フィンテック(FinTech)業界転職完全ガイド【2026年最新】市場規模・企業別年収相場・職種別スキル・未経験からのなり方・キャリアパスを高野秀敏が徹底解説

執筆者:高野秀敏
株式会社キープレイヤーズ/代表取締役
東北大→インテリジェンス出身。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、7社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。165社上場支援実績あり。バングラデシュで不動産会社、商業銀行の設立からの株主、渋谷のバーのオーナーなど。

こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職を約25年サポートしているキープレイヤーズの高野です。

今回は、この10年で「実験的な新興領域」から「金融インフラそのもの」へと立場が変わった領域、フィンテック(FinTech)業界への転職ガイドをまとめました。

この記事はもともと、フリーランス・中小企業向けの請求書買取(ファクタリング)と請求書受領サービスを手がけるペイトナー株式会社と、代表取締役CEOの阪井優さんをご紹介する記事でした。阪井さんは1989年に大阪府堺市でお生まれになり、大阪教育大学を卒業後、新卒でNTTドコモにエンジニアとして入社。その後、電子決済ベンチャーのコイニー(現・STORES)で営業を経験し、2019年2月にyup株式会社を創業、のちに社名をペイトナーへ変更された方です。学生時代のアルバイト先で聞いた「請求書を送ってから入金まで長すぎて資金繰りが苦しい」という町工場の社長の言葉が、創業の原点になっています。

私がこの記事を最初に書いた2023年時点では、同社の累計調達額は25億円、従業員は業務委託・インターンを含めて80名という規模でした。それが2026年の今どうなっているか。2025年7月に総額53億円を調達し、さらに2025年12月にはみずほ銀行をアレンジャーとするシンジケートローンで27億円を追加調達。ファクタリングの累計申込件数は50万件を超えています。エクイティだけでなく、メガバンクがアレンジするシンジケートローンで大型のデットが付くという段階まで来ました。「金融機関からお金を借りて、金融サービスを提供する会社」になったということです。これはフィンテックのスタートアップにとって、事業モデルが金融業界から信認されたことを意味する、非常に大きな節目です。

そして同じような変化が、決済、法人カード、経費精算、レンディング、資産運用、ステーブルコイン、保険といった隣接領域で同時多発的に起きています。この記事では、1社の紹介にとどめず、フィンテック業界全体の転職市場を、市場規模・セグメント・企業別の実態・職種別年収・未経験からの入り方・失敗パターンまで、私が現場で見てきた実感を交えて一気に解説します。

目次

フィンテック業界の市場規模と2026年の現在地

まず数字から入ります。「フィンテックはもう成熟したのでは」と聞かれることが増えましたが、日本に限って言えばまったくそんなことはありません。むしろ法人領域はこれからです。

指標 数値 注記
日本のフィンテック市場規模 2025年 約105億USドル → 2034年 約326億USドル CAGR約13%。円換算で概ね1.5兆円→4.8兆円規模
世界のフィンテック市場規模 2025年 約1.85兆USドル → 2032年 約3.53兆USドル 成熟しつつも二桁成長が続く見通し
個人決済 vs 法人決済の市場 個人 約281兆円 / 法人 約1,000兆円 法人決済のデジタル化率は米国比で大きく遅れ、最大の伸びしろ
資金調達環境(2026年1〜3月期) 件数は762件と近年最低水準 件数は絞られる一方、成長後期の企業に資金が集中する二極化
LayerX(バクラク) 2026年1月末に全社ARR100億円到達 従業員は2025年1月390名→2026年1月582名。2025年9月にシリーズBで150億円調達
UPSIDER 累計取扱高5,000億円 2024年11月にエクイティ55億円+デット99億円=総額154億円。10万社以上が利用
ペイトナー 2025年7月に53億円、同年12月に27億円(シンジケートローン) ファクタリング累計申込は50万件超
JPYC(日本円ステーブルコイン) 2026年5月末時点で累計発行額30億円超、口座数1.9万件 2025年8月に資金移動業者登録、同年10月に正式発行開始
Finatextホールディングス 売上高 2022年3月期27.2億円 → 2025年3月期77億円 3年で約2.8倍。2025年3月期に純利益で初の黒字転換

この表で一番見ていただきたいのは、「資金調達の件数は減っているのに、個社の規模は明確に大きくなっている」という点です。2026年1〜3月期のフィンテック領域の調達件数は近年最低水準でした。にもかかわらず、LayerXはARR100億円を超え、UPSIDERは累計取扱高5,000億円を超え、ペイトナーはメガバンクからシンジケートローンを引いている。

つまり業界全体としては「選別」の局面に入っています。転職者にとって、これは悪い話ではありません。むしろ「どこでもいいから伸びている会社」という選び方ができなくなった分、企業選びの目を持っている人だけが得をする市場になったということです。この見極め方は後半で詳しく書きます。ベンチャー転職全般の考え方はベンチャー転職 完全ガイドにまとめていますので、あわせて読んでみてください。

フィンテック業界の7セグメントと主要プレイヤー

「フィンテックに転職したい」というご相談を受けるとき、私が最初に必ず聞くのは「フィンテックのどこですか」です。というのも、同じフィンテックでも、決済とレンディングと資産運用では、求められるスキルも、働き方も、年収の付き方もまるで違うからです。

セグメント 主なプレイヤー ビジネスモデル 転職者に求められる中心スキル
決済・キャッシュレス PayPay、楽天ペイ、Opn(旧Omise)、Squareジャパン、ROBOT PAYMENT、コイニー系(STORES) 決済手数料。取扱高(GMV)がKPI 高トラフィック基盤の開発、加盟店開拓、不正検知
法人カード・支出管理(BSM) UPSIDER、LayerX(バクラク)、マネーフォワード、TOKIUM、Sansan(Bill One) SaaS+インターチェンジ収益のハイブリッド SaaS開発、与信設計、エンタープライズ営業
レンディング・ファクタリング ペイトナー、Crezit、Fivot、H.I.F.、各種オンラインレンダー 与信スプレッド・買取手数料 与信モデリング、データサイエンス、債権管理、法務
会計・バックオフィスSaaS freee、マネーフォワード、Uniforce、TOKIUM、Loglass、DIGGLE SaaSサブスクリプション SaaSプロダクト開発、会計ドメイン知識、CS
資産運用・証券・組込型金融 Finatext、ウェルスナビ、お金のデザイン、SBI系、各種BaaS事業者 預かり資産手数料、システム提供料 金融商品知識、証券システム、API設計
暗号資産・ステーブルコイン・Web3金融 JPYC、bitFlyer、Coincheck、Progmat、各種信託型SC発行体 取引手数料、発行・運用収益 ブロックチェーン、資金決済法、AML/CFT
保険テック(InsurTech) justInCase、hokan、Finatext系、大手保険会社のDX部門 保険料・システム提供料 アクチュアリー、保険業法、データ分析

このうち保険領域については独立したガイドを用意していますので、保険テック(InsurTech)業界転職完全ガイドもあわせてご覧ください。会計・税務まわりの専門職キャリアについては士業DX・会計税務テック業界転職完全ガイドで詳しく扱っています。

2026年に伸びているのは「法人向け」と「組込型」

私が日々ご相談を受けている実感として、2026年の採用意欲が明確に高いのは、法人向け(BtoB)と組込型金融(Embedded Finance)の2つです。理由はシンプルで、個人向け決済はすでにPayPayをはじめとする大手の寡占が進み、新規参入の余地が小さくなった一方、法人決済は約1,000兆円という巨大市場でありながらデジタル化が進んでいないからです。

LayerXが1年で従業員を390名から582名へ、つまり年間で約200名増やしているのは象徴的です。同社の主力であるバクラクは請求書受取・経費精算・法人カードといった「法人のお金の流れ」を丸ごと押さえに行っており、そこにAIエージェントを載せて伸ばしています。UPSIDERも法人カードから支払い代行へと横展開し、累計取扱高5,000億円を超えました。

もう一つ、2026年に効いてきているのがステーブルコインです。JPYCが2025年8月に資金移動業者として登録され、同年10月に正式発行を開始。2026年5月末で累計発行額30億円超と、規模としてはまだ小さいものの、「日本円のステーブルコインが法的にクリーンな形で流通し始めた」という事実は非常に大きい。ここは今後2〜3年で採用が一気に立ち上がる可能性が高い領域だと見ています。

フィンテック業界の職種別・年収相場と必要スキル

ここが一番知りたい方が多いところだと思います。私が実際に見ている求人レンジをベースに、職種ごとの実勢をまとめました。あくまでフィンテック企業(スタートアップ〜上場SaaS)のレンジであり、メガバンクや大手証券の金融DX部門はまた別の水準になります。

職種 年収レンジ 主な必要スキル 未経験参入
バックエンドエンジニア(決済・勘定系) 600万〜1,300万円 Go/Java/Kotlin、分散システム、冪等性設計、監査ログ ○(Web系からの転身が最も多い)
SRE・インフラエンジニア 650万〜1,400万円 クラウド、可用性設計、障害対応、セキュリティ統制 ○(金融知識は入社後で間に合う)
データサイエンティスト(与信・不正検知) 650万〜1,500万円 Python、統計モデリング、機械学習、A/Bテスト ◎(金融知識より分析力が優先される)
プロダクトマネージャー(PdM) 700万〜1,500万円 金融ドメイン理解、規制と体験の両立、要件定義 △(SaaSのPdM経験があれば可)
コンプライアンス・法務(金商法・資金決済法) 600万〜1,400万円 資金決済法、貸金業法、金商法、当局折衝、AML/CFT △(金融機関・法律事務所出身が主流)
リスク管理・与信企画 600万〜1,300万円 信用リスク管理、債権管理、統計、回収オペ設計 △(消費者金融・銀行出身が強い)
エンタープライズセールス 600万〜1,500万円(インセンティブ含む) 大手法人開拓、稟議設計、金融機関との協業提案 ◎(無形商材の法人営業経験が直結)
カスタマーサクセス 500万〜900万円 オンボーディング設計、解約防止、業務理解 ◎(業界未経験からの参入が最も多い)
経営企画・ファイナンス・CFO候補 800万〜2,000万円 資金調達(エクイティ+デット)、IPO準備、規制対応 △(証券・監査法人・銀行出身が中心)
マーケティング・グロース 550万〜1,100万円 toB/toCのCAC設計、広告運用、コンテンツ、CRM

参考までに、上場企業の平均年収を見ておくと、マネーフォワードが約711万円(平均年齢34.0歳)、freeeが約716万円、Finatextホールディングスが約703万円という水準です。「30代前半で700万円前後が業界の中央値、そこから専門性で1,000万円を超えていく」というのが実態に近い感覚です。

年収の交渉やストックオプションを含めた報酬パッケージ全体の考え方については、年収・手取りガイドで詳しく解説しています。特にフィンテックのスタートアップはSOの設計が会社ごとに大きく違うので、オファー時に必ず確認してください。

フィンテックならではの「加点スキル」

同じエンジニアでも、フィンテックで評価が跳ね上がるスキルがあります。私が見ている限り、以下の3つは明確に年収差になって表れます。

  • お金を扱うシステムの設計経験:二重決済を起こさない冪等性設計、整合性を担保する会計仕訳の実装、監査に耐えるログ設計。これらは「一度でも本番でやったことがあるか」で評価が全く違います
  • 規制を理解した上でプロダクトを作れる:資金決済法・貸金業法・金商法のどれに触れるかを理解し、「法務がNGと言う前に自分で論点を出せる」人材は極端に少なく、PdMとして重宝されます
  • 与信・不正検知のモデリング:ペイトナーのようなレンディング系企業では、与信精度が事業の生命線です。ここを担えるデータサイエンティストは1,500万円クラスでも取り合いになります

フィンテック転職のメリット・デメリット

いい面だけを書いても仕方がないので、率直に両面を書きます。

メリット

  • 社会インフラを作っている手応えが大きい:決済が止まればお店が回らない、ファクタリングが止まればフリーランスの生活が回らない。自分の仕事が誰の何を助けているかが極めて見えやすい業界です
  • 金融ドメイン知識という「つぶしの効く資産」が残る:資金決済法や与信の実務知識は、他業界のSaaSでは得られない希少資産になります。40代以降のキャリアで効いてきます
  • 報酬水準が高い:他のSaaS領域と比べても、同じ職位で50万〜150万円ほど高いオファーが出やすい傾向があります
  • デットも含めた資金調達力がある企業が多い:金融事業はデットファイナンスと相性がよく、エクイティ環境が悪い時期でも資金を引ける会社が一定数あります。これは雇用の安定性に直結します

デメリット

  • 規制リスクが事業を直撃する:後述しますが、ファクタリングや給与前払いは規制動向次第で事業モデルの変更を迫られる可能性があります。「規制が変わったら終わる」事業に賭けるのはリスクです
  • 障害の重みが違う:ECサイトが1時間止まるのと、決済が1時間止まるのはインパクトが桁違いです。オンコール体制や品質要求の厳しさは覚悟が必要です
  • 監査・内部統制の負荷が重い:「作って出す」までのスピードは、一般的なWebサービスより明らかに遅くなります。スピード重視の方はストレスを感じるかもしれません
  • 資金調達が絞られている局面である:2026年1〜3月期の調達件数は近年最低水準でした。ミドルステージで足踏みしている企業は少なくありません

フィンテック業界に向いている人・向いていない人

向いている人 向いていない人
細部の正確さに責任を持てる(1円のズレを放置できない) 「だいたい動けばいい」で進めたいタイプ
制約条件の中で最適解を考えるのが好き 規制やルールを「邪魔なもの」としか捉えられない
数字・データで意思決定する習慣がある 感覚と勢いだけで進めたい
金融の仕組みそのものに知的興味がある プロダクトのUIだけに興味がある
長期戦を許容できる(成果が出るまで年単位) 短期で目に見える成果がないと持たない
金融機関・当局とのコミュニケーションを厭わない 大企業や役所とのやり取りが極端に苦手

身も蓋もない言い方をすると、フィンテックは「まじめな人」が勝つ業界です。派手なグロースハックよりも、地味で正確な積み上げが評価されます。私が見てきた中で、フィンテックで長く活躍している方は、例外なく細かいところに神経が行き届く方でした。

未経験からフィンテック業界に転職する5ステップ

ステップ1:セグメントを1つに絞る

「フィンテック志望」では通りません。決済なのか、法人カード・支出管理なのか、レンディングなのか、資産運用なのか。まずここを決めます。決め方のコツは「自分の前職の知識が一番効くところ」を選ぶことです。経理経験があるなら会計SaaS、消費者金融や銀行の融資部門にいたならレンディング、証券会社出身なら資産運用系、という具合です。

ステップ2:規制の全体像だけ頭に入れる

細かい条文を覚える必要はありません。ただし「資金決済法」「貸金業法」「金融商品取引法」「犯収法(AML/CFT)」の4つが、それぞれ何を規制しているかは説明できるようにしてください。面接で「うちのサービスはどの法律の下で運営されていると思いますか」と聞かれるケースは実際にあります。ここを答えられるだけで、他の候補者と明確に差がつきます。

ステップ3:入りやすい職種から入る

未経験からの参入難易度が低い順に並べると、カスタマーサクセス → マーケティング → エンタープライズセールス → データサイエンティスト → エンジニア → PdM → コンプライアンスという順になります。特にカスタマーサクセスとセールスは、業界知識より「顧客の業務を理解できるか」が重視されるため、異業種からの参入が最も多いポジションです。カスタマーサクセス転職完全ガイドもあわせてご覧ください。

ステップ4:ターゲット企業の「収益源」を言語化する

面接で最も差がつくのは、「その会社がどこで儲けているか」を自分の言葉で説明できるかです。たとえば法人カード事業なら、収益の中心はインターチェンジフィー(加盟店手数料の一部)です。SaaSの月額課金だけを見て「サブスクモデルですよね」と答えると、理解が浅いことがすぐ露呈します。IR資料や決算説明資料は必ず読み込んでください。

ステップ5:エージェントを使い分ける

フィンテックは求人の多くが非公開です。特にコンプライアンスやリスク管理といった専門職は、公開求人にはまず出てきません。金融領域に強いエージェントと、スタートアップに強いエージェントの両方を使うのが定石です。詳しくは転職エージェント選び方ガイドにまとめました。

年代別・フィンテック転職の戦い方

20代:とにかく事業の伸びている場所に入る

20代で最も重要なのは「何をやるか」より「伸びている船に乗るか」です。伸びている会社では、若くてもポジションが空きます。LayerXのように1年で200名増える会社なら、入社2年目でマネージャーになる方も出てきます。逆に停滞している会社では、どれだけ優秀でもポジションは空きません。20代のうちは、業界研究より「その会社のARRとその成長率」を見てください。

30代:専門性を1本立てる

30代は、金融ドメイン×何かの掛け算を作る時期です。金融×データサイエンス、金融×プロダクトマネジメント、金融×エンタープライズセールス。どれか1本、「この領域なら誰にも負けない」と言える軸を作ると、40代以降の選択肢が一気に広がります。逆にここで「なんでもやってきました」になってしまうと、年収の伸びが止まります。

40代:マネジメントか、規制対応の専門家か

40代は二択です。組織を率いる側に回るか、コンプライアンス・リスク管理といった年齢が武器になる専門職に振り切るか。フィンテック業界は、当局対応や監査対応の経験がある40代・50代を本気で欲しがっています。ここは若さが通用しない領域なので、金融機関でキャリアを積んできた方には大きなチャンスです。年代ごとの動き方は年齢別転職ガイドで詳しく解説しています。

50代:金融機関での経験が最も高く売れる

50代でスタートアップというと驚かれるかもしれませんが、フィンテックに限っては現実的です。メガバンク、証券会社、保険会社で規制対応や与信を長年やってきた方は、スタートアップにとって喉から手が出るほど欲しい人材です。実際、CFOやCROとして50代の方が入社されるケースを私も何度も見ています。CXO転職ガイドもあわせてご覧ください。

フィンテック転職でよくある失敗パターン7つ

1. 規制リスクを見ずに入社する

これが最大の落とし穴です。たとえば給与ファクタリングは、最高裁の判断で「実質的に貸付けにあたり、貸金業法上の貸付けに該当する」とされました。一方、給与前払いサービスは、金融庁のグレーゾーン解消制度で「労働基準法上の賃金の前払い制度であり、貸金業には相当しない」と整理されています。似た見た目のサービスでも、法的な立ち位置が正反対なのです。

事業者向けファクタリングについても、金融庁は「経済的に貸付けと同様の機能を有するものは貸金業に該当するおそれがある」と注意喚起しており、登録制の導入も継続的に議論されています。入社前に必ず「御社のサービスはどの法律の下で、どういう整理で運営されていますか」と質問してください。まともな会社なら明確に答えられます。答えに詰まる会社は避けたほうがいい。

2. 調達額の大きさだけで会社を選ぶ

調達額は「過去に評価された金額」であって、今の健全性ではありません。見るべきはランウェイ(資金が持つ期間)ユニットエコノミクスです。特に2026年は調達件数が絞られている局面なので、「前回調達から2年以上経っていて、次の調達目処が立っていない」会社は要注意です。面接で率直に聞いてかまいません。

3. 「金融未経験だから」と遠慮して応募しない

逆です。フィンテック企業の多くは金融出身者が足りているどころか、Web/SaaS出身者を欲しがっています。金融の常識に染まっていない人が入ることでプロダクトが良くなる、という考え方が主流です。応募しないのが一番もったいない。

4. 障害対応の重さを事前に確認しない

決済や送金を扱う会社では、深夜の障害対応が発生します。オンコール体制の有無、頻度、手当の有無は必ず確認してください。「そういうものだと思っていた」で入社して、半年で疲弊してしまう方を何人も見ています。

5. スピード感のギャップを甘く見る

一般的なWebサービスなら1週間でリリースできる改修が、フィンテックでは法務レビューと監査対応で1ヶ月かかることがあります。これは「その会社が遅い」のではなく、「業界としてそうなっている」のです。ここを理解せずに入ると、必ず不満が溜まります。

6. ストックオプションの条件を確認しない

行使価格、ベスティング期間、退職時の扱い、税制適格かどうか。ここを確認せずにオファーを受けると、後で「実質的に価値がなかった」ということが起こり得ます。ベンチャー転職 失敗・後悔ガイドに、この手の後悔事例を詳しくまとめています。

7. 「フィンテック」という言葉に酔ってしまう

これは私が一番心配していることでもあります。フィンテックという言葉には華やかな響きがありますが、実際の仕事の中身は地道な突合作業、細かい仕様確認、法務との調整です。カタカナの響きではなく、実際の1日の業務内容を面接で具体的に聞いてください。

企業選びのチェックポイント

私がご相談を受けたときに、必ず確認するようお伝えしている観点をまとめます。

観点 確認すること 危険信号
ライセンス・法的整理 資金移動業・貸金業・第二種金商業などの登録有無 「グレーだけど大丈夫」という説明が出てくる
収益構造 手数料率、粗利率、収益の集中度 売上の大半が1社・1商品に依存
ユニットエコノミクス CAC回収期間、貸倒率、解約率 数字を出せない/答えを濁す
資金の厚み 直近調達時期、ランウェイ、デット調達の可否 前回調達から2年超で次の目処なし
組織の安定性 直近1年の従業員数推移、経営陣の入れ替わり 短期間で幹部が複数名退職している
プロダクトの参入障壁 データ資産、規制ライセンス、乗り換えコスト 大手が本気を出したら数ヶ月で追いつける

特にデットを引けるかどうかは、フィンテック企業を見るときの隠れた重要指標です。ペイトナーがみずほ銀行アレンジのシンジケートローンで27億円を引けたということは、銀行が同社の与信モデルと債権の質を審査した上でOKを出したということです。エクイティの調達額より、こちらのほうが事業の実態を映していることがあります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 金融業界の経験がなくてもフィンテックに転職できますか?

できます。むしろエンジニア、データサイエンティスト、カスタマーサクセス、マーケティングといった職種では、Web/SaaS業界出身者のほうが歓迎されるケースが多いです。逆にコンプライアンス、リスク管理、当局対応といった職種は、金融機関での実務経験がほぼ必須になります。

Q2. フィンテック業界の年収は本当に高いのですか?

他のSaaS領域と比べると、同じ職位で50万〜150万円ほど高いオファーが出やすい傾向があります。上場企業の平均年収でも、マネーフォワード約711万円、freee約716万円、Finatext約703万円と、日本の平均を大きく上回ります。ただし「フィンテックだから高い」のではなく、要求される専門性が高いから高いのだと理解してください。

Q3. 銀行や証券会社から転職する場合、年収は下がりますか?

ケースバイケースですが、30代前半までは同水準か微増、40代以降は一時的に下がることがあるというのが実感です。ただしストックオプションを含めた総額では逆転するケースも多い。目先の基本給だけで判断せず、報酬パッケージ全体で比較してください。

Q4. どのくらいの規模の会社を選ぶべきですか?

私は「今の自分の実力より、少しだけ大きい船」をおすすめしています。シード期は自走力が求められ、上場企業は組織力が求められます。従業員50〜300名くらいのシリーズB〜Cの企業は、裁量と組織の両方が得られるバランスの良いゾーンです。

Q5. 未経験で入るなら、まず何を勉強すればいいですか?

資格を取る必要はありません。それより志望企業のIR資料・決算説明資料を3社分読み込むことをおすすめします。収益構造、KPI、業界用語がすべてそこに書かれています。加えて、資金決済法・貸金業法・金商法が何を規制しているかを、それぞれ2〜3行で説明できるようにしておけば十分です。

Q6. コンサル出身者はフィンテックで活躍できますか?

できます。特に金融機関向けのプロジェクト経験がある方は、エンタープライズセールスや事業開発で強みが出ます。ただし「戦略を描くだけ」のスタンスだと苦しくなります。手を動かす覚悟がある方には良い選択肢です。コンサルからの転職ガイドもご覧ください。

Q7. フィンテック業界の将来性はどうですか?

日本市場は2025年の約105億USドルから2034年に約326億USドルへ、CAGR約13%で成長する見通しです。特に法人決済領域は約1,000兆円の市場に対してデジタル化が進んでおらず、伸びしろが大きい。ステーブルコインという新しい軸も立ち上がりました。領域としての将来性は十分にあると考えています。ただし個社の選別は年々シビアになっていますので、企業選びは慎重に。

最後に

フィンテックという言葉が日本で使われ始めてから10年以上が経ちました。当初は「銀行を破壊する」という文脈で語られることが多かったのですが、2026年の現実は違います。ペイトナーがみずほ銀行からシンジケートローンを引き、UPSIDERがみずほ銀行と組んで法人カードを展開している。破壊ではなく、既存の金融機関と組んで、これまで金融サービスが届かなかったところに届ける——それがいま起きていることです。

私が阪井さんの創業ストーリーを何度も紹介してきたのは、そこに「請求書を送ってから入金まで待てない町工場の社長」という、極めて具体的な誰かがいるからです。フィンテックの仕事は、突き詰めればその一人を助けることです。テクノロジーの話でも、規制の話でもなく、お金が回らなくて困っている人の顔が浮かぶかどうか。この業界で長く活躍している方は、みなさんそれを持っています。

キープレイヤーズでは、フィンテック領域のスタートアップから上場SaaSまで、幅広くご紹介が可能です。金融機関からスタートアップへの転職、Web業界からフィンテックへの転職、CxOポジションのご相談など、どのフェーズの方でも歓迎です。「まだ転職するか決めていないが情報収集したい」という段階でも構いません。ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

東北大→インテリジェンス出身。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、7社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。165社上場支援実績あり。バングラデシュで不動産会社、商業銀行の設立からの株主、渋谷のバーのオーナーなど。

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