アッテル代表 塚本鋭 氏が語る人事領域におけるデータ活用の現状と展望

インタビュー          
       
       
     

代表取締役社長 塚本 鋭 氏の経歴

東京大学・大学院において、機械学習(AI)や大規模シミュレーションに関する研究に従事。人工知能学会研究会優秀賞・東京大学工学系研究科長賞(総代)等を受賞。 大学院修了後、株式会社野村総合研究所にコンサルタントとして入社し、ICT・メディア領域を担当。2013年1月より株式会社クラウドワークスに8番目の社員として参画し、2014年12月の上場を牽引。プラットフォーム事業のデータ分析・産官学連携を主担当すると共に、B2B事業責任者、カスタマーサポート部門責任者、子会社副社長等を歴任。2018年に株式会社トランス(現アッテル)を設立。

株式会社アッテル

「データ×AIで未来を予測し、HR戦略の意思決定を客観的に」というコンセプトのもと、採用候補者の入社後活躍・早期退職を見極めるTRANS.HRを運営しています。

株式会社アッテル創業までのストーリー

ある種打算的に研究に打ち込んだ学生時代

高野:本日はよろしくお願いします!

塚本さんは東京大学大学院を総代として卒業されていますね。やはり学生時代からバリバリ過ごされたのでしょうか?

塚本:いえ、典型的な意識低い系の学生でしたね(笑)。ビジネスはおろか就職活動にも興味がなかったです。本当にそんな感じで大学院まで過ごしました。世のご活躍されているCxOの方のイメージからは程遠いかもしれません・・・。

高野:あ、そういう感じだったんですね?総代と聞くと、意識高く学内外問わず優れた成績を残した方が選ばれるものと思っておりました。塚本さんも例に漏れないかと。

塚本:大学院の総代はほぼ研究結果だけで判断されるので、「権威ある学会や学術誌にどれだけ論文を通すことができるか」が重要な指標でした。

一般的には、在学中に満足のいく研究結果が出ないことも多々あるので、1本出せたらいい方です。私の場合、幸いにも国内紙と海外紙2本ずつ論文を出すことができたので、選んでいただけたのだと思います。

高野:ちなみに、論文を出すというのはどうしたらよいものなのでしょうか。

塚本:権威ある論文誌に、有意な研究結果だと認められ掲載される必要があります。
Science、Natureなどが最も権威があるとされています。出せば掲載してもらえるような論文誌も一部あるのですが、多くの論文誌はよい内容でないと掲載されません。

高野:やはり、研究にはやはり力を入れていたのでしょうか。

塚本:大学院在学中は、かなりがっつり研究をしましたね。ただ、正直これは打算的なところもありました。

金銭的にすごく恵まれた家庭で育ったわけではなかったので、奨学金免除を狙っていたんです。在学中の成績を鑑みて、100人に3人くらいの割合で半額が免除になり、100人に1人ほどの割合で全額免除になるんです。

それが研究に打ち込んだ理由の一つでもあります。

高野:狙って実現しているのがすごいです・・・。多くの方は、思うように論文を通せなかったり、免除まで取れなかったり、だと思うので。

塚本:もちろん周囲の協力や運もあってのことです。ただ、意識や取り組み方は違ったかもしれません。毎日のように奨学金が掲示されるボードを見ていたくらいですから。そこまでやっている方も多くないので、実は奨学金は出せば通るというようなものもありました。

ここだけの話、6年間で返済不要の奨学金を500~600万円もらったと思うので、それはしっかり研究で返せたらという思いもありましたね。

高野:さすがのやりきり力ですね。

一時はベンチャーに興味を持ちつつもシンクタンクに就職

高野:ここまでの話だと、今いらっしゃるHR Techやベンチャー・スタートアップの領域とは離れた場所のような気がします。どんなきっかけで今に至るのでしょうか。

塚本:学部3年生くらいのときに、授業でベンチャー企業について学ぶ機会はあったので、存在は知っていました。・・・当時は本当にそれくらいの認識でした、すみません(笑)。

ベンチャー企業も面白いなと思ったのですが、ちょうと同じくらいに研究も面白くなったので、先ほどのような研究生活を送っていたんです。

ただ、大学院を卒業するタイミングで、研究室の先輩のすすめもあり、野村総合研究所で働くことを決めました。

高野:研究の道ではなく、シンクタンクを選ばれたんですね。データサイエンスの領域で理系を積極的に採用しているイメージもありますが、研究で培ったものはやはり活かせるのでしょうか。

塚本:直接、知識が活きることは少なかったですね(笑)。ただ、論理的思考力はかなり培われたと思いますし、スキル的な面でいうと、マクロを書くような業務・仕事はNRIにいるときから、よく集まってきましたね。

そうして働いている中で、クラウドワークスの吉田社長と出会いました。目指す世界観や会社の持つ問題意識に共感したこともあり、8名目の社員として転職しました。

高野:塚本さんはクラウドワークス急成長の礎を作った人物と言っても過言ではないと思っています。

塚本:社員数が8名から200名になるまでの6年間、やりきったという感覚はありましたね。カスタマーサポートやB2B事業の立ち上げをしたり、大阪に行って子会社のPMIをしたりと様々な業務に携わらせていただきました。

採用に関わって感じた人事領域の非効率性

高野:そこから、現在のTRANSの立ち上げに至った経緯どういったものだったのでしょうか?

塚本:クラウドワークスでは、主に事業側の責任者をやっていて、採用も担当しておりました。このとき、自分がよいと思って採用しても入社後思ったように結果が出ない、という方も中にはいらっしゃいました。これはお互いにとって不幸だと感じましたが、すぐに改善することが難しかったんです。そこで抱いた問題意識が今も根底にあります。

高野:塚本さんはどういった点に問題意識を感じたのでしょうか?

塚本:経営は過去データなどを元にした客観的な数字で主に意思決定をしますよね?それに対して、採用領域ではかなり主観的に意思決定されている。数値化しているとしても、その指標が入社後活躍する人材に当てはまるのかは分からない。

これでは入社後活躍する人材の採用には繋がらないですよね。そこで、客観的な意思決定をするためにデータ分析が活用できないかと思いました。

独立したいという願望は特になかったのですが、経営×データ、採用×データの領域で自分にフィットすると思う場所がなかったため、起業したというのがアッテル創業の経緯です。

日本における入社後活躍の現状

50年近く形式の変わらない適性検査

高野:大学新卒の30%強は3年以内に離職している、という厚生労働省の調査結果は、私が人材業界に進んだ約20年前からほぼ変わってないという現状もあります。

塚本:はい。離職理由の”本音”を聞いたとされる調査では、4割弱の方が「会社・上司とのミスマッチ」という風に回答されています。

それにも関わらず、依然として属人性の高い面接が主な選考方法です。面接時のチェック項目もさほど変わっていません。

適性検査に至っては、日本で使われ始めてから50年近く、基本的な形式は変わっていません。本当にその会社で活躍・定着できる人材の見極め・採用に役立っているのか、という検証データもほぼ公開されていない状態です。

望ましい結果が出ていないにも関わらず、時代・環境に応じた手法が取られていないことが問題ですよね。

高野:確かに・・・。なぜ対策が行われていないのでしょうか?

塚本:入社後のデータを追うインセンティブがある事業者がない、というのが大きいと思います。日本は求人広告や人材エージェントの市場が大きいですが、この2つは入社後活躍のデータを追う短期的・直接的なメリットがありません。

高野:私は20年以上エージェント業を営んでいますが、たくさんの企業が生まれてはなくなっていったので、短期的なキャッシュフローを追う状態の企業も多かったのかもしれないですね・・・。

データはあっても活用できる状態にない

塚本:もちろん、企業側にも課題があります。
人材に対して採用の質と育成に分けたときに、育成により多くのお金を払っている企業が多いです。先ほど、選考過程が主観的で属人的なものになっているとお話しましたが、それを育成でカバーしようという発想だと思います。

また、大手企業は採用担当者と育成担当者が別で、システムも分かれていることが多いです。そのため、入社前のデータと入社後のデータが繋げられないということは、お問い合わせいただく中でも発生しています。

また、すでにデータがあり、システムに蓄積されているという会社でも、ばらばらのエクセルシートに記載されているだけ、ということも少なくないです。

このように採用領域においては、事業者側がデータをとる短期的なメリットがないこと、企業側で入社前と入社後のデータを結び付ける仕組みができていないことから、効果的な改善策が打てていないと考えています。

高野:言われてみれば、そういった現状はあるかもしれません。

塚本:実際に採用前と入社後のデータを初めて比較した時に、正解率の低さに驚きました。面接官のトレーニングを行うことによって、採用精度を高めることは一定可能であるようにも思います。

ただ、一般的な面接では入社後評価の14%しか説明できない、という研究結果も出ています。面接だけでは「見極めの精度」を「組織として再現性のある形」で十分に上げることが難しいことも多いです。

そこで、採用の意思決定をサポートするために、「TRANS.HR」を開発しました。

TRANS.HRについて

高野:TRANS.HRはどういったサービスなのでしょうか。

塚本:人と企業のミスマッチを減らすために適性検査・分析サービスです。入社前の選考段階から、すでに働いている従業員まで使用していただけます。

高野:ユーザーはどういった流れで使用できるのでしょうか。

塚本:まずは業績貢献度が高い人を定量的に示せるようになることが重要です。定量的に基準を示せるようになると、採用における合否の判断や従業員の教育、人材配置などの議論の材料になります。

全体の大まかな流れとしては、まず従業員の方に適性検査を受けていただき、そのデータをもとに弊社で独自の予測モデルを構築、分析結果をお渡しするという流れです。

社長やCHROがオペレーションさえ整えれば分析できる体制に

高野:従業員の適性検査については、まず検査をうけてもらうのが大変だという声もよく聞きます。

塚本:そうですね、思うように進まないということもあります。ただ、優秀な人材確保についてはかなり悩んでいるという企業が多いです。重要度が高い割に緊急度が低く感じてしまい、後回しになっている企業が多く、その結果が今だとも思っています。

そのため、長期的な目線をもって物事を進められる、社長さんや人事部長さんが先頭に立って、このオペレーションを組むことができている企業様は円滑に進むことが多いですね。

高野:やはり、先陣を切って進める方がいないと思う通りに進みづらいですよね。

塚本:そうですね。また、社長さんが先頭に立ったとしてもデータを回収してまとめることまでお客様にやってもらうとなると、よほどオペレーションが素晴らしい会社でないと思うように進まないです。

そのため、収集できたデータをそのまま弊社までお送りいただくことで、お客様の負荷を下げる場合もあります。後はそのデータから、ハイパフォーマーやローパフォーマー、早期退職者の傾向の分析まで弊社で行い、結果をお渡しする流れであれば、負荷を小さくできると思いますので。

ハイパフォーマーの人物像を定量的に示せるようにする

高野:なるほど。採用の場ではいかがでしょうか?
採用フローに組み込むのは比較的容易なので、適性検査を受けてもらうこと自体は難しくないですよね。

塚本:採用の場合は、できる人がほしいという漠然とした希望はあるが、「そもそも誰がハイパフォーマーか」「できる人とはどういう人か」というのが自分でも分かっていないという企業様が多いです。また、分かっているつもりでも、裏付けがないこともあります。

これは、従業員のデータが取れていないことの弊害ですね。

高野:適性検査を取っている企業はたくさんあると思うのですが、これはなぜ改善されないのでしょうか。

塚本:人事領域では他の領域に比べて、「事実をデータで確認する」という習慣が弱い気がしています。適性検査を受けても、その結果が自社の場合にどうなのか、ということを確認している企業はほとんどいらっしゃらないですね。

「ストレス耐性が高い方がいい」と一概には言えない

高野:ストレス耐性が高い方が欲しい、ということは、大小問わずかなり多くの企業様に言われます。

塚本:では、ストレス耐性を例にお話ししてみましょう。
ストレス耐性が高い人=やめにくく、結果が出るまで頑張れる人、という認識があるかもしれませんが、実は必ずしもそうではないです。

職種を例にあげると、敏感である人ほどストレス耐性が低く出ることが多いのですが、活躍しているエンジニアの方は敏感な方が多いです。また、細かいことを気にせずに、チーム開発のルールを守らないエンジニアがいると、チーム全体の生産性が落ちることもあります。

でも、数をこなす営業はストレス耐性が高い方がいいでしょ?と思う方もいるかもしれませんが、これも一概には言えません。新しいビジネスモデルが生まれたり、今のカスタマーサクセスのような役割が生まれたりする中で、営業の扱う商材や役割も変化してきています。

こういった事情を踏まえて、適性検査の結果を自社を取り巻く環境に当てはめて分析できている企業はかなり少ないように思いますね。

高野:一時期話題になったレファレンスサービスも、ストレス耐性が高い方がいい、という考え方で見るのは同様に危険かもしれないですね。

塚本:はい。一応、過去の事実が有用なことは色々な統計で出てはいます。
ただ、自社に入社した際にどのように働くか分かりませんし、レファレンスの内容自体、第三者が悪いことをいうメリットがないので、悪いことが表に出づらい側面があると思います。

地頭がいい人が欲しい、というのも同様ですね。
学歴で見るなども聞いたことがありますが、地頭とはなにか、きちんと考える必要があります。こういったことを一つひとつ突き詰めて考えていくことが大切ですが、ちょっと考えてみよう、という状態で止まってしまうケースが多いですね。

そのため、弊社のサービスの場合、「適性検査さえ受けてくれれば、データを蓄積して分析しますよ」というような形で、少ない負荷で定量的に欲しい人材を明確にする支援ができればと考えています。

高野:たしかに、欲しい人材を聞いても、言語化・定量化できていない企業様もいらっしゃいますね。

塚本:そうですよね。
そのようなそもそも言語化できていない、というケースもあれば、社長と現場の求める人材像が異なり、思うように採用できないという企業様もいらっしゃいますよね。

こういったことも、活躍する可能性が高い人を定量的に示すことができれば、共通の基準が明確になり、改善できると考えています。そのためには、まずデータを集めることが第一です。

株式会社アッテルの今後の展望について

複数の会社間で比較できるようにし、社会全体の最適配置を

高野:TRANS.HRの分析結果が候補者の採用や従業員のリテンションに活用できるとなれば、従業員のデータを取る優先度も上がりそうですね。

塚本:はい、データ活用で結果が出たという事例をどんどん増やしていきたいですね。

また、自社で活躍・定着する人材を定量化できる会社が増えれば、複数の会社間で比較ができるようになると考えています。例えば、ある求職者がいたときに、AとB社どちらの方が活躍できる可能性が高いのかを、定量的に予測する、といった具合です。

このように、求職者が就職先を選ぶ際に、定量的な基準をもとに、「自身がもっとも活躍できるであろう会社」を選択できるようになれば、社会全体の生産性の向上に寄与できると考えています。

高野:そうした客観的なデータを意思決定の材料にできるようになることは、求職者にとってかなりプラスですね。

集まったデータでさらに分析精度を向上させる

高野:現在は、どういった企業が利用されているのでしょうか。

塚本:業種に限らず、100~1000人規模の成長している企業様、現状ではIT系・人材系の企業様のご利用が特に多くなっていますね。

また現在、100名様未満の企業様向けに、会社横断で使える予測モデルも新規開発しており、こちらも少しずつ利用ユーザーが増え始めています。

高野:実際に結果も出始めているのでしょうか。

塚本:通常の面接に加えて、弊社で分析したデータを活用して、入社後評価の50%~70%を予測することが可能になっています。また、価値観のミスマッチによる早期退職者も、高い精度で予測することも可能です。

この精度も、今後データが蓄積されていけばさらに高めていける予定です。

高野:すでにかなり高い精度で分析ができるようになっているんですね。
競合しているサービスや企業はあるのでしょうか。

塚本:既存の適性検査は50種類とは競合することになりますね。ただ、TRANS.HRでも活用させていただくので、ある種の協業でもある存在です。

いわゆるピープルアナリティクスサービスはまだ日本にあまり浸透していないので、競合は少ないですね。

弊社の場合、データをさらに蓄積して精度を高めていきたいこともあり、低額で高い精度の検査・分析ができることが強みです。

人事の領域を皮切りに、経営の意思決定におけるデータ活用を推進

高野:では、まず検査や分析の精度をさらに高めていくというのが、今後の基本的な方針でしょうか。

塚本:基本的にはそうですね。

今はようやく第一弾のプロダクトをリリースして、ピープルアナリティクスサービスが提供ができるようになった状態。
まずは検査や分析の精度はより高くし、結果をもっと簡単に理解できる仕様にしていくことで、より多くの現場の方にうまくご活用いただけるようにしていきたいですね。

また、TRANS.HRは入り口として主観的に意思決定されていることが多い人事の領域から課題解決を目指していますが、まだまだ再現性を高められる分野があると思います。

まずは、経営の四大資源の中でもデータが少なく、研究されていない領域ということでHRを選びましたが、ゆくゆくはあらゆる経営の意思決定で、データを正しく活用できる状態を作っていきたいですね。

キープレイヤーズ高野コメント

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執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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