こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を約25年続けているキープレイヤーズの高野です。
ここ2〜3年で、私のところに来る相談の中身が明らかに変わった領域があります。サプライチェーン(SCM)・購買/調達・物流(ロジスティクス)です。以前は「地味な間接部門」という扱いで、正直に言えば転職市場でも人気の職種ではありませんでした。それが今、役員クラスのポストが法律で強制的に新設されるという、他の職種では起こりえない事態になっています。
この記事を書くにあたって上位表示されている記事を一通り読みましたが、率直に言って情報が古いまま放置されているものが非常に多い。「2030年に輸送力が34%不足する」という数字を今も載せている記事が大半ですが、これは国土交通省が2026年3月に約7%へ下方修正済みです。年収データも出典が書かれていないものばかりでした。
この記事では、出典と時点を明記しながら、この領域を職種の違いから年収、未経験ルート、失敗パターンまで整理します。確認できなかったことは「確認できない」と正直に書きます。
まず結論——この領域の要点
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| いま何が起きているか | 改正物流効率化法により、約3,200社にCLO(物流統括管理者)の選任が義務化(2026年4月全面施行)。役員クラスの物流ポストが制度的に新設されている。 |
| 年収レンジ | 購買・調達 平均542.3万円(doda職種図鑑)/SCM企画 800万円前後(JAC登録者ベース)/物流管理 436万円(求人ボックス・求人票ベース)。出典により大きく差が出るので後述で解説。 |
| 未経験可否 | 可能性は高い。法人営業からの横スライドが最多ルート。ただし年収は平均より低い水準からのスタートが一般的。 |
| 最強の武器 | SAP(特にMM/PP モジュール)。2027年のSAP ERP標準サポート終了に伴うS/4HANA移行案件で、構造的な売り手市場が続く。 |
| 資格 | 必須資格はない。業界内でも「資格は不要」と「取るべき」で見解が割れている。詳細は後述。 |
| キャリアの出口 | SCMマネージャー → 物流/SCM統括責任者 → CLO・CPO(Chief Procurement Officer)。 |
| 最大の落とし穴 | 「事務作業中心だと思って入ったら、サプライヤーとの交渉と突発トラブル対応が業務の大半だった」というギャップ。 |
SCM・購買/調達・物流企画・生産管理——4職種の違いを整理する
相談に来られる方の多くが、この4つを区別しないまま「サプライチェーン系に行きたい」と言われます。ただ実際には求められるスキルも年収カーブも違うので、最初にここを分けておくと転職活動の精度が上がります。
| 職種 | 主な仕事 | 年収の目安 | 未経験の入りやすさ | 向き合う相手 |
|---|---|---|---|---|
| 購買・調達 | サプライヤー選定、価格交渉、契約、コスト削減、調達リスク管理 | 平均542.3万円/責任者1,000〜1,500万円 | ◎ 最も広い | サプライヤー、設計・開発部門 |
| SCM企画・需給計画(S&OP) | 需要予測、生産・在庫計画、S&OP会議の運営、全体最適の設計 | 800万円前後(JAC)/30代700〜750万円 | △ 実務経験前提が多い | 営業・生産・経営層 |
| 物流・ロジスティクス企画 | 輸配送ネットワーク設計、3PL選定、物流コスト管理、法対応 | 管理職832.2万円(JAC)/求人票ベース436万円 | ○ 拡大中 | 運送会社、倉庫、荷主 |
| 生産管理 | 生産計画立案、工程管理、進捗・品質・納期の管理 | メーカー水準に準ずる | ○ 製造業経験があれば | 工場、製造現場 |
ざっくり言えば、購買・調達は「入口が広く、交渉力が武器になる仕事」、SCM企画は「入口は狭いが、年収の天井が高い仕事」です。未経験からこの領域を目指すなら、まず購買・調達で実務を積んでSCM企画に上がるルートが現実的だと私は考えています。
なお、この4職種はいずれもベンチャー転職の完全ガイドで解説している「ベンチャーで裁量を持って働きたい」というニーズと相性がいい領域でもあります。特にEC・D2C・製造系スタートアップでは、SCM責任者は事実上の経営メンバーです。
いま最大の追い風——改正物流効率化法とCLO義務化
この記事で最も伝えたいのがここです。転職市場の話をする前に、制度の話をさせてください。これほど明確に「ポストが法律で作られる」ことは、他の職種ではまず起きません。
二段階施行という点に注意
ネット上の記事では「2026年施行」とだけ書かれているものが多いのですが、正確には二段階です。努力義務は2025年4月1日から施行済み、規制的措置が2026年4月1日に全面施行されています(出典:国土交通省)。
| 区分 | 指定要件 | 対象数 | CLO選任義務 |
|---|---|---|---|
| 特定荷主・特定連鎖化事業者 | 取扱貨物重量 9万トン以上 | 約3,200社 | あり |
| 特定貨物自動車運送事業者等 | 保有車両 150台以上 | 約790社 | なし |
| 特定倉庫業者 | 貨物保管量 70万トン以上 | 約70社 | なし |
CLO(物流統括管理者)の選任義務は特定荷主・特定連鎖化事業者のみで、運送事業者・倉庫業者は対象外です。ここを混同している記事が多いので注意してください。
約3,200社に役員クラスの物流統括ポストが必要になる。これは求人市場に確実に効いてきます。実際、私のところにも「物流を分かっている役員候補はいないか」という相談が2025年後半から明らかに増えました。CXO転職ガイドでも触れていますが、CxOポジションは通常、既存の人脈で埋まります。制度によって急に3,200席が生まれると、外部からの登用が起こるのです。
2024年問題は「解決した」のか
ここも誤解が多いところです。データを正直に見ると、効率化は前進しているが、個社の体力は悪化しているという二極化が起きています。
| 指標 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| ドライバー有効求人倍率 | 2.37倍(全職業1.17倍)68か月連続2倍台 | 厚労省/2026年5月 |
| 荷待ち・荷役等時間 | 2時間2分(▲1時間16分)目標をほぼ達成 | 国土交通省/2026年7月10日 |
| 平均拘束時間 | 10時間13分(▲1時間33分) | 国土交通省/2026年7月10日 |
| 標準的運賃の8割以上を収受できた事業者 | 約45%にとどまる | 国土交通省/2025年7月11日 |
| 人手不足倒産 | 441件(3年連続過去最多)うち道路貨物運送業55件 | 帝国データバンク/2025年度 |
| 輸送力不足の見通し | 平均約7%(最大25%)へ下方修正(旧推計34.1%) | 国土交通省/2026年3月3日 |
最後の行が重要です。「2030年度に34.1%の輸送力不足」という数字は、もう最新ではありません。国交省が2026年3月に再推計し、官民の取組で約14ポイント克服、輸送需要自体も約12%減少したことで、平均約7%へ大幅に下方修正されています。それでもドライバーの有効求人倍率が2.37倍という現実は変わっておらず、「構造問題は残っているが、以前語られていたほどの破局ではない」というのが正確な理解です。
年収データ——なぜ出典によって300万円も違うのか
この領域の年収を調べると、必ず混乱します。「物流の平均年収748.2万円」と書いてある記事と、「436万円」と書いてある記事が同時に上位に出てくるからです。これは、どちらかが嘘なのではなく、母集団が違うだけです。
| 職種・区分 | 年収 | 出典(母集団の性質) |
|---|---|---|
| 購買/資材調達 平均 | 542.3万円(最多年収帯は400万円台26%) | doda職種図鑑(登録者ベース) |
| 購買・調達 メンバークラス | 500〜600万円 | JAC Recruitment |
| 購買・調達 責任者クラス | 1,000〜1,500万円 | JAC Recruitment |
| SCM職 転職者平均 | 800万円前後(30代700〜750/40代800〜900/50代1,000万円前後) | JAC(ハイクラス登録者バイアスあり) |
| 物流業界 全体平均 | 748.2万円(管理職832.2万円/外資801.0万円) | JAC(同上) |
| 物流管理 平均 | 436万円(全体幅312〜833万円/東京都523万円) | 求人ボックス(求人掲載全体) |
| 通関士 | 498万円(求人ボックス)/約585万円(令和5年賃金構造基本統計調査ベース) | 出典により約90万円の差 |
| 貿易事務 | 511.9万円 | エラン |
| SCMコンサル(アビーム平均) | 約830万円(マネジャー800〜1,000万/シニアマネジャー1,200万) | OpenWork(社員投稿) |
| SCMコンサル(アクセンチュア平均) | 約866万円 | OpenWorkデータ |
| SAP系コンサル(MM/SD/PP等) | 600〜1,200万円、求人により800〜2,000万円 | JAC/type |
| スタートアップ SCMマネージャー | 900万〜1,050万円(IPO準備企業のマネージャー級1,000万〜1,349万円) | ミドルの転職・掲載求人 |
正直に書いておきたい2つの注意点
1つ目。JAC系の数字は上振れします。748.2万円や800万円という数字は、ハイクラス特化エージェントに登録している人の平均です。求人ボックスの436万円は求人掲載全体の集計。あなたが今どちらの層にいるかで、参照すべき数字が変わります。両方を並べて見せない記事は、はっきり言って不誠実だと思います。
2つ目。「外資メーカーのSCM=高年収」は必ずしも正しくありません。OpenWorkのデータを見ると、ユニリーバ・ジャパンの全社平均736万円に対し、サプライチェーン職の平均は594万円と約140万円低い。P&Gジャパンの全社平均は約885万円ですが、これも職種別ではありません。外資の看板に釣られる前に、職種別のデータを確認してください。日本ロレアルのSCM職の年収データは、今回の調査では確認できませんでした。
年収の考え方全般については年収・手取りガイド、職種ごとの年収の上げやすさは年収アップしやすい職種の完全ガイドも合わせて読んでいただくと立体的に見えると思います。
CPOという言葉の罠
細かいですが重要な注意です。「CPO」で検索すると、日本語WebではChief Product Officer(最高製品責任者)の記事が圧倒的多数を占めます。調達のトップであるChief Procurement Officerとは全く別物です。日本国内でChief Procurement Officer単独の年収統計は確認できませんでした。CXO求人としては1,500万〜3,000万円レンジの提示が見られますが、これは統計ではなく個別求人の提示額です。
2026年の市場動向——調達職のスキル要件が変わりつつある
半導体・部材調達は緩和していない
WSTSの2026年春季予測では世界半導体市場が前年比+90%とされていますが、これはほぼ価格暴騰による金額増であり、出荷数量の増加ではありません。需給緩和と読むと完全に誤ります。実際、2026年Q2のDRAM価格は+58〜63%、NANDは+70〜75%(前四半期比)、MicronのDDR4はリードタイム52週・アロケーション状態。受動部品にも波及し、ポリマーコンデンサ50週、MLCC価格+15〜35%という状況です。
そして、日本企業にとって最大の論点がこれです。中国のレアアース規制は「米国向けは緩和、日本向けは強化」という非対称状態にあります。米国向けは2025年11月の米中合意で主要公告が1年間停止された一方、日本向けは2026年1月6日に規制が実施され、ジスプロシウム・テルビウム・イットリウム酸化物・ガリウム等の対日輸出は事実上停止しています。日本は2024年に中国から総輸入量の63%のレアアース金属を輸入していました(出典:CSIS 2026年1月13日)。
調達職にとって、これは「価格交渉」の仕事から「供給を止めない仕事」への質的転換を意味します。求められる能力が変わっているのです。
経済安全保障とサプライチェーン
特定重要物資は16物資(2026年2月24日施行、第3弾で人工呼吸器・無人航空機・人工衛星・ロケット部品を追加)。ネット記事の大半が「11品目」「12品目」のまま更新されていないので注意してください。確保予算は約2.56兆円、151件・最大助成額約1.68兆円が認定されています(内閣府/2026年7月14日時点)。
なお、コロナ期の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」は新規公募が終了済み(最終公募2023年2月)で、経済安保推進法の基金やGXサプライチェーン構築支援事業へ移行しています。両者を混同した記事が多数あります。
企業側のBCP策定率は21.4%と初めて2割を超え、「調達先・仕入先の分散」を挙げる企業が42.1%(+5.2pt)、「物流の混乱」をリスク認識する企業が36.5%(+9pt)と増加しています(帝国データバンク/2025年調査)。
脱炭素・Scope3調達——ここが最も情報が古い
正直、この分野は日本語の解説記事の8割が古い情報のままです。2026年7月時点の正しい事実を整理します。
| よくある誤った記述 | 2026年7月時点の事実 |
|---|---|
| EU Omnibusは交渉中 | Directive (EU) 2026/470として成立済み(2026年2月24日採択) |
| SBTi Net-Zero Standard V2は策定中 | 2026年6月11日に最終版公表済み |
| Scope3は67%カバレッジ要件 | 廃止され5%重要性閾値へ変更 |
| CBAM証書購入は2026年1月から | 証書販売開始は2027年2月1日(本格適用開始が2026年1月1日) |
| CSDDDに気候移行計画義務あり | 削除された |
実務インパクトとして最も分かりやすいのがこの数字です。EcoVadisのBarometer 2026によれば、炭素データを一切提供していないサプライヤーが30%、一次データを出せるのは21%=約5社に1社。一方で製品レベルのカーボンフットプリント収集を開始した先進バイヤーは85%。この需給ギャップが拡大しているということは、「サプライヤーから炭素データを引き出せる調達担当者」の市場価値が上がっているということです。
なお日本はCDPのAリストが240社超で国別世界最多(A評価率12%、世界平均約4%)、SBTi検証済み目標企業も2,000社超で世界第1位です。日本企業は決して遅れているわけではありません。
物流テック・SCM SaaSという選択肢
「物流業界に行く=運送会社か倉庫会社」という時代ではありません。この領域のスタートアップは選択肢として現実的です。今回、各社の公式サイトを実際に確認して稼働を検証しました(2026年7月時点)。
| 企業 | 事業 | 直近の資金調達 | 規模 |
|---|---|---|---|
| オープンロジ | EC物流アウトソーシング。全国約70倉庫、13,000アカウント超 | 2024年2月シリーズD 約35.5億円(累計約63億円) | 非上場 |
| Hacobu | MOVO Berth(バース予約シェア57.2%)等 | 累計56億円 | 220名(2026年4月) |
| アセンド | 運送事業者向けSaaS「ロジックス」 | 2025年11月シリーズB 11億円(累計約18億円) | 38名(2025年10月) |
| CADDi | CADDi Drawer / Quote。デンソー・トヨタ・コマツ等が導入 | 2025年3月シリーズCエクステンション 91億円(累計257.3億円) | 846名(2026年4月) |
| Shippio | 国際物流・貿易DX。2026年6月に10周年 | 2025年10月シリーズC 32.4億円(累計約70億円) | 非上場 |
| ロジレス | OMS+WMS一体型。導入1,700社(2026年4月) | 非公開 | 非上場 |
| CBcloud | PickGo、SmaRyu | 2026年4月22日実施(金額非公開) | 非上場 |
この手の記事では「Loglass」を物流テックとして挙げているものを見かけますが、Loglassは経営管理(FP&A・予算管理)SaaSであって物流企業ではありません。間違えないでください。
旧記事で紹介していた株式会社トドケールについて
この記事はもともと、株式会社トドケール(代表・野島剛氏)の企業紹介記事でした。同社は2026年7月時点も事業を継続しており(公式サイトの最新お知らせが2026年7月14日付)、郵便物・配送物のデジタル管理という「オフィス内のラストワンマイル物流」を扱う会社です。
設立は2018年7月、サービスは「トドケール受取管理」「トドケール発送管理」「クラウドメール室」「コクヨのWebポスト」「バーチャルオフィス」など。資金調達は2023年2月のプレシリーズA 1億円(ジェネシア・ベンチャーズ)に始まり、シリーズAはWiLがリードし総額4.5億円、累計調達額6.8億円(2025年6月時点、公式note)。2026年3月にはAIによる郵便・荷物の仕分け自動化機能をリリースしています。システム内取扱荷物数は過去4年間で年平均417%超の成長。
なお一部で「シリーズAで3億円」という記載がありますが、ファーストクローズの金額は公式には非開示です。資本金・従業員数・2026年時点の正確な導入社数も公表されていません。
私がこの会社を物流キャリアの文脈で挙げるのは、「物流DX」の裾野の広さを示す好例だからです。トラックや倉庫だけが物流ではなく、オフィス内の受発送という誰も手をつけていなかった領域にもSaaSが成立する。この視野の広さは、SCM・物流キャリアを考えるうえで持っておくと得をします。スタートアップ採用ガイドで書いた通り、こうしたフェーズの会社では一人が担う範囲が広く、成長速度も速くなります。
資格は取るべきか——業界内で見解が割れている問題
ここは正直に書きます。この領域の資格については、業界内で意見が真っ二つに割れています。JACやタイズといったエージェントは資格取得を推奨する一方、富士ロジテックのような事業会社の採用サイトは「物流業界への転職に資格は必要ない」と明言しています。購買・調達についても「資格は特に必要なし」とする媒体があります。
| 資格 | 実際の市場価値 | コメント |
|---|---|---|
| 通関士 | 年収498万〜591万円。資格手当あり。貿易事務より上位 | 国家資格。ただし「通関士だけで1,000万円」は非現実的 |
| CPIM/CSCP(APICS/ASCM) | 2021年調査で有資格者の給与は非保有者比+27% | 日本の保有者は約200人程度とされる。希少性という意味では最も非対称性が大きい |
| 物流技術管理士 | dodaに専用求人特集があり一定の需要はある | 21日間の講習+修了試験と負担が重い。年収上昇の定量データは確認できず |
| 運行管理者 | 運送事業の営業所に法定選任義務 | 制度的に求人要件として発生する国家資格 |
| 危険物取扱者 乙4 | 資格手当 月5,000〜20,000円(年6万〜24万円) | 大手石油会社では月25,000円超も。ただし単体では年収500万円超は難しい |
| 貿易実務検定 | 推奨資格として掲載されるが、年収上昇データは確認できず | 入門として意味はある |
| 中小企業診断士 | この領域での直接的な価値を示すデータは確認できず | 上位記事でも推奨されていない |
私の見解を言えば、資格より実務、実務よりSAPです。特にCPIM/CSCPは「日本の保有者が約200人程度」という希少性が本当なら、狙う価値はあります。ただし国内での認知度が低いため、外資系やグローバル企業を志望する場合に効く資格だと理解しておいてください。
SAPが最強の武器である理由
SCMコンサル求人の典型的な要件は「SD/MM/PP/PS/FI/CO/QM等のいずれかの業務プロセス経験5年以上+SAP導入経験5年以上」で、年収800万〜2,000万円レンジです。そして2027年問題——SAP ERPの標準サポートが2027年末に終了することで、S/4HANA移行案件が全国で進行中です。
購買・調達ならMM(購買管理)、需給計画ならPP(生産計画)が直結します。向こう数年、SAP経験者は構造的な売り手市場が続くと見ていいでしょう。他のSCMシステムとしてはKinaxis(Maestro)、Anaplan、Blue Yonder(パナソニック100%子会社)が主要ベンダーです。
なお、Excelは最低ラインです。デマンドプランナー求人の典型要件は「LOOKUP関数、ピボットテーブル」レベル。SQL/Pythonを必須要件として明示する求人は、日本のSCM職ではまだ主流ではありません。逆に言えば、ここができると差別化になります。データエンジニア転職完全ガイドで解説しているようなデータ基盤スキルを持ったSCM人材は、まだほとんど市場にいません。
未経験からのキャリアパス——3つの参入ルート
ルート1:法人営業からの横スライド(最多)
この領域で最も多い転職元が営業職です。法人営業経験が「交渉力」としてそのまま評価されるのが理由。購買・調達の仕事の本質は交渉なので、これは理にかなっています。ベンチャー企業の営業職への転職完全ガイドやエンタープライズ営業・SaaS営業への転職完全ガイドで書いた「対法人の折衝力」は、そのまま持ち込める資産です。
ルート2:技術系からの越境
機械・電気設計の経験者は「オーダーメイド系の調達」に適性があります。図面が読める調達担当は、サプライヤーとの技術的な会話ができるので重宝されます。組込みエンジニア転職完全ガイドで扱ったようなハードウェア領域の知見は、部材調達で直接効きます。
ルート3:事務系から総務兼任で入る
成長中の中小企業では「総務が購買を兼任している」ケースが多く、ここが入口になります。地味ですが、確実に実務経験が積めるルートです。
doda・エン転職・マイナビ転職のいずれにも「購買・資材調達 職種未経験歓迎」の専用カテゴリが存在するので、求人自体は確実にあります。ただし年収は、未経験採用の場合は平均(458万円前後)より低い相場からのスタートになるのが一般的です。ここは覚悟しておいてください。準備としては、資格より「現職での調達系業務の関わりとその実績」を語れるようにすること。下請法の知識があると評価されます。
年代別の戦略
| 年代 | 現実的な狙い方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 20代 | 未経験でも購買・調達に入りやすい。まず実務3年を作る | 年収は一度下がる前提。SAPに触れる環境かを必ず確認 |
| 30代 | 営業・技術からの越境の適齢期。SCM企画・需給計画も射程 | 「何を最適化した経験があるか」を数字で語れないと厳しい |
| 40代 | マネジメント経験+領域知識でCLO候補・SCM責任者を狙う | 完全未経験は現実的でない。隣接領域からの越境に絞る |
| 50代 | CLO・顧問・3PL/物流テックの事業責任者 | 実務経験が必須。制度対応の知見が最大の武器になる |
年代ごとの転職の考え方全般は年齢別転職ガイドに詳しくまとめています。
失敗パターン——上位記事がどこも書いていないこと
今回、上位記事を10本読みましたが、失敗事例を書いている記事は1本もありませんでした。成功事例は5本にあるのに、です。これは誠実ではないと思うので、実務者が語っている「きつさ」を正直に書いておきます。
1. コストカットのプレッシャーが常時かかる
「安く仕入れてナンボの世界」で、絶え間なく「もっと安く」を求められます。これがストレス源になる人は少なくありません。
2. 事務作業中心だと思っていたら、交渉が業務の大半だった
これが最も多い入社後ギャップです。「購買」「調達」という職種名の響きから内勤の事務仕事を想像して入り、実際はサプライヤーとの調整と折衝に一日が溶ける。職種名だけで判断した結果の典型例です。
3. 突発トラブルが日常的に発生する
納期遅延・品質不具合の対応で残業が増えやすい。計画的に働きたい人には向きません。
4. 英語のハードルが想像以上に高かった
海外サプライヤーとの取引がある場合、英語は必須になります。ただし「TOEIC何点がボーダーか」を示したデータは、今回調べた限り存在しませんでした。求人票で個別に確認するしかありません。
向いている人・向いていない人
| 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|
| 数字・データ分析が得意 | 数字を追うことにストレスを感じる |
| 交渉・価格調整を楽しめる | 対立を含む折衝を避けたい |
| スケジュール管理能力が高い | 突発対応で計画が崩れるのが苦痛 |
| プレッシャー下でも判断できる | 常時のコスト圧力が精神的に堪える |
| 社内外の調整に苦を感じない | 一人で完結する仕事がしたい |
転職で後悔しないための考え方全般はベンチャー転職の失敗・後悔ガイドにまとめています。職種選びで迷っている段階の方は、先にこちらを読んでいただくといいかもしれません。
転職の進め方——エージェント・媒体の選び方
この領域は特化型エージェントが実在します。今回、実在を確認できたものだけを挙げます。
| サービス | 特徴 |
|---|---|
| ロジキャリ | 物流センター長、物流管理・企画、国際物流・貿易、SCM、調達・購買、物流コンサルに特化。管理職/専門職向け |
| 物流人 | 物流業界特化。リーダー〜管理職クラス、SCM・センター管理など経営戦略に関われる求人 |
| LogiSpace(EPSグループ) | 国際物流専門。外資系・海外企業のサポートも |
| タイズ | 関西中心のメーカー特化。購買・調達のコンテンツも充実 |
| JAC Recruitment | この領域のハイクラス・外資に最も強い。SCM職の転職者データを保有 |
| doda | 職種図鑑・年収データの一次発信源。職種カテゴリが細かい |
| ビズリーチ/ミドルの転職/AMBI | ベンチャーSCMマネージャー900〜1,050万円クラスの求人が集中 |
| ロバート・ウォルターズ/マイケル・ペイジ/エンワールド | 外資系SCM求人の主力チャネル |
エージェントの使い分け方については転職エージェント選び方ガイドと転職エージェント活用術完全ガイドに詳しく書いています。特化型と総合型を2〜3社併用するのが基本です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 未経験でも本当に購買・調達に入れますか?
入れます。doda・エン転職・マイナビ転職のいずれにも未経験歓迎の専用カテゴリが存在します。ただし年収は平均より低い水準からのスタートが一般的で、入口として最も現実的なのは法人営業からの横スライドです。35歳を超えると急に難しくなる、という明確なラインはこの職種にはありませんが、マネジメント経験なしの完全未経験は40代だと厳しくなります。
Q2. SCMと生産管理、どちらを目指すべきですか?
製造業の現場経験があるなら生産管理から入り、全体最適の視点を得てSCM企画に上がるのが自然です。製造業経験がないなら購買・調達から入るほうが早い。SCM企画をいきなり未経験で狙うのは、実務経験を前提とした求人が多いため現実的ではありません。
Q3. CLOになるにはどうすればいいですか?
CLO(物流統括管理者)は特定荷主・特定連鎖化事業者に選任義務がある役員クラスのポジションです。現時点では既存の物流部門責任者が就任するケースが大半ですが、約3,200社という対象数を考えると、外部登用は確実に起こります。物流実務+法対応の知見+役員としての経営視点、この3つが揃っている人はまだ市場にほとんどいません。執行役員への転職完全ガイドも参考にしてください。
Q4. 英語はどのくらい必要ですか?
海外サプライヤーとの取引がある企業では必須です。ただし「TOEIC何点」という業界標準のボーダーラインを示すデータは、今回の調査では見つかりませんでした。求人票と面接で個別に確認してください。国内完結の企業であれば英語なしのポジションも普通にあります。
Q5. 物流業界の年収は本当に748万円ですか?
それはJAC Recruitment登録者ベースの数字です。求人ボックスの求人掲載全体の集計では物流管理の平均は436万円。300万円以上の乖離があります。ハイクラス層を狙うのか、まず業界に入るのかで、参照すべき数字が変わります。片方だけを載せている記事は疑ってください。
Q6. コンサルからSCM領域に移るのはアリですか?
非常にアリです。アビームやアクセンチュアのSCMコンサル経験者は事業会社のSCM責任者候補として引く手あまたです。逆に事業会社からSCMコンサルへ移るルートもあり、SAP経験があれば年収800万〜2,000万円レンジが射程に入ります。コンサルからの転職ガイドも併せてご覧ください。
Q7. IRや経営企画とはどう違いますか?
SCMは「モノとカネの流れの最適化」、経営企画は「事業ポートフォリオの設計」、IRは「投資家への説明」です。ただしCLOやCPOクラスになると、経営企画的な視点が必須になります。経営企画への転職完全ガイド、IR転職完全ガイドも参考になるはずです。
最後に
私がこの領域を「今が面白い」と思う理由は、単純です。法律が役員ポストを3,200席作った職種は、他にありません。そのうえ、レアアース規制や脱炭素対応で求められる能力が明確に変わりつつある。つまり、過去の経験の蓄積量よりも、これから何を身につけるかで差がつく局面にあります。これは、後発で入る人にとって有利な状況です。
一方で、この職種は華やかではありません。コストのプレッシャーと突発対応が日常です。「向いている人・向いていない人」の表は、営業トークではなく本当のことを書いたつもりです。読んでみて「これは自分ではないな」と思ったなら、それはそれで大きな収穫だと思います。
キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップを中心に、SCM・購買・物流領域の求人もお預かりしています。CLO候補やSCM責任者クラスのご相談も増えました。「自分の経験がこの領域で通用するのか分からない」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。