事業会社のAI推進 成功事例と失敗例【日米12社】誰が率いたか・CTO/CDOの採用・人事評価制度まで高野秀敏が解説

執筆者:高野秀敏
株式会社キープレイヤーズ/代表取締役
東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、12,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。80社以上の投資、9社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。178社上場支援実績あり。顧問、アドバイザー、社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。「ベンチャーの作法」ダイヤモンド社5万部を超えるベストセラー

こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を27年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。

最近、製造業・小売・食品などの事業会社の経営者から「AIを進めたいが、誰に任せればいいのか」「CTOやCDOを外から採るべきか」というご相談をいただくことが本当に増えました。生成AIのツールは誰でも使えるようになりましたが、成果が出る会社と出ない会社の差は、ツールではなく「誰が率いて、人事制度をどう変えたか」で開いています。

そこでこの記事では、IT企業ではない事業会社がAI推進で成果を出した実例を、米国と日本の両方から集めました。あわせて、推進役の採用のしかた、人事評価・報酬制度の事例、うまくいかなかった例まで、公開情報で確認できた事実だけで整理しています。

この記事でわかること

  • 日本企業のAI推進の現在地(総務省・IPAのデータで日米比較)
  • 非IT事業会社のAI推進の成功事例と「誰が率いたか」(米国5社・日本7社)
  • AI推進役の採り方:外部招へい・社内登用・出島の違い
  • AIを人事評価・昇格・報酬に組み込んだ企業の事例
  • AI推進の失敗例・つまずきと、そこから学べること
  • AI推進の責任者を採る前に決めておくべきこと
目次

データで見る日本企業のAI推進の現在地

データで見る日本企業のAI推進の現在地

まず、日本企業のAI活用がどこまで進んでいるかを確認しておきます。総務省の『令和8年版 情報通信白書』(2026年7月)によると、生成AIを1つ以上の業務で使っている日本企業は86.4%で、前年度の55.2%から大きく伸びました。「使うこと」自体は、米国やドイツにかなり追いついています。

指標 日本 米国 ドイツ 出典
生成AIを1つ以上の業務で利用している企業 86.4% 90.9% 91.6% 総務省 令和8年版 情報通信白書(2026年7月)
CDO(最高デジタル責任者)が在籍する企業 11.7% 50.5% 42.6% IPA『DX動向2025』(2025年6月)
経営者がデジタル分野の見識を持っている企業 40.2% 77.5% 73.9% 同上
DX推進人材の評価基準が「ない」企業 75.7% 10.0% 18.9% 同上

一方で、差がはっきり残っているのが「誰が責任を持つか」と「人をどう評価するか」です。日本ではCDOがいる企業は1割強にとどまり、DX推進人材の評価基準がない企業が4分の3を占めます。総務省の白書も、米独中では「取組を推進する部署や責任者が明確」という回答が目立つと指摘しています。

IPAの『DX動向2026』(2026年7月)では、AI導入を主導しているのは「IT部門の長」が46.0%で最多、CAIO(最高AI責任者)は2.9%でした。日本のAI推進は、多くの会社でIT部門長の兼務で回っているのが実態です。導入の課題として最も多いのは「専門人材の不足」(50.1%)でした。

AI推進は誰が率いたか:日米の成功事例一覧

AI推進は誰が率いたか:日米の成功事例一覧

ここからは、IT企業ではない事業会社の事例を見ていきます。私が特に注目したのは「誰が率いたか」です。一覧にすると、成果を出した会社の多くが、外部から技術・デジタルの責任者を招くか、AI企業を買収して取り込んでいることがわかります。

企業(業種) 推進の中心人物・方法 型 主な成果(会社発表)
John Deere(農機・米) AI企業Blue River Technologyを2017年に買収 買収 See & Sprayで除草剤を平均59%削減(2024年)
Walmart(小売・米) Google・Amazon出身のSuresh Kumar氏を2019年にCTOとして招へい 外部招へい 生成AIで商品データ8.5億件超を作成・改善
Lowe's(小売・米) Target出身のSeemantini Godbole氏を2018年にCIOとして招へい 外部招へい AIアドバイザー利用客は非利用客の約3倍購入に至る
Levi Strauss(アパレル・米) Vodafone出身のKatia Walsh氏を2019年にChief Strategy & AI Officerとして招へい 外部招へい 社内ブートキャンプで100人超が機械学習を習得
JPMorgan Chase(金融・米) 2023年にCDAO(最高データ・アナリティクス責任者)を新設し社内から起用 社内登用 週約15万人が社内AIを利用
日清食品HD(食品) アクセンチュア・DeNA・メルカリ出身の成田敏博氏(2019年入社、2021年CIO) 外部招へい 生成AIで年32,591時間の削減見込み
中外製薬(製薬) 日本IBM出身の志済聡子氏(2019年入社)→後任もマイクロソフト出身 外部招へい(2代) DX全体で約31万時間の業務削減(2024年まで)
旭化成(化学) 日本IBM CTOだった久世和資氏(2020年入社) 外部招へい+全社育成 デジタルプロ人材250人→1,206人、増益貢献28億円(2022年度)
パナソニック コネクト(製造) 外部出身の樋口泰行CEOのもと、生え抜きの河野昭彦CIOが推進 社内登用 2025年度に78.8万時間を削減
カインズ(小売) 日本オラクル・マイクロソフト・ミスミ出身の池照直樹氏(2019年入社、CDO) 外部招へい デジタル組織を10人未満→約200人に
ワークマン(小売) 三井物産出身の土屋哲雄氏(2012年入社、のち専務) 外部招へい+全社育成 全社員がデータで判断する「Excel経営」を定着
ヤマト運輸(物流) 日本IBM・SOMPO出身の中林紀彦氏(2019年入社) 外部招へい 外部から約100人を採り、約300人規模のデジタル組織に

なお、成果の数字はいずれも各社の発表で、「見込み値」や利用者・非利用者の比較(相関)も含まれます。それぞれの事例で区別して書いていますので、社内で引用する際は注意してください。

米国の非IT企業のAI推進事例

米国の非IT企業のAI推進事例

John Deere:AI企業を買収して「農機メーカー」から変わった

農機大手のJohn Deereは、2017年にシリコンバレーのAIスタートアップBlue River Technologyを約3.05億ドルで買収しました。2021年には自動運転のBear Flag Roboticsも約2.5億ドルで買収しています。人を1人採るのではなく、チームごと会社を買って技術を取り込んだのが特徴です。

その成果が、カメラとAIで雑草だけを見分けて除草剤をまく「See & Spray」です。同社の発表では、2024年に100万エーカー超で使われ、除草剤の使用量を平均59%削減しました。除草剤という農家の本業コストに直結するテーマを選んだことが、私は大きいと見ています。

Walmart:大手テック出身者をCEO直属のCTOに

Walmartは2019年、Google・Microsoft・Amazonを渡り歩いたSuresh Kumar氏を、CEO直属のCTO兼CDO(Chief Development Officer)として招きました。2026年時点でも在任しています。

2024年8月の決算では、当時のCEOが「生成AIで商品データ8.5億件超を作成・改善した。人手なら今の約100倍の人員が必要だった」と説明しています。配送ルートの最適化では不要な走行3,000万マイルを避け、その仕組みを他社向けに外販するところまで進めました。技術責任者をCEOの直下に置き、全社の技術部門を束ねさせたことが大きいと私は見ています。

Lowe's・Levi Strauss:小売・アパレルの外部招へい

ホームセンターのLowe'sは、2018年にTargetのデジタル責任者だったSeemantini Godbole氏をCIOに招きました。同社のAIアドバイザー「Mylow」について、CEOは2026年の決算で「使ったオンライン客は、使わない客の約3倍購入に至る」と述べています(相関の数字です)。

Levi Straussは2019年、Vodafoneの初代CDAOだったKatia Walsh氏を「Chief Strategy & AI Officer」として採用しました。有名なのは2021年に始めた8週間の機械学習ブートキャンプです。本社・店舗・物流センターの社員がコーディング経験なしで参加し、100人超が機械学習を学んで現場に戻ったと報じられています。外部から招いた人が「自分がいなくても回る仕組み」を残した例です。

JPMorgan Chase:社内登用でも「経営直轄」にした

JPMorganは2023年、データ・AIを統括するCDAOのポストを新設し、社内の事業部門トップを起用しました。外部招へいではありませんが、CDAOを経営委員会のメンバーにした点が重要です(2026年7月には、同氏が年末に退任しCTOが兼務する方針と報じられています)。社内向け生成AI「LLM Suite」は週約15万人が使っており、Jamie Dimon CEOは2025年10月のテレビインタビューで、AIに年約20億ドルを投じ、ほぼ同額の便益が出ていると語りました。

日本の事業会社のAI推進事例

日本の事業会社のAI推進事例

日清食品HD:IT企業出身のCIOが3週間で全社展開

日清食品HDの成田敏博氏は、アクセンチュア、DeNA、メルカリなどでIT部門を率いたあと、2019年に入社し、2021年にCIOに就きました。2023年4月の入社式で安藤宏基CEOがChatGPTを使ってみせた約3週間後に、グループ専用の「NISSIN AI-chat」を公開しています。

進め方が実践的で、まず全国8ブロックの営業部門で集中プロジェクトを行い、うまくいったプロンプトをテンプレートにして他部署へ広げました。同社の資料では、年間32,591時間の業務削減を見込んでいます。Microsoft 365 Copilotを使う約1,700人では、1人あたり年79.4時間の削減と報じられています。トップが自ら使ってみせ、IT出身のCIOがすぐ形にするという組み合わせが効いた例です。

中外製薬:外部のDX責任者を2代続けて採用

中外製薬は2019年5月、日本IBMに30年以上在籍した志済聡子氏を招き、デジタル戦略を進める専門組織を立ち上げました。志済氏が2024年3月に退任したあとも、マイクロソフトでDXアドバイザリー部門を率いた鈴木貴雄氏を後任に迎えています。

2024年までにDX全体で約31万時間の業務を削減したと報じられています。責任者が替わっても外部から後任を採り、取り組みを途切れさせなかった点が、日本企業では珍しい成功パターンです。

旭化成:IBMのCTOを招き、4万人の育成制度に変えた

旭化成は2020年7月、日本IBMのCTOだった久世和資氏を迎え、2022年に取締役、のちに副社長に就けました(2026年6月に取締役を退任)。久世氏が持ち込んだのが、IBMの仕組みを参考にした5段階の「DXオープンバッジ」です。

2023年12月の同社資料では、デジタルの専門人材は250人(2021年度)から1,206人(2023年度上期)に増え、重点テーマによる増益貢献は2022年度で28億円でした(3年累計100億円が目標)。削減時間ではなく「利益」で成果を示している数少ない日本企業です。

パナソニック コネクト:外部出身CEOと生え抜きCIOの組み合わせ

パナソニック コネクトは、日本マイクロソフトの会長から戻った樋口泰行CEO(2026年3月退任)のもと、生え抜きの河野昭彦CIOが社内AI「ConnectAI」を推進しました。2025年度の削減時間は78.8万時間(総労働時間の3.4%)で、2030年に10%削減を目標に掲げています。毎年数字を公表し続けている点も参考になります。

カインズ・ワークマン・ヤマト運輸:組織と仕組みを作った外部人材

カインズは2019年1月にデジタル戦略本部を新設し、同年7月には日本オラクルやマイクロソフト、ミスミなどを経た池照直樹氏をCDO(デジタル戦略本部長を兼務)に迎えました。表参道に開発拠点を置き、エンジニアに合った勤務体系も整えて、10人未満だった組織を約200人にしています(池照氏はその後退任)。

ワークマンの「Excel経営」は、三井物産出身の土屋哲雄氏(2012年入社、のち専務)が始めました。入社時は店舗在庫の数量データすらなかったところから、全社員がデータで品ぞろえを判断する文化を作っています。ヤマト運輸では、日本IBMやSOMPOを経た中林紀彦氏が2019年に入社し、外部から約100人を採用してグループ内の人材と合わせた約300人規模のデジタル組織を作り、宅急便センターの業務量を機械学習で予測する仕組みを作りました(中林氏は2024年にライオンへ移っています)。

AI推進役の採り方:外部招へい・社内登用・出島の比較

AI推進役の採り方:外部招へい・社内登用・出島の比較

事例を見ると、AI推進役の置き方は大きく4つに分かれます。どれが正解というより、自社のIT部門の成熟度と、経営がどこまで権限を渡せるかで選ぶものです。

型 代表例 メリット デメリット・注意点
外部からCxOを招へい Walmart、日清食品、中外製薬、旭化成、カインズ 大手テックの知見と人脈をそのまま持ち込める。採用力も上がる 報酬テーブルが合わない。既存組織とぶつかりやすい。退任後に止まりやすい
社内から登用し経営直轄に JPMorgan、パナソニック コネクト 業務と社内政治を知っている。定着しやすい 技術の目利きが弱いと外部パートナー任せになる
AI企業の買収 John Deere チームごと技術を手に入れられる 本業と結びつかないと数年で手放すことになる(後述のMcDonald's)
出島(別組織・別会社) カインズ(別拠点・別勤務体系)、SOMPO Light Vortex 報酬・働き方を本体と別に設計できる 本体の目標とずれると統合・トップ交代になりやすい

外部から採る場合の年収相場も押さえておきましょう。公的な統計はなく、人材会社の公開データになりますが、目安は次のとおりです。

役職 年収の目安 出典
CTO 平均約1,700万円(大企業約2,600万円、中堅約1,500万円、中小約1,300万円) JAC Recruitment(2024年1月〜2026年2月の自社実績)
CDO 平均2,000万円前後(大企業は平均2,500万円前後、上限4,000万〜5,000万円) JAC Recruitment(同上)
AIスキルを持つ人材全般 同じ職種でもAIスキルがあると賃金が平均56%高い(世界) PwC「2025 Global AI Jobs Barometer」

ここで多くの事業会社がつまずくのが、社内の給与テーブルにこの水準が収まらないことです。経済産業省の2021年の資料でも、DXを進めるユーザー企業でもIT人材の給与水準は全社とほとんど変わらないと指摘されています。CTO採用の進め方そのものはCTO採用の進め方完全ガイドで詳しく解説しています。セキュリティの責任者も含めた年収相場とヘッドハンティングの費用はCISO・CTO採用ガイドにまとめました。

AIを人事評価・報酬制度に組み込んだ事例

AIを人事評価・報酬制度に組み込んだ事例

AI推進役を採っても、社員の評価や処遇が変わらなければ現場は動きません。ここ1〜2年で、AIスキルを昇格要件や評価に組み込む企業が日米で出てきています。

企業 施策 時期 分類
三菱商事 AI資格の取得を課長級への昇格要件に。資格取得は将来、役員を含む全社員に義務付ける方針 2027年度から(2025年4月報道) 昇格要件
ユニ・チャーム G検定(日本ディープラーニング協会)の取得を係長級への昇進要件に 2026年1月から 昇格要件
NTTデータ AIなどの高度人材を市場価値で処遇する別雇用区分「ADP制度」 2018年12月発表 別建て報酬
KDDI 経歴不問・給与上限なしの「イノベーション人材採用」 2019年11月発表 別建て報酬
LINEヤフー(比較用・IT) 全従業員約1.1万人に生成AI活用を義務化。「まずAIに聞く」などの行動ルールを明示 2025年7月 利用の義務化
Shopify(比較用・米IT) CEOメモでAI活用を評価に反映。増員申請時は「AIでできない理由」の説明を必須に 2025年4月 評価・採用の前提

日本の非IT大手で目立つのは、三菱商事やユニ・チャームのような「資格を昇格要件にする」方式です。「AIをどれだけ使ったか」を評価項目にするのは測り方が難しく、私が調べた範囲では、活用度そのものを評価項目にしたと公式に発表した非IT大手は見つかりませんでした。まずは測れる資格から入る、というのは現実的な選び方だと思います。

注意したいのは、別建て報酬は大量採用の手段にはならないことです。NTTデータのADP制度も、2020年7月時点の適用は7人でした。トップ人材を数人採るための「例外枠」と割り切り、全体は育成と評価制度で底上げする、という二段構えが基本です。

育成の仕組みでは、ダイキン工業の社内大学「ダイキン情報技術大学」(新入社員約100人が2年間AI・データを学ぶ)、旭化成のDXオープンバッジ、日立のAIプロフェッショナル人財10万人育成(2026年5月発表)などが知られています。経団連の2026年4月の報告書(回答75社)では、AI推進の役員ポジション(CAIOなど)を置く企業が35%、部長級の責任者を含めると55%でした。大手では「責任者を置く」段階から「人事制度に落とす」段階に進みつつあります。AI人材の採用方法全般はAI人材採用の方法|採れない理由と職種別の要件・年収もあわせてご覧ください。

AI推進の失敗例・つまずきから学ぶ

AI推進の失敗例・つまずきから学ぶ

成功例だけを見ると判断を誤ります。うまくいかなかった例には、共通するパターンがはっきりあります。

企業 何が起きたか 教訓
GE(米・製造) Cisco出身者を招いて2015年にGE Digitalを設立。ソフトウェアに巨額を投じたが売上目標を下方修正し、2018年に責任者が退任・分社化 現場の課題より「ソフト会社になる」という外向きの目標を優先した
McDonald's(米・飲食) 2019年にAI企業Dynamic Yieldを買収(報道で3億ドル超)したが、2021年に売却で合意。IBMと組んだドライブスルーのAI注文も2024年に試験を終了 買収したAI企業は数年で売却。音声注文AIも精度目標に届かず試験終了と報じられた
Klarna(スウェーデン・金融) 採用を凍結し、2024年に「AIが700人分の仕事をしている」と発表。2025年に品質低下を理由に人間の採用を再開 人員削減を先に宣言すると、品質で揺り戻しが来る
Commonwealth Bank of Australia 音声ボットを理由にコールセンターの45人を削減したが、2025年8月に撤回し「誤り」と認めた 実際の業務量を見ずに削減を決めた
Duolingo(米・IT) 2025年4月の「AI-first」メモが炎上し、CEOが2度釈明 AI推進を「人を減らす話」として発信するとブランドが傷つく
ソフトバンク(通信) 社長が「1人100個のAIエージェント作成」を指示。250万個できたが大半が業務で使えなかったと報じられ、「量から質」へ転換 量のノルマは使えない成果物を量産する

日本の事業会社でも、つまずきの芽は見えています。ダイキンの社内大学では、初期に「新人が現場のニーズをつかめない」「必要なデータがない」「ベテランがAIで何ができるか理解していない」といった課題が出ました。AI人材を育てても、現場の課題とデータが用意されていなければ成果につながらないということです。

また、外部から招いた責任者が数年で退任し、その後の成果が追えなくなる例も多くあります。協和キリンは2025年4月に専任のCDXOを置きましたが、2026年10月にその役割を経営戦略の責任者(CSO)に統合しました(会社は「DXを経営戦略と一体で推進するため」と説明しています)。調査では、PwC Japanの2025年春の調査で生成AIが「期待を上回る効果」と答えた日本企業は13%で、米国(51%)・英国(50%)の約4分の1にとどまりました。導入はしたが業務の作り直しまで進んでいない会社が多いのが実情です。採用で失敗しやすいポイントは転職失敗・後悔・リスクのまとめも参考になります。

AI推進の責任者を採る前に決めておくべきこと

AI推進の責任者を採る前に決めておくべきこと

成功例と失敗例を並べると、成果を出した会社は採用の前に次のことを決めています。私が経営者の方と採用の要件を詰めるときも、最初に確認するのはスキルではなく権限と予算です。

決めておくこと 成功例の答え 決めないと起きること
レポートライン CEO直属・経営会議に席がある(Walmart。JPMorganのCDAOも経営委員会メンバー) IT部門の一担当になり、事業部が動かない
最初のテーマ 本業のコストに直結するもの(除草剤、配送、営業の資料作成) PoCが並ぶだけで損益に効かない
成果の測り方 削減時間・利益を毎年公表(パナソニック コネクト、旭化成) 見込み値だけが独り歩きする
組織・採用の権限 別拠点・別勤務体系・採用枠を渡す(カインズ) 1人で来て孤立し、短期で退任
報酬・評価制度 例外枠の報酬+全社の昇格要件(NTTデータ、三菱商事) 「魅力的な処遇が出せない」で採れない
後継者・仕組み化 後任も外部から採る、育成制度を残す(中外製薬、Levi's、旭化成) 退任と同時に取り組みが止まる
社内外への発信 「仕事を楽にする」「人は減らさない」と伝える 「人減らし」と受け取られ反発・炎上

そして、トップ自身が使ってみせることです。日清食品の入社式、パナソニック コネクトのCEOの後押しのように、経営者が自分で使っている会社ほど、推進役が動きやすくなります。CxO・経営幹部の採用全体の考え方は企業側の採用・人材戦略のまとめとCXO転職・経営幹部キャリアのまとめで整理しています。

事業会社のAI推進に関するよくある質問(FAQ)

事業会社のAI推進に関するよくある質問(FAQ)

Q. AI推進の責任者はCTO・CDO・CAIOのどれを置けばいいですか?

A. 肩書より権限が大事です。自社で開発・内製を進めるならCTO、事業全体のデジタル化ならCDO、AI活用に絞るならCAIOが近いですが、成功例ではWalmartのCTO兼CDO、日清食品のCIOのように肩書はさまざまです。CEO直属で予算と採用の権限があるかを優先してください。

Q. 外部から採るべきですか、社内から登用すべきですか?

A. 社内にITとデジタルを理解した人材がいれば社内登用でも成果は出ます(パナソニック コネクト、JPMorgan)。いない場合は、外部招へいでスピードを買い、同時に社内育成の仕組みを作ってもらう形(旭化成、Levi's)が現実的です。

Q. 外部のCTO・CDOの年収はどれくらい必要ですか?

A. 人材会社の公開データでは、CTOは平均約1,700万円、CDOは平均2,000万円前後、大企業では2,500万円前後が目安です。社内の給与テーブルに収まらない場合は、別雇用区分や業務委託・顧問から始める方法もあります。

Q. AI活用を人事評価に入れるべきですか?

A. 入れるなら、まず測りやすい「資格を昇格要件にする」形から始めるのが無難です(三菱商事、ユニ・チャーム)。利用回数や作成数をノルマにすると、使えない成果物が増える例があります(ソフトバンク)。

Q. AIで人員削減を打ち出すのはありですか?

A. おすすめしません。Klarnaや豪Commonwealth Bankのように、削減を先に宣言して撤回に追い込まれた例があります。成功企業は「増員を抑える」「自然減で吸収する」と伝え、浮いた時間を本業の強化に回しています。

Q. 中堅・中小企業でもAI推進の責任者を置くべきですか?

A. 専任のCxOを置けなくても、責任者を1人決めることは必要です。IPAの調査ではAI導入を主導しているのはIT部門長が最多ですが、兼務のままでは本業の業務改革まで手が回りません。顧問や副業の専門家と組み、社内の責任者を育てる方法もあります。

まとめ:AI推進の成否は「誰に任せ、どう評価するか」で決まる

まとめ:AI推進の成否は「誰に任せ、どう評価するか」で決まる

  • 日本企業の生成AI利用は86.4%まで広がったが、CDOがいる企業は11.7%、DX人材の評価基準がない企業は75.7%
  • 成果を出した非IT企業の多くは、外部から技術・デジタルの責任者を招くか、AI企業を買収している
  • 成功の共通点は「CEO直属」「本業コストに直結するテーマ」「成果の公表」「本人が去っても残る育成の仕組み」
  • 人事制度は「トップ人材の例外枠報酬」と「AI資格の昇格要件」の二段構えが現実的
  • 失敗例は「人員削減の先行宣言」「量のノルマ」「権限なしの招へい」「PoC止まり」

AI推進は、ツール選びより先に「誰に任せるか」を決める経営の仕事です。キープレイヤーズでは、21年にわたりCxO・経営幹部の採用を支援してきました。CTO・CDO・AI推進責任者の採用について、要件定義や報酬設計の段階からぜひお気軽にご相談ください。

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また、経営者・起業家・転職を考える方向けにオンラインサロンも運営しています。ベンチャー経営や採用のリアルな情報を発信していますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。

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※各社の成果の数字は、各社の発表・決算説明・報道に基づきます(2026年10月時点で確認)。見込み値や、利用者と非利用者の比較(相関)を含みます。人物の肩書は当時のものです。

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東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。1万2000件以上のキャリア面談、4,000名以上の経営者と採用相談にのる。80社以上のエンジェル投資、投資して上場は9社。うち2社は役員として上場(クラウドワークス、メドレー)。178社以上の上場支援実績。顧問・社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数300回以上。「ベンチャーの作法」(ダイヤモンド社)5万部を超えるベストセラー

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