大手からベンチャーに転職したパナソニック出身平山里桜さんの例

執筆者:高野秀敏
株式会社キープレイヤーズ/代表取締役
東北大→インテリジェンス出身。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、7社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。165社上場支援実績あり。バングラデシュで不動産会社、商業銀行の設立からの株主、渋谷のバーのオーナーなど。

経団連の会長に続いて、トヨタの会長豊田章男さんからも、終身雇用はもう保証できない、という言葉がありましたね。企業が定年退職するまで1人の社員を抱え続けることの限界がきている、というメッセージを発したのは、かなり大きな出来事なのではないかと思います。その影響かわかりませんが、大手企業で働いている方からの相談が一気に増えましたね。

ベンチャー企業で働いている方は、自分自身の力で生きていきたいということで、終身雇用を前提とした生き方をしてきてなかった人が多いですよね。そのため、大手からベンチャー企業への転職がまた注目され始めています。

今回は、従業員25万人を超える世界的な電機メーカーPanasonicから、人材系ベンチャー企業ユニポテンシャルに3人目の正社員として転職され、現在は独立されている平山里桜さんにお話しいただきました。

目次

大手からベンチャーに転職した経緯は?

元々、新卒で就職活動をするときに、大企業に入れば「とりあえず、カッコいい社会人になれそう」「そこまでしんどくなく、そこそこ良い生活できそう」という気持ちで会社選びをしていました。入社すればどうにかなると、入社をゴールにしている典型的なタイプだったので、実際の自分ではない自己PRで選考をパスしていました。

ただ、いざ入社してみると、なりたかった「人事」にはなれず一番なりたくなかった「営業」に配属。あれ、思い描いていたのと違う?という感覚はこの配属から始まりました。営業部では、よくあるサービス残業、休日出勤。飲み会では愚痴を言い合う雰囲気に居心地の悪さを感じていました。また、教わったことや自分のできることから一歩飛び出した挑戦ができない環境のため、できることが増えない状態にモヤモヤが募っていきました。

また、この状態を変えたいと思っても、年功序列と勤続年数で評価される社風では「変えられるかもしれない、やってみよう」とワクワクすることもできませんでした。5年後、この会社でカッコよく働いているイメージが全くできなかったので、自分の将来について真剣に考え直しました。

そうして考えたのが次の2点です。

①30代に入る前の過ごし方

ライフイベントが多いのが平均30歳と言われています。その前にキャリアを築くことができるのは20代の間のみ。この20代をいかに過ごすかで、今後の人生・キャリアパスが決まるんじゃないかと考えました。
そうして社内を見渡してみると、Panasonicで30歳を迎えてもリーダーにすらなれない可能性が非常に高い状況でした。

②Panasonicで働き続けられないリスク

①だけなら、環境を変えずに30歳までにリーダーになれるよう頑張る、という選択肢も思いつきますよね。ただ、当時は、2016年にSHARPが台湾のメーカーに買収され、2017年には東芝も経営危機に面しているような状況でした。Panasonicだけはいつまでも続く、なんてことは考えづらいですよね。
もしこのまま、30代・40代になった時に潰れて、社外に放り出された時に、私のスキルは果たして社外で使えるのか?と考えました。「Panasonic内で必要なスキルだけど、あくまでPanasonicを動かす歯車の一つとしてのスキルで、本質的なスキルではないんじゃないか」というのが私の辿りついた結論でした。

そうは言っても、明確なキャリア・人生目標がなかった私は、まずは自分の市場価値を知りたいという気持ちと、何か行動しなくてはという危機感から、転職エージェントに登録して相談することにしました。当初は大手・ベンチャー問わずみていましたが、「とにかくできることを増やす・武器(スキル)を増やすんだ」という気持ちが強かったので、自分の力をより伸ばせそうなベンチャー企業に自然と目がいくようになりました。

大手からベンチャーに転職する際に不安はなかった?

ベンチャー企業に転職することで、少なからず今ある何かを失うことに不安はありました。例えば、ブランド力や福利厚生、良いお給料などです。自分から企業ブランドがなくなったときに、どれくらい相手に認めてもらえるか、なんて分からないじゃないですか?福利厚生や給与も、減った時に自分の生活が具体的にどう変わるのか、想像がつきませんでした。これは誰しもが不安に思うところですよね。

反面、得たいものを考えた時に、経験やスキル、看板無しの実力などが考えられました。ブランド力を失うのが怖いと思う一方で、それに頼って生きることに不安も感じていたんです。私は2017年12月にPanasonicを退職しましたが、2017年は電機メーカーの衰退が話題になっており、Panasonicもその例外ではありませんでした。自分がブランド力を手放したくないと思っても、本当にその企業ブランドは一生続くものなのかと考えると、疑問が残ったわけです。

このように、得たいものと失うであろうものを考えた際に、私にとっては得たいものが失うものよりも大きいと思えたことで決断できました。年齢を重ねるほど、失いたくないものって増えますよね。そうすると、失いたくないものを守るために、他の得たいものを諦めてしまうようになるんじゃないかと思ったんです。今、目の前にあるものを失うのが怖いという気持ちも当然あったのですが、将来、得たいと思ったものが手に入れられない自分になることはそれ以上に怖いと思い、決断しました。

決めてからは、失ったものに目を向ける意味はないので、自分の実力を高めるためにひたすら行動するのみでした。こうして行動したことで得た経験やスキルで、ブランド力を高めたり、稼ぎを作ったりすることもできるので、その時手に入れていたものに固執しなかったことは、今思うと良い決断だったのではないかと思っています。

大手企業とベンチャー企業の違いは?

たくさんありますね。生活面と業務面、精神面の3つに分けてお話しできればと思います。

【生活面における違い】

満員電車に乗ることも、毎朝6時に起きることもなくなりましたね。また、毎日スーツでなく、着たい服を着れるのは、すごく新鮮でした。髪色、ピアス、服装など、全部自由ですね。何かをやらされに会社に行く、という感覚がなくなったので、仮病を使って休みを取るようなこともなくなりました。

社内交流も業務後に飲み会に行くのではなく、ランチで交流するようになったので、社内コミュニケーションを減らすことなく、自分の時間は増えました。出社時間と退社時間も自由です。22時まで働いた次の日はお昼頃にできます。ベンチャーというと睡眠時間を削ってでも働くイメージを持たれる方もいらっしゃるようですが、私の場合は大手にいた時よりも寝るようになりました。最低でも8時間は寝るようにしていますね。

【業務面における違い】

社内にしか影響を与えない雑務に時間を割かなくなったのは、業務における大きな変化だったと思います。会社から指示された数字をそのまま追いかけるようなこともなくなりました。自分自身で目標を立てて、自己責任で結果を出すことが求められます。そう考えてみると、前職でやっていた業務で、本当に業績に繋がるか分からないでやっていた業務も多くて。週報や月報の提出、毎日のラジオ体操、社歌・社訓読み上げなどがそうですね。自分自身で数字に責任を持つようになると、本当に必要なもの以外は捨てられるようになりました。

反対に、やりたい、必要だと思った仕事に、即挑戦できる環境があるのもよかったですね。もちろん、必要性を伝える必要があるのですが、必要性さえ伝えられればすぐに挑戦できる環境があります。

あと、印象的だったのは、1日30件以上来ていた、社用携帯への着信回数が激減しました。ほとんどの連絡をチャットでしているので、そのときに出なくてはいけない電話、というのは本当に数えるほどです。Slackが動いている時間は以前よりも長くなりましたが、内容だけ確認して対応するスケジュールを決められるので、正しく優先順位をつけることができ、仕事の効率が高まったと感じています。

【精神面における違い】

これは業務面にも大きく関わってくるのですが、年功序列を意識することが良い意味でなくなりました。もちろん、敬意は必要ですが、チームで協力して業績を上げるうえでは、むしろ建設的な議論を止める理由にもなってしまうと思います。同様に、残業している=頑張っている、という評価や価値観もなくなりましたね。業績を伸ばすために必要な思考に絞ることができるので、余計なことを考える必要がなくなりました。

コストに対する意識もベンチャーに転職して変わった点だと思います。大手でたくさんのタスクがあり、残業したりしていると、もっと給与が上がってもいいんじゃないか、と思うこともありました。ただ、自分を雇うことで生まれる企業負担を知ったとき、驚きました。社会保険、オフィス家賃、管理のための人件費などなど・・・そうしたコストを踏まえて、当社では給与分稼ぐために給与の3倍の粗利を上げる必要があると考えられています。誰かが作ってくれた仕組みの恩恵に授かり自分の働きを過大評価するのではなく、自分自身の力で給与分稼ぐんだ、というマインドに変化した感覚は忘れずにいたいですね。

こうした意識の変化を通して、自分の視点、相手の視点、会社の視点、3つの視点に立つことの重要性を再確認できたようにも感じています。様々な視点に立つことは、大手企業・ベンチャー企業問わず大切なことだと思いますが、小さい組織だからこそ強い実感が得られているのだと思います。自分らしく働けている今の環境を維持したい、もっと良くしたいという当事者意識を持ち、もっともっと高い視座で物事を考えられるようになりたいです。

大手からベンチャーに転職して後悔したことは?

大手で働いている頃の方が良かったなあと思う点もあります。列挙してみると、
・都内住まいで家賃1万円
・営業手当として毎日+2000円
・旅行に使えるポイント6万円分/年
・年間有休 30日付与
・1人1台 社用車
・六本木ヒルズの美術館.展望台 無料
・ディズニーランド&シー特別価格&スポンサー限定ルームで列待てる
・借入時の信用がトップクラス
などなど……

ベンチャーに転職して自由を手に入れた反面、年収が約150万円ダウンする、手厚い福利厚生がなくなる、社宅が無くなるというのは、いざ体験すると少し堪えましたね。給与が下がるのに、家賃は今まで以上にかかるわけですから。金銭面の優遇施策はたくさんあったので、新卒のタイミングではよかったのかもしれないと思うことも少なくないです。

ただ、それ以上に、精神的に安定したり、自分でコントロールできる時間が長くなったりすることで、得られたものは大きかったと思っています。実際、結果を残すことができれば、前職よりも高い給与になりますし、自分自身に資産として残るものも大きいです。経営層の近くで学んだスキル、ブランドに頼らず稼ぐ力などなど、これらを資産としてまた次のチャレンジをしていきたいと思っています。

ご自身の転職を振り返ってメッセージ

私がベンチャーに転職するとき、「ハイリターンも得られるけど、一方でハイリスクがあることも事実。どっちに転んでも責任持たないよ」と周囲に言われました。その頃は「当然でしょ、バカにしてるの?」と思っていましたが、もちろん簡単なことではなかったです。

ただ結果的に、大手にいた時よりも自由で幸せに生きています。ベンチャーに転職後、私自身結果が出ずにもがいた時期もあり、まさに今そういう状況にいる人もいるかと思いますが、共通して言えるのは、「不幸せそうなひとがいない」ということです。

前職では「楽しいことは仕事じゃない」という考え方で、仕事=お金貰う=楽しいわけがない、この構図が当たり前でした。でも、これって企業にとって都合のいい、ある種の洗脳だとも言えます。給料払っているのだから、つまらないことやってね、と言えるので。これは働いている人にとって、幸せだとは必ずしも言えないと思っています。

それが、ベンチャーに来て、決して楽(ラク)ではないけど、楽しい(タノシイ)仕事ができています。だからこそ、誇りが生まれましたし、「仕事なめるなよ」と本気で思うことも増えました。自分の給与分の利益還元ができないのであれば、できるように必死に工夫しようよ、言い訳と文句は結果出してから言おうよ、と本気で思います。

キープレイヤーズ 高野のコメント

大手からベンチャーに転職された方の事例として、パナソニックからユニポテンシャル、現在は独立されている平山里桜さんを取り上げさせていただきました。ご協力ありがとうございました。

平山さんはTwitterでも人気のある、話題のベンチャー女子です。初めてお会いしたときからキャッチーでインパクトのある方でしたが、一発で人に気に入られる不思議な魅力があります。

他にも、大手からベンチャーに転職した方のお話は、人一倍聞いてきたつもりですが、こんな事例もあるよ、という方がいらっしゃれば、キープレイヤーズ高野までご連絡くださいませ。

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この記事を書いた人

株式会社キープレイヤーズ/代表取締役
東北大→インテリジェンス出身。11,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。55社以上の投資、7社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。165社上場支援実績あり。バングラデシュで不動産会社、商業銀行の設立からの株主、渋谷のバーのオーナーなど。

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