なかなかキツイ教訓ですが、これはドイツの宰相、ビスマルクの言葉です。
これをキャリアにおきかえると、賢者はさまざまな人物のキャリアヒストリーに学び、愚者はおのれの転職経験にのみ学ぶといえるのではないでしょうか。
自分のキャリアヒストリーだけを顧みるのではなく、時には三六〇度視野を広げて、賢人の話に耳を傾けることをお勧めします。
他人のキャリアの変遷を調べたり、セミナーで話を聞いたりすることはとても勉強になるからです。
私自身、日々、この言葉を実践できるよう心がけています。
さまざまな社会人団体に呼ばれて、講演をさせていただいたり、パネルディスカッションをすることがありますが、短い時間とはいえ、逆にパネラーの人たちの転職理由や、いろいろな体験から学んだこと、苦労したことなどについて聞くことは、キャリアのみならず人生における貴重な財産になります。
実践的なセミナーのみならず、たまには著名人の講演会にも足を運んでみることです。
すると、思いがけないパワーを与えられます。
ペルーのフジモリ元大統領のある講演会に参加したことがあります。
大きな声で、よどみなく、笑顔を絶やさず、堂々と話されるその姿からは、強力なオーラが発せられていました。
日本語は決して流暢ではないのに、人を惹きつける話術のパワーには圧倒されました。
セミナーのあとに質疑応答の時間があったのですが、突拍子もない質問から生き方に関する質問まで、すべての質問に丁寧に誠意を持って答えていらした姿も印象深かったですね。
ある一人の若者が、
「僕も日本の首相になりたいのですが、なれますか?」
と熱っぽい口調で突然、フジモリさんに質問を投げかけました。聴衆は思わず、彼を振り返りました。
私もふくめ、「なんて大胆な質問するんだ?」という空気が一瞬のうちに会場をおおったように感じられたのですが、フジモリさんは、すかさずこう答えたのです。
「なれますよ!」
迷いのない即答でした。
もちろん、リップサービスもあったのかもしれませんが、とにかく、間髪をいれない即答でした。
そして、フジモリさんの答えには、少なくとも若者の熱意に対して、爪の先ほどの懐疑心も嘲笑も混ざっていなかったのは確かです。
首相になれるか、なれないかといった現実的なことではなく、その瞬間の彼のまっすぐな大志に敬意と肯定を表した……そんなふうな印象を受けました。