こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を約25年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。
人材業界の上場企業の決算を、6社続けて読みました。フォースタートアップス、ビジョナル(ビズリーチ)、リクルート、JACリクルートメント、エス・エム・エス、メドレー。
読み始めたときの問いは単純でした。採用コストは、これから上がるのか下がるのか。
答えは出ました。上がります。しかも、上がり方が変わっています。
効率は上がったのに、価格は下がっていない
まず、この1年で各社の効率は明確に上がりました。AIの導入も進んでいます。それでも価格は下がっていません。
| 会社 | 効率化の事実 | それでも価格は |
|---|---|---|
| フォースタートアップス | 1人あたり決定件数が0.43→0.54(+23.4%) | 1件あたり単価が386万円→416万円 |
| リクルート(Indeed) | AI機能で採用業務を自動化 | US ARPJ成長率が第1四半期に35% |
| エス・エム・エス | AI活用でマッチングプロセスを改善 | 1人あたり生産性・売上ともに上昇 |
| メドレー | 採用管理システムにAI機能を実装 | 2027年以降のARPU向上に貢献と明記 |
AIは採用コストを下げませんでした。むしろ、値上げの根拠になっています。効率が上がったぶんの利益を、いま誰が取っているのか。ここが今回いちばん考えさせられた点です。
「決まったら払う」から「使ったら払う」へ
もうひとつ、採用予算の組み方に直接効く変化がありました。成果に連動しない費用の比率が上がっています。
| 会社 | 開示されている事実 | 採用側から見ると |
|---|---|---|
| ビジョナル(ビズリーチ) | 売上の約3分の2がプラットフォーム利用料などのリカーリング。成功報酬は約3分の1 | 採用が決まらなくても費用が出ていく |
| リクルート(Indeed) | 米国の求人総数は減少を前提としながら、米国売上は前年同期比30%増で四半期最高の16.4億ドル | 求人が減っても支払いは増える |
| メドレー | 投資家向けハイライトに「顧客事業所数とARPUの最大化」 | 1社あたりの取引額が増える方向 |
ビジョナルのリカーリング売上には、プラットフォーム利用料に加えて追加プラチナスカウトの購入も含まれます。送信が無料というわけではありませんが、費用の中心が「決まったかどうか」と連動していないことは変わりません。
だから送らないほうが損になります。30歳・MARCHクラスの学歴・メガバンク在籍という層でも、媒体に登録した翌日に300通ほどのスカウトが届く。これは実際に登録した知人から聞いた話ですが、こうなる力学が費用構造の側にあります。
媒体が値上げし、人材会社の原価が上がっている
2社の決算に、同じ出来事が別々の言葉で書かれていました。
| 立場 | 開示された内容 |
|---|---|
| 媒体側(ビジョナル) | ヘッドハンター向けの成功報酬料率を2026年2月以降の契約から順次改定。利用ヘッドハンター数は前四半期比で減少したが、料金改定による一定の離脱は想定どおり |
| 人材会社側(フォースタートアップス) | 主要外部データベースの値上げに伴い、第2四半期以降の売上原価率に約3ポイントの増加影響を見込む(生産性改善で吸収) |
媒体が値上げをして、人材会社の原価が上がり、一部が撤退している。片方だけ読んでいたら気づきませんでした。
人を増やす会社と、増やさない会社
成長のさせ方も割れています。同じハイクラス人材紹介でも正反対でした。
| 会社 | 成長のエンジン | 数字 |
|---|---|---|
| フォースタートアップス | 1人あたりの生産性 | 人員をほぼ増やさず営業利益2.5倍(452→1,120百万円) |
| JACリクルートメント | 人を増やす | コンサルタント+362名を計画(うち新卒約200名)。離職率は9.7%→11.6% |
| エス・エム・エス | 両方 | CP225人を採用しつつ、1人あたり生産性も前年超え |
JACは決算説明会で「当社の事業は労働集約型であり、短期的に指数関数的な成長が見込めるモデルではありません」と正面から答えています。誠実な回答だと思いました。
AIが配れないものに、各社が寄っている
興味深いのは、JACとエス・エム・エスが別の言葉で同じ結論に達していたことです。
- JAC:自分たちの強みは求人票に記載がない情報(企業カルチャー、組織背景、経営者の意図)を扱うこと
- エス・エム・エス:AI化を見据えて、非公開の職場情報を蓄積する観点から担当者を増員する
公開されている情報はAIが配れる。配れないのは、現場に行かないと手に入らない情報のほうです。だから人を増やす。そういう判断だと読みました。
1社だけ、逆を書いていた
6社のなかでメドレーだけが、手数料を安くするという趣旨の記述を残しています。
リクルートメディカルキャリア社の全事業を10億円で取得する件の説明のなかで、「本領域においては長期的に安価な手数料でのビジネスモデルの実現を目指しております」と書かれていました。
ただし、ここは正確に読む必要があります。
- 対象はヘッド領域(医師・薬剤師・病院)に限られる。全社の話ではありません
- 「長期的に」「目指しております」という表現で、時期も水準も示されていません
- いま下げているという事実は開示されていません。買収直後はPMIコストが先行し、FY26業績影響は売上約+500百万円に対してEBITDAは約-300百万円です
- 全社としては顧客事業所数とARPUの最大化を投資家向けハイライトに掲げています
私は最初、この1文だけを見て「1社だけ手数料を下げにいく」と読みました。同じ資料の別のページを読んで、それが早合点だったと分かりました。決算資料は1文を切り取ると逆の結論になります。自戒を込めて書いておきます。
そのうえで、5社が同じ方向に進むなかでこの一文を書いた会社が1社だけあったという事実は、それ自体が意味を持つと思っています。同社は顧客事業所45.7万件、対象事業所全体の約4割という基盤を作ったうえでこう書いています。規模があるからこそ書ける話です。
追記:厚生労働省への公表データが出ました
この記事を公開した翌日、各社が厚生労働省に申告している職種別の手数料実績が公開されていることを確認しました。2025年4月から義務化された制度で、誰でも見られます。実際に主要10社分を拾ってみたところ、上の推計とは別の水準が出てきました。
| 区分 | 数値 | 性質 |
|---|---|---|
| この記事の推計 | 42〜46% | 開示された1件あたり単価と決定年収構成比からの逆算 |
| 厚生労働省への公表実績 | ハイクラスで31〜43% | 徴収した手数料総額 ÷ 予定年収総額(各社の申告値) |
この差は誤差ではなく、定価と、実際に受け取った額の違いです。公表実績のほうは返戻金や値引きを通した後の数字なので、定価より低く出ます。看板の料率が40%台でも、通期で実際に徴収できているのは30%台後半。これが実態に近いと考えています。
職種別の内訳と、この数値を読むときの注意点は人材紹介の手数料は本当に何%か(主要10社の公表データ)にまとめました。あわせて「法定上限は年収の50%」という通説が誤りだったことも書いています。
採用する側は、どう構えるか
3つに絞ります。
- 予算は固定費から積む。成功報酬だけで見積もると足りません。媒体の年間利用料、スカウトの追加購入、採用管理システム。決まらなくても出ていく費用を先に置いてから、成功報酬を乗せてください
- 送信数を増やす投資はやめる。300通の中で読まれる理由は、先に知られていること、社員経由で届くこと、誰が声をかけているか分かることの3つだけです
- 効率化のぶんが自社に返っているか確認する。各社はAIで効率を上げていますが、価格は下がっていません。同じ費用で以前より多く採れているか、数字で見てください
手段ごとの費用の考え方はスタートアップ採用ガイドに、エージェントの選び方は転職エージェントの選び方 完全ガイドにまとめています。
転職を考えている方へ
届いたスカウトの数は、市場価値ではありません。300通来たからといって選択肢が300あるわけではなく、本当に良いポジションはその中にほとんど入っていません。経営者が信頼している相手にしか話が出ないからです。
数ではなく、誰から来たかを見てください。
年収の考え方は年収・手取りガイド、経営幹部のポジションはCXO転職ガイド、全体像はベンチャー転職 完全ガイドをご覧ください。
個別の記事
- 人材紹介会社は人を増やすべきか|JACとフォースタートアップスの決算
- 医療・介護の人材紹介は1社で年間5万人|エス・エム・エスの決算
- 人材紹介の手数料は本当に何%なのか|実勢料率の逆算
- スカウトが300通届く理由は、料金体系にありました|ビズリーチの決算
出典
フォースタートアップス株式会社 2026年3月期通期・2027年3月期第1四半期決算説明資料/ビジョナル株式会社 FY2026/7第3四半期決算説明資料および決算発表FAQ/株式会社リクルートホールディングス 2027年3月期第1四半期決算説明資料および説明会書き起こし/株式会社ジェイエイシーリクルートメント 2025年12月期通期決算戦略説明会資料、質疑応答要旨、「生成AIの進展による当社事業への影響について」/株式会社エス・エム・エス 2027年3月期第1四半期決算および会社説明資料/株式会社メドレー 2026年12月期第1四半期決算説明資料。実勢料率42〜46%は開示された単価と決定年収構成比からの筆者による推計です。あわせて厚生労働省「人材サービス総合サイト」に各社が掲載している職種別の手数料実績(2026年8月11日時点)を参照しています。
よくある質問(FAQ)
採用コストは今後上がりますか?
上がる方向です。人材業界6社の決算を読むと、1件あたりの単価が上がっているだけでなく、採用が決まらなくても発生する費用の比率が高まっています。ビジョナルの開示ではBizReachの売上の約3分の2がプラットフォーム利用料などのリカーリング売上で、採用成功時の成功報酬は約3分の1です。
AIで採用コストは下がりますか?
いまのところ下がっていません。むしろ値上げの根拠になっています。リクルートのIndeedはAI機能を上位プランに束ね、米国の1求人あたり平均売上(US ARPJ)の成長率が第1四半期に35%を記録しました。メドレーも採用管理システムのAI機能について2027年以降のARPU向上に貢献するとしています。
人材紹介の手数料の相場はいくらですか?
理論年収の40%が基準で、幹部・CxO採用では50%が基本です。厚生労働省に各社が申告している職種別の実績では、ハイクラスの実勢が31〜43%、医療・介護が23〜27%でした。上場企業の開示から逆算した推計は42〜46%で、この差は定価と実際に徴収できた額の違いです。よく見かける30〜35%はハイクラスについては下限がやや低い数字です。
採用予算はどう組めばいいですか?
成功報酬だけで見積もると足りなくなります。媒体の年間利用料、スカウトの追加購入、採用管理システムの費用など、採用が決まらなくても発生する固定費を先に積んでください。そのうえで成功報酬を乗せる順番にすると実態に近くなります。
スカウトを増やせば採用できますか?
できません。送信数を増やす方向の投資は返信率を下げます。30歳・MARCHクラスの学歴・メガバンク在籍という層でも、媒体に登録した翌日に300通ほどのスカウトが届く市場です。医療介護でもメドレーのスカウト送信通数が前年同期比26%増と、会員数の伸びを上回っています。
採用コストを下げる方法はありますか?
リファラルの強化、発信によるブランド力の構築、ヘッドハンティングの3つです。いずれも媒体の外側から候補者に届く手段で、送信数の競争から抜けられます。
手数料を下げると言っている会社はありますか?
メドレーが、医師・薬剤師領域について「長期的に安価な手数料でのビジネスモデルの実現を目指しております」と決算資料に記載しています。ただし対象は同領域に限られ、時期や水準は示されていません。同社は全社としては顧客事業所数とARPUの最大化を掲げています。
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