ユニットエコノミクスとは?SaaSビジネスを理解する上で重要な用語/計算式を徹底解説!

コラム          
       
       
     

こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職のサポートをしているキープレイヤーズの高野です。

SaaS企業のスタートアップにおいて、ユニットエコノミクスは欠かすことのできない数値です。今転職市場ではSaaS企業が一番人気です。自分も投資家をしておりますがSaaS企業に投資をし続けております。

投資家による投資判断の材料としても使われ、その企業がこのまま事業を続けて良いものなのかが一目でわかるほど、とてもわかりやすい数値となっています。

とはいえ、

・ユニットエコノミクスという言葉自体初めて聞いた・・・。
・計算方法も良し悪しの基準も分からないよ・・・。

という方も多いかと思います。まだまだ馴染みのある言葉ではないので、無理はありません。

この記事では、ユニットエコノミクスの言葉の意味から計算方法、実際の企業の事例まで取り上げ、理解を深めていただければと思います。

ユニットエコノミクスの意味とは?

SaaS企業をはじめとしたスタートアップで重要視されるユニットエコノミクスは、どのような働きをするものなのでしょうか?

ユニットエコノミクスとは単位当たりの経済性のこと

単純に単語に変換してみると、

・Unit・・・単位

・Economics・・・経済

ということで、Unit Economics(ユニットエコノミクス)は「単位あたりの経済」を表す単語だとわかります。

このままだと馴染みが薄いので、SaaS事業だと「1ユーザーあたりの経済性」と言い換えられることが多いですね。

この経済性が高い状態、つまりユニットエコノミクスの指標が高い状態が続いている企業は、展開している事業をそのまま続けたとしても安定した経営を行なっていけると捉えることができます。

後述の計算式等でユニットエコノミクスを算出することで、その数値をもとに、サービスや事業の軌道修正や方向性維持も行なっていくことができるのです。

なぜ1ユーザー当たりの経済性に焦点を当てるのか?

SaaS企業のスタートアップにおいて、ユーザー数は一つの注目すべき指標ですよね。ですが、ユーザー数が増加しているのに、なかなか事業の業績が伸びないという状況になることがあるのです。

極端な話、広告を出しまくれば、ユーザー数は増えますよね。

広告を出してもユーザーがつかないサービスもあるので、ユーザーがつくのはポジティブなことですが、サービスとしての収益性のよさを判断するには物足りないわけです。

しかし、ここで単位当たりの経済性の指標であるユニットエコノミクスを用いると、経営判断に活きる形で収益状況を把握できます。

ユニットエコノミクスは、ユーザー一人一人の獲得費用や月間収益の平均等を計算に用いて導き出すため、「いつまで赤字を受け入れてユーザー獲得を続けられるか」「黒字転換するために改善しやすい指標はどこか」などがわかるようになります。

もちろん投資家としても、1ユーザー当たりの収益性が高い状況であれば、投資しやすいですよね。

1ユーザー当たりで収益が上げられる見込みが立つのであれば、広告費に資金投下してサービスを急拡大させることなども考えられるようになるわけです。

限界利益との違い

ユニットエコノミクスと合わせて考えられる言葉で、昔から使われている、限界利益という言葉があります。

限界利益とは、売上高から変動費を引いた利益のことです。

数量に関わらず掛かる固定費とは異なり、変動費とは営業量・稼働量に比例してかかる費用のことです。

売上高から、数量を増やすために追加でかかった変動費を差し引くことで、数量を増やすことで新たに得られた利益を求めることができます。

変動費が高く、固定費が低い状態だと、収益化を早めに図ることも可能ですが、数量を増やしても利益が上がりにくいです。

つまり、ある時点でのユニットエコノミクスの状態がよくても、今後利益が伸びやすい状態かというと、必ずしもそうではありません。

反対に、初期投資が莫大にかかり、固定費が高いビジネスでも、変動費が低ければ、損益分岐点さえ超えられれば大きな収益を上げやすくなります。

投資家はこうしたバランスを見ながら、ユーザー数が伸びなくても一定の収益を上げられるビジネスなのか、ユーザー数を増やしていくと一気に収益が伸びるビジネスなのか、などを判断しています。

単位当たりの経済性「ユニットエコノミクス」と、数量を増やしたときの利益貢献性「限界利益」両方とも押さえておきましょう。

ユニットエコノミクスの計算方法とは?

ユニットエコノミクスがどのようなものかを理解したところで、ここからは数値を求めるための計算方法について解説していきましょう。

ユニットエコノミクスの計算式~LTVとCACから考える~

実際の計算式は以下の通りです。

ユニットエコノミクス = LTV(Life Time Value = 顧客生涯価値)÷ CAC(Customer Acquisition Cost = 顧客獲得コスト)

顧客生涯価値を顧客獲得コストで割った数値がユニットエコノミクスになります。

では、ここで出てくる顧客生涯価値と顧客獲得コストについても見ていきましょう。

顧客生涯価値(LTV)

LTVとはユーザーがそのサービスを使っていく時に、企業へもたらされる利益を示したものになります。

このLTVを求める際にはいくつかの方法がありますが、一番単純な式が以下のものです。

LTV = 1ユーザーの月間利益の平均 ÷ 解約率

出た数字が高いほど、ユーザーから得られる利益が大きいことがわかります。

顧客獲得コスト(CAC)

続いて顧客獲得コストです。この顧客獲得コストは、自社サービスを利用してもらうために1ユーザーへかけたコストがいくらかを表したものになります。

計算式は次の通り。

CAC = ユーザー獲得コスト(全体値) ÷ 新規顧客獲得数

ユーザー獲得コストの部分には、営業コストや広告宣伝費などが当たり、新規ユーザー獲得のためのアプローチを行なった際にかかった費用を合算して計算する形です。

CACについては下記の記事でも解説しています。

CAC(Customer Acquisition Cost)とは?重要なマーケティング用語を徹底解説!

これらのLTVとCACの数値を元に、ユニットエコノミクスは計算されます。

企業のユニットエコノミクスの計算例

ここからは実際の企業においての数値を元に、ユニットエコノミクスがどれくらいになるのかを具体的に捉えていきましょう。

Sansanの場合

AI名刺管理サービスとして小規模の会社から大企業まで、多数の企業の導入実績があるSansan。

このSansanが公表している2020年5月期 第1四半期決算情報は以下の通りでした。

  • 売上高:2,848百万円
  • 営業利益:1,264百万円
  • 契約当たりの月次売上高:約156,000円
  • 月次解約率:0.63%
  • 2020年5月期 第1四半期末契約数:6,032件
  • 2019年5月期末契約数:5,823件

引用元:2020年5月期 第1四半期 決算説明資料 より

詳細部分が出ていない部分もあるため大まかな数値となりますが、このデータを元に計算すると

LTV=156,000÷0.63%= 24,761,905*

CAC=(2,848,000,000−1,264,000,000)÷ (6,032−5,823)=7,578,947*

ユニットエコノミクス(LTV/CAC)=24,761,905÷7,578,947=3.267…..

よって、Sansanの場合、ユニットエコノミクスは約3.267と算出されます。

*小数点以下四捨五入

ユニットエコノミクス3倍の法則/KPIはLTVがCACの3倍を越える(LTV/CAC>3になる)こと

こうして算出されるユニットコストですが、一般的には「LTV/CAC>3」、つまりLTVがCACの3倍以上になっている状態だと良好だと一般的に言われています。

先に挙げたSansanが高い評価を受けている所以でもありますね。

LTV/CAC>3という数値の根拠について

この数字の根拠については、LayerXの福島さんがご自身の理解をツイートしてくださっていたので、引用してご紹介いたします。

この営業利益率が30-50%というのは、SaaSビジネスにおいても高い水準だと思うので、この辺りは福島さんの目線の高さかもしれません。

また、他にもブラッド・フェルド氏のブログに登場した、「健全なSaaS企業の40%ルール」も参考になります。やはり顧客獲得を優先している状態では、販管費が増えるので営業利益率がマイナスになることも多いんですよね。そこで、健全な成長ができているかを確認するために、売上成長率(%)+営業利益率(%)が40%を超えているか、を見ようという意見ですね。

成長過程にある企業で、営業利益率がマイナスでも売上成長率が高い場合においては、LTV/CACが3を下回っていても見込みがあるビジネスとして評価されることもあります。私が投資する際も、ユニットエコノミクスに加えて、MRRやTAM/SAM/SOMなどアッパーがどれくらいあるのか、といったことを複合的に見ています。

MRRとは?サブスクリプションビジネスにおいて欠かせない指標とその計算式について徹底解説!

TAM/SAM/SOMそれぞれの読み方は?英語の意味から分析方法まで紹介!

最後に

今回もSaaS企業において欠かすことのできないユニットエコノミクスについて解説をしてきました。

特にスタートアップやベンチャーにとって、ユニットエコノミクスは必須の指標ともいえます。

ぜひ今回の内容を改めて確認しながら、実際の場面で活用してみてください。

キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップへの転職のサポートを実施しています。

執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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