
生体認証のベンチャーを立ち上げ、Googleに売却
宮田:そして、私が31歳の時に生体認証・写真認識のベンチャーNeven Visionを立ち上げました。
高野:1回目の起業は順調に進んだのでしょうか?
宮田:もちろん色々ありましたよ(笑)。
その元となった会社は70億円くらい調達して、結構な人数の社員を採用したものの、後から一気にリストラしなくてはならなくなったこともありました。
ただ、最終的には、幸いにも2005年にGoogleに売却することができました。
高野:売却先にGoogleを選んだのはどうしてだったのでしょうか?
宮田:いくつかの選択肢がある中で、もっとも評価してくれていたからですね。売却後も当時のメンバーはそのままGoogleで働いているメンバーが多いです。
何社かとライセンス契約をしていたので、売却後はそのような事務処理をした後に、日本で2005年の終わりにジェイマジックを立ち上げました。
高野:ジェイマジックのとき、私も麻布十番のオフィスにお邪魔したことがありました。
宮田:麻布十番にオフィスありましたね(笑)。
ジェイマジックを2009年まで経営、売却したのちに、アメリカでファンドを作ろうということでまたアメリカに渡りました。
高野:アメリカでファンドを作ろうというのもすごいですよね。
すぐにできるようなものではなさそうです。
宮田:まず米国のファンドに自分で投資をしてみました。その上で、自分でもできる手応えを感じたので、自身のファンドを立ち上げました。
これが現在経営しているScrum Venturesです。カテゴリを絞ることは特にせず、有望なものには投資をするようにしていますね。
シリコンバレー・アメリカのベンチャー投資の現在
規模の大きなファンドが次々と立ち上がるシリコンバレー
高野:やはりアメリカのベンチャー投資は規模が大きいのでしょうか?
宮田:スーパーエンジェルと呼ばれるような人が出てきてから、特に大きくなったような印象がありますね。スーパーエンジェルというのは、元々エンジェル投資をしている個人が、LPを募って始めるエンジェルファンドのことです。2013年くらいから増えています。
高野:投資家の間での競争も激しそうですね。
宮田:1000を超えるくらいのファンドがあると思います。共同投資家に全然知らないファンドが入ってくることもしばしばあります。
例えば、UberやLyftのような会社が上場します。となると、キャピタルゲインを得る人が生まれ、そのような方がエンジェル投資をしたり、ファンドを作ったりするというわけです。
日本のCVCと同じ会社に出資する事例も
また、日本からもCVCのような形で資金力のある大企業の参入が増えています。
高野:CVC増えていますね、現地での評価はいかがでしょうか?
宮田:少し前までは、トレンドだな、時代を掴んでいるな、と思うものに、日本のCVCが入ってくることは、ほぼなかったですが、最近は増えています。
以前は、日本企業のスピードがあまり早くないことも多く、そういうところからは出資を受けないという流儀のスタートアップも多いので、あまり目にすることは多くなかったですね。事業会社がCVCを作る際に、起業家やベンチャー投資のことを理解した人を採用せず、社員に教育しただけで始めようとするのが問題だったように思います。
しかし今ではシリコンバレーに拠点を持ち、現地のネットワークに入り込んで、積極的に投資を実行している大企業が増えている印象です。
高野:なるほど・・・。
宮田さんが投資している企業で、特に面白い企業などあれば教えていただけますでしょうか?
宮田:どこも面白いのですが、リアルタイムロボティクス(Realtime Robotics, Inc.)という会社は、日本の方にもぜひ注目してほしいなと思います。産業用ロボットを対象として、リアルタイムで外部の環境を認識して、機械が他の機械や人に接触する事態を防ぐ技術を開発しているベンチャー企業です
製造業の新たな可能性を切り開く可能性があると感じ、出資させていただきました。この企業には、Toyota AI Ventures(トヨタ自動車グループ)や三菱電機も投資しています。
高野:製造業の規模が大きなところでそういったベンチャーが生まれてくるのは面白いですね。
日本の企業から出資してほしい、という例もあるのでしょうか?ソフトバンクは人気がありそうです。
宮田:ソフトバンクの知名度はシリコンバレーでもすごいですね。起業家がよく紹介してくれと言ってきます(笑)。
半年前(2019年4月頃)の段階では、ソフトバンクから出資を受けてナンバーワンになりたい、という人がかなり多かったですね。
アメリカと日本の就労観・キャリア観の違い
アメリカと日本では評価されるLinkedinの経歴が異なる
高野:日本でキャリア相談を受けていて、海外で働きたいという人も多くいます。
アメリカで働く上で必要なことを教えていただけますでしょうか?
宮田:ベーシックなところは変わらないと思いますね。ただ、仕事に対する考え方は全く違うので、その点は順応する必要があると思います。
高野:一番の違いはどんなところでしょうか?
宮田:リンクトインを見ると分かりますが、キャリアの築き方は全く違いますね。
日本では、一つの会社で色々な部門を回っているのが主流ですが、アメリカではいろんな環境でやってきている人が多いです。40歳くらいになると、10〜15くらいのバラエティがある人もいますね。
高野:日本だと転職回数が多いと、基本的に評価はマイナスになります。
宮田:でも、10年同じ仕事して新しく学べることってほとんどないですよ。3年やったら、ほとんどのことができるようになります。
高野:そういう考え方は日本の一部のITベンチャーでは、少しずつ生まれてきているかもしれません。
宮田:そうなんですね。
あとは、アメリカで長期で働くためのビザを取るのが難しいかもしれません。簡単に取得できるものではないです。「この人でなくてはいけない理由は何か」というのが必要になります。現地で認められるくらいの実績がないと、取得できなかったりしますね。
高野:そうなんですね、「実績」の捉え方も日本とアメリカで違うかもしれませんね。
日本の転職の場面だと、「30歳で会社2回立ち上げたことがあります」となっても、彼は堪え性がないよね、と言われて、見送りになるケースもあります。
宮田:もちろん内容にもよりますが、アメリカだと考えづらいですね。チャレンジしたことは基本的にポジティブに捉えられます。
高野:社員をクビにする仕組みがないので、仕事ができなくても勤続年数が上がり、年功序列で給与も上がります。年収を下げないと転職できなくなる人も少なくないですね。
宮田:そのあたりの事情はだいぶ違いますね。アメリカだと、仕事できない人が居座り続けることはほぼないです。
もちろんクビにすると言うのはアメリカでも簡単ではないのですが、権利としてはできるようになっています。そのため、人を増やしたり減らしたりすることはダイエットのようにやっていますね。
新卒入社した会社で人生が決まるという考えは日本特有
宮田:あと、もう一つ日本との違いをあげると、最初の会社で人生が決まるという認識は、アメリカではありませんね。
高野:日本は就職活動に失敗したら終わり、のような風潮もありますね。
宮田:失敗したら終わりだと思っているから、その通りになってしまう部分もある気がしますね。
今、シンガポールからインターン生を採用していますが、「将来起業したいからVCでインターンします」などのビジョンが明確な学生が多く、そういう方は失敗しても別の道を見つけていけると思います。
高野:日本の場合は、やりたいことがそもそもない、という人多いです。
宮田:やりたいことがないから、まずはできることを身につけるために、まずは実力がないと雇ってもらえないスタートアップの環境に身を置く、というような選択肢があってもいいですよね。
日本企業で駐在にくる方は多くが帰国
高野:日本からアメリカに駐在にきている方と会う機会もありますか?
宮田:お会いすることもあります。駐在に来る方、増えていますよね。
日本の景気の先行きを見たときに、次はシリコンバレーに進出しようという企業も増えているんじゃないかと思います。
高野:駐在員の方はどんな方がきているのでしょうか?
宮田:サービス、製造、商社、金融など幅広い業種の方がシリコンバレーに拠点を作っています。期間は決まっている方が多い印象です。
Scrum Venturesが投資を決める際のポイント
高野:アメリカで起業したいという日本人の起業家もいるので、最後にScrum Venturesについてもお伺いさせてください。
Scrum Venturesは投資を決める際にどんな点を重視しているのでしょうか?
宮田:どんなカテゴリにも投資をする形でファンドをやってきましたが、一周してやっぱり「人」が重要だなと感じています。
創業者との面談は特に重要視していますね。ビジネスモデルも重要なのですが、今はパーソナルストーリーの方が重要という結論になっています。
仮に、一つのビジネスモデルがはまらなくても、後々成功するような会社もあります。
高野:なるほど。
経歴としては、どんな人に投資することが多いですか?
宮田:経歴で言うと、Ph.Dを取得している社長が多いですね。新しい技術を作っている会社に投資することが多いからかもしれません。
日本だと、Ph.Dを取得している研究者の人は喋りが上手くないという認識があるかもしれませんが、アメリカは全部できるみたいな人がゴロゴロいるんですよね。
経歴を最初から重視している訳でもないのですが、面白いなと思って経歴見ると、すごい特許持っていたというケースもありました。
高野:日本だと確かにPh.Dを取得している起業家は数少ないですね・・・。
宮田:日本は文系・理系を明確に分ける風潮があるので、「文系はビジネスサイド、理系は開発サイド」のような認識があって、身につけるスキルにも偏りが出ているのかもしれないですね。
でも、そうした環境要因も振り払ってチャレンジするような起業家の方が出てきてほしいですね!
高野:私もチャレンジしたい方がいれば、日本から応援したいと思います。
本日はありがとうございました!
キープレイヤーズ高野のコメント
日本で勝つのも大変なことですが、海外でビジネスをするのはよりハードルが上がりますよね。宮田さんは、米国を拠点にしながらスタートアップ、VCの本場、米国で戦っておられます。その宮田さんから日本とアメリカの違いという観点でお話いただき、文化の違いを知ることができました。
その昔、起業家時代にお知り合いになり、ファンドの話でLPで声をかけていただいて本当に良かったと思っております。全てがアメリカのようになればいい、という訳ではありませんが、日本で当たり前とされてきたことを鵜呑みにせずに、自分の意思でキャリアを考えることは大切だと思います。
また、環境のせいにせず、自ら行動を起こせる人が成功するというのは、日本でもアメリカでも共通していると思います。このメディアをご覧になられている方は、スタートアップ、ベンチャーに関心があり、キャリアや起業に興味がある方も多いと思いますので、お気軽にご連絡ください。