こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職を約25年サポートしているキープレイヤーズの高野です。
今回は、いま最も「地味に見えて、実は最大級の予算が動いている」領域、GovTech(ガブテック)=行政・自治体DX業界への転職ガイドをまとめました。
正直に言うと、私が転職相談でこの領域をおすすめすると、最初は微妙な顔をされることが多いです。「役所相手の仕事って、遅くて大変なんじゃないですか」と。気持ちは分かります。ただ、数字を見ていただきたい。デジタル庁の2026年度予算の概算要求額は6,143億円で、前年度当初予算比29.2%増と過去最大。そのうち5,929億円、実に9割超が情報システムの整備・運用経費です。世界に目を向ければ、GovTech市場は2025年の約7,711億米ドルから2026年に約8,824億米ドル(CAGR14.4%)、2030年には約1兆5,256億米ドルに達する見込みとされています。
これほど確実に予算が積まれ、しかも「やらない」という選択肢が制度上存在しない市場は、他にほとんどありません。
私がこの領域に注目したきっかけは、2021年に多言語AIチャットボット「Bebot」を展開する株式会社ビースポークの綱川明美さんに取材させていただいたときのことです。当時、綱川さんはこんな話をしてくださいました。4年半ほど前に議員会館で「チャットボットを説明しに来て」と呼ばれ、必死に説明した後の最初の質問が「チャットってなんや?」だった、と。LINEも通じず、電子メールも通じず、SMSと言い換えてやっと伝わったそうです。
その状態から、コロナ禍を経てわずか数年で、自治体側が「DXのお手伝いをお願いします」と言ってくる時代になりました。綱川さんは「まさかそんな日が来るとは全く思っていなかった」とおっしゃっていましたが、まさにその変化が、いま業界全体の求人となって表れています。自治体のDXの現状と求められる人材について綱川明美さんに伺ったインタビューも、あわせてご覧ください。
本記事では、GovTech業界の市場環境、6カテゴリーの全体像、企業タイプ別の年収、職種別スキル、未経験からの参入ルート、年代別戦略、失敗パターンとFAQまで、実務的に解説します。
GovTech(ガブテック)とは — 「行政をユーザーとするSaaS・受託」の総称
GovTechは Government × Technology の造語で、行政・自治体・公共機関の業務やサービスを、テクノロジーで変革する事業領域を指します。CivicTech(市民主導の技術活用)と混同されがちですが、GovTechは行政機関そのものが顧客であり、事業として対価を得る点が決定的に違います。
顧客の内訳はおおむね次の3層です。
- 国(省庁・デジタル庁):大規模・長期・高単価。調達は入札が基本で、参入障壁は高い
- 都道府県・政令市:中規模。プロポーザル方式が多く、実績があれば横展開しやすい
- 市区町村(約1,700団体):1件は小規模だが団体数が圧倒的に多く、横展開のレバレッジが最も効く。SaaS型GovTechの主戦場
転職を考えるうえで大事なのは、この3層のどこを主戦場にしている会社なのかを見極めることです。国の案件中心なら大規模SIerに近い働き方、市区町村向けSaaSならスタートアップらしいプロダクト開発とインサイドセールスの世界になります。同じ「行政DX」でも、日々の仕事は別物です。
なお、規制産業を顧客とするという点で、GovTechはリーガルテック(LegalTech)業界の転職ガイドやヘルステック(HealthTech)業界の転職ガイドと構造がよく似ています。「制度が変わると市場が生まれる」タイプのビジネスに興味がある方は、この3領域を並べて検討するとよいと思います。
2026年のGovTech市場環境 — 「期限のある法定需要」という他にない追い風
私が業界を評価するとき、いちばん重視するのは「買わない選択肢があるかどうか」です。この観点で、GovTechは極めて特殊なポジションにあります。
| 指標 | 数値 | 注記 |
|---|---|---|
| 世界のGovTech市場 | 2025年 約7,711億USD → 2026年 約8,824億USD | CAGR約14.4%。2030年には約1兆5,256億USD(CAGR約14.7%)に達する見込み |
| デジタル庁2026年度概算要求 | 6,143億円(前年度当初予算比+29.2%) | 過去最大。うち5,929億円(9割超)が情報システムの整備・運用経費 |
| 自治体の基幹業務システム標準化 | 20業務が対象、移行期限は原則2025年度末(2026年3月末) | 住民記録、地方税、国民健康保険など。国が策定した標準仕様への準拠が必須 |
| ガバメントクラウド移行進捗 | 2026年1月末時点で全システムの38.4%が移行完了 | 1つ以上のシステムを移行済みの自治体は1,188団体(66.4%) |
| 対象自治体数 | 約1,700市区町村 | 同じ制度対応を1,700回売れる構造。SaaSの横展開効率が非常に高い |
| 制度面の新要素 | 改正地方自治法によるサイバーセキュリティ方針の義務化 | 公金収納のデジタル化とあわせ、2026年度以降の新規需要を生む |
| 2026年度のフェーズ変化 | 「行政内部のデジタル化」→「行政サービスの価値創出」 | 内部効率化から住民接点のUX改善へ。プロダクト人材の需要が増える局面 |
この表で最も注目していただきたいのは、ガバメントクラウド移行が38.4%という行です。期限は原則2025年度末でした。つまり、期限を迎えてもなお6割以上のシステムが移行を完了していない。
これをどう読むか。ネガティブに見れば「行政案件は遅延が常態化している」ということですし、実際そのとおりです。ただ転職市場としては、やらなければならない仕事が大量に積み残っている=向こう数年、需要が確実に存在することを意味します。しかも制度対応なので、景気が悪化しても発注が消えません。
私は約25年この業界を見てきましたが、「買わない選択肢がなく」「期限が法令で決まっていて」「顧客が1,700団体いる」市場は、正直ほとんど記憶にありません。SaaS業界で言えば、インボイス制度や電子帳簿保存法の対応需要が数年間続いたのと同じ構造が、桁違いの規模と期間で起きていると考えてください。
もう一つ重要なのが、表の最終行です。2026年度は、自治体DXが「行政内部のデジタル化」中心のフェーズから、「行政サービスの価値創出」を重視する段階に移りつつあります。これは転職者にとって大きな意味があります。これまで求められていたのがSIer的な導入人材だったのに対し、これからはUI/UXデザイナー、プロダクトマネージャー、データ活用人材の需要が伸びるということだからです。
GovTech業界の6カテゴリーと主要プレイヤー
1. 行政手続きSaaS・電子申請
グラファー(Graffer)が代表格です。自治体・官公庁向けの『Graffer Platform』でオンライン申請、手続き案内、窓口のペーパーレス化、業務アウトソーシングまでを提供しています。従業員数は約80名、累計調達額は約31.2億円、評価額は約107.5億円という規模感。注目すべきは2026年4月28日に株式会社行政システム研究所の発行済株式100%を取得したことで、スタートアップが既存の行政システムベンダーを買収するという、業界の成熟を示す動きが出てきました。
トラストバンクも外せません。ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」で全国の約9割の自治体と接点を持ち、そこを起点にフォーム作成ツール「LoGoフォーム」、自治体専用ビジネスチャット「LoGoチャット」などを展開しています。ふるさと納税という圧倒的な入口を握ったうえで、周辺の行政SaaSに展開するという戦略で、これは非常によくできたモデルです。
2. デジタルID・本人確認
xIDがこの領域の代表です。マイナンバーカードを活用したデジタルIDアプリを提供し、トラストバンクの「LoGoフォーム」とAPI連携した「LoGoフォーム電子申請」を共同展開しています。加賀市への全国初導入を皮切りに、提供開始から1年で25自治体が導入するという立ち上がりでした。
マイナンバーカードの普及が進んだことで、「本人確認をオンラインで完結させる」ことが技術的にも制度的にも可能になった。ここがGovTech全体のボトルネックだったので、この領域が解けたことの意味は大きいです。
3. 基幹システム標準化・ガバメントクラウド
前述の20業務標準化とクラウド移行を担う領域。大手SIer、自治体系システムベンダー、クラウドインテグレーターの主戦場です。金額規模は最も大きく、インフラエンジニア・クラウドアーキテクトの需要が集中しています。
ここは正直、スタートアップというより大規模プロジェクトの世界です。ただし、マルチクラウド/IaCの実務経験がある方にとっては、単価も高く、経験も積める良いフィールドだと思います。AWS/Azure/GCPの設計経験は、この領域でそのまま評価されます。
4. 公共向け業務SaaS・情報共有
サイボウズのkintoneは500を超える官公庁への導入実績を持ち、この領域の定番になっています。ビースポークの多言語AIチャットボット「Bebot」も、観光・交通のハブから自治体窓口対応へと領域を広げてきました。
綱川さんが取材でおっしゃっていた指摘で、私が今も重要だと思っているのが「自治体同士で共通化できる部分を増やしてDXを加速する」という観点です。1,700団体がそれぞれ独自仕様を作ると、コストも工数も無限に膨らむ。共通化をどう設計するかがGovTechビジネスの本質であり、ここを理解しているかどうかが面接でも差になります。
5. 市民参加・政策形成プラットフォーム
Polimillが生成AI「QommonsAI」と社会デザインプラットフォーム「Surfvote」を展開しており、シリーズAラウンドで融資を含め総額6.35億円を調達しています。PoliPoli、issues、イチニなども、政策形成や住民と行政のコミュニケーションを扱うプレイヤーです。
市場規模はまだ小さいものの、生成AIとの相性が非常に良い領域です。生成AI・LLM・AIエージェント業界の転職ガイドで扱っている技術が、そのまま行政の文書処理・住民対応・議会答弁支援に応用されつつあります。
6. 公共インフラ・都市DX
建設・インフラ管理、都市計画、防災の領域。国土交通省のPLATEAU(3D都市モデル)を軸にした事業や、インフラ点検のDXなどが該当します。この領域は施工管理・建設DX(ConTech)の転職ガイドと大きく重なるので、あわせてご覧ください。
GovTech業界の職種別・年収相場【2026年】
| 職種 | 年収レンジ | 主な必要スキル | 未経験参入 |
|---|---|---|---|
| 公共向けフィールドセールス | 500万〜900万円 | BtoG提案、入札・プロポーザル対応、長期商談の推進 | ◎(SaaS法人営業3年以上が目安) |
| カスタマーサクセス(自治体担当) | 450万〜800万円 | 導入支援、業務フロー設計、研修設計 | ◎(CS経験者は即戦力) |
| バックエンドエンジニア | 550万〜1,000万円 | Go/Java/Ruby、API設計、セキュリティ、可用性設計 | ○ |
| クラウドインフラ/SRE | 600万〜1,200万円 | AWS/Azure/GCP、IaC、政府情報システムのセキュリティ要件(ISMAP等) | ○(標準化案件で最も需要が強い) |
| プロダクトマネージャー | 700万〜1,300万円 | 行政業務ドメイン理解、要件定義、ロードマップ策定 | △(ドメイン理解に時間がかかる) |
| UI/UXデザイナー | 500万〜1,000万円 | アクセシビリティ(JIS X 8341)、行政サービスUX、ユーザーリサーチ | ○(2026年度以降に需要拡大) |
| 公共政策・渉外(パブリックアフェアーズ) | 600万〜1,200万円 | 制度理解、省庁・自治体折衝、審議会対応 | ○(官公庁・シンクタンク出身が有利) |
| プロジェクトマネージャー/PMO | 600万〜1,100万円 | 大規模導入のQCD管理、多数ステークホルダー調整 | ○(SIer出身の主戦場) |
| データアナリスト・EBPM支援 | 550万〜1,000万円 | SQL、統計、政策評価、オープンデータ活用 | ○ |
| デジタル庁・自治体CIO補佐官等の官側ポジション | 900万〜1,650万円 | 民間での高度専門実務、調達・制度理解 | △(実績重視。副業・非常勤から入る例も) |
企業タイプ別に整理すると、こうなります。
- GovTechスタートアップ(グラファー、xID、Polimillなど):450万〜900万円+SO。プロダクトに近い仕事ができる一方、資金調達フェーズの見極めが必須
- 大手SaaS/IT(サイボウズ等)の公共部門:550万〜1,000万円。安定していて、公共向けの実績も積みやすい
- 大手SIer・コンサルの公共部門:600万〜1,400万円。DX推進関連職では600万〜1,400万円の求人が実際に存在する。単価は高いが、プロダクトを作る仕事ではない
- デジタル庁・官側ポジション:平均年収は約945万円、中央値は約1,050万円という水準で、民間専門人材では1,000万〜1,650万円のレンジも見られます。「公務員は給料が安い」という先入観は、この領域に関しては当てはまりません
率直に申し上げると、GovTechは「地味だが年収が悪くない」領域です。特にデジタル庁の民間専門人材の水準は、多くの方が想像しているより明確に高い。私が相談者に伝えているのは、「派手さで選ぶならAI業界、実質で選ぶならGovTechも候補に入れるべき」ということです。
GovTech業界に転職するメリット・デメリット
メリット
- 需要が制度で担保されている:標準化20業務、ガバメントクラウド移行、改正地方自治法によるセキュリティ方針義務化。景気ではなく法令で発注が決まる
- 横展開のレバレッジが極めて大きい:1,700自治体に同じ制度対応を売れる。1団体で成功事例を作れば、営業効率が跳ね上がる
- 社会的意義が明確で、家族にも説明しやすい:「自分の住む街の窓口が便利になった」が実感できる仕事は多くない
- 予算が大きい:デジタル庁だけで2026年度概算要求6,143億円。市場全体では兆円規模
- ドメイン知識が資産になる:行政の調達・制度理解は一朝一夕には身につかず、身につけた人が慢性的に不足している
デメリット
- とにかく時間がかかる:予算年度、議会承認、入札プロセス。商談が1年以上に及ぶことは普通にある
- ガバメントクラウド移行が38.4%という現実:計画どおりに進まないことを前提に働く精神的耐性が要る
- 技術的に最先端とは限らない:レガシーシステムとの接続、紙・FAX前提の業務フローとの折衝が日常
- 意思決定者が多い:現場担当、情報政策課、財政課、首長、議会。誰か一人を説得すれば進む世界ではない
- 単年度予算の壁:年度末に駆け込み、年度初めは動かないという季節性がある
GovTech業界に向いている人・向いていない人
向いている人
- 長期の商談・プロジェクトを苦にしない人:即決の快感を求める人には向かない
- 制度やルールを読み解くのが苦にならない人:仕様書・要領・法令を読む力がそのまま成果に直結する
- 「共通化」の発想ができる人:1,700団体の個別要望を、いかに共通仕様に落とすかがこの事業の核心
- 社会的インパクトを重視する人:報酬だけでなく意義でモチベーションが持続するタイプ
- SaaSの法人営業・CS経験がある人:BtoGは特殊に見えて、実は法人営業の応用が最も効く
向いていない人
- スピード感を最優先したい人:正直、消費者向けサービスの10分の1のスピードだと思ってください
- 最新技術を追い続けたい人:技術選定は保守性・可用性・セキュリティ優先。尖った技術は採用されにくい
- 成果報酬で青天井に稼ぎたい人:インセンティブ設計は控えめな企業が多い
- 調整業務にストレスを感じる人:関係者調整が仕事の相当部分を占める
- 「行政は非効率だ」と批判するだけで終わる人:現場に敬意を持てないと、顧客との関係が作れません
未経験からGovTech業界に転職する5ステップ
ステップ1:顧客レイヤーと自分の適性を突き合わせる(1週間)
国・都道府県・市区町村のどこを相手にする会社を選ぶか。大規模案件のPMをやりたいのか、プロダクトを1,700団体に広げたいのか。ここを決めないと、応募先の選定が定まりません。
ステップ2:制度の基礎を押さえる(2〜4週間)
最低限、次の5つは説明できるようにしてください。(1)基幹業務システム標準化の20業務、(2)ガバメントクラウドと移行期限、(3)マイナンバーカードとデジタルIDの関係、(4)自治体DX推進計画、(5)入札とプロポーザルの違い。総務省とデジタル庁が公開している資料で十分学べます。これを押さえているだけで、面接での評価は明確に変わります。逆に、ここを知らずに「行政DXに興味があります」と言うと、ほぼ確実に見抜かれます。
ステップ3:自分の経験を「行政の言葉」に翻訳する(2週間)
「SaaSの法人営業」→「長期意思決定プロセスを持つ組織への提案経験」、「業務改善コンサル」→「業務フロー再設計と現場定着支援」、「インフラエンジニア」→「高可用性・高セキュリティ要件下でのクラウド設計」。行政側が読んで意味が分かる言葉に置き換えるだけで、書類通過率が変わります。
ステップ4:GovTechスタートアップと大手の両方を受ける(1か月)
この業界は選択肢が二極化しています。スタートアップで裁量を取るか、大手で大規模案件と安定を取るか。私は両方受けることを強くおすすめします。実際に話を聞くと、想像していた向き不向きが逆だったというケースが本当に多い。
ステップ5:導入自治体数と契約継続率を確認する(2週間)
GovTech企業を見極める最重要指標がこれです。導入自治体数、その内訳(政令市か町村か)、契約継続率、そして「実証実験」ではなく「本契約」がいくつあるか。行政案件は実証実験(PoC)止まりで終わる例が非常に多く、PoCの数を実績としてカウントしている会社は要注意です。ここを確認せずに入社して、「売れているはずの製品が実は本契約ゼロだった」というケースを、私は実際に見ています。
GovTech転職の失敗パターン5選
失敗1:スピード感のギャップに耐えられない
最も多い失敗です。特に消費者向けサービスやSaaSスタートアップから来た方が、「半年で意思決定が1ミリも進まない」現実に心が折れる。これは能力の問題ではなく、期待値設定の問題です。入社前に「商談期間はどれくらいですか」と必ず聞いてください。
失敗2:PoC実績を売上実績と誤認する
前述のとおり。「30自治体で導入」が、全部無償の実証実験だったという例は珍しくありません。有償の本契約が何件あるかを確認してください。
失敗3:単年度予算の季節性を知らずに営業目標を受ける
行政の予算は単年度が原則です。年度初め(4〜6月)はほとんど動かず、年度末に集中する。この季節性を知らずに月次の営業目標を負うと、前半で数字が作れず評価が下がります。目標設計が年度単位になっているかを、入社前に確認してください。
失敗4:「行政は遅れている」という態度が透けてしまう
これは致命的です。自治体の職員の方々は、限られた人員と予算で膨大な業務を回しています。そこに敬意を持てない人は、どれだけ技術力があっても信頼されず、案件が取れません。綱川さんが「チャットってなんや?」と言われた話を紹介しましたが、そこで見下さずに「SMSはやっていますか」と言い換え続けたからこそ、いまの事業があるのだと思います。
失敗5:スタートアップの資金繰りを確認しない
GovTech企業は売掛金の回収サイクルが長いという構造的な特徴があります。行政の支払いは検収後・年度末が基本だからです。売上が立っていても現金が入るのが遅い。資金調達状況とキャッシュフローは必ず確認してください。ベンチャー転職全般の注意点はベンチャー転職の失敗・後悔ガイドにまとめています。
年代別・GovTech業界への転職戦略
20代 — 「行政ドメイン」という参入障壁を早く積む
20代でこの領域に入る最大のメリットは、他の人が持っていないドメイン知識を早期に積めることです。行政の調達プロセス、制度、業務フローの理解は、数年かけないと身につきません。逆に言えば、20代でこれを持っていると30代で一気に希少人材になります。カスタマーサクセスやフィールドセールスから入るのが現実的な入口です。年代別の考え方は年齢別転職ガイドもご覧ください。
30代 — SaaS経験×行政ドメインで最も市場価値が高い
この業界が最も欲しがっているのが30代です。SaaSのプロダクト開発・営業・CSの型を知っていて、それを行政という特殊な顧客に適用できる人。グラファーのようなスタートアップが行政システムベンダーを買収する段階に入り、「スタートアップの型」と「行政の作法」の両方が分かる人材の希少性が跳ね上がっています。
40代 — PM・パブリックアフェアーズ・管理職で入る
40代は、大規模プロジェクトのマネジメント経験や、省庁・自治体との折衝経験が武器になります。プロジェクトマネージャー、PMO、公共政策・渉外責任者あたりが現実的な狙い目です。SIerの公共部門で長く働いた方が、GovTechスタートアップの導入責任者として移るパターンは、成功例が多い。CxO級を狙う場合はCXO転職ガイドが参考になります。
50代 — 官公庁・自治体経験そのものが商品になる
この業界に限っては、50代の官公庁・自治体OBの方が、そのままの経験で価値を出せます。GovTechスタートアップの多くは「行政の中がどう動いているか」が分からずに苦戦しています。元職員のアドバイザー、顧問、公共渉外の責任者としての需要は確実にあります。副業・非常勤から始めて正社員化するパターンも一般的です。
GovTech転職のよくある質問(FAQ)
Q1. 公務員からGovTech企業への転職はできますか?
むしろ最も歓迎されるルートの一つです。行政の意思決定プロセス、予算の流れ、現場の実務を知っている人材は、GovTech企業が喉から手が出るほど欲しがっています。ただし、「制度を知っている」だけでは足りず、それを事業にどう変換するかの視点が求められます。営業やカスタマーサクセスの形で顧客と向き合う覚悟があるかどうかが、選考の分かれ目になります。
Q2. 逆に、民間からデジタル庁や自治体に行くことはできますか?
できます。デジタル庁は民間人材の採用を継続的に行っており、デジタル事務官としては政策デザイン、リーガル、テックなど複数のキャリアコースが用意されています。年収も平均約945万円・中央値約1,050万円、民間専門人材では1,000万〜1,650万円のレンジが見られます。自治体側でもCIO補佐官やDX推進アドバイザーといったポジションがあり、副業・非常勤から関わり始める方が増えています。
Q3. エンジニアとして技術的に成長できますか?
領域によります。クラウドインフラ・セキュリティ・大規模データ基盤は、要件が厳しい分むしろ鍛えられます。ISMAP対応やガバメントクラウドの設計は、民間案件では得られない経験です。一方、フロントエンドで最新フレームワークを追いたいという方には物足りない可能性が高い。「制約の中で堅牢に作る力」を鍛えたい方に向いています。
Q4. GovTech企業の将来性はどう見ればいいですか?
私が見ているのは3点です。(1)有償の本契約数と契約継続率、(2)1団体あたりの単価が上がっているか(アップセルができているか)、(3)制度変更に依存しない継続収益があるか。特に(3)が重要で、標準化やクラウド移行という「一過性の特需」だけで伸びている会社は、需要が一巡した後に苦しくなります。
Q5. 未経験でも入れる職種はどれですか?
公共向けフィールドセールスとカスタマーサクセスが最も入りやすいです。SaaS/ITソリューションの法人営業経験3年以上、課題ヒアリングから提案・クロージングまで一気通貫で担った経験があれば、行政向けの経験がなくても十分に狙えます。入札・プロポーザル対応の経験は歓迎要件であって、必須ではない企業がほとんどです。転職エージェントの選び方 完全ガイドも参考に、公共領域に強いエージェントを使い分けてください。
Q6. 標準化の期限が過ぎたら需要はなくなりませんか?
これはよく聞かれます。私の見方は「移行そのものの特需は縮小するが、その後に運用・最適化・サービス創出の需要が来る」です。実際、2026年1月末時点で移行完了は38.4%にとどまっており、まず移行需要自体があと数年残ります。そのうえで2026年度からは「行政サービスの価値創出」フェーズに入り、改正地方自治法によるセキュリティ方針義務化や公金収納のデジタル化といった新規需要も立ち上がります。一巡して終わる市場ではありません。
まとめ — 「地味だが確実」を選べる人にとって、いま最も割の良い市場
最後に要点を整理します。
- 世界のGovTech市場は2025年約7,711億USD→2026年約8,824億USD(CAGR14.4%)、2030年には約1兆5,256億USDへ
- デジタル庁の2026年度概算要求は6,143億円(前年度当初比+29.2%)で過去最大。うち9割超の5,929億円が情報システム関連
- 基幹業務システム標準化は20業務・約1,700自治体が対象。ガバメントクラウド移行は2026年1月末時点で38.4%と、需要が大量に積み残っている
- 2026年度からは「行政内部のデジタル化」から「行政サービスの価値創出」へフェーズが移り、PM・UI/UX・データ人材の需要が伸びる
- 年収は公共向けセールス500万〜900万円、クラウドインフラ/SRE 600万〜1,200万円、PdM 700万〜1,300万円。デジタル庁の民間専門人材は1,000万〜1,650万円のレンジも
- 未経験の入口は公共向けフィールドセールスとカスタマーサクセス。公務員・官公庁出身者は、その経験自体が最大の武器になる
私は約25年、ベンチャー・スタートアップの転職支援をしてきました。2021年に綱川明美さんへ取材したとき、議員会館で「チャットってなんや?」と言われた話を笑いながら聞いていましたが、正直あの時点では、ここまで一気に行政のデジタル化が動くとは私も思っていませんでした。それがいま、デジタル庁だけで6,000億円超の予算が積まれ、スタートアップが老舗の行政システムベンダーを買収する時代になっています。
この業界を選ぶかどうかの判断基準は、シンプルだと思います。「派手さはないが、確実に社会が変わる仕事」に自分のキャリアの数年を投じられるか。スピードは遅い、調整は多い、技術は最先端ではない。でも、需要は制度で保証されていて、顧客は1,700団体いて、ドメイン知識を積んだ人は圧倒的に足りていない。キャリア戦略として、これはかなり割の良い賭けだと私は考えています。
キープレイヤーズでは、GovTechスタートアップから大手SaaSの公共部門、官側のポジションまで、経営陣と直接つながったうえでのご紹介が可能です。「SaaS営業から行政DXに移りたい」「公務員だが民間で自分の知見を活かしたい」「PdMとして行政サービスのUXを作りたい」——どの段階でも構いませんので、キープレイヤーズへご相談ください。私自身が壁打ち相手になります。ベンチャー転職の全体像はベンチャー転職 完全ガイド、年収の考え方は年収・手取りガイド、コンサル出身の方はコンサルからの転職 完全ガイド、企業側の採用の話はスタートアップ採用ガイドもあわせてご覧ください。