AIは採用コストを下げませんでした|リクルートの決算に見る、求人が減って単価が上がる市場

         
       
       
     

人材業界の決算を読むシリーズの3回目です。1回目は人材紹介の側(フォースタートアップス)、2回目はスカウト媒体の側(ビジョナル)を読みました。今回は世界最大の採用プラットフォームを持つリクルートホールディングスです。

3社を並べて、はっきりしたことがあります。

求人は減っているのに、採用の単価は上がっています。そして3社とも、その理由をAIだと説明しています。

求人が4%減って、売上が30%増えた

2027年3月期第1四半期、Indeed上の米国の求人総数は前年比で約4%減りました。採用需要そのものは縮んでいます。

ところが同じ四半期、米国の売上収益は前年比30.0%増の16.4億ドルで、四半期として過去最高でした。

この差はどこから来たのか。同社が開示している「US ARPJ成長率」という指標が答えです。

US ARPJとは、米国の売上収益を米国の求人総数で割ったもの、つまりIndeed上の求人1件あたりの平均売上収益です。この成長率が、当四半期は35%でした。

ひとつ注意があります。同社はこの指標について、「求人広告1件当たりの平均単価」ではないと明確に注記しています。分母は掲載された広告の数ではなく、Indeed上の求人データの総数です。ですから「広告料金が35%上がった」と読むのは誤りです。それでも、採用需要が縮む中で1件あたりの収益が大きく伸びているという事実は動きません。

比較すると、変化の大きさが分かります

それまでの四半期売上の過去最高は2022年度第1四半期で、前年比24.9%増の16.1億ドルでした。

そのときの米国求人総数は、今回の四半期より約57%も高い水準にあり、前年比でも約24%増えていました。市場が伸びていたから売上も伸びた、という素直な構図です。そのときのUS ARPJ成長率は1%にとどまっていました。

つまり4年前は「求人が増えたから売れた」、今回は「求人が減ったのに、1件あたりで稼いだ」。同じ売上規模でも中身がまったく違います。

単価を押し上げているのはAI機能のパッケージ化

同社の資料では、Indeedの有料プランがStandard、Premium、Premium Plusという構成で示されています。上位プランほど、AIによるメッセージ生成、候補者のハイライト、高度なマッチング、応募前のスクリーニングといった機能が含まれ、上位は動的な価格設定です。

売上を伸ばしたのは、このPremium Sponsored Jobsパッケージだと説明されています。

社長の出木場氏は、決算説明でこう述べています。売上の伸びは「AIによる価値提供が増えたことによる単価の上昇」と「顧客数の増加」の2つのドライバーが噛み合った結果である、と。

これは率直な説明だと思います。AIで人事の手作業を自動化し、採用が速くなる。その価値を価格に乗せている。事業としては筋が通っています。

ただ、採用する側にとっての意味は、はっきりしています。AIは、採用コストを下げる方向には働いていません。

3社を並べると、同じ方向を向いています

会社立場単価に起きていること
フォースタートアップス人材紹介1件あたり単価が386万円→416万円。外部データベースの値上げで原価率は約3ポイント上昇見込み
ビジョナル(BizReach)スカウト媒体ヘッドハンター向けの成功報酬料率を2026年2月以降の契約から改定。一定の離脱は想定どおりと開示
リクルート(Indeed)求人プラットフォーム求人総数が約4%減る中で米国売上30.0%増。AI機能を上位プランに束ねて単価を上げている

売り手の3層すべてで、単価が上がっています。しかも各社ともAIで効率化を進めています。

効率化した分だけ安くなる、ということは起きていません。効率化の価値は、提供する側の価格に乗っています。

日本だけ、横ばいです

もうひとつ、日本の採用市場を考えるうえで重い数字があります。

2027年3月期の通期見通しで、HRテクノロジー事業の売上収益は米ドルベースで、米国が前年比25.1%増、欧州その他が23.2%増。これに対して日本は0.0%です。円ベースでは5.4%増ですが、為替の影響を除くと横ばいということになります。

世界最大の採用プラットフォームが、日本だけ伸ばせていない。ここには2つの読み方があります。日本の採用需要が弱いのか、それとも日本の採用が媒体以外の手段に移っているのか。

私は後者の要素が大きいと見ています。前回の記事で書いたとおり、紹介で決まる人の年収帯は上がり続けていて、ボリュームゾーンは紹介でも媒体でも動きにくくなっています。動いているのは、リファラルと、発信で先に知られている会社です。

採用予算をどう組むか

ここまでを踏まえると、来期の採用予算の考え方は変わります。

去年と同じ金額で、去年と同じ効果は出ません。単価が上がり、返信率は下がっているからです。同じ予算を同じ配分で使えば、結果は確実に落ちます。

とはいえ、媒体費を増やす方向も違うと思っています。増やしても単価上昇に飲まれます。

配分を移すべきです。発信によるブランド力、社員経由のリファラル、そして本当に採りたい人だけを狙うヘッドハンティング。この3つは、単価が上がる市場ほど相対的に有利になります。媒体は母集団を作る道具として使い、決めるところは別の手段に置く。そういう二段構えが要ります。

高野秀敏の所感

3社の決算を続けて読んで、いちばん考えさせられたのは、AIの恩恵が誰に渡っているかという点です。

AIは採用の工程を確実に速くしました。それは間違いありません。ただ、速くなった分の価値は、いまのところ提供する側の価格に乗っています。採用する会社の手元に残っているわけではありません。

これは誰かが悪いという話ではなく、市場としてそうなっているだけです。だからこそ、使う側は構造を分かったうえで配分を決める必要があります。

求人は減り、単価は上がる。この2つが同時に起きている市場で効くのは、送る量ではなく、届く理由をどれだけ持っているかです。

よくある質問(FAQ)

Indeedの掲載費用は上がっていますか?

リクルートホールディングスの開示では、米国の「求人1件あたりの平均売上収益(US ARPJ)」の成長率が2027年3月期第1四半期に35%となりました。同社はこれを、付加価値の高い機能とそれを含むパッケージの拡充によるものと説明しています。日本のIndeedについて同様の単価指標は開示されていません。

AIを導入すると採用コストは下がりますか?

現時点では下がっていません。むしろ上がる方向に働いています。リクルートの社長は、売上の伸びを「AIによる価値提供が増えたことによる単価の上昇と、顧客数の増加の2つのドライバー」と説明しています。AIは採用の工程を速くしますが、その速さは提供する側の価格に乗ります。

求人が減っているのに採用単価が上がるのはなぜですか?

1件あたりの単価が上がっているためです。2027年3月期第1四半期、Indeed上の米国求人総数は前年比で約4%減った一方、米国売上収益は前年比30.0%増で四半期として過去最高でした。上位プランの利用が増えたことが要因と説明されています。

Indeedのプランはどう違いますか?

2026年8月時点の開示資料では、Standard、Premium、Premium Plusという構成が示されています。上位プランほど、AIによるメッセージ生成、候補者ハイライト、高度なマッチング、応募前スクリーニングなどの機能が含まれます。上位プランは動的な価格設定です。

日本のIndeedは成長していますか?

2027年3月期の通期見通しでは、HRテクノロジー事業の日本の売上収益は米ドルベースで前年比0.0%、円ベースで5.4%増です。同じ期の米国は25.1%増、欧州その他は23.2%増の見通しですから、日本だけ横ばいという状態です。

2026年度の採用予算はどう組めばいいですか?

媒体費が前年と同じ金額で同じ効果を出す前提は崩れています。単価が上がり、返信率は下がっているためです。予算を増やす方向ではなく、発信によるブランド力、リファラル、ヘッドハンティングに配分を移すほうが費用対効果は高くなります。人材紹介の成功報酬は理論年収の40%が基準で、幹部採用では50%が基本です。

採用市場は今後どうなりますか?

求人数そのものは減る局面に入っています。一方で1件あたりのコストは上がっています。つまり「たくさん出して待つ」やり方の費用対効果が下がり続けます。誰に声をかけるかを決めて、その人に届ける設計に投資した会社が有利になります。

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シリーズの記事:
第1回 人材紹介の手数料は本当に何%なのか
第2回 スカウトが300通届く理由は、料金体系にありました

出典

株式会社リクルートホールディングス 2027年3月期 第1四半期 決算説明資料・決算短信・決算説明会書き起こし(2026年8月7日)。ビジョナル株式会社 FY2026/7 第3四半期 決算説明資料およびFAQ。フォースタートアップス株式会社 2026年3月期 通期決算説明資料。US ARPJの定義および「求人広告1件当たりの平均単価ではない」という注記は、リクルートホールディングスの説明に基づきます。

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執筆者:高野 秀敏

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、12,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。80社以上の投資、9社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。178社上場支援実績あり。顧問、アドバイザー、社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。「ベンチャーの作法」ダイヤモンド社5万部を超えるベストセラー
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