「私はなぜスタートアップに失敗したのか?」舘俊男さんが語る解散に至った要因

インタビュー コラム          
       
       
     

こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職のサポートをしているキープレイヤーズの高野です。

今回は、キープレイヤーズ版「敗軍の将、兵を語る」です。

スタートアップが解散した際に、解散した理由などにはなかなか触れられないですよね。しかし、それがスタートアップの成功確率を上げるためには共有財産にしていくことも必要だと思い、取材させていただきました。

今回は、先日チャットノベルの解散を発表された舘俊男さんにお話を伺いたいと思います。

舘さんは奈良県の名門、西大和高校のご出身で、卒業後は東京大学に進学されています。そして性格も良い方です。その舘さんが起業して解散することになったというのは、学ぶべきことが多くあるのではないかと考えています。

取材依頼したところ、自分の経験が誰かの役に立てるのであれば、とご承諾いただきました。ありがとうございます!

彼自身きっと再チャレンジして成功されるのではないかと思います。ただ、それだけでなく今後のスタートアップ領域全体を盛り上げていければということで、皆さんも参考にしていただければ幸いです。

それでは、本編に入ります。

舘俊男さん

奈良県西大和高校を卒業後、東京大学法学部に進学。大学1年生のときから、Candleで長期インターンシップとして参画。Candleが売却された後、大学3年生で起業。複数のアプリ・サービスを立ち上げた経験を持つ。

創業までの経緯

高野:本日はご承諾くださり、ありがとうございます。踏み込んだテーマで話しづらいところもあると思いますが、よろしくお願いいたします。

舘:自分でもnoteで公開しているので、問題ないです(笑)。自分の経験が少しでも誰かの役に立てば幸いです。よろしくお願いします。

高野:まず、チャットノベルを創業した経緯からお伺いできますか?舘さんは学生起業されていますよね。

舘:はい。創業のきっかけは株主にもなっていただいた、松山太河さんに「起業しなよ」と言っていただけたことです。Twitterで知り合ってお茶をしたときのことですね。

元々、大学1年生の頃から、当時Candleという会社でインターンをしていたので、ビジネスは比較的身近にあったほうだと思います。

2年生までCandleで活動していたのですが、そのCandleはクルーズに売却されることになりました。

じゃあ何をやろうかとなっていた大学3年生のときに、起業して今に至るという流れです。一応、今も大学6年生ですね(笑)。

高野:TANPさん含め、Candle出身で起業されている方は多いですよね。チャットノベルで勝負していこうとなったのは、どういった経緯だったのでしょうか?

舘:起業してすぐは、Q&Aアプリを作りました。しかし、これがうまく行かず、次に出会い系アプリを始めたのですが、これも不発でした。

そんなときに、起業時から投資・支援してくれていた中川綾太郎さんのnewnで昔作ったアプリがチャットノベルの原型でした。

他事業との兼ね合いでアプリ自体は放置していたそうですが、数値は悪くなかったのでやってみる?ということで譲渡してもらったのが今のチャットノベルです。

高野:なるほど。調達の際は、ベンチマークのような会社の時価総額などを元に考えることも多いと思うのですが、そういった会社もあったのでしょうか?

舘:はい、漫画アプリやノベルゲーム・乙女ゲームなどで、成功している会社はありました。

チャットノベルでは、ユーザーへのサブスクリプション(定期課金)で主に売上を上げていますが、周辺の領域の漫画アプリでは、1年で400億円ほど売上を上げている会社もありました。

もちろん、チャット小説となると少し文脈が変わるので、それを織り込む必要はありました。ただ、それも含めて十分に資金を投下できれば行ける、という状態ではあったと思っています。

解散に至った要因〜振り返ると必要だったこと〜

ゴールから逆算した資金調達の実施

高野:もっとグロースさせていくために何が必要だったと考えていますか?

舘:まず、資金調達ですね。CHAT NOVELにおいては3000万くらい資金調達したのですが、もう少しうまく調達したかったというのが正直なところです。

前述のように、一定の市場がありそうなことは見えていたのですが、それがうまく示せなかったことで、思うように調達ができませんでした。

例えば、漫画アプリに寄せていくのか、ノベルゲームに寄せていくのか、などで見え方も変わったと思います。この辺りをうまく方向性を決めて説明ができなかったですね。

また、1回資金調達が終わっても、またすぐに次の資金調達について考えないといけない。でも、事業もその間に伸ばして、市場があることをトラクションなどで示さないといけない。

これがうまく両立できなかったので、大変でした。

資金調達状況と事業特性に合わせた戦略の見直し

高野:なるほど、調達した資金投下についてはいかがでしょうか?

舘:調達できたお金に合わせて、もう少し戦略を見直すべきだったと思っています。正直、ちゃんとコンテンツ投下するには、初回の調達では金額が足りなかったですね。

まず、iOSアプリ自体開発費用が高くなりやすいんですよね。Webエンジニアは増えてきていますが、iOSアプリエンジニアはまだまだ希少で開発の単価も高いことが多いです。

チャット小説アプリはそれに加えて、小説コンテンツを作成するコスト、そして広告費と、一定の額の初期投資が必要な事業でした。

例えば、チャットノベルであれば、コンテンツ投下するコストは1本2万円ほど、それに広告で集客したコスト、そして編集部の人件費といったところが発生する費用となっていました。

単純な設計の甘さだったのですが、コンテンツ制作費と広告費の投資回収はCPAでみると問題なくできていたんです。ただ、編集部の人件費なども含めたCACでみると、もう少しコストダウンが必要だったんですね。

じゃあ、コンテンツの費用を下げて、広告を踏む余地を増やし黒字化を狙おう、という選択肢などもあったかな、と思います。

高野:資金調達回りをするのは大変で、いざ調達できたと思ったら、すぐ次の調達について考えないといけない。でもサービスも伸ばさないといけない。むしろ調達する前より忙しくなるような感覚もありますよね。

自分の得意なことが活かせる領域・市場の選定

高野:スタートアップの成功確率を大きく左右すると言われる、市場選定についてはいかがでしょうか?

舘:まずは、iOSアプリサービスを運営するために、これだけ潤沢な資金が必要なであることを理解しておく必要がありました。

開発費は前述のとおりですが、アプリは集客コストも高くなりやすいんですよね。YouTubeやInstagramといったプラットフォームであれば、良いコンテンツを出していけば集客ができます。

一方で、アプリは一度獲得できればリテンションには強いですが、それまで集客の費用がかかり続けます。アプリ単体のコンテンツの質が良くても、バイラルしない限りは広告費用がかかり続けてしまうんですよね。

この点が、初期投資として重く、回収できない可能性もある中で進まないといけないというのが難しかったですね。

そして、もう1点、自分の得意なことがキーファクターになる領域で起業すべきということですね。

メディア運営ならマーケティング、SaaSなら営業・CSのように事業の肝となるポイントがありますよね。

アプリ、特にチャット小説の場合、アプリの開発力・プロダクトの力が成長のドライバーになる領域だと振り返っています。私も開発も初期などは分からないながらも携わっていましたが、他の人より秀でている得意なことではありませんでした。

そのため、いざというときに「自分が手を動かせば前に進む」という状況を作れなかったのが、事業としても精神的にもきつかったですね。

高野:やはりそうしたプレッシャーは大きかったのでしょうか?

舘:お金が減っていく中で、思うように売上が伸ばせていないというのは、やはり一番のプレッシャーになりましたね。

これは勉強不足だったのですが、社会保険料などの仕組みも当初は理解できていなかったので、想像以上に口座残高の減りが早くて驚いたこともありました。

高野:創業直後は、わからないことだらけで、思いがけない出費も膨らみやすいですよね。

うまくいかないときも前に進むための環境整備

高野:その他に、こうした点は創業して早い段階に固めるべきだった、という点はありますか?

舘:事前に役割分担を考えて、経営陣を固めるべきだったと思いますね。

立ち上げのときに、どんな経営陣を揃えるかをあまり考えずに、一人でやり始めてしまった部分が大きかったです。結果、一人で抱え込んでしまい、迷ったときに悪循環に陥ってしまいました。

調達や事業がうまくいかないと、この問題をどうにかしなきゃとどんどん視野狭窄の状態になっていくんですよね。

例えば、事業の進め方も、大きなトラクションがあるまではブレがちです。その辺りを複数人の目を通してブレなく進むためにも、経営陣でどんな役割分担をするのかは重要だと思います。

知識・経験という面でも、すぐに事業の相談ができる人がいなかったのは大変です。学生起業家あるあるなのかもしれないですが、知り合いの多くは学生になるので、事業の作り方、マネタイズの方法などに詳しい人が周囲にあまりいませんでした。

他にも、給料の相場が分からないなど、知識や経験がないことで時間がかかってしまうことがいくつかありました。

高野:確かに、学生起業家としての戦い方は難しいかもしれませんね。リブセンス村上さんやメタップス佐藤さんもそうですが、BtoBで巨額の費用がかからずに売上が立ちやすい事業が多かったように思います。

その点、チャットノベルはファイナンス型の事業立ち上げになりますもんね。

舘:そうですね。

良質な小説コンテンツを作るのも文才のある人材に依頼することが必要だったりするので、なかなかコンテンツ制作費用を縮減しづらいなど、課題は多くありました。

ただ、きちんと資金投下をすれば、まだまだ伸びる余地のあるサービスだとも思っているので、今は事業譲渡する先の企業様を探しています。

高野:なるほど。

よくある例なのですが、スタートアップを閉じるときもいきなり閉じる方が多いんですよね。そうではなく、事業を買収したいニーズはあるので、舘さんのように譲渡先を探すといいですよね。

せっかく立ち上げた事業なので、事業を有効活用してもらえる企業があるのであれば譲渡するということは、起業家の皆さんに頭に入れておいてほしいことの一つです。

ゴールからの逆算と自分に合ったスタートを

舘:やっぱりそうした知識は学生生活を送っていても情報が入らないですが、知っているか知らないかで大きな差が出てきてしまいますよね。

学校の勉強は、勉強すべき範囲が決まっていて、それをしっかり勉強すれば点数がとれますが、企業経営はそうはいかないですね。

高野:勉強と経営は違うな、という印象でしょうか?

舘:そうですね。

開発やマーケティングなど、何か一つの領域に特化してスペシャリストになるというのであれば、学校の勉強に似た部分はあると思います。

ただ、会社経営になるとかなり変数が多いので、そのまま応用するのは難しかったと感じています。

高野:最後に、これから起業しようとしている方へのメッセージはありますか?

舘:私がメッセージを送るのは恐縮ですが、エクイティで調達するのが適した事業なのか、自己資金でやっていくのが適した事業なのかは、最初に十分に戦略を練るべきだと思います。

また、そもそもエクイティで調達するのが適切なのか、ゴールはM&Aに設定するのかIPOに設定するのか、十分に考えを深める前にエクイティで調達をしてしまった部分がありました。

例えば、1億でM&Aするなら、WebメディアでSEOを頑張れば到達できる可能性がありますよね。IPOをするなら、もっと大きくて東証が評価しやすい事業をやったほうがいいですよね。

そういったゴールから逆算できていなかったため、意思決定の軸が曖昧なまま進んでしまったのも、解散することになった大きな要因の一つだと考えています。

自己資金の少ない学生起業でも、SEOやWeb制作、新卒の人材事業などから始めるのは、無理なく始められて自分の強みを活かせるのではないかと思います。

反面、いわゆる赤字を掘った後に収益化していくJカーブ型のスタートアップをすると、資金調達合戦になり、難しいです。一部例外はあり、正解はありませんが、難易度は高いと思います。

私も今回の経験を元に、絶対に再チャレンジしたいと考えています。今回の経験が誰かの役に立てば幸いです。

高野:ご協力いただき、ありがとうございました!

チャットノベルの事業買収も検討したいという企業様がいらっしゃいましたら、ぜひ舘さんまでご連絡くださいませ。

メールアドレス:info@chatnovel.jp
Twitter:@noritama241

キープレイヤーズでは、これからベンチャー・スタートアップを起業したい、転職したいという方の相談をいつでも承っています。お気軽にご連絡ください!

 

執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、5社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。149社上場支援実績あり。55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。
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