こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職を約25年サポートしているキープレイヤーズの高野です。
今回は、2026年度に入って転職市場の景色が一段はっきり変わった領域、クライメートテック(気候テック/GX・脱炭素)業界への転職ガイドをまとめました。
この記事はもともと、企業のCO2排出量を算定・可視化するクラウドサービス「zeroboard」を提供する株式会社ゼロボードと、代表取締役の渡慶次道隆さんをご紹介する記事でした。渡慶次さんは東京大学工学部を卒業後、JPMorganで債券・デリバティブ事業に携わり、三井物産へ移ってコモディティデリバティブや欧州でのVPP実証実験の組成、業務用空調のサブスクリプションサービス立ち上げを主導。その後A.L.I. Technologiesで電力トレーサビリティシステムなどのエネルギー関連事業を手がけ、そこで開発していた「zeroboard」の事業を2021年8月にMBOして独立された方です。金融・商社・エネルギーテックを渡り歩いた人が、脱炭素というテーマで自ら事業を切り出した。今振り返ると、日本のクライメートテックの立ち上がりを象徴するようなキャリアだったと思います。
私がこの記事を最初に書いた時点では、ゼロボードの従業員は128名、累計調達額は27.5億円でした。それが2026年の今どうなっているか。従業員は178名(2026年2月1日時点、業務委託・出向含む)まで増え、プロダクトも「CO2排出量の算定ツール」からESG関連データ全般を扱う「Zeroboard Sustainability Platform」へと拡張しています。株主にも三井物産や脱炭素化支援機構が並びました。「CO2を数えるツール」から「サステナビリティ情報の開示インフラ」へと、事業の定義そのものが変わったわけです。
そして同じ変化が、排出量算定、再生可能エネルギー、蓄電池、EV充電、カーボンクレジット、核融合、次世代太陽電池といった隣接領域で同時多発的に起きています。この記事では、1社の紹介にとどめず、クライメートテック業界全体の転職市場を、市場規模・セグメント・企業別の実態・職種別年収・未経験からの入り方・失敗パターンまで、私が現場で見てきた実感を交えて一気に解説します。
クライメートテック業界の市場規模と2026年の現在地
まず数字から入ります。この業界は「理念先行で食えないのでは」と誤解されがちですが、2026年の日本において、その前提はもう成り立ちません。理由は単純で、脱炭素が「やる気のある会社の自主的な取り組み」から「法律で決まった義務」に変わったからです。
| 指標 | 数値 | 注記 |
|---|---|---|
| 世界のクライメートテック市場規模 | 2024年 約246億USドル → 2030年 約833億USドル | CAGR約22.6%。日本市場のCAGRは約17.9%と予測 |
| 日本のGX投資目標 | 今後10年で官民150兆円超 | うち20兆円規模をGX経済移行債による先行投資支援で呼び水にする設計 |
| 排出量取引制度(GX-ETS) | 2026年度から本格稼働・参加義務化 | 直接排出年10万トン以上の企業が対象。制度対応の実務需要が一気に立ち上がった最大の要因 |
| 化石燃料賦課金 | 2028年度から導入予定 | カーボンプライシングの本格化。GX経済移行債は2050年までに償還する設計 |
| SSBJ(日本版サステナビリティ開示基準) | 2025年3月に基準確定、2026年2月に開示府令が改正・公布 | 2027年3月期の時価総額3兆円以上のプライム企業から有報での適用が義務化 |
| GX関連求人数 | 2016年比で約6倍 | 国内のGX人材は約254万人。2035年には約266万人が必要と試算され、慢性的な不足 |
| アスエネ | シリーズDで135億円調達、累計250億円 | 従業員約250名。BlackRock系が日本のスタートアップに初出資した案件として話題に |
| ゼロボード | 従業員178名(2026年2月時点) | シリーズA総額約25億円で累計約28億円。三井物産・脱炭素化支援機構が株主に |
| booost technologies | シリーズA以降の累計33.5億円、2026年3月にシリーズC 1stクローズで7億円 | 伊藤忠商事・BIPROGY・パーソルビジネスプロセスデザインと資本業務提携 |
| 京都フュージョニアリング(核融合) | 2025年9月に67.5億円調達 | 第三者割当増資+借入。京都の試験プラントで発電実証へ |
| エネコートテクノロジーズ(ペロブスカイト太陽電池) | シリーズCで総額55億円 | リードはトヨタグループのWoven Capital。トヨタと共同で2030年までのEV搭載を目指す |
この表で一番見ていただきたいのは、「2026年度」という数字が二度出てくるところです。排出量取引制度が本格稼働して参加が義務になり、サステナビリティ開示の府令改正も公布された。つまり2026年は、日本企業にとって脱炭素が「決算に効く話」になった最初の年なんです。
採用の現場では、これがそのまま求人になって出てきます。私のところにも「Scope3まで算定できる人はいませんか」「開示対応をリードできる人を探しています」というご相談が、事業会社側からもスタートアップ側からも来るようになりました。数年前まで「サステナビリティ担当」といえばCSR室の兼務が普通でしたが、今は専任のポジションで、しかも管理職ラインで採る会社が増えています。
もう一点、率直に申し上げておきたいのは、この業界は「制度でできた市場」だという事実です。政策が変われば需要も変わる。だからこそ入る側は、政策の中身を自分で読める人になっておいたほうがいい。ここは後半の失敗パターンでも触れます。ベンチャー転職全般の考え方はベンチャー転職 完全ガイドにまとめていますので、あわせて読んでみてください。
クライメートテック業界の7セグメントと主要プレイヤー
「脱炭素の会社に行きたい」というご相談を受けるとき、私が最初に必ず聞くのは「脱炭素のどこですか」です。同じクライメートテックでも、SaaSと発電事業とハードウェア開発では、求められるスキルも、事業の時間軸も、年収の付き方もまるで違うからです。ここを分けずに転職活動をすると、面接で「なぜ弊社なんですか」に答えられません。
| セグメント | 何をやっているか | 主なプレイヤー | 求められる人材 | 年収レンジ(目安) |
|---|---|---|---|---|
| ①排出量算定・開示SaaS | GHGプロトコルのScope1〜3算定、CFP算出、SSBJ/ISSB開示対応 | ゼロボード、アスエネ、booost technologies、Terrascope、サステナブル・ラボ | SaaSのPdM/CS/エンプラ営業、GHG算定の実務者、会計・監査出身者 | 500万〜1,300万円 |
| ②再生可能エネルギー・電力 | 太陽光・風力の開発運営、コーポレートPPA、電力小売、需給管理 | 自然電力、アイ・グリッド・ソリューションズ、シェアリングエネルギー、Looop | 電力ビジネス経験者、プロジェクトファイナンス、用地開発、需給オペレーター | 550万〜1,400万円 |
| ③蓄電池・EV充電・分散電源 | 系統用蓄電池、V2X、EV充電インフラ、VPP(仮想発電所) | Yanekara、パワーエックス、エネチェンジ、テラモーターズ、プラゴ | 電気電子・パワエレのハード系、施工/事業開発、エネルギーマネジメント制御 | 500万〜1,300万円 |
| ④カーボンクレジット・自然資本 | J-クレジット組成、森林・ブルーカーボン、生物多様性(TNFD)対応 | Green Carbon、sustainacraft、バイウィル、シンク・ネイチャー | 森林・農学・環境学のバックグラウンド、金融・商社出身のトレーディング人材 | 500万〜1,200万円 |
| ⑤次世代エネルギー(ディープテック寄り) | 核融合、ペロブスカイト太陽電池、水素・アンモニア、CCUS | 京都フュージョニアリング、ヘリカルフュージョン、エネコートテクノロジーズ | 博士人材、材料・プラズマ・化学工学の研究開発、量産化を設計できる生産技術 | 600万〜1,600万円 |
| ⑥資源循環・サーキュラーエコノミー | リサイクル、代替素材、廃棄物削減、リユース/リセール | TBM、クラダシ、Free Standard、ウィファブリック、JEPLAN | 素材・化学の技術者、サプライチェーン設計、リテール/EC事業開発 | 450万〜1,100万円 |
| ⑦GXコンサル・アドバイザリー | 脱炭素戦略立案、移行計画(トランジションプラン)策定、開示支援 | 総合系ファーム、日系シンクタンク、専業ブティック、大手監査法人 | コンサル経験者、事業会社のサステナ推進経験者、CFA/会計士 | 700万〜1,600万円 |
年収レンジは私が実際に見ている求人票と、決まった案件のオファー水準からの体感です。額面だけ見ると①〜④は「思ったより普通」に見えるかもしれません。ただ、この業界のストックオプション(SO)はまだ発行余地が大きい会社が多く、現金年収より条件の総額で見るべき領域です。SOを含めた報酬パッケージの考え方は年収・手取りガイドで詳しく整理しています。
企業側の目線でどう採用設計するかという話はスタートアップ採用ガイドにまとめました。GX領域は「候補者が理念に共感してくれる」ぶん、採用側が条件面を詰めきらないまま口説いてしまい、入社後に給与でもめるケースが本当に多いです。採る側の方はぜひ目を通してみてください。
ゼロボード、アスエネ、booost technologiesの3社をどう見分けるか
①の排出量算定SaaSは、転職相談で一番よく名前が挙がる3社が固まっています。外から見ると似て見えますが、中身はかなり違います。
- ゼロボード:2021年8月設立、従業員178名(2026年2月時点)。もともとCO2算定の専業でしたが、現在は「Zeroboard Sustainability Platform」としてESGデータ全般の収集・管理・開示支援に広げています。株主に三井物産、脱炭素化支援機構。サプライチェーン全体を巻き込む「取引先も一緒に算定する」という座組みを早くから作り、金融機関や商社と組んで導入企業を面で広げてきたのが特徴です。2026年にはグローバルサウス向けの共創事業の補助にも採択され、海外展開のフェーズに入っています。
- アスエネ:累計調達250億円、従業員約250名と、この領域では規模が頭ひとつ抜けています。シリーズDの135億円はBlackRock系が日本のスタートアップに初めて出資した案件として注目されました。CO2算定に加えてESG評価、そしてGX・ESG人材特化の転職プラットフォーム「アスエネキャリア」まで自社で運営しているのが面白いところで、「脱炭素の周辺サービスを全部やる」という広げ方をしています。
- booost technologies:シリーズA以降の累計調達33.5億円に加えて、2026年3月にシリーズCの1stクローズで7億円を調達。伊藤忠商事・BIPROGY・パーソルビジネスプロセスデザインと資本業務提携しており、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」という上位概念からエネルギーマネジメントまでを一気通貫で扱うのが立ち位置です。3社の中では最も「開示義務化そのもの」を正面から取りにいっている印象があります。
選ぶときの実務的なコツを一つ。面接で「御社の顧客は、算定を自社でやりたいのか、丸ごと任せたいのか、どちらが多いですか」と聞いてみてください。ここへの答えでプロダクトの思想が透けます。ツールとして自走してもらう設計なのか、コンサル込みで伴走する設計なのかで、あなたが入ったあとの働き方(プロダクト寄りか、顧客対応寄りか)が根本的に変わるからです。
クライメートテック業界の職種別・年収相場とスキル要件
次に、職種ごとに見ていきます。この業界の特徴は、「ITスキル」と「ドメイン知識」の両方が要る職種の年収が突出して高いことです。片方だけの人はたくさんいるので、掛け算ができる人が取り合いになります。
| 職種 | 年収レンジ | 必須スキル | あると強い |
|---|---|---|---|
| GHG算定・LCAスペシャリスト | 550万〜1,100万円 | GHGプロトコルScope1〜3の実務、ISO14064/14067、CFP算定 | LCA実務経験、製造業の現場理解、英語(グローバル開示) |
| サステナビリティ開示・IR | 650万〜1,400万円 | SSBJ/ISSB/TCFD/TNFDの読み込み、有報・統合報告書の作成実務 | 会計士・監査法人出身、機関投資家との対話経験 |
| エンタープライズセールス | 600万〜1,500万円(インセンティブ込み) | 大手企業への無形商材提案、経営層への提案経験 | 商社・金融・コンサル出身、業界別の規制知識 |
| カスタマーサクセス | 500万〜1,000万円 | SaaSのオンボーディング設計、データ収集の伴走支援 | GHG算定の実務を自分で回せること |
| プロダクトマネージャー | 700万〜1,500万円 | BtoB SaaSのPdM経験、規制要件を仕様に落とす力 | 会計・監査ドメイン、海外基準のキャッチアップ力 |
| エネルギートレーダー・需給管理 | 600万〜1,600万円 | JEPX(卸電力取引所)、需給計画、インバランス管理 | 電力会社・商社の電力トレーディング経験 |
| プロジェクト開発(再エネ) | 550万〜1,300万円 | 用地開発、許認可、系統連系、プロジェクトファイナンス | 建設・不動産・インフラ系のバックグラウンド |
| パワーエレクトロニクス/制御エンジニア | 600万〜1,400万円 | 回路設計、EMS/BMS、組込み制御 | 系統用蓄電池・V2Xの実装経験 |
| GXコンサルタント | 700万〜1,600万円 | 戦略立案、移行計画策定、削減シナリオ設計 | Big4・総合系ファーム出身、業界特化の深さ |
| CSO(最高サステナビリティ責任者) | 1,200万〜2,500万円+SO | 全社戦略、取締役会・投資家への説明責任 | 事業会社の役員経験、規制当局・業界団体との折衝 |
参考までに、市場全体の統計ではGX人材の平均年収は703万円で、非GX人材より約13%高いという調査があります。管理職では952万円、非管理職では600万円という水準です。専門性の高いポジションでは年収1,000万円超の提示も普通に出てきますし、私の知る範囲でもベンチャー側から1,500万円が提示された事例がありました。「環境の仕事は薄給」という10年前のイメージは、少なくとも算定・開示・エネルギートレーディングの3領域については完全に過去のものです。
ただし正直に書いておくと、⑥資源循環セグメントは今も年収が伸びにくいです。リサイクルや代替素材は設備投資が重く、粗利率が構造的に低い。ここは「年収を上げたい」という動機で入ると必ず後悔します。逆に、モノづくりが本当に好きで、10年単位で腰を据えたい人には向いています。
なお、事業会社側の「サステナビリティ推進担当」という職種そのものの仕事内容やキャリアパスについては、サステナビリティ・ESG推進 転職完全ガイドで職種目線から詳しく解説しています。この記事は「業界・企業をどう選ぶか」、あちらは「職種として何をやるか」という切り分けなので、両方読んでいただくと立体的に理解できるはずです。
クライメートテック業界で働くメリット・デメリット
この業界を25年の人材紹介の目で見て、正直に良い点と悪い点を挙げます。理念先行の話はよそでいくらでも読めるので、ここでは実務の話をします。
メリット
- 需要が制度に裏打ちされている:2026年度からの排出量取引制度の義務化、2027年3月期からのSSBJ適用開始と、需要の発生時期が法律で決まっています。景気で消える需要ではないという安心感は、他のスタートアップ領域にはない強みです。
- 「日本にまだ数百人しかいない専門性」を取りにいける:Scope3の算定を自分で回せる人、SSBJに沿った開示を設計できる人は、国内にまだ極めて少ない。今から2〜3年で身につければ、確実に希少人材になれます。
- 大企業と対等に話せる:クライアントが上場企業の経営企画やCFO室になるため、20代・30代でも役員クラスと直接やりとりする機会が多い。この経験値は転職市場でそのまま値段になります。
- 業界横断のキャリアになる:脱炭素は製造業にも物流にも農業にも金融にも刺さるテーマなので、特定業界に閉じません。製造業DX・スマートファクトリー業界やGovTech・自治体DX業界との接点も多く、キャリアの逃げ道が広いです。
- 働き方が柔軟な会社が多い:ゼロボードもコアタイムなしのフレックス+フルリモート対応で、この業界は総じてリモート・裁量労働の導入率が高い傾向があります。
デメリット
- 政策リスクを直に受ける:制度でできた市場である以上、制度が緩めば需要も緩みます。海外では気候関連の開示規制が政権交代で後退した例も実際にあります。「国が決めたから安泰」と思い込むのは危険です。
- 顧客の予算が「コストセンター」から出る:脱炭素対応は多くの企業にとって義務対応であり、売上を生む投資ではありません。だから予算がつきにくく、値切られやすい。営業の難易度は決して低くないです。
- 算定業務は地味で泥臭い:Scope3の算定は、要するに取引先何百社からデータを集める作業です。理念に惹かれて入って、Excelとメールの往復に消耗する人を何人も見てきました。
- ハード系は時間軸が長い:核融合やペロブスカイトは10年〜20年スパンです。「自分の仕事が世に出るのを見届けたい」タイプの人には、精神的にきつい可能性があります。
- 会社間の実力差が大きい:算定SaaSだけで国内に数十社あり、明らかに淘汰が始まっています。ここはベンチャー転職の失敗・後悔ガイドで挙げている見極めポイントがそのまま効く領域です。
クライメートテック転職に向いている人・向いていない人
| 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|
| 制度・法令の原文を自分で読むのが苦にならない人 | 「誰かが要約してくれる」前提で仕事を進めたい人 |
| 地味なデータ収集を仕組み化するのが好きな人 | 華やかな企画だけをやりたい人 |
| 製造業・エネルギー・商社などの現場を知っている人 | ビジネス経験がIT業界だけで完結している人(※不利ではないが学習量は多い) |
| 3〜5年で専門家として名前が売れる状態を狙いたい人 | 1年以内に成果を出して昇進したい人 |
| 環境課題に個人的な当事者意識がある人 | 「儲かりそうだから」だけで来る人(続きません) |
| 大手企業の役員相手に物怖じせず話せる人 | 年上・目上との折衝にストレスを感じる人 |
3行目に補足します。IT業界一本の方が不利という意味ではまったくありません。むしろSaaSのPdMやCSとしては即戦力です。ただ、「顧客の工場でどうやって電気とガスが使われているか」を想像できるかどうかで、提案の説得力が段違いになる。だから入社後半年は、現場を見に行く時間を意識的に確保してほしいということです。
未経験からクライメートテック業界に入る5ステップ
「環境系のバックグラウンドがないのですが可能ですか」というご質問を本当によくいただきます。結論から言うと、今はむしろ未経験が入りやすい珍しいタイミングです。理由は簡単で、経験者が業界に絶対数として存在しないからです。国内のGX人材は約254万人、2035年には約266万人必要とされ、慢性的に足りていません。手順を書きます。
ステップ1:自分の「掛け算の軸」を1つ決める(1週間)
クライメートテックは単体スキルでは入れませんが、「今の専門 × 脱炭素」なら誰でも入口があります。経理なら「会計 × 開示」、製造なら「生産技術 × 排出量削減」、営業なら「エンプラ営業 × GX」、施工管理なら「建設 × 再エネ開発」。まず自分の軸を1つ紙に書いてください。これが決まらないまま求人を眺めても、応募先が絞れません。
ステップ2:制度を「原文で」ひととおり読む(1ヶ月)
GHGプロトコル、SSBJの基準、排出量取引制度(GX-ETS)の制度概要、この3つは経済産業省・環境省・SSBJのサイトで公開されています。要約記事ではなく原文を一度通しで読んでください。面接で「SSBJはご存知ですか」と聞かれたときに、「2027年3月期から時価総額3兆円以上のプライム企業に適用が始まり、以降1兆円、5,000億円と段階的に下りてくる」と自分の言葉で言えるかどうかで、評価は決定的に変わります。ここが最短にして最強の差別化です。
ステップ3:資格・検定で「学習の証拠」を作る(2〜3ヶ月)
私はふだん資格をあまり勧めないのですが、この領域だけは例外です。実務経験を証明できない未経験者にとって、資格は「本気で学んだ」ことの安価な証明になります。エネルギー管理士、環境社会検定(eco検定)、GHG算定関連の民間資格、電験三種(再エネ・蓄電池セグメント志望なら特に強い)あたりが実用的です。半年で全部取る必要はなく、志望セグメントに合う1つで十分です。
ステップ4:セグメントを1つに絞って10社リストを作る(2週間)
先ほどの7セグメントから1つ選び、その中で10社リストアップします。このとき必ず調達ステージと従業員数を並べて書いてください。シリーズAで30名の会社とシリーズDで250名の会社では、任される範囲も安定性もまったく違います。この作業をやると「自分はどのフェーズが向いているか」が自然に見えてきます。フェーズの選び方は年齢別転職ガイドも参考になるはずです。
ステップ5:エージェント経由と直接応募を併走させる(1〜3ヶ月)
この業界は求人が表に出てこない比率が高いです。CSOやサステナビリティ責任者クラスはほぼ非公開ですし、スタートアップの初期メンバー枠も同様です。一方で、アスエネキャリアのようなGX特化のプラットフォームも出てきており、直接応募のルートも整ってきました。両方を併走させるのが正解です。エージェントの選び方・使い方は転職エージェントの選び方 完全ガイドにまとめています。
年代別・クライメートテック転職の戦略
20代:算定実務を「自分の手で」やれる場所へ
20代は迷わず手を動かす側に行ってください。算定SaaSのカスタマーサクセスや、コンサルの算定支援チームがおすすめです。Scope3を実際に回した経験は、30代以降の市場価値を決定的にします。逆に、20代でいきなり「戦略立案」のポジションに行くと、原理を知らないまま抽象論を語る人になってしまい、35歳あたりで伸び悩みます。
30代:セグメント内で「二つ目の専門」を足す
30代は、算定ができる人が「開示もできる」「英語で海外基準も追える」「エンプラ営業もできる」のように、専門を掛け算する時期です。この掛け算がある人は、40代でCSOやサステナビリティ部長のポジションが見えてきます。年収レンジで言えば800万〜1,200万円の帯に入ってくるのがこの層です。
40代:事業会社の推進責任者かスタートアップの管掌役員か
40代は二択です。事業会社のサステナビリティ推進責任者として大企業の中で制度対応をリードするか、スタートアップの管掌役員として事業を作る側に回るか。前者は安定と規模、後者はSOと裁量。私の経験では、40代でスタートアップに移る方は「大企業で制度対応をやりきったが、決められた枠の中で最適化するだけの仕事に飽きた」というパターンが圧倒的に多いです。CxOポジションの実態はCXO転職ガイドにまとめました。
50代:規制当局・業界団体との「顔」が最大の武器
50代の方には、率直に言ってネットワークを買われる転職を勧めます。経済産業省や環境省、業界団体、電力会社との折衝を長年やってきた方は、スタートアップにとって喉から手が出るほど欲しい存在です。「技術は若手がやるので、あなたは扉を開けてください」というオファーは実際にあります。年収は下がる場合もありますが、SOと顧問契約を組み合わせて調整するケースが多いです。
クライメートテック転職でよくある失敗パターン7つ
ここは私が一番書きたかったところです。実際にご相談の中で見てきた失敗を、包み隠さず書きます。
- 「環境に貢献したい」だけで動機が止まっている:面接官はこの動機を毎日聞いています。差がつくのは「なぜ算定なのか」「なぜ再エネではなくカーボンクレジットなのか」という一段深い理由です。ここが言語化できていないと、志望度が低いと判断されます。
- 政策の追い風を「自社の実力」と取り違える:制度対応の需要で伸びている会社と、プロダクトの力で伸びている会社は違います。義務化の初年度は特需で誰でも伸びます。「義務化がなかったら、この会社の売上はどうなっていましたか」と面接で聞いてみてください。答えに詰まる会社は、2〜3年後が危ないです。
- 算定業務の泥臭さを甘く見る:繰り返しますが、Scope3の算定は取引先へのデータ依頼と催促の仕事です。理念で入って実務で折れる人が本当に多い。入社前に「1日の業務の内訳を時間で教えてください」と必ず聞いてください。
- 資源循環セグメントに年収期待を持ち込む:粗利構造が違うので、SaaSと同じ年収は出ません。ここを理解せずに入ると、2年目に必ず不満が出ます。
- ハードウェア領域の時間軸を誤解する:核融合もペロブスカイトも、事業化まで10年単位です。京都フュージョニアリングは67.5億円を調達して発電実証の段階、エネコートテクノロジーズはトヨタと組んで2030年のEV搭載を目指している。どちらも「まだ売っていない」フェーズです。それを承知で入るなら素晴らしいキャリアですが、知らずに入ると心が折れます。
- 大企業のGX部署とスタートアップを同じ物差しで比べる:大企業のGX推進部は予算も肩書きもありますが、意思決定に半年かかることがあります。スタートアップは翌週に方針が変わります。どちらが良いではなく、自分がどちらのストレスに耐えられるかの問題です。
- SOの条件を確認せずに年収ダウンを受け入れる:「SOがあるので」と言われて年収を下げたのに、行使価格も付与株数も確定していなかった、というケースを何度も見ています。オファー時点で必ず書面で確認してください。詳しくは年収・手取りガイドに書きました。
コンサル・商社・メーカーからの転職パターン
この業界は前職の分布に特徴があります。実際によくあるルートを整理します。
| 前職 | 行きやすい先 | 強み | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 戦略・総合系コンサル | GXコンサル、算定SaaSのPdM/事業開発、スタートアップのCoS | 構造化力、経営層への提案経験 | 実装のスピード感に戸惑いやすい。手を動かす覚悟が要る |
| 総合商社(エネルギー・金属) | 再エネ開発、カーボンクレジット、蓄電池事業 | プロジェクト組成力、海外・当局とのネットワーク | 組織の後ろ盾がなくなる。看板が外れた自分の値段を直視する必要 |
| 電力・ガス・重工 | 需給管理、系統用蓄電池、水素・CCUS | 技術の深さ、規制の実務知識 | 意思決定スピードの落差。ドキュメント文化の違い |
| メーカー(生産技術・品質) | 製造業向け算定SaaS、資源循環、CFP算定 | 現場の解像度。顧客と同じ言葉で話せる | BtoB SaaSの商習慣(ARR、チャーン)を一から学ぶ必要 |
| 会計士・監査法人 | 開示支援、SSBJ対応、サステナビリティ保証 | 基準の読み込み力、保証業務の経験 | 「監査する側」から「される側を助ける側」への発想転換 |
| SaaS営業・CS | 算定SaaSのエンプラ営業・CS | 即戦力。プロダクトの型を知っている | ドメイン知識でクライアントに置いていかれないよう猛勉強が要る |
コンサル出身の方については、コンサルからの転職 完全ガイドにポストコンサルの5大キャリアパスをまとめてあります。GX領域は「コンサルの知見がそのまま事業になる」数少ない領域なので、独立・起業まで視野に入れている方には相性がいいです。
また、サプライチェーン全体の排出量を扱う仕事は、調達・物流の実務知識と地続きです。SCM・購買/調達・物流(ロジスティクス)転職完全ガイドもあわせて読むと、Scope3の実務イメージが具体的になるはずです。農業由来の排出やクレジットに興味がある方はアグリテック(農業テック)業界転職完全ガイド、EV・充電インフラ側から入りたい方はモビリティテック(MaaS・自動運転・EV)業界転職完全ガイドが参考になります。
企業選びのチェックリスト10項目
面接や面談の場で、実際に聞いてほしい質問リストです。私がご相談者にいつもお渡ししているものと同じ内容です。
- 「義務化がなかった場合、御社の売上構成はどう変わっていましたか」 — 制度依存度を測る質問。
- 「解約率(チャーン)は何%ですか」 — 算定SaaSは「1年やって自社でできるようになったので解約」が起きやすい領域です。
- 「顧客の予算はどの部署から出ていますか」 — 経営企画・CFO室から出ているなら継続性が高く、CSR室の単発予算なら不安定です。
- 「Scope3まで算定している顧客の比率は」 — Scope1・2だけの顧客が大半なら、まだ入口の段階です。
- 「直近12ヶ月の従業員の増減を教えてください」 — 増えているか、静かに減っているか。
- 「ランウェイ(資金の持ち時間)は何ヶ月ですか」 — 答えられない会社、答えを濁す会社は要注意。
- 「SOの付与株数・行使価格・ベスティング条件を書面でいただけますか」 — 口頭だけの約束は必ずもめます。
- 「海外展開の具体的な予定は」 — 国内の制度需要だけに乗っている会社かどうかの見極め。
- 「競合3社と比べた勝ち筋を一言で」 — ここで「顧客に寄り添う」など抽象論しか出てこない会社は危ないです。
- 「入社後3ヶ月で期待する成果を具体的に」 — 期待値が曖昧な会社は、評価も曖昧です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 理系や環境系の学位がなくてもクライメートテックに入れますか?
入れます。むしろ算定SaaSのビジネスサイドは文系出身が大半です。ゼロボードもアスエネもbooostも、営業・CS・PdMは金融、商社、コンサル、SaaS出身者で構成されています。学位より、GHGプロトコルとSSBJを自分の言葉で説明できるかどうかのほうが100倍重要です。ただし⑤次世代エネルギーの研究開発職だけは、修士・博士が事実上の前提になります。
Q2. 排出量取引制度が2026年度に始まると、何が変わるのですか?
直接排出が年10万トン以上の企業に参加が義務づけられます。これまで「やったほうがいい」だった排出量の把握が、「やらないと制度上まずい」に変わるということです。対象企業は自社の排出量を正確に測り、削減計画を立て、必要ならクレジットを調達する必要が出てきます。この一連の実務をこなせる人材の需要が、2026年度から数年かけて立ち上がっていきます。転職を考えているなら、今がタイミングとしては非常に良いです。
Q3. 年収は下がりますか?
前職によります。大手電力・重工・総合商社から移る場合は、額面で1〜2割下がるケースが多いです。ただしSOを含めた総額では逆転する可能性があります。一方、事業会社の一般的な事務職やIT業界から移る場合は、専門性が乗るぶんむしろ上がるケースのほうが多いです。統計でもGX人材の平均年収は非GX人材より約13%高く、管理職で952万円という水準が出ています。
Q4. どのセグメントが一番将来性がありますか?
私見ですが、①排出量算定・開示SaaSは今後3年が最も熱く、その先は淘汰が進むと見ています。制度対応特需で各社が伸びますが、機能が標準化すると差別化が難しくなるからです。一方②再エネ・電力と③蓄電池・EV充電は、10年単位で堅いと考えています。電力の需給という物理的な問題は、ソフトウェアだけでは解決しないからです。長期で腰を据えるなら②③、短期で専門性を最速で積むなら①、という選び方をおすすめしています。
Q5. 「グリーンウォッシュ」の会社に入ってしまうリスクはありませんか?
正直に言うと、あります。実態のない削減を謳う企業や、算定の精度が極端に粗いサービスは存在します。見分け方は単純で、「その削減量は誰がどう検証していますか」と聞くことです。第三者検証機関の名前が具体的に出てこない、あるいは「自社基準で算定している」という答えが返ってくる場合は、慎重になったほうがいいです。入社後に自分の経歴に傷がつくのは避けたいですから。
Q6. 大企業のGX推進部とスタートアップ、どちらから始めるべきですか?
20代・30代前半ならスタートアップまたはコンサルを勧めます。理由は、手を動かせる範囲が圧倒的に広いからです。大企業のGX推進部は、実務を外部ベンダーに出して自分は取りまとめをする構図になりがちで、5年いても「自分で算定したことがない」という状態になりかねません。逆に35歳以降で家庭の事情などがある方は、大企業側から入って制度対応の経験を積み、その実績を持ってスタートアップに移るという順番が現実的です。
Q7. 英語は必須ですか?
セグメントによります。①の開示領域はISSBやCSRDなど海外基準を追う必要があるため、読解レベルの英語はほぼ必須です。②③の国内再エネ・蓄電池は日本語だけでも十分やれます。⑤の次世代エネルギーは、海外の研究機関や投資家とのやりとりが多く、会話レベルが求められる場面が増えます。まず読める状態を作り、必要になったら話せるようにする、という順番で問題ありません。
まとめ:2026年は「制度が需要を作った」最初の年
ここまで長くお読みいただきありがとうございました。最後に要点をまとめます。
- 2026年度から排出量取引制度が本格稼働し、直接排出10万トン以上の企業は参加が義務化。脱炭素が「決算に効く話」になった。
- SSBJ基準は2026年2月に開示府令が改正・公布され、2027年3月期から段階適用が始まる。開示実務の需要はこれから数年伸び続ける。
- GX関連求人は2016年比で約6倍。GX人材の平均年収703万円(非GX比+13%)、管理職952万円と、待遇面でも「環境=薄給」の時代は終わった。
- 業界は7セグメントに分かれ、年収も時間軸もまったく違う。まず自分がどこを目指すのかを決めることが最初の一歩。
- 未経験でも入れる。ただし制度を原文で読める人になることが、最短にして最強の差別化。
- 制度でできた市場である以上、政策リスクからは逃げられない。「義務化がなかったら」という問いを、企業にも自分にも投げかけてほしい。
私は約25年この業界で人の転職を見てきましたが、「制度の変わり目に入った人が、5年後に一番いいポジションにいる」というのは何度も繰り返されてきたパターンです。人材業界も、SaaSも、フィンテックもそうでした。クライメートテックは今まさにその変わり目にあります。
そしてもう一つ申し上げたいのは、この領域は「まだ誰も専門家ではない」ということです。SSBJの実務経験が10年ある人など、この世に存在しません。全員が横一線でスタートしている領域は、キャリアの中でそう何度も出会えるものではないと思います。
キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を行っています。クライメートテック領域の非公開求人や、経営陣と直接つながるルートも複数持っています。「自分の経歴でこの業界に行けるのか」「どのセグメントが合っているのか」といったご相談だけでも構いませんので、お気軽にご連絡ください。企業の採用担当の方からのご相談もお待ちしています。
なお、本記事の⑤次世代エネルギー(核融合・ペロブスカイト太陽電池・水素)のセグメントは、技術の深さという切り口で見ると「ディープテック」に分類される領域でもあります。事業化まで10年〜20年という時間軸、博士人材の比率の高さ、公的資金への依存度など、他のセグメントとは前提が大きく違います。このあたりを詳しく知りたい方はディープテック(DeepTech)・研究開発型スタートアップ業界転職完全ガイドもあわせてお読みください。累積調達1,009億円のSpiberが私的整理に至った事例など、研究開発型スタートアップ特有のリスクも率直にまとめています。
この記事の⑥資源循環・サーキュラーエコノミーのセグメントについては、独立した業界ガイドを用意しました。クライメートテックがCO2という「フロー」を減らすのに対し、サーキュラーエコノミーは資源という「ストック」を回す取り組みで、求められる人材も前者が算定・開示・エネルギー系なのに対し、後者は素材・調達・製造・物流系と明確に異なります。2026年4月1日に全面施行された改正資源有効利用促進法で再生プラスチックの利用が義務化された市場の全体像はサーキュラーエコノミー(資源循環・リサイクル)業界転職完全ガイドをご覧ください。

