こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職のサポートをしているキープレイヤーズの高野です。
転職支援をしていると、やはり転職市場のトレンドには敏感になります。ここ数年はSaaS、少し前であればD2CやIoT、シェアリングエコノミーといった流れがありました。
今回はNext SaaSとして注目を集めている「メタバース」について、ビジネスXR領域で大手企業と一緒に様々なユースケースを生み出してきている株式会社Synamon 執行役員/COOの武井勇樹さんにお話をうかがいます。
最近よく聞くけどぶっちゃけよくわからない「メタバース」の解説からメタバース業界で求められる人物像まで、幅広いテーマでお届けします。
執行役員/COO 武井勇樹さんの経歴
新卒でITベンチャーのSpeeeに入社しWebマーケティングのコンサルティング等に従事する。そ の後、渡米してUC Berkeley ExtensionのThe International Diploma Programs (IDPs) を修了。 2018年よりSynamonにBizDevとして参画し、2021年8月にCOO就任。現在は人事や採用を含 むコーポレート部門を統括している。
株式会社Synamon
「XRが当たり前の世界をつくる」をミッションに、XRテクノロジーを活用してワクワクする未来、よりよい社会への進化に取り組んでいるスタートアップです。
プロダクトやサービスの開発・提供をするのみではなく、将来的にはXRを開発したい人に向けた技術提供をする立ち位置も目指しています。
会社HP▶ https://synamon.jp
会社説明資料▶ https://speakerdeck.com/synamon/culture-deck
メタバースとは何か?
高野:転職市場では、ここ2,3年は職種問わずBtoB系SaaS企業がトレンドになっています。他にもM3さんに引っ張られる形で医療やヘルスケアIT、最近だと宇宙系ベンチャーに興味ある人もでてきていますが、やはり僕のところに相談にくる人たちはNest SaaS、「次のメガトレンドは何だ?」というのを気にしているんですよね。
そこで注目なのが「メタバース」。
facebookのザッカーバーグさんが言い始めたことをきっかけに、国光さん、グリー田中さんなど発信力がある方たちが続々と語るようになりましたよね。そうはいっても、世の中的には「言葉は聞いたことあるけどよくわからない」状態なのだろうと思うんです。「メタバース」についての理解を深めたい方も多いのではないかと。
武井:そうですね。業界の中でも「メタバースってよくわからない」という人、多いと思います(笑)
高野:その点でいくと、武井さんが先日書かれたnoteはかなり網羅的に書いてますよね。
メタバースのビジネスモデル考察
https://note.com/yktk68/n/nba03520f21d9
武井:どんなビジネスモデルがあるのかをテーマに書かせていただきました。ビジネスモデルから考察したい方はそちらを読んでいただき(笑)今回は、もう少し手前の定義についてお話できたらと思っています。
まず、「メタバース」の前に2020年春頃から言われはじめた「VRとバーチャル」から入らせてください。
この図は、新型コロナウィルスによって緊急事態宣言が発出され「バーチャル」というキーワードが話題になり始めたときにつくったものです。初版からアップデートしていますが、当時もバーチャルやVRの定義が曖昧で、自分たちの整理も兼ねてこの図にまとめていました。
メタバースを整理するときも、このコンテンツとビューワーという軸は有効です。今なされているメタバースの議論がわかりづらくなる要因は、この軸がゴチャ混ぜになって語られているからと考えています。
メタバースを整理するときの軸
・コンテンツは2Dなのか3Dなのか?
・見る側のデバイス(ビューワー)は2D(スマホやPC)なのか3D(VRゴーグルなど)なのか?
元々は、右上の「VRゴーグルを被って3Dコンテンツを楽しむ」ところがVRと言われていました。
高野:そうですね、確かに。
武井:それが「メタバース」というキーワードが出てきたことで、下記のように変わったと認識しています。
オレンジ色の枠で記載してある上段の3つ全てが、メタバースという文脈で語られるようになってきたので、結局メタバースが何なのかわかりづらくなってしまったんです。
メタバースと言われるものを、先程のコンテンツとビューワーという軸で区分けすると、今出てきているものは大きく3つに分けられます。
・ PC・スマホ向けメタバース
3Dコンテンツをスマホ・PCなど2Dのディスプレイで楽しむタイプ
・XR特化メタバース
3DコンテンツをOculusQuestのようなVRゴーグルで楽しむタイプ
・ ハイブリッドメタバース
3Dコンテンツをどちらデバイスでも楽しめるタイプ
PC・スマホ向けメタバースは、バーチャルライブ配信アプリの「REALITY」や最近話題の「フォートナイト」とかです。XR特化メタバースはfacebookがOculusというVRハードウェアと合わせて展開しようとしてる「Facebook Horizon」などがそれに当たります。ハイブリッドメタバースは3Dで楽しむメリットを確保しつつPC・スマホでも楽しめるもので、日本だとバーチャルSNSの「cluster」はここにあたるのかなと思っています。
VRゴーグルを持っているユーザーがまだ少ないので、ユーザー数確保の観点からもハイブリッドメタバースが多い印象ですね。
高野:やっぱりゲームが好きな方は「フォートナイト」とかでメタバース的な世界観を意識せずとも体感してるといえますか?
武井:そうだと思います。いろいろなプレーヤーがメタバースをやろうとしていますが、現時点で成立しているのはゲームから派生したコミュニケーションがほとんど。おそらくフォートナイトのような世界観から、広まっていくのだろうと予想してます。
あとはclusterがやとうしているバーチャルSNS的なものも、メタバースの本丸に近いのではないでしょうか。バーチャル空間にいろいろな人が集まりコミュニケーションをとる、一緒に楽しむというものですね。
高野:転職相談では、ホロライブというVTuberプロダクションを運営してるカバーや、バーチャル配信のプラットフォームをやってるVARKに興味があるという話もけっこう聞きますよ。clusterも時代きてるなって感じてます。
武井:日本でメタバース系のスタートアップというと、cluster、VARK、REALITY、Thirdverse、ambrとかは名前があがりますよね。
高野:あと先程の図ではバーチャルサービスに入っていましたがoViceも評判はめちゃめちゃいいですよね。使っている企業さんから「抜けられない」って話をよく聞きます(笑)
武井:弊社も、まさに社内コミュニケーションはoViceを使っています。
XRを事業としてやっている僕らですら、毎日VRゴーグルを被って仕事するのは、まだまだ現実的じゃないって思いますからね(笑)
社会情勢の変化によって、ZoomなどのオンラインMTGツールより没入感・臨場感があり、雑談などのコミュニケーションも気軽にとれるサービスへのニーズが一気に高まっただろうなと感じています。
oViceは3Dコンテンツをベースとしていないので図ではバーチャルサービスと括っていますが、この辺りも含めて「メタバース」の厳密な定義はまだまだ定まっていない印象です。
高野:世界ではすごい社数があるみたいですね。
武井:周辺技術を含めた関連企業もいれたら相当数あると思います。
弊社は2016年創業ですが、そのころからずっとVRに取り組んでいる企業は他にもあるんです。中でもVRchatのようなコミュニケーションができるサービスは根強かったのですが、メタバースと言われるようになって、この領域が一気に増えてきていると感じています。
あと、それを裏側で支えるNFTやブロックチェーンといった技術もすごく注目されていますし、AI×メタバースのような掛け合わせで事業を構想している企業もでてきていますね。
(参照元:https://medium.com/building-the-metaverse/market-map-of-the-metaverse-8ae0cde89696)
なぜ今メタバースなのか?
武井:そもそもなぜ今メタバースが注目されているのか?
ひとつはコロナ禍をきっかけに、リアルで集まれない代わりに、Fortniteやどうぶつの森のように3D空間上で人々が集まるコンテンツが注目を集めたことが大きいと思います。
それに加えて、Oculus Quest2のような良質なXRデバイスの普及による相乗効果によってメタバースへの注目度が上がっているんです。
高野:ソフトもハードもインフラも、全部が伸びてくるからこそ新時代になるっているという感じでしょうか。どれかひとつの要素が伸びただけではダメで、あくまで掛け算であると。
武井:おっしゃる通りです。
高野:歴史みたいなところでいくと、1992年のSF作品「スノウ・クラッシュ」で初めて「メタバース」という言葉がでてきたんですよね。
その後、2003年に「セカンドライフ」が立ち上がって一時期盛り上がりましたが幻のように終わり……「またきたな」という感覚の人もいると思います。
以前と比べると技術はだいぶ進化しているのでしょうか?
武井:はい。技術的にはかなり進化しています。さらに、3DCGのコンテンツ自体が普及する土台も整っている印象です。フォートナイトやRobloxのように相当数のアクティブユーザーが抱えるサービスも誕生していますから。
あとはデバイスですね。OculusQuest2のような4万円弱で手に入るデバイスもでてきているので、こういったデバイスが一般にも普及していくとより加速するんだろうと考えています。
高野:ちなみに、武井さんはデバイスの大きさがメガネ/サングラス型ぐらいになるのは、いつ頃だと思います?
武井:すでにARグラスだとサングラス型もでてきていますからね。
ただ、現状のARグラスには視野角の狭さといった課題もあるので、視界の全面を覆うVRデバイスとなると、まだまだOculus Quest2くらいの大きさにはなってしまいますよね。
実際にVR元年と言われた2016年からの5年間、ものすごい速さでで軽量化もスペック向上も進みました。ここは願いを込めて、次の3-5年でサングラス型までいってほしい…!!
さらにその先になると、イーロン・マスクさんがやっているような脳とコンピューターをつなぐニューラリンクもあります。まさにマトリックスや攻殻機動隊の世界になっていき、バーチャル空間で五感を楽しめるようになると思うのですが…これはさすがに時間がかかるんじゃないかと。
高野:なるほど。興味深いです。継続という観点でいくと、どうお考えですか?
武井:今トレンドになっている「メタバース」が本当に世の中に価値を出していけるのか、ここ数年が勝負だと考えています。
コロナが終息した世界で「リアルでも会えるけど、バーチャルやメタバースっておもしろよね」「ここでしかできない体験あるよね」と思っていただけるようなものがつくれるなら、本質的に社会に根付かせられるんじゃないでしょうか。
あとは、おもしろいコンテンツが生まれるサイクルをつくるのも大事だと考えています。
You TubeでいうHIKAKINのようなスターが生まれておもしろコンテンツをつくる、それを見た人が自分でもコンテンツをつくって…という、コンテンツが生まれるサイクルが回りだすと、一過性のブームではなく定着していきますよね。
今のメタバース業界のフェーズはビジネスになるかどうかわからないので、大手企業が全面的に参入するにはまだ難しいんです。一方でスタートアップなら、その領域に全力をかけられる。まさにスタートアップが戦うべきタイミングだと思います。
高野:確かに、おもしろいタイミングですね!メタバース先進国は、基本的には米国と中国になるんですか?
武井:技術的には、やはりアメリカや中国が先行していますね。ただ、文化的な側面を考えると、日本もメタバース先進国と言えるのではないかと考えています。
それこそ「サマーウォーズ」や「ソードアートオンライン」など、日本のSFアニメやSFマンガにはバーチャルの世界が描かれているものも多いんですよね。CGクリエイターもトップレベルの方が日本にはいます。
僕個人としては、メタバースやXRの領域でなら「日本発でグローバルを狙えるサービス」をつくれると思っているので、世界で戦っていける可能性を秘めた数少ない業界のひとつなんじゃないかと。
メタバース業界に転職したい!求められるものは?
高野:求人の話も聞かせてもらいたいのですが、特にどんな人が業界的に求められているのでしょうか?各社さんの求人を見ていると、ネット系の求人とゲーム系の求人が足し合わされてるような感じがしています。
武井:イメージは近いです。ゲーム系の求人に近いものだと、UnityやUnreal Engineを触れるエンジニア、MayaやBlenderを扱えるCGクリエイター、CGモデラーといったポジションは各社募集していますね。こちらは空間をつくるクリエイターの人たち。
複数人で空間や体験をリアルタイムに共有するための同期や通信部分を支えるネットワークエンジニア、バックエンド/サーバーサイドエンジニアといったポジションだと、ゲーム系だけでなくネット系出身の方も経験をいかせると思います。
ビジネス系のポジションだと、お客様に対して「バーチャル空間で何かやりましょう」というソリューション提案をすることになるので広告業界出身の人とか。弊社のようなビジネスXRやBtoB向けのソリューション開発を行っている企業だと、いわゆるSaaS系大手出身者やSIer出身という方も活躍できると考えています。
高野:ビジネス系のポジションは提案力ですね。
武井:どの会社も即戦力という意味では経験者を求めているとは思いますが、そもそも業界自体が立ち上がったばかりで経験者がいないんです。各社さん最後は「XRやメタバースが好きかどうか?」という想いや熱量にたどり着くという話をよく聞きます。
高野:やっぱり好きな人が強いっていうのは、ありますね。
武井:あると思います。マーケットが本当に成り立つかわからないフェーズなので、良くも悪くもスタートアップ感が強いんですよね。グロースフェーズになるかどうかの瀬戸際で戦っている企業は多いので、「こういう世界を自分も作りたい」という想いがないと途中で心が折れてしまうのかなと思います。
高野さんがツイートしていた「安定したベンチャー」とは真逆です(笑)
高野:そりゃそうですよ。筋肉痛にならずにマッチョになる方法なんてないですから。
僕もこういう仕事をしている中で、いつも思うんですけど、やっぱり熱中してやれるものを見つけて、仕事としてやるのがいいですよね。特に若手は、その方がいいかなと思ってるんです。
武井:新しいテクノロジーやりたいみたいな志向性の方には、ブロックチェーンやAIなどと並んでメタバースやXRもあるというのを、頭の片隅に置いていただけると嬉しいですね。
高野:Synamonは今どういう取り組みをやっているんですか?
武井:弊社はtoBに向けたサービスを提供していて、メタバースというよりはXRという切り口で事業を考えています。
ビジョンは「BE CREATIVE, MAKE FUTURE」。テクノロジーを使って社会を前に進め新しい未来をつくっていく、その中の手段のひとつとして「XRが当たり前の世界をつくる」ことにチャレンジしているんですね。インターネットやスマートフォンと同じように日常的に誰しもが当たり前にXRを使える、そんな世界を実現したいと本気で思っているメンバーが集まっています。
内閣官房でやらせていただいた堅い案件もあれば、建設業界向けのVR空間の安全研修、AR技術を活用した美術館の展示のコンテンツをお手伝いさせていただいたこともあります。
XR技術を活用したい企業は増えているのですが、自社内にはXRプロダクトを開発できたりCGを作れる人がいないケースも多いです。そういう企業に対して、技術提供やコンサルティングから入らせていただいています。
高野:なるほど。
武井:REALITYやClusterのように自社サービスでメタバースをつくっていこうという会社もあれば、「メタバースやXRを活用した取り組みをしたいが技術力がなくて困っている会社」を支援する弊社(Synamon)のようなタイプもあります。メタバースを社会に根付かせたい、XR市場を立ち上げたい・盛り上げたいという気持ちは共通しているはずなので、メタバース業界に入りたいという方は、「どういう立ち位置で自分は関わっていきたいか?」という視点で色んな会社の話を聞いてみるといいですよね。
高野:まだまだ「メタバース」の定義も含めて形が見えない状態ですけど、結局ビジネスって形が見えない中でやるのがおもしろいし、やりがいもありますもんね。
武井:メタバース・XR業界は、まだどの企業が勝つかわかりません。だからこそ、今この業界に飛び込んでくれば業界の第一人者になれる可能性がある。ちょっとでもおもしろそうと感じたら、ぜひ飛び込んできてほしいですね。