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転職活動の年収事情とベンチャー・スタートアップのリアル
今の日本では、転職がそのまま年収アップにつながることは案外多くはありません。とはいえ、転職の際に給料が上がったらいいなと考える人は多い。実際、提示された金額より「ちょっとあがらないですかね?」と思うこともしばしばですが、競合に転職する人が日本ではあまり多くありませんから、即戦力とは断言しきれず、残念ながらそれが通るケースは少ないのです。
企業の給与体系は簡単に変えられません。もちろん、先方が絶対に来てほしいと思う人材であれば、給与が高くても採用されますから、交渉の余地がまったくないわけでもありません。しかし、それは一部の例外と考えたほうがいいでしょう。とりあえずはご縁があった会社にお世話になり、その後の活躍を見て判断してもらう。会社に貢献すれば年収も上がっていくと考えるのが現実的でしょう。
目利き力を持ち成長する会社を選択肢、そこで活躍すれば転職後の年収アップはもちろん可能になります。
また、ベンチャー・スタートアップの実情としてシード・アーリー時期の会社はそもそも高い年収が出せないこともあります。それはその方の実力がないから年収が下がったのではありません。株式会社セレスの小林さんは年収3割ダウンで9人のベンチャー企業に飛び込んでいます。
小林:私は、9人目の社員として、年収3割ダウンを自ら申し出て入社しています。
高野:ベンチャー ・スタートアップは大企業ほど高い年収は出せないですよね。
小林:ここは当時の社長の交渉ががうまかったんです!(笑)。今、証券会社でもらっている給料のままでで来てくれたらいいよと言いながら、そう言った次の瞬間にセレスの直近決算ののBL・PSを見せてきたんです。
「今、会社はこんな状況なんだけど、まあ、今の給料のスライドでもいいよ。」って言ってきたって思いました(恐らくそんな気はなかったと思うんですが)。それを見たら、「ああ、すみません。今の年収の3割くらいカットで来たいです。」ってなりました。
このように、成功される方は目先の年収にこだわるのではなく、将来性のある企業を選んでいます。
また、大企業からベンチャー/スタートアップに転職する際、90%の人が陥る7つの勘違いという記事でもご紹介させて頂きましたが、挑戦するフィールドによっては以下のような考え方も念頭に置いてほしです。
勘違い⑥:大企業のプレミアム年収を自分の実力と勘違い
大企業からベンチャーへの転職の場合、ステイもありますが、即戦力でない場合に下がることが多いです。人によっては半分ですとか3分の1ということもあります。それでもなおやりたいことがある。将来は事業をやりたい。経営者になりたいなど、何らかの意志がある方が飛び込んできます。この年収に対する感覚がズレていると内定が出ませんし、そもそも転職してからとても苦労してしまうと思います。
年収交渉は可能ではあるが、根拠が必要
年収交渉が不可能と言ってる訳ではありません。例えば、「今の給料より下がるのは困る」と主張するのはアリです。現在の収入を基準に、生活しているのは理解できますから、企業側も納得します。今より低い年収を提示されたら、現在の金額を材料に交渉してください。
とはいえ、個人で交渉するのはストレスが大きいと思います。人材エージェントを使っていれば、交渉をまかせられます。複数の企業に応募され、複数の企業から内定を持っている方であれば、「御社は600万円ですが、他社の700万円の案件にも応募されています」という言い方もできます。もちろん、ウソはダメですが、事実であれば、先方も考慮するでしょう。
エージェントによって対応がさまざまですが、私は率直に伝えるようにしています。「ご紹介したEさんは御社のほかに、他社からも内定が出ています。年収提示は〇〇〇万円です。それを考慮されたうえでご判断ください」情報をすべてお伝えしたほうが、お互いとってフェアだと思うからです。
企業側も人件費に対してはシビアに見ています。金額にみあった人材かどうかがすべてです。「ぜひ採用したいが、当社で出せる金額はこれだけです」と見送りになるケースもありますし、「わかりました。がんばって出しましょう」になるかは応募者次第です。
年収アップありきで転職活動をしていた方の末路
Yさんは転職するなら、少しでも年収の高い会社に行きたいと考えていました。ところが、複数の企業の面接を受け、内定が出た企業は現在の年収とほぼ同等で、詳しく聞いてみると、各種手当てがない分、やや年収が下がってしまうことがわかりました。
人材エージェントに上乗せの交渉を依頼しましたが、先方は金額を変えるつもりはないようです。担当者からは「業績が上向きの企業だからボーナスや今後の昇給に期待したらどうですか」と言われましたが、年収ダウンで転職するのはFさんのプライドが許しません。この案件は見送ることにし、より好条件の求人に挑戦することに決めました。
その後、Yさんが断った企業は、新アプリの開発で注目され、2ケタ成長の見込みだと報道されました。2~3年後には株式公開も視野に入れているようです。Yさんは内定を蹴ったことを後悔しつつ、いまだに転職活動を続けています。
Zさんは、ルーティンワークで拘束時間の長い職場に飽き、仕事にやりがいのある企業に転職したいと考えました。将来性のある会社で、新しい仕事にチャレンジできることが第一条件でした。
内定が出た会社は、年収こそ少し下がりますが、株式公開時の利益が期待できるストックオプション付きの条件でした。目先の収入より先の楽しみがあるほうがいいと判断し、Zさんは転職しました。幸い業績がよく、入社したばかりなのに前職より多い賞与が支給されました。Zさんは予想外の収入に気をよくしています。
大事なのは会社に貢献して給料を上げたいと思われる人材になること
転職直後の収入にこだわる気持ちももちろんわかりますが、大事なのは会社に貢献して給料を上げたいと思われる人材になることです。もちろん、会社の給与水準や方針はあります。
転職後は、置かれた立場をしっかり認識することが大事です。
少なくとも次の項目は、しっかりと肝に銘じておいてください。
・なるべく早めに成果を上げて評価される
・周囲の人々とコミュニケーションをとり、こまめにホウレンソウをする
・転職したからには最低一年は頑張る
自分流を貫くのではなく、社内を観察してうまくやっている人、うまくいっている人のやり方をまねるのも有効です。
特に初めての転職の時は、前の会社のルールが世間の常識と思い込んでいることも多いので注意してください。たいていの企業は独自の方法をとっていて、転職して初めて、そのことに気づく場合もよくあります。
また、「募集背景」によっても、求められる役割が違います。欠員補充なのか、増員か、新規事業立ち上げのスタッフなのかによって、成果を上げていく方向性がある程度わかります。
例えば、欠員募集の場合は、前任者が担当していた業務をスムーズに引き継ぐことが第一です。滞っている仕事があればスピーディに処理し、通常通りのペースに戻すことが最優先になるでしょう。チームの中でどんな役割を果たすべきかの見極めが必要になります。
ルーティンワークをきっちりこなすだけでも、ある程度、評価されます。業務に十分精通した後、外部から来た人聞の視点での提案をしていけばいいでしょう。
既存のスタッフとの交代なのか、新しいポジションを担当するかで、動き方も違ってくるでしょう。自分の立ち位置をしっかりと認識してください。
新規事業の立ち上げを担当するのであれば、積極性や提案力が要求されるでしょう。
今までの経験を活かした手腕とスピード感がより問われると思います。失敗を恐れて慎重になったり、じっくり腰を落ち着けてから取り組むのではなく、最初からスパートをかけ、少しでも早く成果が出せるよう努力してください。
キープレイヤーズ高野のコメント
年収ダウンは誰しもができれば避けたいことではあると思います。しかし、目先の年収にこだわるのではなく、将来性を考えた上で判断頂きたいものです。年収ダウンのご相談を受けることありますし、エージェントとして年収ダウンの場合はできる限り交渉もしています。
転職後に昇進、昇格してCxOになった方々を多く支援してきましたが、皆さん「転職後の活躍」ができそうかどうかその点を集中してみるようにしていました。やはり結果を出せればベンチャー、スタートアップではあっという間に昇格しやすいものです。あの人に辞められたら困るとすぐになります。投資家、 VCもあの人を役員にしたら良いという意見をい言い始めるものです。
朝倉祐介さんがファイナンス思考という本の中でPL脳という言葉を使っていますが、企業だけではなく個人も目先だけではなく、中長期で考えた方が良いことが多いと思います。個人こそむしろ脱PL脳なのかもしれません。
キャリアのプライオリティは個々人によって異なります。単に年収という目先の金額にとらわれることなく、ご自身が本当に何をしたいのか向き合った上で、キャリアの意思決定をしいて頂きたいです。それが年収であっても、ご家族を大切にされることでも、好きなことを仕事にするでも、事業を作ることでもなんでもいのです。