スカウトメールが1日に何十通も届く。送っても返信が来ない。この2つは同じ現象の裏表です。
なぜそうなっているのかを、決算資料から確かめました。前回はフォースタートアップスの決算を読みましたが、今回はスカウト媒体そのものを運営しているビジョナル(東証プライム 4194、BizReach運営)の側から見ます。
結論を先に書きます。スカウトが届きすぎるのは、送る側の費用の大半が「採用が決まったかどうか」と連動していないからです。
売上の3分の2は、採用が決まらなくても入る
ビジョナルの開示によると、BizReachの売上は2種類あります。プラットフォーム利用料などのリカーリング売上と、採用が決まったときに発生するパフォーマンス売上です。
この比率が、およそ2対1。大きいほうがリカーリング、つまり定額のほうです。
採用する企業から見ると、これは「決まらなくても払う」構造です。年間の利用料は、採用がゼロでも発生します。
ただし、送信がすべて無料というわけではありません。同社の注記によれば、リカーリング売上には追加プラチナスカウトの購入も含まれており、上限を超えて送るぶんには費用がかかります。
すると何が起きるか。送らないほうが損になります。
30歳・MARCHクラスの学歴・メガバンク在籍。この条件の方が媒体に登録すると、翌日には300通ほどのスカウトが届きます。これは実際に登録した知人から私が聞いた話で、特定の媒体の開示数値ではありません。各社が非常識な運用をしているからこうなるのではなく、成果に連動しない費用が中心だから、送る方向に力がかかるということだと思っています。
そして300通届いた候補者は、一通ずつ読みません。送る側は追加費用ゼロで送れて、受け取る側は読まない。返信率が下がり続けているのは、この構造の必然です。
ヘッドハンター向けの料金が改定された
今回の決算資料で、いちばん見落とされている一行がここです。
ビジョナルは、BizReachを利用するヘッドハンター(人材紹介会社)向けの料金体系について、2026年2月以降の契約から順次、成功報酬料率の改定を開始したと開示しました。
そして同じ資料に、2026年7月期第3四半期で利用ヘッドハンター数が前四半期比で減少したこと、それは料金改定による一定の離脱を見込んでおり想定どおりである、と書かれています。
値上げをして、離れる会社が出ることを織り込んでいる。プラットフォームとして極めて合理的な判断です。
前回の記事と、数字がつながりました
ここで前回のフォースタートアップスの決算を思い出してください。同社は「主要な外部データベースの値上げに伴い、第2四半期以降の売上原価率に約3ポイントの増加影響を見込む」と開示していました。
外部データベースとは、まさにこうしたスカウト媒体のことです。
つまり、同じ出来事が2社の決算に別々の言葉で書かれています。
- 媒体側の言葉:料金改定を実施した。一定の離脱は想定どおり
- 人材会社側の言葉:外部データベースの値上げで原価率が約3ポイント上がる
片方だけを読んでいると気づきません。並べてはじめて、いま採用コストのどこが動いているのかが見えます。
プラットフォームの利益率は40%を超えている
BizReachの営業利益率は、管理部門経費を配賦する前の数字で42.7%(2026年7月期第3四半期累計)。通期の見通しも40%程度としています。
累計導入企業数は43,900社超(2026年4月末時点)、スカウトを送れる会員数は342万人超。四半期で約2,100社が新たに導入しています。
これは批判ではありません。企業と候補者の両方を集めて、決まらなくても回る収益構造を作ったという意味で、非常によくできた事業です。うちのグループ会社も日々使わせていただいています。
ただ、使う側は構造を分かったうえで使うべきです。
採用する側は、どう使えばいいか
媒体の費用が定額だからといって、送信数を増やす方向に投資しても返信率は上がりません。むしろ全体の返信率を下げる側に加担することになります。
300通の中で読まれる理由は、3つしかありません。
- 先に知られていること。発信によって、スカウトが届く前から会社を知っている状態を作る
- 社員経由で届くこと。リファラルは、そもそも300通の外側から届きます
- 誰が声をかけているか分かること。テンプレートではなく、人の名前と顔が見えるスカウト
媒体は母集団を作る道具として優秀です。ただ、最後に人を動かすのは媒体ではありません。
転職を考えている方へ
届いたスカウトの数は、市場価値ではありません。
300通届いたからといって、選択肢が300あるわけではないのです。本当に良いポジションはその中にほとんど入っていません。経営者が信頼している相手にしか話が出ないからです。
数ではなく、誰から来たかを見てください。
高野秀敏の所感
この2社の決算を並べて読んで思ったのは、採用市場がいま「送る側のコスト」と「届く価値」が完全に分離した状態にあるということです。
送るのは安い。届けるのは高い。
この差が開いている間は、発信とリファラルとヘッドハンティングの価値が上がり続けます。媒体を否定する話ではなく、媒体で母集団を作ったうえで、最後の一押しをどこに置くかという設計の話です。
次回は、リクルートの決算から採用市場全体の規模を見ます。
よくある質問(FAQ)
ビズリーチの料金体系はどうなっていますか?
プラットフォーム利用料(定額)と、採用が決まったときの成功報酬の組み合わせです。ビジョナルの開示では、この2つの比率はおよそ2対1で、定額のほうが大きい構造になっています。つまり採用が決まらなくても発生する費用が売上の3分の2を占めます。
ビズリーチは値上げしましたか?
ヘッドハンター(人材紹介会社)向けの料金を改定しています。ビジョナルは2026年2月以降の契約から順次、成功報酬料率を改定していると開示しました。直接採用する企業向けの料金改定は、この開示には含まれていません。
スカウトメールがたくさん届くのはなぜですか?
送る側の費用の大半が、採用が決まったかどうかと連動していないためです。ビジョナルの開示では、BizReachの売上のうち約三分の二がプラットフォーム利用料などのリカーリング売上で、採用成功時の成功報酬は約三分の一です。決まらなくても費用は発生するため、送らないほうが損という力学が働きます。ただし送信が無料という意味ではなく、リカーリング売上には追加のプラチナスカウト購入も含まれます。なお「登録翌日に300通」は、実際に登録した知人から高野が聞いた話であり、特定の媒体の開示数値ではありません。
ダイレクトリクルーティングと人材紹介はどちらが安いですか?
1件あたりの費用はダイレクトリクルーティングのほうが安く見えます。ただし社内の工数が乗ります。スカウト文面の作成、送信、返信対応、日程調整をすべて自社で持つため、採用担当者の人件費まで含めて比較しないと実際のコストは分かりません。幹部・CxO採用では返信率が低く、人材紹介やヘッドハンティングのほうが結果的に速く安く済むことが多くあります。
ヘッドハンターがビズリーチから離れているというのは本当ですか?
ビジョナルは2026年7月期第3四半期で、利用ヘッドハンター数が前四半期比で減少したと開示しています。同社は料金改定による一定の離脱を見込んでおり想定どおり、と説明しています。
スカウトの返信率を上げるにはどうすればいいですか?
送信数を増やす方向では上がりません。300通の中で読まれる理由が必要です。発信によって先に会社を知られていること、社員経由で届くこと、誰が声をかけているか分かること。この3つが効きます。文面の一斉送信だけに投資しても返信率は下がり続けます。
採用にかかるコストはいくらを見込めばいいですか?
人材紹介の成功報酬は理論年収の40%が基準で、幹部・CxO採用では50%が基本です。ダイレクトリクルーティングの媒体費は年間で数十万円から数百万円のレンジになりますが、これに採用担当者の工数が加わります。採用手段ごとの費用は当社の相場記事にまとめています。
📚 あわせて読みたい完全ガイド
- スタートアップ採用ガイド — スカウト媒体・人材紹介・リファラルをどう組み合わせるか。採用戦略と実践ノウハウ。
- 転職エージェントの選び方 完全ガイド — ダイレクトリクルーティングとエージェントの使い分け。エージェントの仕組みと選び方。
- 年収・手取りガイド — 「スカウトが300通届く」ことと市場価値は別物です。年収の決まり方と交渉の考え方。
- ベンチャー転職 完全ガイド — スカウトをどう捌き、どう選ぶか。ベンチャー・スタートアップ転職の全体像はこちら。
- CXO転職ガイド — 幹部・CxO採用では手数料50%が基本。その水準が成立する役割と責任の中身。
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出典
ビジョナル株式会社 FY2026/7 第3四半期 決算説明資料および決算発表FAQ(2026年6月11日開示)。フォースタートアップス株式会社 2026年3月期 通期決算説明資料。売上構成比は同社がFY2025/7実績として開示した参考値で、本文中の「およそ2対1」は開示された構成比に基づく表現です。