人材紹介の手数料を「理論年収の30〜35%」と説明している記事は、もう実態と合っていません。
上場企業が四半期ごとに開示している数字から逆算すると、実勢の料率はおおむね40%台です。私が現場で見ている「40%が基準、50%も珍しくない、幹部採用では50%が基本」という感覚と、公開データはほぼ一致します。以下、根拠を示します。
なぜフォースタートアップスの決算を読むのか
人材紹介会社は数万社ありますが、スタートアップ・成長企業のハイレイヤー採用に特化して上場している会社は、実質ここだけです。しかも四半期ごとに「人材紹介1件あたりの単価」と「決定年収の構成比」を開示しています。この2つが揃っている開示は他にありません。
つまり、業界の実勢を第三者が検証できる形で確認できる、ほぼ唯一の窓です。
1件あたりの単価は416万円
人材紹介サービスの1件あたり単価は、次のように推移しています。
| 決算期 | 四半期の単価レンジ | 年間平均 | 入社件数(年間) |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 368万〜401万円 | 約386万円 | 721件 |
| 2026年3月期 | 387万〜435万円 | 約416万円 | 989件 |
1年で30万円ほど上がり、同時に件数も268件増えました。単価を上げながら件数も増やしている、というのがこの1年の姿です。普通は逆になります。
そこから料率を逆算する
ここからは推計です。前提を明示します。
同じ資料に、決定年収の構成比が開示されています。2026年3月期の期末時点で、1,000万円以上が38.9%、600万〜999万円が48.1%、600万円未満が12.5%でした。各帯の平均年収を控えめに置いて加重平均すると、決定年収の平均はおよそ950万〜1,020万円になります。
1件あたりの単価をこの平均年収で割ると、実勢料率はおよそ42〜46%。
繰り返しますが推計です。契約料率は個別に異なり、成功報酬以外の売上も混ざります。それでも、30〜35%という数字がすでに実態から離れていることは、この幅からでも十分に読み取れます。
年収1,500万円の幹部を採るなら、600万円台から700万円台の費用を見込む。それが今の前提です。
決定年収1,000万円以上が44.9%に達した
構成比の推移がさらに重要です。決定年収1,000万円以上の割合は、2026年3月期の第1四半期に31.4%だったものが、直近の2027年3月期第1四半期には44.9%まで上がりました。紹介で決まる人の半分近くが、年収1,000万円以上の層になっているということです。
採用する側から見ると、これは「単価が上がった」という話ではありません。人材紹介という手段が、高い層に寄っていっているという話です。600万円未満の層は11.5%まで下がりました。ボリュームゾーンの採用は、紹介以外の手段に移っています。
ただし、直近の460万円を根拠に使ってはいけない
直近の2027年3月期第1四半期、単価は460.8万円まで跳ね上がりました。過去最高です。
ここで飛びつきたくなりますが、会社自身が説明資料でこう書いています。高年収帯の決定が偏ったことによる一過性のものであり、受注単価はすでに前期の水準に落ち着いている、と。
つまり、交渉や社内説明で相場の根拠に使うなら、460万円ではなく416万円です。一過性と明記されている数字を根拠にすると、相手が資料を読んでいた場合に一気に信用を失います。
私は自社の手数料を年収の50%でご提示していますが、その説明にもこの416万円を使っています。「うちが高い」ではなく「市場がそうなっている」に変わるからです。
見落とされている一行:スカウト媒体の値上げ
決算資料の中に、採用担当の方にこそ読んでほしい一行があります。
主要な外部データベースの値上げに伴い、第2四半期以降の売上原価率に約3ポイントの増加影響を見込む、という記述です。
外部データベースとは、スカウト用の人材データベースのことです。それが値上げされ、上場企業の原価率を3ポイント動かすほどの影響が出ている。
現場の感覚と重なります。媒体経由のスカウトは返信率が落ち続けているのに、費用は上がっている。30歳・MARCHクラス・メガバンク在籍という層でも、登録した翌日に300通ほどのスカウトが届く市場です。その中に1通を混ぜるための単価が、上がっているということです。
効きにくくなったものが、高くなっている。 ここが今の採用コストの本質です。
人を増やさずに売上を伸ばした
もう一つ、経営者の方向けの論点です。「1人あたり決定件数」という生産性指標が、2025年3月期の0.43から2026年3月期は0.54へ、23.4%改善しています。同じ期の連結売上高は42.6%増、営業利益は147.3%増でした。
人材業界は長く「人を増やせば売上が増える」モデルでした。それが崩れています。人員をほぼ増やさずに利益を2.5倍にした、というのがこの決算です。
自社の人材部門やエージェント事業を持っている経営者の方は、まず1人あたりの決定件数を出してみてください。増員の議論は、その数字が動いてからで間に合います。
人材会社がM&A仲介を始める
最後に、業界構造の話です。同社は2027年3月期から、自社完結型のM&A仲介を事業化すると明記しました。イグジット環境の変化を踏まえ、培った顧客基盤を活かす、という説明です。
人材紹介で経営者との接点を積み上げた会社が、その接点をM&Aに転用する。これは1社の話ではなく、人材業界全体の流れになると見ています。経営者に会える会社が、次に何を売るか。その答えが人からM&Aへ動いています。
高野秀敏の所感
この決算でいちばん重いのは、44.9%という構成比だと思っています。
紹介で決まる人の半分近くが年収1,000万円以上、という状態は、裏返せばそれ以外の層は紹介では動かなくなったということです。エージェントに依頼して人が来る時代は、幹部採用にだけ残りました。
そしてスカウト媒体は高くなり、効かなくなっている。残る手段は、リファラルの強化、発信によるブランド力、そしてヘッドハンティングの3つしかありません。
決算はいつも、現場で起きていることを1年遅れで数字にします。今回は、その数字がはっきり出ました。
よくある質問(FAQ)
人材紹介の手数料の相場はいくらですか?
理論年収の40%が基準です。50%も珍しくなく、幹部・CxO採用では50%が基本でそれ以上になることもあります。30〜35%は過去の相場で、比較記事には今もこの数字が書かれていますが実態と離れています。上場企業の決算から逆算した実勢料率はおよそ42〜46%です。
年収1,000万円の人を採用すると紹介手数料はいくらですか?
40%なら400万円、50%なら500万円が目安です。幹部ポジションでは50%が基本になるため、500万円以上を見込んでおくのが現実的です。
人材紹介の手数料が上がっているのはなぜですか?
決まる人の年収帯が上がっているためです。上場企業の開示では、決定年収1,000万円以上の割合が1年で31.4%から44.9%へ上昇しました。加えてスカウト用の外部データベースが値上げされ、人材会社側の原価も上がっています。
スタートアップのCxO採用にかかる費用はどれくらいですか?
人材紹介の成功報酬なら理論年収の50%が基本です。年収1,500万円のCxOなら750万円前後を見込みます。顧問・アドバイザーとして要件設計から入る形なら月20万〜50万円、ヘッドハンティングの月次契約なら月額20万円に決定時の成功報酬という組み方もあります。
スカウトメールの返信率が下がっているのは本当ですか?
下がっています。30歳・MARCHクラスの学歴・メガバンク在籍という層でも、媒体に登録した翌日に300通ほどのスカウトが届きます。この量になると一通ずつは読まれません。上場企業の決算でも、外部データベースの値上げが売上原価率を約3ポイント押し上げると開示されています。費用は上がり、効果は下がっているのが現状です。
人材紹介会社に依頼する以外の採用手段はありますか?
リファラルの強化、発信によるブランド力の構築、ヘッドハンティング(ダイレクトリクルーティング)の3つです。優秀な人ほど転職活動をしないため、応募を待つ手段では出会えません。幹部採用はヘッドハンティング以外の方法がほぼありません。
人材業界の決算はどこで確認できますか?
各社のIRサイトで決算説明資料が公開されています。フォースタートアップス(東証グロース 7089)は人材紹介1件あたりの単価と決定年収の構成比を四半期ごとに開示しており、業界の実勢を第三者が検証できる数少ない資料です。
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出典
フォースタートアップス株式会社(東証グロース 7089)2026年3月期 通期決算説明資料/2027年3月期 第1四半期決算説明資料。いずれも同社IRサイトの決算説明会資料より。本記事の料率の逆算は筆者による推計であり、同社が開示した数値ではありません。