ビズリーチ 関哲さんが語るコンサル出身者のスタートアップ転職で、気をつけるべきポイント【前半】

インタビュー          
       
       
     

株式会社ビズリーチ 執行役員 関 哲

1999年、一橋大学在学中に米国のネットベンチャー企業eグループへ入社。日本でのサービス立ち上げに関わる。 Yahoo!による買収を機に復学し、2005年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本・欧州・中東でハイテク、テレコム業界のクライアントを中心に、戦略立案、商品開発、組織改革等のプロジェクトに参画。

2012年6月、ビズリーチ入社。ビズリーチ事業のマーケティングに関わったのち、2013年からは自ら起案した新規事業「キャリトレ」の事業責任者に就任。執行役員としてビズリーチ及びキャリトレのマーケティングを統括。

2016年からは経営者・人事をターゲットとしたBtoBメディア事業「BizHint(ビズヒント)」の責任者として、日本企業の生産性を高める多様なソリューションの普及に取り組んでいる。

 

スタートアップ、戦略コンサル、再びスタートアップを経験して、コンサル志望者に伝えたいこと

高野:今回は、ビズリーチ 執行役員 関哲さんにお話をお伺いします。前回、ビズリーチ取締役 竹内真さんに「エンジニア採用の教科書&ビズリーチサービス誕生秘話」をお話し頂きました。

ビズリーチには素敵でユニークなご経歴の方が集まっていますね。本当にお話をお伺いしていて興味深いです。

 

関:弊社代表南 壮一郎ともよく話しているのですが、経営陣の中には、様々な業界やフェーズの企業での失敗や困難を乗り越えている人が多く、その結果、面白い経歴になっているんだと思います(笑)。

 

高野:そこがビズリーチさんの面白さであり、強みかなと思います!早速、関さんのご経歴をお伺いしたいと思います。

 

関:私の経歴も少し変わっていまして(笑)、大学在学中に複数のスタートアップのインターンや創業メンバーをエンジニアとして経験しています。

それから勤めていた企業が買収されたタイミングで大学に戻り、卒業後にマッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)で戦略コンサルタントとして働いてから、もう一度、インターネットの業界に戻ってきたというキャリアです。

大学は文系なんですが、元々テクノロジーやインターネットの力で世の中を良くしたいと言う思いが強く、自分のやりたいことと向き合っていたらこうなった、という感じです。

コンサル出身ですから、弊社の採用活動でも「コンサルとスタートアップで迷っている」という就活生の方や、コンサル出身で「次はスタートアップの経営陣や事業責任者にチャレンジしたい」という方とお会いすることも多いんです。今回は私自身の経験を振り返ってみて、お伝えしたいことをお話しできたらと思います。

 

高野:コンサルティング業界は学生さんにも人気ですよね。

 

関:そうですね。実際に自分のキャリアを振り返ってみて、とても良い経験をさせてもらったと思っています。一方で気になるのは、「やりたいことがみつからないから」とか、さらには「何者かになりたいからコンサル業界に行きたい」「でもスタートアップと迷っている」という学生さんが結構多いことなんです。

 

高野:確かに多いですよね。そういう方、沢山お会いします。

 

関:ただ、自分が実際にマッキンゼーで働いてみて強く感じるのは、コンサル業界って元々世の中に対する強い問題意識だったり、「ここをこうしたい」という気持ち、自分の中での「キャリアの軸」を持った方が集まっているな、ということです。

特に、マッキンゼーを卒業後に起業されたり、アカデミックの分野で活躍している方々を念頭に置くと、そういう方ほど入社前、既に一度起業されていたり、本気で研究者になろうと取り組まれていたり、元々やりたいことがあって打ち込んでいた傾向が強いですね。

人生を賭けて何かに打ち込む過程で、ふと「なるほどコンサルというキャリアもあるのか」と気づき、ひとつのステップとしてコンサル業界に足を踏み入れる。そしてプロとしてパフォーマンスを発揮しつつ、問題解決の腕を磨いていく。そんな感じなんじゃないでしょうか。

マッキンゼーには「Make Your Own McKinsey」という言葉があり、会社のバリューを理解した上で、「それじゃ自分はどうしたいのか?」と考えてリーダーシップを発揮することが推奨されます。

 

高野リクルートの「お前はどうしたいの?」という言葉にも通じますね。

 

関:そうかもしれません。「自分は世の中をどうしたいのか」、真剣に考えて問題解決に取り組むことが賞賛されます。その結果として、マッキンゼーを卒業して外部で活躍する人も「アラムナイ(卒業生)」として大切にされる文化があるんです。その点も似ているかもしれません。

要は、上から何か言われなくても自分がやりたいことがあり、リーダーシップを取れる人が大勢いる組織なんだと思います。

なので「コンサルに行けばやりたいことが見つかるのでは」という学生さんに会った際には、「コンサル業界は、やりたいこと、解決したい課題に取り組む方法は教えてくれるけど、『自分は人生を賭けて何をすべきなのか』は教えてくれないよ」とお伝えするようにしています。

 

 

「世の中をどうしたいのか?」真剣に向き合い、インターネット業界の黎明期に飛び込む

 

高野:関さんの場合はどうだったのですか?キャリアについてもう少し聞かせてください。

 

関:私の場合も、マッキンゼーの入社前から「世の中をインターネットで良くしたい」という想いがあり、色々とスキルは足りないんだけど、あちこちぶつかりながら取り組んできた感じです(笑)。

育ったのは新潟の田舎です。それこそ「家の周囲がすべて田んぼ」というような。しかし父や叔父が当時からパソコンを使っていたので、自然な流れで自分も触るようになりました。

ところが家の周辺には、パソコンショップはもちろん、大きな書店すらもない。できることは町の書店で月刊のパソコン雑誌を買ってきて、見よう見まねでプログラミングすることだったんです。新たなプログラミング言語を覚えれば覚えるほど、自分の部屋でできることが増えていく感覚は新鮮で、どんどんのめり込んでいきました。

具体的に言えば、BASICよりC言語、C言語よりはアセンブラを覚えた方が、3次元の画像が高速で動かせる、とかそんな感じです。

 

高野:私も中学生の時に、エンジニアリングを学んでいたらもっと素敵な未来があったのかも知れません…。

 

関:それじゃどうして大学は社会学部に進んだかというと、これも地方で育ったのが理由です。大きな書店や図書館など、情報源が少ない場所で育ちましたから、本が好きで新聞も隅から隅まで読むような自分にはどこか物足りなさがありました。その分、高校に入ってパソコン通信に出会って大きな衝撃を受けたんですね。

誰でも、自分の興味・関心にもとづいて、必要な情報を世界中から集めて判断ができる。インターネットの普及はまだこれから、という時期でしたが、テクノロジーとコミュニケーションが組み合わさることで、今までに無かったようなことが沢山起きるんだろうな、この分野を仕事にするのは面白そうだな、という感覚は既にありました。

それで、いずれネットを使ったメディアに関わっていけたらと思いながら、ファーストキャリアではマスコミに入って修行するのが良いんじゃないかと考えました。複雑な世の中を分析するツールとして、社会学という学問自体にも興味がありましたし。

ところが1996年に東京に出てみると、ちょうどインターネット業界のスタートアップが次々と立ち上がりつつある時期だったんです。「こんな面白いことが目の前で起きているのに、関わらないのは勿体ないな。大学行ってる場合じゃないな」という感覚でしたね(笑)。

 

高野:ちょうど「ビットバレー」が盛り上がっていた時期ですよね。

 

関:西川潔さんに出会い、ネットエイジ(現ユナイテッド)創業に関わらせていただいたり、創業直後、まだ社員6人ほどだった楽天でアルバイトさせていただいたのは良い思い出です。

それに、最初は数人で始まった事業でも、3年とか5年という短期間のうちに、世の中の誰もが知るような事業に育つんだ、という実感を持てたのは大きな財産ですね。その感覚は今でも新規事業に取り組む際の拠り所になっていると思います。

ただ当時を振り返ると本当に力不足でしたし、一方で「ああしたい、こうしたい」という想いは強く、色々な方にご迷惑もおかけしたなと思います。

 

高野:本当に貴重な経験をされていたのですね。

 

関:そんなキャリアの転機になったのは24歳の頃、当時働いていた無料グループウェアのスタートアップ「eグループ」がYahoo!に買収されたことです。

それまでは数人規模の会社、会社によっては社長以外は学生ばかりという組織もたくさん見てきたわけですが、その当時でもYahoo!には様々な分野のプロが集まりつつありました。

開発サイドであれば、情報処理系の学部や大学院を出たエンジニアがいて、ビジネスサイドには、新聞社や音楽業界の出身者など、各分野のプロがいたのです。それを目の当たりにして「自分はエンジニアとビジネスサイド、どちらで仕事をしていくべきなのか?」と、思い悩んだのが20代半ばです。

 

高野:1つのご自身のキャリアを考える契機となったのですね。

 

関:関わってきたインターネット業界が大きなものになりつつあるのは喜ばしいことでしたが、「ちょっとプログラムが書ければ学生でも歓迎」という時期が終わった時、それじゃ自分は何を強みにするんだろう?という壁にぶち当たったんです。

結局思い至ったのは、自分はやはりインターネットで世の中が大きく変わるところに立ち会いたい。インターネットを活用したビジネスを次々と考え、実現したいのだ、と言うことでした。エンジニアも経験したうえで、それを「どうビジネスに活用するのか?」、課題の設定と解決に取り組んで、新たな事業を立ち上げられる存在に成りたいと思ったのです。

そこで「卒業してどうなるかは分からないが、ひとまず大学は卒業するか」と復学しました。この時期はかなり真剣に勉強に打ち込みました。考える時間も欲しかったんでしょうね。

そうして卒業が近づき、なかなか無い機会だからと日本の大手企業も、業界問わず色々と受けまくりましたが、仕事をしていたとはいえ4年も5年も多く大学に行っていた人間に、そう簡単に内定は出ないのを痛感します。

 

高野:関さんも思い悩まれた時期があったのですね。

 

関:採用担当者にしてみれば扱いに困るんだろうな、とは思いましたが(笑)

とはいえ、自分が「これだ」と思えるキャリアは自分で意識的に作っていかないとダメだし、そうでないと標準的なパスから外れたときに行き場が無くなるんだな、と20代のうちに実感できたのは良かったと思います。今では、40代や50代でそうした壁にぶつかる人も多いですから。

 

エンジニアサイドか、ビジネスサイドか?
思い悩んだ末見つけた、マッキンゼーで働くということ

 

関:思い悩んだ結果、ゼミの同期からの誘いで何気なく説明会に参加し、楽しみながら面接を受けていたら、思いがけずオファーを頂いたのがマッキンゼーでした。新卒入社や日系大手企業からの転職先としてマッキンゼーを選択肢として考えている方にとって、こんな人間がマッキンゼーにいるのかと驚かれるかもしれしれません(笑)。

 

高野:私も正直なところ驚きました(笑)。

 

関:それまで外資系企業に対しては、合理的で高収入を求める、どちらかといえば稼ぐことにストイックな人が多いんだろうという先入観がありました。しかし、実際にマッキンゼーで働く方とお話ししてみると、かなり印象が変わったんです。

もちろん効率的に働き、インパクトを出すことに対してはストイックな方が多い。しかし興味関心が自分の利害に閉じてはおらず、既にお話ししたように「特定のテーマや分野で世の中をリードをしたい」と考える視座の高い人が集まっている印象でしたね。

逆に、自分は何者になるべきか分からないが、とにかく稼ぎたいからコンサルに行くという考えの人は少数派なんじゃないかと思いました。

実際に入社してみると、やや「寄り道」したキャリアをたどってきて、その分、限られた期間で成長したいと望んでいた自分にとって、ストレスフルだけども、凄いスピードで経験を積ませてくれるマッキンゼーは本当によい就職先でした。

 

高野:寄り道ではありませんよ!

 

関:私の場合、ビジネスサイドのキャリアという点では寄り道をしています。大学の同級生は5年先に卒業し、商社や銀行などで経験を積みつつあるなか、「どうやったら年功序列などに関係なく実力をつけられるのか」真剣に考えました。その点、マッキンゼーは最高の場所でしたね。これが私のビジネスマンとしてのキャリアのスタートです。

同時に、自分のキャリアを中長期目線で考えて、一回乗ったキャリアパスに安住するのではなく、フェーズに区切って考える姿勢、「ここ数年で何がしたいのか」考える癖もこの時についたと思います。

 

高野:過去のキャリアに胸を張れるのは最高のことですね!

 

結局のところ、新卒でコンサルに入るのはおすすめのキャリアなのか?

 

高野:スタートアップの経営者のなかには、「新卒でコンサルに行く必要はない」という方もいますよね。関さんはどういうお考えですか?

 

関:私の場合はマッキンゼーでの経験や、そこで受けた教育にとても感謝していますから、一概に「コンサルなど行かず、さっさとスタートアップに行くべきだ」とは考えていません。

ただ一つ言えるのは、私が学生だった20年前とは、スタートアップを取り巻く環境が大きく変わっていることです。大手企業以上に企業文化や人材育成を真剣に考えているスタートアップも少なくないと感じますし、学生の方に人気の高い、外資金融・外資コンサルや総合商社出身の経営陣も珍しくありません。

 

高野:私も近年、優秀なバックグラウンドの方々がスタートアップの世界に跳びこんできている印象で非常に嬉しく思っています。

 

関:外資金融・外資コンサルや総合商社などの業界に憧れを持つ学生さんにとって、出身者から直接指導を受けながら、速いスピードで責任ある立場を経験できる、そんな環境になりつつあるのではないかと思います。

ですので、単純に「スタートアップかコンサルか」という話ではなく、まずコンサル志望の学生の方に考えていただきたいのは「自分はキャリアを通じて世の中をどうしたいのか?」ということです。

 

高野:まずは何よりも自分と向き合うことが大切なのですね。

 

関:最終ゴールは曖昧でも良いので、「これかもしれない」というテーマに対して真剣に向き合った経験があり、結果的に問題解決能力などに力不足を感じているのであればコンサル業界は良い選択しかもしれません。私としては、コンサル卒業後にもう一度スタートアップに飛び込んできて欲しいですけどね(笑)

私もそうでしたが、多少周囲に迷惑をかけるくらい「自分はこうしたい」「これが課題だと思う」というテーマに対して真っ向から行動してみた方が、結局何がやりたいのか確信が持てると考えています。

 

高野:昨今はそのテーマや課題探しで悩んでいる方が多い印象です。

 

関:逆に、「これかもな」というテーマがあるが、まだ力不足を感じるほど本気で取り組んだ経験がない、という方には、「スタートアップという選択肢もあるよ」とお伝えしたいです。

戦略コンサル業界が中途採用する人も、以前は海外でMBAを取った方が中心だったのが、多様化していると感じますし、キャリアのどこかでコンサルを経験するのは、「これだ」というテーマが見つかってからでも遅くない、というか見つかってから行った方が良いんじゃないかと思っています。

そういう意味で、スタートアップ業界というのは人がうらやむようなキャリアを捨てて、何らかの課題に取り組んでいるキャリアの先輩の宝庫な訳で、飛び込んで見ても良いんじゃないかと思います。

 

高野:ありがとうございました。後編では、既にコンサルを経験して、スタートアップ業界を転職先として考えている方へのアドバイスをお願いします。

 
 
<取材・執筆・撮影>高野秀敏・田崎莉奈

執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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