セレスCFO 小林保裕さんの語る、ベンチャー転職のリアルと仮想通貨ビジネスの今後の展望

インタビュー          
       
       
     

株式会社セレス 常務取締役 兼 管理本部長 小林 保裕

1994年、早稲田大学商学部を卒業後、第一生命保険株式会社(元・第一生命保険相互会社)を経て、2004年、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(元・三菱証券株式会社)に入社。株式公開支援業務に従事。2006年、同社を退社し、同年10月、株式会社セレス取締役に就任、2017年4月、株式会社セレス常務取締役に就任。

 第一生命保険株式会社でのファーストキャリア

 

高野:私は仕事柄、様々なバックグラウンドの方とお会いしていますが、第一生命保険株式会社(元・第一生命保険相互会社)出身でベンチャー・スタートアップに参画された方は小林さんしかお会いしたことがない気がしています。

そんな小林さんのご経歴をお伺いすること非常に楽しみにしておりました。

 

小林:確かにレアかもしれませんね。

 

高野:新卒ではなぜ、第一生命保険株式会社を選ばれたのですか?

 

小林:就職生の時、3つの軸を持っていまいた。

1つ目にBtoCのビジネスに関わるということです。「何のために仕事をするのか」と考え、「仕事を通じて世の中に何らかの価値を提供したい」と決めました。

日常生活とビジネスを絡めて考えた時、鉄道や飛行機は便利ですし、音楽を聴いたり、映画を観て感動することがあります。当たり前ですがこれら全てが、誰かが仕事を通じて人間のコミュニティーに対して価値を提供しているんだと考えるようになりました。

そのため、より多くの人に直接価値を届けたいと考えるようになり、BtoBではなく、BtoCのビジネスに関わろうと考えるようになりました。

 

高野:特に学生から、BtoCのビジネスの人気は高いですよね!

 

小林:2つ目に給料の高い会社です。ただ、単にお金が欲しいという意味ではありません。

学生時代は国際貿易論のゼミに所属し、ゼミの教授から「お金とは社会に対する議決権だ」と教えられました。「自分が稼いだお金は、自分が良いと思うものに使いなさい。お金と言う議決権を行使することによって世の中を良くして行きなさい。」という意味です。

それならば、物事の良し悪しをしっかり判断できる努力をしつつ、その議決権を多く持ち、それを行使することで世の中をよくしたいと思うようになりました。

3つ目に、多様な人が集まる会社です。国際貿易論のゼミにいたので、多国籍企業にも興味がありました。

 

高野:小林さんならどこの企業からも内定ですよね。

 

小林:いえいえ、そんなこともないのですが、最終的には、外資系マーケティング会社・銀行・第一生命保険から内定を頂戴しました。最後は人、誰と働きたいかで決めました。

 

高野:やはり最後は人なんですね!人で決めましたという方が、新卒では多いですよね。

 

大企業で人事業務とベンチャー投資を経験する

 

小林:1994年の4月に第一生命保険に入社しました。トータルで約10年間お世話になっています。おおよそ前半5年間は人事業務、後半5年間はベンチャー投資を行っています。

 

高野:CFOの小林さんが人事キャリアからはじまっていることが興味深いですね。

 

小林:実はそうなんです。エリア異動の必要がない一般職という職種の従業員約5,000人の採用・異動・査定・人事制度設計などを上司と私を含めて3名で担当していました。流石にこれは激務でしたね。

 

高野:5,000人を3人で…。想像するだけで大変そうです。

 

小林:不勉強な当時の私は、人事の仕事や働き方に価値を感じることができませんでした。他部署で専門知識を蓄積しながら活躍しつつある同期と自分を比較すると自分の現状に不安が募る一方でした。

今となっては、採用をはじめとする人事業務の大切さを 痛感していますが、当時は専門知識のようなものはあまりなく誰にでもできる仕事のように思っていたのかもしれません。重要性や専門性を全く理解できておらず、お恥ずかしい限りです(笑)。

 

高野:企業の成長のためにも、人事業務は重要な立ち位置にありますが、若いうちはルーティーンワークと思ってしまいがちですよね。仕方ないことだと思います。

 

小林:そして、入社6年目を迎えるにあたり人事部長に人事部の外に出してくれと直談判をしました。何の根拠もなく株をやりたいと無理を言い、ベンチャー投資の部門に異動させていただきました。当時の人事部のスタッフの方には大変ご迷惑をおかけしたと反省していますが、この異動が叶っていなかったら今の私は無かったと思います。

 

高野:これが今のCFOのキャリアに繋がる第一歩だったのですね。

 

小林:当時、第一生命は30兆円くらいの総資産があり、そのうちの1,000億円が未上場株式での運用になっていました。その1,000億円を運用する担当者の一人としてベンチャー投資を行っていました。

2000年頃からこの仕事をしています。この時期はちょうどビットバレーのベンチャーブームの終わり頃です。このブームに乗り、ITベンチャーに投資しています。

 

高野:ベンチャーキャピタリストとしてお仕事をされていたのですね。よくベンチャーキャピタリストになりたいと言われるようになりました。最近は人気のあるお仕事ですね。

 

小林:世の中に新たな価値を提供しようとする企業を支援する仕事は、本当に楽しかったです。ただ、面白いと思えば思うほど、自分が生命保険業を生業とする保険会社からお給料をもらって、ベンチャーキャピタリストのような仕事をしていることに違和感を感じるようになりました。

そんな時期に、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(元・三菱証券株式会社)の方から「ベンチャー支援が面白くて、どうせもう保険を売る気はないだろう。今と同額の給料を出してあげるから一緒に働かないか?」とお声がけ頂きました。

神様は何でも見ているものだなぁと感じて証券会社に転職しました。

 

高野:外部から小林さんの仕事がきちんと評価されていたということですね。

 

 

 

 

 

証券会社から仕訳を一本も切ったことがない人間がCFOへ

 

 

小林:証券会社での仕事内容は、IPOを志向する企業を発掘し、主幹事証券会社を三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(元三菱証券株式会社)にして頂く営業です。いわゆる企業部で約2年間働きました。

 

高野:上場申請会社を支援する証券会社を「幹事証券会社」といい、上場時には通常4〜7社程度の幹事証券会社が関与しますね。

そのなかで中心的な役割を果たす幹事証券会社1社が「主幹事証券会社」です。この営業はかなり難易度が高かったのではないですか?

 

小林:難易度は高い仕事でしたが、新しい視点で様々なビジネスを見ることができ勉強になりましたし、本当に楽しかったです。

 

高野:その後、セレスさんに転職されましたね。どんなきっかけがあったのですか?

 

小林:証券会社に入社した時点で、次のキャリアはベンチャー・スタートアップの世界に飛び込もうと決めていたんです。

その上で、企業選びの明確な軸も持っていました。「誰と働くか」ただこれだけです。

事業内容は、全く気にせず、正直見るつもりも、あまりありませんでした。ベンチャー ・スタートアップ企業は半年もすれば、ピボットして、事業を変えることも多くあることを知っていましたので。

 

高野:社長や経営陣のお人柄に注目していたのですね。

 

小林:一緒に働く人が、「お金の面でインチキしない人か?」これが当時の私の判断基準でした。

セレスの代表・都木とのファーストコンタクトは、私が証券会社時代に主幹事証券としてIPO準備のお手伝いをしていた別の会社の監査役に都木がいたというものです。

その時は監査役と主幹事証券の担当者という関係でした。ここで初めて名刺交換をしました。都木から「実は、僕、別の会社も経営しています。」とお話こそ頂戴していましたが、その数ヶ月後に一緒に働くことになるとは考えてもいませんでした。

 

高野:そうだったんですね!

 

小林:その後、監査役と主幹事証券の担当者という関係という立場が逆転し、自分がセレスのCFO候補として面談を受けることになっていました。

代表の都木から「何やりたいの?」とお話を受け、「ベンチャー投資もして、上場準備のお手伝いやコンサル的なことも経験してきたので、次はベンチャー企業の中に入って組織を作りたい。」と話しました。

そしたら、「うちでやれば?」となり、仕訳を一本も切ったことがない人間がいきなりCFOになりました。

 

高野:なるほど。衝撃のキャリアチェンジですね。どうして、セレスに入社する意思決定ができたのですか?

 

小林:それまでの接触を通じて、代表の都木は「お金の面でインチキしない人」だと確信することができたからです。

都木はセレスを設立する前にも起業をしていました。サイバーエージェントの元同僚と3人でやっていたようです。結果的にその会社はある上場会社に売却することができ、都木は経済的に一定のリターンを得ていました。その上でセレスをスタートしていたということです。

この事実から、この人は、お金よりも自分の業界内でのレピュテーションを大切にする人だろう。お金の面ではインチキしないだろうと思いましたね。

 

高野:都木さんはシリアルアントレプレナーですね。

 

小林:そうですね。また、自分がベンチャー・スタートアップの世界に飛び込む時、自分から応募するような転職は絶対に止めようと決めていました。要は、「求められてする転職」以外は選択肢にありませんでした。

現職で自分の得意分野を極めて一生懸命仕事をしていれば、必ず誰かがそれを見たり聞いたりして、自分を欲しいなと思ってもらえるはずです。誰かから声がかかるビジネスマンになろうと決めて仕事をしていました。

 

高野:そのスタンスは素敵です。

 

小林:証券会社から転職した時も、今でもお付き合いのある部長さんからのお声がけでしたし、セレスも社長からお声がけ頂きました。

 

年収3割ダウンで9人のベンチャー企業に飛び込む

 

小林:余談ですが、プライベートでは2006年の3月に結婚し、半年後の10月にセレスに転職しています。義理の父には「詐欺だ」と言われました。

 

高野:うふふふ(笑)。

 

小林:要は、三菱という名前のついた証券会社に勤めているサラリーマンの男のところに嫁に出したはずなのに、セレスって何だそれ、9人のベンチャー企業とは何だそれ、という状態でした。

 

高野:セレスさんは今でこそ上場している大会社様ですが、その当時、義理のお父様からしたら衝撃の事実だったでしょうね。

 

小林:私は、9人目の社員として、年収3割ダウンを自ら申し出て入社しています。

 

高野:ベンチャー ・スタートアップは大企業ほど高い年収は出せないですよね。

 

小林:ここは当時の社長の交渉ががうまかったんです!(笑)。今、証券会社でもらっている給料のままでで来てくれたらいいよと言いながら、そう言った次の瞬間にセレスの直近決算ののBL・PSを見せてきたんです。

「今、会社はこんな状況なんだけど、まあ、今の給料のスライドでもいいよ。」って言ってきたって思いました(恐らくそんな気はなかったと思うんですが)。それを見たら、「ああ、すみません。今の年収の3割くらいカットで来たいです。」ってなりました。

 

高野:オープン作戦素晴らしいですね。経営者として小林さんにご活躍頂きたいからこそ、正直にお話されたのでしょうね。

 

小林:そこから12年セレスのCFOとして働いています。今となっては大企業よりもベンチャー企業にいる年数の方が長くなって来ました。

 

 

 

 

19ヶ月連続の赤字決算を乗り切って今がある

 

小林:私は、セレスに来るときに決めていたことが1つだけありました。

上場を1つのマイルストーンとし、そのマイルストーンを達成するか、会社が潰れるかのどちらかの結論を得るまでは、絶対に会社を自分からは辞めないと決めていました。

なぜ、そう思ったかというと、投資やIPO準備の仕事を通してベンチャー企業が世の中から必要とされるタイミングというのは絶対にくるんだと実感していたからです。勿論、そのタイミングがいつになるかは読めないのですが、そのタイミングがくるまではなにがなんでも会社とビジネスを残そうとしていました。また、その覚悟を持たないとVCから資金を集めることはできないと思っていました。

 

高野:強い決意ですね。

 

小林:2年後か10年後かその期間はわかりませんが、何らかの事業をやっている限り自分達のターンは必ず来る、それまで会社と組織・事業を残せる経営者がいい経営者だと思っていたので。結果、セレスは上場までに8年かかりましたが。

ベンチャーに転職して2〜3年で再度転職されるCFOの方は多いですが、仕事やポジションに対するコミットメントの高さも大切であると思っています。

 

高野:実際に大企業からベンチャー企業に転職され、苦労したことはありましたか?

 

小林:苦労ばかりでしたよ!

実は、私が入社してから19ヶ月連続で月次で赤字決算となりました。直前の本決算は数百万の黒字で締まったのに、私が入社してから19ヶ月連続で赤字決算です。

「え、これは私を雇ったからかな」と自己嫌悪に陥りましたね(笑)。この日々は、今も忘れはしません。

 

高野:入社してから19ヶ月連続で赤字決算とは、シビれる日々になりますね。

 

小林:一番の窮地は、会社の現預金残高が700万ほどになり、あと2ヶ月会社がこの状態だったら潰れるかもしれないという事態に陥った時です。

この時期は、(今だから言えますが)たくさんの方から何度もセレスを辞めろと言われましたね。

 

高野:これは代表の都木さんが 信念のもとに事業を伸ばそうとしていた姿勢の現れですよね。

 

小林:当時、都木からは個人の資金を会社へ貸付けることも検討していると言われていて(結果として実行されませんでしたが)、CFOとしてはそれだけはさせちゃいけないと気合いが入りました。

 

高野:都木さんは今風に言うとシリアルアントレプレナーですね。

 

小林:2回起業して、2回とも成功していますので。

都木は自称「引きこもり経営者」で、あまり表舞台やメディアには出ないんです。一方で、IPO前には数万人のフォロワーのいる有名ブログをひっそりと書いていましたね。

 

高野:そのブログ、心当たりがあります!昔このブログは誰が書いているのかなと、いつも疑問に思っていました。ITビジネスやファイナンスの分野で大変勉強になるブログで、今は、読めなくなってしまい残念です。

 

小林:ベンチャー・スタートアップのIPOやお金周りにまつわるような、よもやま話を面白おかしく書くのが得意な人で、界隈では有名なブロガーでしたね。シニカルでしたし、今も同じような内容を書く人は少ないかもしれません。

 

CFOの業務は仕訳を切ることから始まった

 

高野:現在、CFOのキャリアを目指している方が増えてきた印象です。

監査法人にいる会計士の方も金融業界出身の方もCFOの経験はないので、実際業務ができるのか不安に思っている方も多いです。

 

小林:それは事業会社に来てから実務を経験すればいいだけですので、不安に思われる必要はありません。私のセレス入社後、最初の2ヶ月間の業務は経理の女性の横でひたすら仕訳を切ることでした。

ひたすら仕訳を切って、間違えを指摘したりチェックの依頼をしていました。単純作業でしたが、本当に大切な経験でした。会社のビジネスと人・モノ・金の流れがすごくよく理解できたんです。

 

高野:なんと!小林さんが仕訳を切っていたのですか。

 

小林:投資銀行や金融機関出身ですと、財務諸表って読めるつもりになっていると思います。しかし、「財務諸表を作ったことのない人が財務諸表を読める訳がない」とこの仕事をすると手に取るように分かります。

都木が自身のブログの中でリアリティのある記事が書けることは当たり前なんです。彼は、自分で決算書も財務諸表も作って納税までしていましたから。

 

高野:社長はなんでもマルチにこなしてしまう方ですよね。

 

小林:本当に尊敬しています。だからこそ、私に最初の2ヶ月間は仕訳を切ってと言ったのだと思います。

例え会計士であったとしても、財務諸表をチェックすることはありますが作ったことはないと思います。財務諸表の数字がどういうプロセスを経てできているのかとか、作り手がどこの数字を見せたくないなぁと思うものなのか。これは実際に財務諸表を作るとよくわかるんです。

 

高野:自ら手を動かす覚悟感が大切ですね。このマインドがないと、未上場の会社で活躍するのは難しいい印象です。

 

小林:色々な会社の体制があるので、一概には言えませんが、自分で手を動かす覚悟でベンチャー・スタートアップに飛び込んで来ることをおすすめします。

私はたまたま、金融のバックグラウンドのある社長の下だったので共通認識があったうえで話すこともでき、少し楽させてもらいました。しかし、ファイナンスに明るくないビジネスサイドの社長ではそうじゃない人が多いと思います。

普段の会話で「トップライン」と言ってもそれが「売上」の事だとはまず伝わりませんし、「モメンタム」、「センチメント」と言った投資の現場でよく使う用語もまあ分かりません。幸い私にはこの種類のストレスがありませんでした。

 

高野:ベンチャー・スタートアップには他業種・他業界から人が集まります。特に、きっちりしている金融機関出身の方にはギャップは大きいですよね。

 

小林:特にCFOの立場で入社すれば、自分以外にケツを持つ人間がいません。そんな時は、自分が手を動かすし、いざとなったら徹夜でも何でもして自分が業務を巻き取り、自分が成し遂げる覚悟が必要ですね。

 

 

 

 

 

セレスの事業内容

 

高野:セレスさんは、「インターネットマーケティングを通じて豊かな世界を実現する」というビジョンのもと、モバイルサービス事業とフィナンシャルサービス事業を展開されていますね。

 

小林:モバイルサービス事業では、成功報酬型スマートフォンメディアとして、「モッピー」・「モバトク」・「お財布.com」のポイントメディアの運営を行うとともに、アルバイト求人サイト「モッピーバイト」やコミックサイト「チケコミ」、スマホゲーム比較サイトの「LookApp」等複数のコンテンツメディアを展開しています。

フィナンシャルサービス事業では、フィナンシャルサービスとして仮想通貨関連・スマートフォン決済・投資育成事業を展開しています。仮想通貨関連では、子会社マーキュリーにて仮想通貨取引所開設に向けた準備を行うと共に、仮想通貨のマイニングを開始しております。スマートフォン決済では、ポイント決済が可能な「POINT WALLET VISA PREPAID」を発行しております。

 

高野:今後は、フィンテックをテーマに金融的な方向性に進んでいくのですか?

 

小林:なぜ、ポイントメディアの運営をメインにやっていた会社がフィンテックの領域に進んでいるのか質問を受けることは多いです。しかし、経営側としてはこの動きには一貫性があると考えています。

ポイントサイトは、法定通貨の価値をポイントという形に変えて、インターネットに乗せたビジネスとも捉えることができます。ビジネスとしては、ポイントの付与や交換を通じてインセンティブのコントロールをしています。

仮想通貨の世界で今起こっていることもこれと非常に似ていて、財産的価値をインターネットに乗せたことが仮想通貨の実現したイノベーションであると理解しています。

 

高野:領域としては近いんですね。

 

小林:セレスは10年以上前からポイントメディアのビジネスをやってきました。そんな僕たちのすぐ隣で起こったイノベーションが仮想通貨ビジネスであると捉えています。

一見すると繋がっていないようにも見えますが、ビジネスの本質まで見ると繋がっているのです。そのような経緯もあり、現在はフィナンシャルサービス事業で仮想通貨の領域に裾野を広げています。

 

高野:仮想通貨分野については初期は投資からスタートされていますね?

 

小林:なぜ最初から自分たちで100%の事業リスクを取らないで、投資をいう形をとったのかというと、これは株主に対するアカウンティビリティーです。

今でこそ資金決済法や銀行法が改正され、仮想通貨関連事業を推進する環境が整いつつありますが、2年前は、法整備がほぼなく上場会社が取り組むこと自体が難しかったと思います。

マネーロンダリングの手先じゃないのと疑われながらビジネスをしないといけないと思ったくらいです。このリスクを上場会社が取ることはできなかったですね。

その一方、何とかして自分たちのコアビジネスのすぐ横で起こってるイノベーションにタッチしたい。じゃあ、マイノリティ出資してその会社のことを知ったり、将来的に何かビジネスを一緒にする可能性を考えていこうとなり、仮想通貨関連企業への投資を始めました。これが投資育成事業の始まりです。

 

高野:そんな背景があったのですね。

 

小林:その後、法改正や世間の理解も進んでいき、自分達でもある程度リスクをとってサービスを作ったり、100%子会社を作り金融庁へ仮想通貨業者として登録申請も行うようになりました。

 

仮想通貨ビジネスの今後の展望

 

高野:小林さんは、今後、仮想通貨ビジネスはどうなっていくとお考えですか?

小林:これはある方からお伺いした非常に面白い話なのですが、仮想通貨とIoTが繋がったとき、世の中に面白いことが起こるとおっしゃるんです。それは、今後、IPアドレスが足りなくなることが契機だと。

 

高野:IPアドレスとは、ネットワーク上にある機器を識別するための数値のことですよね。ネットワークでデータをやり取りするには、このIPアドレスを宛先として使用します。 ネットワークでいうところの住所や電話番号を指しています。

このIPアドレスが間も無く足りなくなってしまうのですね。

 

小林:はい。その方が言うには、IPアドレスが足りなくなった時、代替としてあらゆるものに仮想通貨のウォレットナンバーがふられるのではと。

そうすると、P2P(Peer to Peer)で物と物が通信をし「価値がある振る舞い(情報の提供等)」をした時、その報酬として仮想通貨が払われることが普通に起こるのではないかと言うのです。

例えば、車と車が通信して、前を走る車が後ろの車に渋滞情報を教えた結果、後ろの車が前の車のウォレットに対してお礼として0.0000001ビットコインが支払われるみたいなことがことが普通に起こるかもしれませんよね。

 

高野:新しい発想ですね。

 

小林:例えば、行政サービスになっている登記もわざわざ国に証明してもらう必要はありません。ブロックチェーンの中に書き込むことによって、取引を証明することができるようになります。

仮想通貨やその要素技術であるブロックチェーンの活用の仕方というのは、こんな形としても使われるのではないかと考えています。

 

高野:無限の可能性がありますね。

 

小林:仮想通貨は、通貨と名前がついていますが、おそらく現時点では通貨としてはあまり使われていないと思います。例えば、国内で決済手段としてビットコインがあまねく店舗で使えますという状況にはなっていません。ある意味、FXと同じで投資(投機)の対象となっているのが今の現状です。

決済手段として使われる局面がくる場合は、仮想通貨は現在とは異なる位置づけのものにになる可能性があると考えています。

 

高野:さらに大きなマーケットになりそうです。

 

小林:今、セレスはフィンテック協会にも加盟して、多くのベンチャー企業とディスカッションもしていますが、どの会社も(一部の仮想通貨取引所以外は)マネタイズに苦しんでいるように思います。この壁を超えられるか否かが、フィンテック関連の事業の今後を占う重要なファクターだと思います。

総論としては皆が支持する事業なのですが、各論である個社の話になると十分な需要を積み上げられていない等の理由で十分なお金が稼げていないというまだまだ難しい世界ですね。

 

高野:若者でブロックチェーンをやっているので投資してくださいと、お話を持ってくる人は多いです。しかし、結局ブロックチェーンで何をやっているのか定かではない会社が多いです。

でも、バリュエーションがすごく高いんですよね。どうしたらいいのかなってなります。

 

小林:私たちもそうなりますよ。仮想通貨の関連企業に十数社投資しているので、ベンチャー企業からお話を頂くことも多くなってきましたが、この企業はどんな成長の軌跡をたどるんだろうか、妥当なバリュエーションっていくらなんだろうかと考えています。

 

高野:もう少し時間をかけながら育っていく業界なのかもしれませんね。

 

小林:そうですね。マウントゴックスやコインチェックの事件も時代の徒花として語られていくとは思うのですが、そんなものも乗り越えながら業界として発展していくと思います。

特に、今後は仮想通貨を扱う企業のガバナンス能力が問われてくると思っています。

セレスも金融機関ではないですが、今はMOF担(MOF=Ministry of Finance)のように金融庁と連絡を取り合う仕事をしているメンバーもいます。

 

高野:MOF担とは、都市銀行や証券会社などの大手金融機関のミドルオフィスに所属し、大蔵省に頻繁に出入りし様々な情報を官僚から聞き出す「対大蔵省折衝担当者」の俗称ですよね。そんな世の中になって来たのですね。

 

小林:MOF担は言い過ぎかもしれませんが(笑)。いかんせん歴史や情報が十分にある業界でもないので、単純に審査するされる関係だけでなく、業界や個々のビジネスの現場の理解を深めていただけるような能動的な情報発信も必要だとは思っています。

 

高野:そんなセレスさんは、2014年10月に東京証券取引所マザーズ市場に上場され、2016年12月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更をされています。

 

後半は、「上場とCFO」をキーワードに以下の豪華コンテンツでお送りします。

・セレスを上場させてわかったこと
・上場準備で大変だったこと
・上場時のバリュエーションの考え方
・上場をゴールとせず今後の企業成長の起爆剤と考えよう
・CFOの仕事の醍醐味は上場後にある
・CFOになるには
・経営者の皆様必読!CFO採用にあたり着目すべきポイント
・ベンチャー・スタートアップの成功要因は全て測定出来ない
・セレスはこんな方を探しています

 

※後半は9月6日(木)公開予定です。

セレスCFO小林保裕さんの語る、ベンチャー上場のリアルとCFOの責務

 
 
<取材・執筆・撮影>高野秀敏・田崎莉奈

執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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