こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職のサポートをしているキープレイヤーズの高野です。
企業の評価方法や指標はどんどん新しい用語が出てきて覚えるのが大変ですよね。キープレイヤーズでは、正しい企業理解やビジネス理解のために、用語の解説をしています。
今回は、「PSR」について解説します。PSRは企業の株価水準を評価する指標の一つです。特に、スタートアップやベンチャー企業を評価する際に使われることの多い指標ですので、ここで理解を深めておきましょう。
目次
PSRとは?
Price to Sales Ratioの略で株価売上高倍率の意味
PSRとはPrice to Sales Ratioの略であり、日本語で直訳すると「売上率に対する価格」となり、一般的には「株価売上高倍率」と呼ばれます。つまり、時価総額(株価×発行済株式数で表すマーケットにおいての価値)を年間の売上高で割ったものになります。
株価の水準を見るための指標として、株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)などが存在しますが、これらは損失が大きかったり、債務超過の状態だったりする企業には使えません(後ほど解説します)。そのため、売上高と時価総額をベースに、スタートアップなどの新興成長企業の株価水準を判断する指標としてよく利用されます。
株価売上高倍率以外のPSR
PSRを調べてみると色んな意味のPSRがでてきますね。例えばヤマハの電子キーボードである「PSR-E363」、「PSR-273」。スマフォアプリのパワプロのPSR(パワフルスーパーレア)。
その他ではPHP勧告(PHP Standards Recommendations)のことを略してPSRと呼ぶこともありますね。
貿易に関係することで、特恵関税に使用する通関英語としてのPSR(Product Specific Rules)などもございます。
今回の記事ではビジネスで多用される株価売上倍率という意味を持つPSR(Price to Sales Ratio)について、どのように用いられているのかわかりやすく解説していきます。
PSR/PER/PBRの計算方法と用途比較
PSRは売上高に対して株価が割高か割安かを判断するための指標であるため、その会社が赤字でも、また債務超過でも算出できるのが特徴です。
以下に上述のPER、PBRを含めた計算方法をご紹介します。
PSR = 時価総額 ÷ 売上高
PER = 時価総額 ÷ 純利益
PBR = 時価総額 ÷ 純資産
上記の計算方法を見てわかる通り、計算に利益を用いるPERは赤字の会社に適用することができず、計算に純資産を利用するPBRは債務超過の会社に適用することができません。
ではなぜ、PER、PBRに比べPSRは一般的ではないのか?
一般的な個人投資家は黒字の上場企業を比較します。上場企業は基本的には黒字であることが多いので、比較するための指標としてPERやPBRを利用するのです。
PSRは未上場会社やベンチャー企業などの新興企業を比較するために活用されることが多いと覚えておいてください。
PSRの目安は?
20倍だと以上だと割高、0.5倍以下だと割安とされている
一つの目安として、PSRは20倍以上だと割高、0.5倍以下なら割安とされています。ちなみに、2019年の企業PSRの平均値は1.1倍となっています。
ただ、PSRだけで判断することは難しいです。計算式の分子になる時価総額は売上高だけでなく利益や利益率、成長可能性などが影響しますが、分母となる売上高は単純な売上高で決まります。
そのため、利益率が低い業界では分母の売上高が大きくても、利益率が低いため時価総額が高くつきづらく、割安に見えやすくなります。反対に利益率が高い業界では売上に対して時価総額が高くつくケースもあり、割高に見えやすくなります。
具体的には、テクノロジー企業のPSRは高い数値になりやすいです。例えば、ZOOMの株価で見てみましょう。
ZOOMの2020年3月時点の時価総額は約280億ドル、売上高は6.22億ドルほどでした。この数値でで考えると、PSRは約45倍です。20倍という基準からすると、かなりの「割高株=売り」に見えますよね。でも、ZOOMの株価はその後4ヶ月で2.5倍にまで成長しました。
もちろん、コロナ禍という特殊な事情もありますが、つまりはPSRはこうしたトレンド要因や将来性を踏まえられないことがあるということです。
PSRで分析·判断する際の注意点
他にも、ある鉄鋼メーカーの売上高は800億あるものの、経常利益は20億となっており、利益率は約2.5%となっているとのことです。このような利益率の低い企業をPSRだけで判断してしまうと、「割安=買い」という投資判断になりがちです。
一方で、ITなどの無形商材を扱う会社は、利益率は高いが売上高は小さいという企業も多いです。このような利益率が高い企業の場合、PSRだけで判断すると割高と見られてしまいます。
そのため、PSRで判断する場合は、対象の会社だけで判断せず、”業界の将来性を見る“、”同業他社のPSRと比較する”、”PSRの成長率を見る”ことでより正しい判断をすることができます。
また、投資判断にあたってはPSRだけでなく、他の投資指標も合わせて統合的に判断することが必要になってきます。
PSRとIT業界、ネットバブルの関係
新興市場では、設備投資などを増やしたりして利益がまだ上がっていない企業や資産が少ない企業が多くあります。従来のPERやPBRではそういう企業の株価水準の適性をはかることができません。
そこで、売上高をベースとする新しい投資尺度としてPSRが登場しました。特に90年代にITバブルが発生した際、その関連企業の株価が大きく上昇し、その価値を説明するためにPSRが多く活用されました。解釈によっては、利益率が高いIT企業は割高に見えても、PSRの算出方法から、決して割高でないという説明ができたんですね。
ITバブルの際は、それを逆手にとって、事業の実態がなくても~ネットや~ドットコムなどの名称をつけて、割高であることをそれらしく説明して株を売ろうとする動きや株価を釣り上げようとする動きが生まれてしまったこともあります。現在は、複合的かつ多角的な分析手法が普及してきたこともあり、このようなリスクは少ないです。
でも、やはり指標の裏側にある考え方を知っておくことは大切ですね。キープレイヤーズでは、様々なスタートアップ用語や企業評価をするための用語の解説などをしています。ぜひ合わせて他の記事もご覧ください。
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