CAC(Customer Acquisition Cost)という単語を最近よく耳にするようになりました。マーケティングの用語なのですが、サブスクリプション(定期購買)ビジネスの盛り上がりとともに注目度が高まっている用語です。
最近では、多くのサブスクリプション型のビジネスを展開する企業が急増しましたよね。まだまだその勢いが止まることはなさそうです。
やはり、サブスクリプションモデルはチャーンが低ければ予実管理がしやすい。従って投資が受けやすく、東証の審査の観点からも予実管理がしやすいのは良いモデルだと感じます。
一方で特に国内を見ると、SaaSやサブスクリプションモデルの株価は高かったものの調整局面を迎えたと言えると思います。みなさんご存知の会社について検索いただくとあれ?世間で賑わっているとことと少し違うのでは?と感じるかもしれません。
今後株価としてどうなるのか?は誰もわからないところですが、昔も今も注目のビジネスモデルと言って良いでしょう。その昔はASPなんて言葉もありました。トレンドは変わる。しかし本質は変わらない。歴史は繰り返す。ということでしょうか。
今回はマーケティング用語「CAC」の意味やその計算方法について解説します。
目次
CAC(Customer Acquisition Cost)の意味とは?
CACとは顧客獲得単価のこと
CAC(Customer Acquisition Cost)を英単語にそれぞれ分解すると、
- Customer(顧客)
- Acqusition(取得・獲得)
- Cost(費用)
ということで、CACとは、顧客1人を獲得するために費やしたコストを意味する言葉です。日本語では、そのまま顧客獲得単価と呼ばれています。
サブスクリプションビジネスをはじめとする企業のサービスでは、顧客を得るために、広告費や営業人件費など、様々なコストがかかります。このようなコストをまとめてCACと呼びます。
CACとCPAの違いは?
CACとよく似た言葉に、CPAというものがあります。CPAはCost Per ActionもしくはCost Per Acquisitionの略で、意味はCACと同じく顧客獲得単価です。CACとCPAは同じ意味の用語ですが、使用される場面が異なります。
CACは、自社サービス全体のの顧客獲得単価を指す際に用いられる言葉です。一方CPAは、インターネット広告の分野で使用されることが多いです。1人の顧客獲得に必要となった広告費を表すときに、CPAというワードが用いられます。
また、CACを語る上で合わせて考えたいのが、LTV(Life Time Value)です。LTVは顧客生涯価値を意味し、1人の顧客が自社サービスに支払った金額の合計を表す言葉です。
例えば、ある顧客が自社サービスの利用を開始し、3ヶ月後に解約を行うケースを考えます。この場合、顧客にサービスを利用させるために要したコストがCAC、顧客が解約までに支払った総額がLTVとなります。
SaaSビジネスを軌道に乗せるためには、LTVがCACを上回らなければなりません。そのため、各企業はLTVとCACの改善に尽力しています。
CACの計算式
CACは以下の計算式で求められます。
CAC = (顧客を獲得するために費やしたコスト) ÷ (新規顧客獲得数)
顧客を獲得するために費やしたコストには、人件費や広告費など、顧客獲得に要した費用を全て含めます。より細かく分解すると、
CAC =(ある期間の広告費用+営業給与+代理店販売手数料+賞与+間接費用)÷ (ある期間の新規顧客獲得数)
となります。
例えば、ある一定期間にかかったコストが100万円、新規獲得顧客数が100人なら、CACは1万円です。
このように、計算式に数値を当てはめていくことで、顧客1人あたりの獲得に要したコストが明らかになります。
正しい事業判断のためのペイドCACという考え方
これまでに紹介したCACを扱う際に、気をつけるべきことがあります。それは、新規獲得顧客数の中に、その期間のプロモーション活動の成果ではなく、これまでの営業活動の結果、自然流入する顧客が含まれることです。
ある期間のキャンペーンの効果を正しく測るためには、全体の新規顧客獲得数から、自然獲得した顧客を除く必要があります。これによって導かれるCACをペイドCACと呼びます。反対に、自然獲得できた顧客の獲得コストをオーガニックCACと呼びます。
ペイドCAC = (ある期間の広告費用+営業給与+代理店販売手数料+賞与+間接費用)÷ (ある期間の新規顧客獲得数 – オーガニックでの新規顧客獲得数)
これで、ある期間に新しく投下した予算の顧客獲得効率を正しく見れるようになります。もちろん、オーガニックでの獲得も想定して事業を進めると思いますが、マーケティングやセールスの獲得効率を議論する際は、活動の影響度が見えやすい「ペイドCAC」を指標に置くことをおすすめします。
12月に上場したfreeeの例
目論見書から読み解く、企業のCACと回収期間
freeeの新規上場時の目論見書から、顧客獲得にかかった費用の内訳を見てみましょう。
まず、2020年第1四半期の新規有料ユーザーの増加数は (2020年第1四半期末) – (2020年第4四半期末) = 161,904 – 154,026 = 7,878(社)となっています。
一方で獲得コストを見てみると、
販管費一般管理費の合計が1,678,310,000円、そのうち、営業・マーケティングにかかった費用は856,527,000円となっています。
そこから考えると、
CAC = (顧客を獲得するために要した費用) ÷ (新規顧客獲得数) = 856,527,000 ÷ 7,878 = 108,723
freeeの2020年第1四半期におけるCACは108,703円と言えます。
また、freeeは目論見書内で、ある期間に平均して顧客から得られる売上、ARPU(Average Revenue Per User)にも言及しており、
2020年第1四半期末における年間ARPUは35,669円のため、月間ARPUは12ヶ月で割った2,972.416……円となります。
(回収期間) = (獲得にかかった費用) ÷ (月間ARPU) = 36.57058……
となるため、ユーザーが37ヶ月継続利用することで、顧客獲得の投資回収ができることがわかります。
なお、CACの回収期間はもちろん短い方がいいのですが、6~12ヶ月が目安とされています。freeeはその3倍以上になりますので、今は顧客獲得のために大きな投資をしていることがわかりますね。
SaaSビジネスが継続成長するかを測る基準(LTV/CAC > 3)に照らし合わせる
ちなみに、ARPUは解約を考慮に入れていないので、実際には解約率を考慮した数値で考える必要があります。そのときに用いられる指標がLTVです。
BtoBのSaaSビジネスにおいては、顧客の生涯価値(LTV)をCACで割った数値(LTV/CAC)が3を超えると、今のまま顧客獲得を継続することで事業を健全に運営することができると一般的に言われています。数式で表すと、
LTV / CAC > 3 となります。
こちらもfreeeの目論見書の数値から計算できるので、実際に計算してみましょう。
(LTV) = (月間ARPU)× (Average User Lifetime)で、
(Average User Lifetime) = 1/(月次解約率)で表すことができます。
freeeの場合、月次解約率は2%を下回っているとのことです。ここでは簡略化のために、月次解約率を2%と仮定します。
すると、
LTV = 2,972.416 × 1/2% = 148,620.8 となります。
LTV/CAC = 148,620 / 108,703 =1.367218……
となります。冒頭に述べたLTV / CAC > 3 という基準に照らし合わせると、freeeはその基準を下回っているということになります。(実際には、もう少し解約率が低いはずですので、数値の差は小さくなります。)
いずれにせよ、これからも継続成長に向けてCACを下げる、もしくはLTVを上げる取り組みが必要、ということになりそうです。上場することで、知名度・信頼性の向上も見込めますので、今後の改善に注目ですね。
LTV/CAC>3という数字の根拠については、以下の記事で説明しているので、興味のある方はご覧ください。
ユニットエコノミクスとは?SaaSビジネスを理解する上で重要な用語/計算式を徹底解説!
最後に
今回のCACに限らず、用語を正しく理解することで、ビジネスの現状をより正確に把握することができます。
業績を高める上ではもちろん、転職の際も正しく指標を理解して説明することが求められますので、自社でよく使う指標は確実に理解しておくようにしましょう。