こんにちは、ベンチャー・スタートアップの転職・採用支援を27年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。
戦略17分野のひとつ「マテリアル(重要鉱物・部素材)」について調べました。
経済産業省のロードマップに、こう書かれています。
永久磁石はレアアースを用い、EV駆動モーターなど幅広い産業に活用。特定国以外で高性能磁石の供給能力を有するのは事実上日本のみ
日本以外に作れるところが、事実上ない。国の資料がここまで言い切っている分野は、17分野のなかでも多くありません。
ところが、同じロードマップが掲げている処方箋は「AIで新素材の開発速度を従来比10倍にする」です。強みは熟練技術者のノウハウだと書いておきながら、打ち手はAIなのです。
この記事では、そのねじれがどこから来るのかと、だからどんな人が必要になるのかを書きます。
この記事でわかること
- マテリアル分野の投資額と、2030年の数値目標
- 日本が「不可欠性」を持つとされる5つの部素材
- 国が名指ししたボトルネック(技術ではありません)
- 熟練技術者のノウハウとAIが同時に出てくる理由
- 職種と、前職別の入り方
- 採用がうまくいっている会社の求人の書き方
投資額と、6つの技術

2026年6月24日の経済財政諮問会議・日本成長戦略会議の合同会議の資料から、この分野を引きます。
| 主要な製品・技術等 | 官民投資額(想定) |
|---|---|
| 永久磁石 | 2040年度までで0.2兆円 |
| グリーン鉄(資源・エネルギー安全保障・GX分野と共通) | 2040年度までで4.2兆円 |
| 革新的金属部素材 | 2040年度までで0.3兆円 |
| 低炭素金属部素材 | 2040年度までで0.7兆円 |
| 一次原料及び二次原料からの製錬・分離精製、解体選別技術 | 2040年度までで6.3兆円(海外での鉱山開発や製錬事業への投資を含む) |
| AI等を活用した複合新素材 | 2040年度までで5.2兆円 |
| 合計 | 16.9兆円 |
17分野では9位です。注目したいのは内訳で、6.3兆円の製錬・リサイクルと、5.2兆円のAI活用で、分野の7割近くを占めます。
永久磁石そのものは0.2兆円しかありません。日本しか作れないと書かれている製品が、金額としては最小です。ここに、この分野の性格が出ています。
日本が「不可欠性」を持つとされる5分野

経済産業省のロードマップ(2026年4月21日)には、素材産業の位置づけがこう書かれています。
| 記載内容 | |
|---|---|
| 産業規模 | 素材産業は我が国製造業の出荷額の約2割を占める |
| 不可欠性を持つ5分野 | ①高機能繊維 ②高機能ポリマー ③高機能フィルム ④高純度微粒子 ⑤高機能セラミックス |
| その源泉 | 高度な製造技術、過去のデータの蓄積、研究開発能力、精密な分析・計測技術や装置基盤、熟練技術者のノウハウ |
「熟練技術者のノウハウ」が、国の戦略文書に強みとして明記されている。これは製造業の方にとって、意味のある一文だと思います。
国が名指ししたボトルネックは、技術ではありません

同じロードマップの課題の欄を読むと、何に困っているかがはっきり書かれています。
| 誰の課題か | 記載されている内容 |
|---|---|
| 民間事業者 | 先端情報の共有に対する忌避感から、研究開発の加速に必要な、競合やオフテイカーとのデータ連携ができていない |
| 民間事業者 | データのAI-Ready化 |
| アカデミア | 基盤的研究開発能力の相対的な国際競争力の低下 |
| 共通 | 新素材の社会実装に向けた実証・量産の場の不足、国際連携の不足 |
1つめを読んだとき、私は腑に落ちました。技術が足りないのではなく、各社がデータを出さないから進まないと書いてあるわけです。
素材メーカーにとって、配合や製造条件は会社そのものです。出すわけがない。そこで国が持ち出しているのが「秘匿計算技術」です。データを見せずに共同で計算する技術で、競合同士やユーザー企業をまたいで素材開発をしようとしています。
熟練のノウハウとAIが、同時に出てくる理由

ロードマップが掲げる方向はこうです。
我が国素材産業が蓄積してきたデータやノウハウと最先端AI技術等を掛け合わせ、新素材開発速度を従来比10倍に加速させるエコシステムを構築する
材料探索、材料設計、プロセス設計、信頼性評価まで一気通貫で行う「AI駆動素材開発」。マテリアルズインフォマティクス(MI)とプロセスインフォマティクス(PI)の革新を図る、とされています。
つまり、この分野で生まれる仕事はこうなります。
| やること | |
|---|---|
| 熟練技術者の暗黙知を、データにする | 実験ノート、製造条件、失敗の記録を構造化する |
| データをAIが読める形に整える | AI-Ready化。いまここで止まっている会社が多い |
| モデルを作り、実験を回す | MI/PI、ベイズ最適化、実験計画 |
| 秘匿したままデータを連携する | 秘匿計算、権利設計、契約 |
私の実感として、この領域でいちばん足りないのは、AIができる人でも材料が分かる人でもなく、両方の言葉が通じる人です。
材料の研究者に機械学習の話が通じない。データサイエンティストに「なぜその条件で焼くのか」が分からない。その間に立てる人が1人入るだけで、プロジェクトが動き出すのを何度か見ています。
2030年の数値目標

この分野は目標が具体的です。ロードマップから引きます。
| 領域 | 2030年前後の目標 |
|---|---|
| 重要鉱物 | 2030年時点の需要量に対して必要な上流開発による資源量を確保(バッテリーメタル計38万t、レアアース計1.4万t) |
| ベースメタル(銅、亜鉛、スズ、鉛)の自給率80%以上 | |
| その他重要鉱物の特定国依存脱却に必要な資源量を確保 | |
| 国内で生産される銅(電解銅)の約3割を再生資源由来に | |
| 永久磁石 | 2030年時点の国内需要量に対して生産能力を確保 |
| 国内で供給される永久磁石の原材料の約3割をリサイクルで賄う | |
| 省レアアース/レアアースフリー磁石の量産技術確立 | |
| 革新的金属部素材 | 2030年に航空機エンジン向け高機能金属で世界シェア5割、半導体回路向け高機能金属で世界シェア8割 |
| グリーン鉄等 | 2030年代前半に高品質なグリーン鉄 年約300万トン、低炭素アルミ 年約90万トン以上規模の市場獲得 |
| 蓄電池 | リチウムイオン蓄電池の国内製造基盤 150GWh/年の確立 |
「リサイクルで約3割」という目標が、磁石にも銅にも入っています。この分野の採用で静かに伸びているのは、実は都市鉱山側です。解体、選別、製錬、分離精製。リユース業界とも地続きの領域です。
職種と、前職別の入り方

| 職種 | 仕事内容 | 刺さる前職 |
|---|---|---|
| 材料研究・プロセス開発 | 組成設計、焼成・成形条件の最適化 | 素材メーカー、化学、金属、セラミックス |
| マテリアルズインフォマティクス | MI/PI、ベイズ最適化、実験計画、代理モデル | データサイエンス、計算科学、材料系の修士・博士 |
| データ基盤・AI-Ready化 | 実験データの構造化、LIMS、データ連携基盤 | データエンジニア、SIer、製造DX |
| 分析・計測 | 電子顕微鏡、分光、X線。ロードマップが強みに挙げる領域 | 分析機器メーカー、受託分析、品質管理 |
| 製錬・分離精製 | 湿式・乾式製錬、溶媒抽出、不純物除去 | 非鉄金属、化学プラント |
| リサイクル・解体選別 | 都市鉱山からの回収、選別技術、スキーム構築 | 廃棄物処理、リユース、商社 |
| 設備・量産技術 | 実証設備、量産ライン、歩留まり改善 | 生産技術、プラントエンジニアリング |
| 調達・資源開発 | 鉱山権益、長期契約、サプライチェーン構築 | 商社、資源開発、JOGMEC関連 |
| 知財・契約・経済安全保障 | 秘匿データ連携の契約、技術流出防止 | 知財、法務、輸出管理 |
最後の項目を軽視しないでください。この分野は経済安全保障推進法の「特定重要物資」と直結しています。技術流出防止や輸出管理が分かる人は、素材メーカーで確実に必要とされます。
この分野の、他と違うところ

合成生物学・バイオや量子と比べると、マテリアルには明確な違いがあります。
| マテリアル | バイオ・量子 | |
|---|---|---|
| 産業の成熟度 | すでに出荷額の約2割を占める基幹産業 | 市場はこれから |
| 雇用の受け皿 | 既存の素材メーカーが多数ある | 限られた企業・研究機関 |
| 倒れるリスク | 相対的に低い | 研究開発型で資金リスクが高い |
| 伸び方 | 既存事業のなかに新しい職種が生まれる | 新しい会社ができる |
つまりマテリアルは「転職しても会社が消える心配が比較的小さい成長分野」です。17分野のなかでは珍しいタイプだと思います。
その代わり、大企業の既存組織に入ることになるので、裁量やスピードはスタートアップほどではありません。どちらを取るかです。
採用する側へ

素材メーカーの方からのご相談で、いちばん多い失敗を書きます。
「マテリアルズインフォマティクス経験者」で募集してしまうことです。この肩書で動ける人は国内に限られていて、全社で奪い合っています。
| そのまま出すと採れない | 翻訳して出すと採れる |
|---|---|
| マテリアルズインフォマティクス経験者 | ベイズ最適化、実験計画法、回帰モデル、Python |
| AI人材 | 実験データの構造化、データ基盤の設計、LIMS導入 |
| 素材開発の経験者 | 焼成・成形・分散のプロセス条件設計、分析評価 |
| リサイクル技術者 | 選別装置、湿式処理、不純物除去、歩留まり設計 |
特に2行目です。国が課題として挙げているのは「データのAI-Ready化」であって、高度なモデリングではありません。いま必要なのは、散らばった実験データを使える形に整える人です。
この求人を「データエンジニア」として出せば、SIerや製造DXの会社から応募が来ます。材料の知識がなくても務まりますし、むしろそのほうが早く整います。
よくある質問
Q1. 材料系の学位は必要ですか
職種によります。材料研究やプロセス開発は材料系が中心ですが、データ基盤、設備・量産技術、調達、知財・経済安全保障は材料系でなくても入れます。
Q2. 未経験から入れますか
データエンジニアリング、リサイクル・解体選別、調達・サプライチェーンの領域は、他業界からの転職が実際に起きています。材料研究そのものは専門性が要ります。
Q3. 大企業が中心ですか
この分野は既存の素材メーカー・非鉄金属・化学が主役です。スタートアップもありますが、他の17分野と比べると大企業の比率が高い構造です。
Q4. 年収はどうなりますか
大手素材メーカーの水準が基準になります。マテリアルズインフォマティクスのような希少職種では、社内の標準より上の提示が出ることもあります。求人ごとに確認してください。
Q5. 永久磁石の投資額が0.2兆円と小さいのはなぜですか
資料からは読み取れません。ただ、製品単位の市場規模と、鉱山開発や製錬設備の規模が桁違いだという事情はあると思います。金額の小ささが重要度の低さを意味するわけではありません。
Q6. リサイクルは本当に仕事になりますか
目標が具体的です。永久磁石の原材料の約3割、電解銅の約3割を再生資源由来にするという数字が入っています。製錬・分離精製・解体選別の技術開発に6.3兆円の投資想定も置かれています。
Q7. 経済安全保障の知識は必要ですか
職種によりますが、この分野は経済安全保障推進法の特定重要物資と直結しています。調達、知財、法務の方には、むしろ強みになります。
まとめ|強みは職人、処方箋はAI
3点に絞ります。
1つめ。マテリアル分野の官民投資想定は16.9兆円。うち6.3兆円が製錬・分離精製・解体選別、5.2兆円がAI活用の複合新素材です。永久磁石そのものは0.2兆円です。
2つめ。国のロードマップは、日本の強みを「熟練技術者のノウハウ」と書き、処方箋を「AIで開発速度を従来比10倍」と書いています。この2つをつなぐ仕事が、これから生まれます。
3つめ。名指しされたボトルネックは技術ではなく、データ連携への忌避感とAI-Ready化です。つまり、散らばった実験データを使える形に整える人が、いま最も効きます。
キープレイヤーズでは、21年にわたりベンチャー・スタートアップの転職支援と採用支援を行ってきました。素材メーカーのデータ活用や、材料とAIの橋渡しができる方のご相談は特に歓迎です。採用にお困りの企業の方も、お気軽にお問い合わせください。
戦略17分野の全体像はこちらにまとめています。
すぐに動かない方には、オンラインサロンもご用意しています。
出典
- 内閣府「戦略17分野の『主要な製品・技術等』における官民投資額」第8回経済財政諮問会議・第5回日本成長戦略会議 合同会議 資料1(2026年6月24日)— 永久磁石0.2兆円、グリーン鉄4.2兆円、革新的金属部素材0.3兆円、低炭素金属部素材0.7兆円、製錬・分離精製・解体選別技術6.3兆円、AI等を活用した複合新素材5.2兆円
- 経済産業省 製造産業局「成長戦略『マテリアル(重要鉱物・部素材)』分野 ロードマップ(案)」産業構造審議会 資料2(2026年4月21日)— 素材産業は製造業の出荷額の約2割、不可欠性を有する5分野、熟練技術者のノウハウに関する記述、「特定国以外で高性能磁石の供給能力を有するのは事実上日本のみ」、新素材開発速度を従来比10倍、投資促進に向けた課題(先端情報の共有に対する忌避感、データのAI-Ready化、アカデミアの基盤的研究開発能力の相対的な国際競争力の低下)、2030年の各種目標
※投資額は現時点での想定規模であり、確定した予算ではありません。ロードマップは案として示されたものです。職種や人材需要に関する記述は、私がご相談を受けてきた経験にもとづく見方です。

