経済産業省の「大学発ベンチャーデータベース」に載っている1,456社を1行ずつ読み、研究者がその会社でどの役割に就いているかで3つに分けて数えました。研究者が代表を務める会社は、単年度黒字に到達した割合が48%。研究者が社長以外の役員に回っている会社は28%、研究者が経営に入らず顧問や大学に残っている会社は25%でした。ただしこの差は経営のうまさではなく、事業の段階の違いで説明がつきます。以下、数字と、その読み方を書きます。
調べたこと
経済産業省は毎年「大学発ベンチャー実態等調査」を行い、掲載の許諾を得た企業の情報をデータベースとして公開しています。2026年6月12日更新版には1,456社が載っています(調査が把握した大学発ベンチャーの総数は6,220社)。このデータには、設立年、正社員数、売上高、事業ステージ、出口戦略、技術分野に加えて、関連する大学の研究者名と、その研究者が企業でどの役職に就いているかが入っています。
この「研究者の企業での役職」の欄が埋まっていた351社を、次の3つに分けました。
| 区分 | 内容 | 社数 |
|---|---|---|
| 研究者が代表 | 代表取締役、代表社員、CEOなど | 138社 |
| 研究者は社長以外の役員 | 取締役、CTO、CSOなど | 110社 |
| 研究者は経営に入らない | 技術顧問、アドバイザー、大学に在籍したまま | 103社 |
発見1 黒字化率は、研究者が社長の会社が最も高い
| 区分 | 単年度黒字に到達 | 売上の中央値 | 正社員の中央値 |
|---|---|---|---|
| 研究者が代表 | 48%(n=81) | 1,000万円 | 3人 |
| 研究者は社長以外の役員 | 28%(n=64) | 1,139万円 | 5人 |
| 研究者は経営に入らない | 25%(n=63) | 507万円 | 3人 |
設立年をそろえても順番は変わりません。2015年以前に設立された会社では71%、64%、31%。2016年以降では40%、20%、24%でした。

発見2 ただし、外から経営を入れた会社は「まだ製品の前」が多い
ここが肝心なところです。事業ステージを見ると、製品やサービスの提供開始前(PoC前後)の会社の割合は、研究者が代表の会社で28%、社長以外の役員の会社で50%、経営に入らない会社で48%でした。
つまり、経営を担う人を外から入れている会社ほど、まだ売るものが世に出ていない段階にいます。創薬や素材のように、製品化まで10年近くかかる事業が多いということです。黒字化率の差は、経営者の質ではなく、事業の重さの差だと読むのが妥当です。小さく受託で黒字を出す道と、長い研究開発の末に大きく当てる道は、そもそも別の勝負をしています。
発見3 IPOを目指すと答えた割合は、外から入れた会社が最も高い
出口戦略でIPOを挙げた割合は、研究者が代表の会社で33%、社長以外の役員の会社で45%、経営に入らない会社で36%でした。研究者が技術に集中し、経営を別の人が担う体制をとっている会社ほど、上場を狙っています。発見2と合わせると、姿がはっきりします。上場を狙う会社が、製品が出る前の段階で経営人材を入れている、という順番です。

発見4 ディープテック寄りの分野だけで見ても、同じ傾向
バイオ・ヘルスケア、医療機器、素材、環境・エネルギー、エレクトロニクス、ロボティクス、航空宇宙に絞った712社でも、黒字化率は研究者が代表43%、社長以外の役員21%、経営に入らない19%と、全体と同じ並びでした。
なお1,456社の技術分野は、バイオ・ヘルスケアが24%で最も多く、ソフトウェア・アプリ14%、AI・IoT11%、環境・エネルギー8%、医療機器6%、素材6%と続きます。大学別では東京大学75社、京都大学64社、筑波大学64社、東北大学50社の順でした。
ヘッドハンターとしての読み方
この数字を採用の現場に置き換えると、順番が見えてきます。上場を目指すと決めた会社が、製品が出る前に経営人材を迎えている。迎えた時点ではまだ赤字で、売上も立っていない。つまり経営幹部を採る判断は、業績が良くなってからではなく、業績が立つ前に行われています。
先に公開した上場した大学発ディープテック14社の調査では、役員の41.8%が外から迎えた人で、社員として入ってから役員になるまでは中央値1年でした。上場までたどり着いた会社を見ると、外から早く迎えて早く任せています。今回の未上場1,456社を見ると、その入り口にいる会社が、製品の前の段階で経営人材を入れ始めていることが分かります。2つを並べると、外から迎える判断が早い会社が、上場という結果にたどり着いている、という流れになります。
ただし、今回のデータは因果関係を示すものではありません。経営人材を入れたから上場したのか、上場を目指す会社だから経営人材を入れたのかは、この数字だけでは分かりません。
この調査の限界
3つあります。ひとつ目は、母集団が掲載許諾を得た1,456社であり、調査が把握した6,220社すべてではないことです。ふたつ目は、研究者の役職が入力されていた351社に限った分析であることです。三つ目は、売上高の記入が37%、正社員数が60%と、項目によって欠損があることです。数字にはすべて母数(n)を書いています。
調査概要
調査名:大学発ベンチャーの経営体制に関する調査
対象:経済産業省「大学発ベンチャーデータベース(データ版)」2026年6月12日更新版に掲載された1,456社
分類:関連研究者の「企業での役職」欄が記入されていた351社を、代表/社長以外の役員/経営に入らない、の3区分に分類
集計項目:事業ステージ、売上高、正社員数、出口戦略、技術分野、設立年、関連大学
出典:経済産業省「大学発ベンチャーデータベース」(https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/univ-startupsdb.html )2026年9月取得
集計:株式会社キープレイヤーズ
よくある質問
大学発ベンチャーは日本に何社ありますか。
経済産業省の2025年度調査で6,220社です。このうち掲載許諾を得た1,456社の詳細が、データベースとして公開されています。
研究者が社長をやるのと、経営者を外から入れるのと、どちらがよいのですか。
目指す規模で変わります。黒字化の割合だけ見れば研究者が社長の会社が高いのですが、その多くは売上1,000万円規模です。上場を目指す会社ほど、製品が出る前の段階で経営人材を外から迎えています。
経営人材はいつ入れるべきですか。
このデータでは、外から経営を入れた会社の50%が、まだ製品提供前の段階にいました。業績が立ってから採るのではなく、資金調達や量産、薬事対応など、次の関門が見えた時点で迎えるのが実際の姿です。
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