こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を27年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。
「宇宙の仕事に関わりたい」というご相談が、ここ2年で明らかに増えました。以前は宇宙好きの方からの憧れ混じりのご相談が多かったのですが、いまは違います。自動車メーカーや重工、半導体の現役エンジニアが、具体的な転職先として宇宙スタートアップを検討しに来られるのです。
理由ははっきりしています。国内の宇宙スタートアップが4社上場し、政府が1兆円規模の基金を積み、そして防衛調達という、桁の違う売上が現実に動き始めたからです。もう「夢のある赤字事業」ではなくなりつつあります。
この記事では、宇宙スタートアップの業界構造を公開されている一次資料で押さえたうえで、どんな職種があり、どういう経歴の方が評価され、何を見て会社を選ぶべきかを整理します。
この記事でわかること
- 宇宙戦略基金1兆円の中身と、2030年代早期に市場を8兆円にするという政府目標
- 上場した国内宇宙スタートアップ4社と、その上場時期
- 防衛調達が宇宙スタートアップの売上をどう変えたか(契約額の実額)
- 宇宙スタートアップにある職種と、前職別に評価されるポイント
- 会社選びで見るべき5つの指標
- 私が投資している東北大学発スタートアップの事例
市場は4兆円から8兆円へ|政府目標と1兆円の基金

最初に、お金の流れを押さえます。推測ではなく政府資料で確認できる数字です。
内閣府宇宙開発戦略推進事務局が2026年2月に公表した「宇宙戦略基金第3期について」によると、宇宙戦略基金は総額1兆円規模の支援を目指す基金で、JAXAに造成され、民間企業・スタートアップ・大学等の先端技術開発、技術実証、商業化を支援します。事業全体の目標として「宇宙関連市場の拡大(2030年代早期に4兆円⇒8兆円 等)」が掲げられています。
| 期 | 予算 | 内訳 |
|---|---|---|
| 第一期 | 令和5年度補正 3,000億円 | 文科省1,500億円/経産省1,260億円/総務省240億円 |
| 第二期 | 令和6年度補正 3,000億円 | 文科省1,550億円/経産省1,000億円/総務省450億円 |
| 第三期 | 令和7年度補正 2,000億円 | 文科省950億円/経産省740億円/総務省310億円 |
| 累計 | 8,000億円 | 1兆円規模に向けて積み上げ中 |
第三期は全19テーマで、支援分野は「輸送」「衛星等」「探査等」の3領域です。テーマ名を見ると、宇宙輸送機の大気圏再突入、衛星を取り巻くセキュリティ技術、デジタル技術を前提とした衛星開発・製造、次世代衛星通信の革新的アンテナといった、きわめて具体的な技術課題が並んでいます。
転職を考える方にとって、この基金の意味はひとつです。研究開発に複数年度の資金がつくので、スタートアップでも腰を据えた開発ができる。つまり「来年のことが読めない会社」が減ったということです。
国内の宇宙スタートアップは4社が上場している

「宇宙は儲からない」という印象をお持ちの方は、ここを見てください。すでに4社が東証グロース市場に上場しています。
| 社名 | 証券コード | 上場日 | 事業 |
|---|---|---|---|
| ispace | 9348 | 2023年4月12日 | 月面輸送・月面開発 |
| QPS研究所 | 5595 | 2023年10月31日 | 小型SAR衛星の開発・運用、画像データ販売 |
| アストロスケールホールディングス | 186A | 2024年6月5日 | デブリ除去、衛星寿命延長、軌道上サービス |
| Synspective | 290A | 2024年12月19日 | 小型SAR衛星の開発・運用、SARデータ販売 |
ひとつ注意点があります。QPS研究所は2025年11月27日に現行株式の上場を終了し、2025年12月1日に新設の株式会社QPSホールディングス(証券コード464A)が上場しました。持株会社体制への移行です。求人票や記事で「5595」を見かけたら情報が古いので、調べるときは464Aで見てください。
この4社が上場したことの意味は、資金調達の選択肢が増えたことだけではありません。宇宙スタートアップの財務諸表が公開されるようになったということです。転職先を検討するときに、売上の規模、赤字の幅、現金の残りを自分で確認できます。これは候補者にとって大きな武器です。
最大の変化は「防衛調達」|契約額を見てください

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
防衛装備庁が2026年3月に内閣官房の日本成長戦略会議へ提出した「防衛分野におけるスタートアップとの連携について」という資料に、実際の契約実績が載っています。
| 企業 | 事業名 | 契約額 |
|---|---|---|
| スペースワン | アッパーステージ能力向上に関する研究 | 令和5年度 約85.0億円 |
| QPS研究所 | 宇宙領域の活用に必要な共通キー技術の先行実証に向けた衛星の試作 | 令和5年度 約62.1億円 |
| QPS研究所 | 同 衛星の打上げ | 令和5年度 約15.7億円 |
| アストロスケール | 機動対応宇宙システム実証機の試作 | 令和6年度 約72.7億円 |
| Synspective | 安全保障用途に適したSAR衛星の宇宙実証 | 令和6年度 約11.6億円 |
| インフォステラ | 衛星周波数解析技術の概念実証 | 令和6年度 約3.0億円 |
| アクセルスペース | 画像データの取得 | 令和6年度 約1.1億円 |
| 岩谷技研 | 高高度標的放出 | 令和6年度 約5.8億円 |
そして決定的なのがこれです。同資料によると、令和7年度の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」は契約金額が約2,831億円で、ここにスタートアップ3社(Synspective、QPS研究所、アクセルスペース)が参画し、SAR衛星・光学衛星の整備運用を実施しているとされています。
約2,831億円です。スタートアップの資金調達額とは桁が2つ違う規模の「売上」が、宇宙領域に流れ込んでいる。これが、宇宙スタートアップの経営が数年前とまったく違うステージに入った理由です。
同資料では、主契約相手方がJ-Startup選定企業であるものに絞っても、令和5年度は22件・約177億円、令和6年度は30件・約110億円の事業が実施されたとあります。
つまり宇宙と防衛は、キャリアの上では地続きです。宇宙スタートアップに入るということは、程度の差はあれ安全保障領域の仕事に関わる可能性があるということでもあります。ここは入る前に自分の中で整理しておいたほうがよい論点です。防衛領域そのものについては防衛テック転職ガイドで詳しく書きました。
宇宙スタートアップにある職種

「宇宙=ロケットを作る人」だと思われがちですが、実際の求人はもっと広いです。
| 職種グループ | 具体的な仕事 | 前職として多い |
|---|---|---|
| 機体・衛星の設計 | 構造、熱設計、推進、電源、機構 | 重工、自動車、精密機械、航空部品 |
| 電気・電子 | 搭載計算機、通信機、アンテナ、電源回路 | 半導体、通信機器、家電 |
| ソフトウェア | 搭載ソフト、姿勢制御(GNC)、自律制御、シミュレーション | 組込系、ロボティクス、自動運転 |
| 地上システム・データ | 地上局、運用システム、衛星データ解析、画像処理、機械学習 | Web系、データサイエンス、SIer |
| 品質保証・信頼性 | 試験計画、環境試験、部品選定、信頼性設計 | 重工、医療機器、自動車 |
| 事業開発・営業 | 官公庁営業、海外パートナー開拓、データ販売 | 商社、重工の営業、コンサル |
| 規制・渉外 | 宇宙活動法対応、周波数調整、輸出管理 | 法務、官公庁、通信キャリア |
| コーポレート | 資金調達、IPO準備、補助金・基金対応、採用 | 投資銀行、監査法人、人事 |
私の実感としてお伝えしたいのは、いま最も足りないのは「宇宙の人」ではなく「量産と品質を知っている人」だということです。1機ずつ手作りしていた時代から、衛星を何十機も作って運用する時代に移っているので、自動車や家電で量産品質をやってきた方の経験が、そのまま効きます。
もうひとつ需要が伸びているのが規制・渉外です。宇宙活動法の許可、周波数の国際調整、輸出管理。これらは技術がどれだけ優れていても避けて通れず、かつ分かる人がほとんどいません。
未経験から宇宙に入るための考え方
「宇宙の経験がないから無理だ」と思っている方が多いのですが、宇宙スタートアップの社員の多くは宇宙未経験から入っています。業界の歴史がまだ浅いので当然です。
| いまの経歴 | 刺さるポジション | 面接で見せるべきこと |
|---|---|---|
| 自動車・重工の設計 | 構造・熱・機構、品質保証 | 量産設計とコスト低減の実績。宇宙特有の環境条件は入ってから学べる |
| 半導体・電子部品 | 搭載機器、耐放射線設計 | 信頼性設計、部品選定の判断軸 |
| 組込・ロボティクス | 搭載ソフト、自律制御 | リソース制約下での実装経験 |
| Web系・データ | 地上システム、衛星データ解析 | 宇宙データを実際に触ってみた成果物。無料公開データで十分 |
| 商社・官公庁営業 | 事業開発、官需営業 | 調達プロセスの理解、長期案件の推進経験 |
| 法務・規制対応 | 渉外、輸出管理 | 規制の読み解きと当局折衝の経験 |
特にデータ系の方にお伝えしたいのは、衛星データは無料で手に入るということです。実際に触って、何か作って、それを見せる。これだけで他の候補者と差がつきます。「宇宙が好きです」と言う人は大勢いますが、「宇宙データで何か作りました」と言える人は少ない。
東北大学発ElevationSpaceの例

ここで1社、具体例を挙げます。はじめにお断りしておくと、私はこの会社に個人として出資しており、客観的な評価ではありません。そのうえで、宇宙スタートアップの伸び方がわかる例としてご紹介します。
株式会社ElevationSpaceは、東北大学発の宇宙スタートアップです。代表取締役CEOの小林稜平さんが、東北大学大学院工学研究科の学生だった2021年2月に、桒原聡文准教授と共同で創業されました。私は東北大学の特任教授(客員)を務めている縁もあり、シード期に出資させていただいています。
同社が開発しているのは「ELS-R」という宇宙環境利用・回収プラットフォームです。宇宙の微小重力環境で実験や製造を行い、大気圏で燃え尽きずに地球へ戻ってくるという、再突入・回収の技術が中核にあります。
資金調達の推移を、同社のプレスリリースから引きます。
| ラウンド | 調達額 | 累計調達額 | 発表 |
|---|---|---|---|
| シリーズA | 14億円超 | 21億円 | 2024年7月12日 |
| プレシリーズB | 11億円 | 37億円 | 2025年9月17日 |
| シリーズB | 64億円 | 101億円 | 2026年6月19日 |
2年で21億円から101億円です。大学の研究室から生まれた技術が、5年で100億円を調達する規模になる。これがいまの宇宙領域で起きていることです。
私がこの会社を見ていて思うのは、大学発スタートアップの強みは「他社がすぐに真似できない技術」にあるということです。再突入技術は一朝一夕には作れません。参入障壁がそのまま事業の堀になります。大学発スタートアップのキャリア全般についてはディープテック業界の転職ガイドにまとめています。
CXOではなく現場の一人として入る場合に、実際どんな求人があるのかは、ディープテックの社員求人に各社の採用ページから拾った職種をそのまま載せました。技術職以外も多くあります。
会社選びで見るべき5つの指標

宇宙スタートアップは会社ごとの差が非常に大きい領域です。私が必ず確認していただくのは次の5点です。
| 見るところ | なぜ重要か | 確認方法 |
|---|---|---|
| 売上の出どころ | 政府調達か、民間顧客か、まだ研究開発費かで安定性がまるで違う | 上場企業なら有価証券報告書。未上場なら面接で直接聞く |
| 宇宙戦略基金の採択有無 | 複数年度の開発資金がついているか | JAXAの採択結果は公開されている |
| 防衛調達の実績 | 桁の違う売上につながる。同時に事業の性格も変わる | 防衛装備庁の公表資料に契約実績が載っている |
| 手元資金と燃焼速度 | ハードウェアは開発費が重く、調達間隔が空くと苦しい | 直近の調達時期と調達額。上場企業なら四半期開示 |
| 打上げ・実証の実績 | 「設計した」と「飛ばした」の間には大きな差がある | 実際に軌道投入した機数 |
5つめを強調しておきます。宇宙は、飛ばして初めて分かることが多い業界です。構想が立派でも、実際に軌道に上げた経験のないチームは、そこから先で必ず苦労します。何機飛ばしたのか、そのうち何機が計画どおり動いたのか。ここは遠慮なく聞いてください。
採用が動くタイミングは、外から読めます
宇宙スタートアップは求人を常時出しているわけではありません。ただ、いつ人を増やすかは、外から予測できます。
| 見るもの | 読み取れること | 入手先 |
|---|---|---|
| 宇宙戦略基金の採択結果 | 複数年度の開発資金がついた=開発体制を組む必要がある | JAXAが採択結果を公表 |
| 防衛装備庁の契約実績 | 大型契約を取った会社は人を増やす | 各種公表資料に企業名と金額が記載 |
| 資金調達のリリース | 調達直後の3〜6か月が採用のピーク | PR TIMES、各社サイト |
| 打上げ計画の発表 | 打上げ前は試験・運用、打上げ後は量産で人が要る | 各社IR、業界メディア |
採択や調達のニュースを見てから動くと遅いので、関心のある会社はリリースを購読しておいてください。私のところへのご相談でも、「あの会社が調達したので今がチャンスですか」と聞かれることが増えました。答えは、たいていイエスです。
経営する側の論点は大学発スタートアップ経営者が最初に詰まるところにまとめました。
年収の考え方
率直に申し上げます。宇宙スタートアップの年収は、同じスキルの方がメガベンチャーに行く場合より下がることが多いです。
理由は構造的です。収益化まで時間がかかるハードウェア事業で、売上の多くが研究開発費や実証契約である段階だと、人件費に回せる原資に限りがあります。上場している会社でも、開発投資が先行して赤字という状態は珍しくありません。
では何が報酬になるのか。ストックオプションと、経験そのものです。宇宙の実機開発に関わった経験は、国内でそれを持つ人がまだ少ないので、市場価値として効きます。ストックオプションの考え方は年収・報酬・SOのまとめで整理しています。
ただし誤解しないでいただきたいのは、「夢があるから安くてもいい」という話ではないということです。防衛調達が入って売上が立ち始めた会社は、処遇も上がっています。入る前に「この会社の売上はどこから来ているのか」を確認してください。それが年収の天井を決めます。
よくある質問
Q1. 宇宙の勉強をしていないと転職できませんか
いいえ。宇宙スタートアップの多くは、宇宙未経験者を採用して育てています。業界の歴史が浅く、経験者の絶対数が足りないからです。むしろ量産、品質保証、ソフトウェアといった他業界で培った基礎のほうが評価されます。
Q2. 文系でも入れますか
入れます。事業開発、官公庁営業、規制・渉外、資金調達、採用。いずれも足りていません。特に宇宙活動法や周波数調整といった規制対応は、分かる人がほとんどいない領域です。技術が分からなくても、技術者と会話できる姿勢があれば十分に務まります。
Q3. 防衛の仕事に関わることになりますか
可能性はあります。防衛装備庁の資料を見れば、主要な宇宙スタートアップの多くが防衛関連の契約を持っていることが分かります。気になる方は選考の段階で「防衛領域の売上比率と、今後の方針」を確認してください。会社によって考え方は違いますし、聞いて不誠実な対応をする会社なら、入らないほうがよいと思います。
Q4. 上場企業と未上場、どちらがよいですか
安定性を求めるなら上場企業です。財務が開示されているので、入る前にリスクを自分で判断できます。一方で、未上場のアーリー期はストックオプションの条件がよく、裁量も大きい。ご自身が「作る経験」を取りに行くのか「経営の安定」を取るのかで選んでください。
Q5. 地方の宇宙スタートアップはどうですか
宇宙は地方に強いクラスターがあるのが特徴です。大学の研究室が起点になっている会社が多いため、仙台、福岡、北海道など、拠点が東京以外というケースが珍しくありません。移住を伴うことがある一方、競争率は東京より低くなります。
Q6. 何歳まで転職できますか
技術職なら年齢より経験です。むしろ重工や自動車で20年以上やってきた方が、量産と品質の責任者として入る例が増えています。スタートアップ側に「作り切った経験のある人」が足りないためです。40代以降の方は、若手ポジションではなく責任者ポジションで狙ってください。
まとめ|お金の流れが変わりました
宇宙スタートアップへの転職を考えるうえで、押さえていただきたいのは3点です。
1つめ、政府が1兆円規模の基金を積み、市場を2030年代早期に8兆円にする目標を掲げていること。開発資金が複数年度でつく環境ができました。
2つめ、防衛調達が桁違いの売上をもたらしていること。令和7年度の衛星コンステレーション事業は約2,831億円で、ここにスタートアップ3社が入っています。同時に、これは自分がどう向き合うかを考えるべき論点でもあります。
3つめ、宇宙未経験でも入れるが、会社ごとの差が極端に大きいこと。売上の出どころと、実際に飛ばした実績。この2つを必ず確認してください。
キープレイヤーズでは、21年にわたりベンチャー・スタートアップの転職支援と採用支援を行ってきました。私自身がエンジェル投資家として80社以上に投資しており、東北大学の特任教授(客員)として大学発スタートアップにも関わっています。公開されていないポジションの状況や、各社の資金調達の温度感についてもお話しできることがあります。宇宙領域への転職をお考えの方、また採用にお困りの企業の方は、お気軽にお問い合わせください。
すぐに転職をお考えでない方には、オンラインサロンもご用意しています。スタートアップの資金調達動向や、投資家・経営者の生の情報を継続的にお届けしています。
出典
- 内閣府 宇宙開発戦略推進事務局「宇宙戦略基金第3期について(全体概要)」令和8年2月 — 総額1兆円規模、各期の予算と省庁別内訳、全19テーマ、市場目標4兆円⇒8兆円
- 防衛装備庁「防衛分野におけるスタートアップとの連携について」令和8年3月(内閣官房 日本成長戦略会議 提出資料)— 企業別契約実績、衛星コンステレーション事業約2,831億円、J-Startup企業との契約件数・金額
- 株式会社ElevationSpace プレスリリース(PR TIMES)— シリーズA 2024年7月12日、プレシリーズB 2025年9月17日、シリーズB 2026年6月19日・累計101億円
- 各社IR・東京証券取引所 — ispace(9348)、QPS研究所(5595)、アストロスケールHD(186A)、Synspective(290A)の上場日、QPSホールディングス(464A)への移行
※本記事に記載した企業のうち、株式会社ElevationSpaceには筆者が個人として出資しています。

