ユーザーと新たなPRを創造し続ける!PR TIMES代表 山口拓己さんに学ぶプロダクトの育て方

インタビュー          
       
       
     

代表取締役 山口 拓己

1974年生まれ。1996年に証券会社でキャリアをスタート。その後、ITベンチャー・コンサルティングファームを経て、2006年にベクトル入社、同社取締役就任。2009年にPR TIMESの取締役社長に就任。2016年マザーズ上場、2018年東証一部へと市場変更している。

株式会社PR TIMES

企業とメディア、そして生活者をニュースでつなぐプラットフォーム「PR TIMES」を中心に、社会を前進させるイノベーションを起こすべく、PR/コミュニケーション領域で様々な事業を展開しています。

 

PR TIMES 山口 拓己さんの創業記

塾講師で学んだ、誰かのために働くということ

高野:本日はよろしくお願いします!

山口:私は、起業家一家のような環境ではなかったので、「いつかは経営を!」と考えていたわけではありません。そのため、少し前置きが長くなってしまうと思います。

仕事の始まりは、学生時代の塾講師のアルバイトでしたね。しっかり授業には参加していたので、その時間を確保しつつ生活費を稼ぐにあたって、塾講師は時給が高く、効率のいいバイトでした。

それ以上の理由は特になく始めてみると、思った以上に熱中して多くの時間を割くようになっていきました。自分の働きが誰かの役に立って、その誰かが上手くいくことで自分もまた嬉しい、と気づくことができたのは、この学生時代のアルバイトの経験かもしれません。

高野:働くことに対するイメージは、社会人として働く前から培われていきますよね。

カオスな環境で培った「なんとかする力」

高野:卒業後はどのようにキャリアを積まれたのでしょうか。

山口:卒業後は、ファンドマネジャーへの憧れがあったため、卒業後は山一証券に入社しました。1年半後に廃業となってしまいましたが、このときの経験もその後のキャリアに生きていると思います。

というのも、毎日ノルマがあって、毎日ノルマを達成しないと帰らないというのは徹底していたので、目標に対する意識というのはここで培われたと思います。
当時、インターネットでの証券取引がまだまだ進んでいなかったので、お客様は信頼できる営業に資産を任せて、いくら売買しているかも分からないような状態でしたね。

高野:今思うと、それはカオスな状況ですね・・・。

山口:その後、ITベンチャーに転職するのですが、そこでもカオスが続きました。

縁あって、次はコンサルティングファームに転職したのですが、そこで初めてすべてをロジカルに計算し、結果を追求する世界に飛び込みました。

高野:最近では、力をつけるためにコンサルティングファームに入社する新卒の方も増えています。

山口:スキルの面はもちろんですが、スタンス面でも実りがあったと感じています。

一つのエピソードを紹介させていただきますが、ニューヨーク証券取引所上場の日本企業のプロジェクトの担当になったことがありました。

英語も話せず、会計の知識もほとんどない状態にも関わらず、日本基準だった決算を米国基準のものに変え、さらに毎年変更が発生するレギュレーションに対応しなくてはならない状況でした。

自分が持っていないスキルがメインとして必要なプロジェクトにアサインされるのは非常に大変で、本当に苦しかった記憶があります。

ただ、自分ができるから取り組むのではなく、成したいことに対して自分の能力を開発する、能力がなくてもなんとかする。そんな風に進める中で、なんとか方法を見出して、なんとかして結果を出す。この姿勢が固められたのはこの時期じゃないかと思います。

高野:慣れない領域で慣れない言語を習得しながら仕事を進めるというのは大変そうですね。

山口:実のところ、当時の私は英語や会計を勉強してできるようにするという王道ではなく、逆算で考えることでなんとかしました。英語はいまだにできないのですが、英語ができなくてもプロジェクトを完遂する方法を見出せたんです。

PR領域をインターネットで変革するためにベクトルへ

山口:そんな風にしてコンサルティングファームで働く中で、ロジックだけでは計算できない領域、例えばアートやデザインといったものの力でマーケットを動かしているメディア領域に興味が湧いてきました。

この頃、インターネットの世界も大きく変わりつつあって、ネット広告などのプレイヤーはすでに多く存在していました。インターネットがまだ変革していない産業は何か、ということを考えた時に、出た答えがPRだったんです。

その頃にベクトルというPR会社に出会いました。第二創業期で、優秀な人材が多く経営参画していたのですが、私と似たタイプの方がいなかったのも入社を決めた理由でした。

高野:ベクトルはPR TIMESの親会社にあたる企業ですね。ベクトルでは、IPOの担当役員をされていたと聞いています。

山口:はい。ただ、実は当初はCFOをやる予定ではなく、インターネット関連のビジネスを立ち上げる予定だったんです。
会社の状況として必要になったので、急遽私が担当することになりました。コンサルティングファームにいたときの会計知識を活かしつつ、実践と改善を続ける日々でしたね。

その仕事がひと段落した頃に、「キジネタコム」の立て直しに携わることになったのが、PR TIMES設立の直接のきっかけですね。

報道向け資料を超えて、生活者が楽しめるプレスリリースに

山口:このキジネタコムが目標としていたのは、「脱プレスリリース」ということです。キジネタコムという名前の通り、記者が本当に記事のネタを探せるように立ち上げたサービスです。当時、「プレスリリースにとって代わるものを」ということで立ち上げたものの、利用価値を広く感じてもらうことができていませんでした。

利用してくれる企業やメディアも思うように伸びず、事業を畳もうという状況でした。そんな状況で一気に方向転換し、プレスリリースにとって代わるのではなく、「超プレスリリース」を目指し、始めたのがPR TIMESです。

高野:たんなるプレスリリースからの脱却を図る、ということでしょうか?

山口:はい。プレスリリースは100年以上も続いているPR(パブリック・リレーションズ)の手法の一つです。メディアに何か取り上げてもらいたいと思った時に、取り上げられたいメディアの記者や編集者にその情報を送りますよね。それがプレスリリースです。でも、実は2007年当時、企業から送られたプレスリリースはあまり読まれていなかったんです。当然、メディアに取り上げられることも少ないので、伝わってほしい情報がなかなか伝えられない環境にありました。生活者としても知り得る情報を得られていなかったんですね。

そこで私たちは、情報源・ニュースとして、メディアの先にいる生活者が楽しめるものにしようと思いました。報道機関向けの資料としての役割を超えて、生活者が求めるコンテンツになれば、自ずと報道したいメディアは増えるだろう、というような世界観、思考です。

PR TIMESという会社とは?

機能を重視して伸び悩んだ草創期

高野:事業の柱になっているプレスリリースの配信サービスの原型がここで作られたわけですね。事業立ち上げはスムーズに進んだのでしょうか。

山口:立ち上げた当初は上手くいかないことが多かったです。本当に必要か分からないことをやり過ぎた、とも言い換えられるかもしれません。今のように、リーンスタートアップのような考え方もなく、様々な可能性を考慮しながら、最初からあらゆる機能をつけるような形で始動させてしまいました。

必要最小限の機能で始めれば、さらにスピード感をもって立ち上げられたかもしれませんが、不安からあらゆる可能性を想定しすぎましたね。


今では、ご利用いただく企業が1000社増えるのにかかる時間は1ヶ月ほどですが、当時は2年3ヶ月かかりました。もちろん知名度も信頼も異なる状況ですが、それでもやはり時間がかかりすぎたかなと今では思います。

その時に開発した機能がどこかで役に立てば、という思いもあったのですが、実は当初に開発した機能の7割がすでに廃止されています。

プライシングも試行錯誤しました。フリーミアムモデルで顧客をたくさん獲得して有料に切り替える方針でしたが、見事に外れてしまいました・・・。

ただ、こうして時には外しながらも、次の手を打ち続けるというのは、今でもつづけています。

高野:立ち上げのタイミングでは、思うようにサービスが伸びず不安になる局面もありますよね。

ユーザーに向き合い続け、勝ち筋を見出す

高野:山口さんの場合は、どのようにして払拭していったのでしょうか。

山口:私たちの場合は、マーケット規模を小さく見込んでしまっていたため、他のビジネスにも手を出していたんです。

ただ、そうではなくて自分たちのビジネス・お客様にきちんと向き合おう、という姿勢に立ち返れたのが大きかったように思います。
具体的には、リボンモデルで大きくなっている別産業の企業を参考にしながら、ユーザーの動向を分析し、自分たちで提供できる価値を磨き続けました。

当時、競合サービスも出ていたのですが、競合の出方を見て対抗策を打つことはしませんでした。ひたすらユーザーが必要とするものは何か、を考えていましたね。これはサービスを伸ばすことができた、要因の一つだったと感じています。

例えば、スマホが普及し始めた2008年付近で、ユーザーがスマホでPR TIMESを使い始めたときにも気が付くことができました。スマホで使いやすいようなUI/UXを整えたりするのも、PR TIMESでは早い段階から対応することができました。

いつでもインターネットにアクセスできて、SNSでシェアできるという環境への変化がマーケットに与えた影響は大きかったですし、その時流に乗れたのはやはり誰よりもユーザーと向き合っていたからだと思います。

ユーザーとともに、質の高い成長を

高野:山口さんは、ひたすらプロダクトやそのユーザーに向き合い続ける、いわゆるプロダクト型の経営者だなと感じています。そうした企業であり続ける、秘訣のようなものはあるのでしょうか?

山口:成長の質については、常々大事にしています。

具体的なところで言うと、売上だけに意識を置くのではなく、利益とその成長率を注視しています。

売上も全く意識しないのではなく、そのクオリティが大事だと思っています。
必要でないものを売ってしまったりしていても、市場とともに成長することはできません。


マーケットが健全に成長するためには、プラットフォーマーとして企業側ユーザーの発信リテラシーと生活者側ユーザーの受信リテラシーの両方を高める必要があります。

それが例えば、売上偏重になると、企業側の発信過多になり、受信側が適切に受け取れない状況ができてしまいます。そうした状況を作っていたら、拡大できる市場も拡大できずに終わります。


短期的なSEO対策などをせずに、成長してこれているのも、ユーザーの皆さまがリッチなコンテンツを投稿してくださっているからだと思います。お客様の発信力の成長がプラットフォーム自体の成長に繋がっていて、それがマーケット自体の成長に繋がっている実感があります。

高野:マーケットリーダーだからこそ、マーケットをいかに拡大するか、という視点で見られるというのもあるかもしれませんね。

打てば響く、意思の通じ合う少数精鋭組織

高野:組織的な面ではいかがでしょうか?

山口:成長の質を高める構成要素の一つとして、組織の質にもこだわっています。

極端に言うと、社員の人数は少なければ少ないほどいいです。それくらい、社員との意思疎通にはこだわりたいと思っています。

社会に雇用を生む、という観点で見ると、自社だけでは大きな雇用は生み出せていないかもしれませんが、それ以上にサービスを通して、社会に生む雇用を増やすことに価値があると思って、このビジネスと向き合っています。

しかし、今が正解ではなく、すべてでもなく、これからの時代の変化に耐えうるサービスだけが生き延びると考えています。
そのため、その時代時代で、求められるサービスを追求していきたいです。

PR TIMESの展望

ニュースや情報がおもしろい世の中に

高野:今後の話が出ましたので、ぜひ今後のご方針について教えてください。

山口:昨今のネットでは、誰かを攻撃するようなネガティブなニュースや記事ばかりが拡散されてしまうようになっています。しかし本来は、誰もが幸せに感じる情報をもっと受け取りたいはずです。もっとニュースや情報がおもしろい世の中にしたい、と私は考えています。

具体的な数値目標としては、上場してすぐに掲げた中期計画で、2020年度に

  • PR TIMESの利用企業社数5万社
  • 月間で1億PV(ページビュー)
  • PR TIMES以外で収益化できるサービス5つ立ち上げ
  • 営業利益10億円

上記の4つを目標に掲げました。これは今も変わりありません。この目標が達成できたら、次の目標を掲げて進む。この繰り返しが「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」という会社のミッションを達成するための道筋になると考えています。

高野:IR資料を拝見する限り、順調に進捗し、達成までもうひと伸びというところまできていますよね!

未経験でもサービス愛・会社愛の持てる人材を

高野:採用も強化していきたいところとお伺いしています。

山口:同じ情熱をもって働ける仲間をもっと増やしていきたいですね。

転職市場では、「未経験である」ということがネガティブに捉えられる傾向にあると感じています。

しかし、私は必ずしもネガティブだとは思っておらず、むしろポジティブな側面に着眼しています。経験していないからこそ、業界常識のようなものに囚われていないというのがメリットだと考えているんです。むしろ今の時代、特に重要な観点だと私は捉えています。

例えば、広報のやり方はこういうものだ!という思い込みをもった経験者を採用したとします。どの時代に広報をして、何を考えていたか次第ではありますが、環境は刻一刻と変わっているわけですから、以前のやり方を知っているから上手く立ち回れるかというと、すごく難しいです。

昔の成功体験に囚われて目の前のユーザーが見えていない業務をするよりは、未経験だとしても情熱や希望があって、サービスや会社に愛がある方に業務をしてもらうべきだと私は考えます。

高野:サービスや会社に愛が持てる人材かどうかを見極めるために、どんな点を見ていますか?

山口:「成したいこと」が何か、ですね。
人が働く動機には5種類あり、それは「やりたいこと」「できたいこと」「なりたいこと」「得たいこと」「成したいこと」の5つです。

私や会社のメンバーの特徴として、5つ目の社会に対して「成したいこと」が動機になる人がすごく多いんです。また、個々で成したいことをしっかり持っている一方で、それで会社のミッションと合致しているのはやはり組織的な強さに繋がっていると感じています。

「成したいこと」に対して、今足りていないものも補いながら前に進める方が集う組織であり続けたいですね。

高野:いわゆる「will」の部分ですね。

「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」実現するまで続く挑戦

高野:足りていないものも補いながら、という点にも山口さんのご経験がよく反映されている気がします。

山口:そうかもしれませんね。
もちろん、小さな成功体験の積み重ねによって得た、達成感や満足感が原動力になる人もいると思います。

ただ、個人的には達成感や満足感は減速の原因になりうると思います。だから何かを達成しても満足しないようにしています。

2016年にマザーズに上場した時も、2年後に東証一部へ市場変更した時も、祝賀会はやらなかったです。仲間で喜ぶことをしたくないという意味ではなくて、マザーズに上場、東証一部に市場変更して、鐘を鳴らしたときは感動しました。

ただ、そこから次に向かえなくなることはそれ以上に怖いです。ユーザーはありがたいことに増え続けていますし、そのさらなる期待に応えられるようにしたい、そんな気持ちでいたいですね。

あくまで、みんなで掲げている「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションに向けて、役割を分担してそれぞれの目標を持ったり、チームの業務をみんなで楽しんだり、壁や挫折があったとしてもみんなで乗り越えて、成功した暁にはそれぞれが称え合う。

そんなふうに、みんなで目標に向かうからこそ得られる時間をより大切にしていきたいと考えています。

高野:目指すビジョンを実現するまでは、目標をアップデートし、行動し続けることが大切ということですね。これが組織で共有できていることは、PR TIMESの組織の強みであり、働く魅力なのではないかと思いました。

貴重なお話ありがとうございました!

 

キープレイヤーズ 高野のコメント

こうして文面にしてみて、ストイックで一本筋が通った方だと改めて感じましたが、実際にお話しするとフランクでかなりお話ししやすい方です!!本文には含めませんでしたが、山口さんの人間性を感じる印象的なお言葉を取材中に聞くことができました。

”私は自分を特別とも凄いともとらえていません。むしろ常に普通でいたいと思っています。普通であり続けることって、実はすごく難しいかもしれません。
でも、普通でいたほうが、激変し続ける市場をニュートラルに見られる気がしています。”

「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションも大きな素敵なミッションだと感じていますが、山口さんだとそれすらも通過点にしてしまうのではないか、とも感じるインタビューとなりました。

改めて、山口さん、ありがとうございました!それと個人的にメインプロダクトであるPR TIMESが私好きですね!


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執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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