こんにちは、ベンチャー・スタートアップ・CxO転職の支援をしているキープレイヤーズの高野秀敏です。約25年、経営者・CxO・幹部人材の転職を1,000人以上、面接前後で伴走してきました。
オファー面談で年収を確認するとき、私が必ず候補者に聞くのが「その年収、固定残業代は何時間分含まれていますか?」です。答えられない人が半分以上。そして入社後に「年収600万のはずが、45時間分の残業代込みだった」と気づいて相談に来る。この記事は、その事故を防ぐために書きました。
みなし残業(固定残業代)の仕組み、違法になる条件、判例、2018年からの求人票明示義務、そして「固定残業込みの年収」を「残業別の年収」に換算する計算式まで、2026年時点の最新データで整理します。転職者向けの記事ですが、採用する側のスタートアップ経営者にも、無効な固定残業代制度がどれだけ危険かを知っていただきたい内容です。
年収の見方の全体像は年収・手取りガイド、内定後の条件確認はオファー面談・条件交渉完全ガイド、求人票の読み方は求人票・募集要項の見方完全ガイドもあわせて参照してください。
- みなし残業・固定残業代・みなし労働時間制の違い(混同されやすい3つの言葉)
- 固定残業代が有効になる4要件と、違法・無効になる5条件(国際自動車事件・日本ケミカル事件・熊本総合運輸事件)
- 「固定残業45時間」がグレーな理由——36協定の原則上限との関係と、83時間・95時間分が無効とされた裁判例
- 求人票の3点明示義務(2018年1月・改正職業安定法)と労働条件通知書の見方
- 「年収600万・固定残業45時間込み」の実質年収を逆算する計算式と早見表
- 2025年の平均残業時間20.6時間(doda調べ)、2026年10月からの最低賃金1,176円と固定残業代の関係
- メリット・デメリット、向いている人・向いていない人
- ベンチャー・スタートアップの固定残業の実態と、オファー面談で聞くべき質問
- 年代別のポイント、失敗パターン7つ、FAQ 10問
今回の相談
相談者(28歳・Web系事業会社のマーケター・年収480万):高野さん、シリーズAのスタートアップから「年俸600万」でオファーをもらいました。今より120万アップなので即決したいのですが、オファーレターに「固定残業手当(45時間分)を含む」と書いてあって、これがどういう意味なのかよくわかっていません。今の会社は残業代が全部別で出ています。
高野の回答:いい質問です。結論から言うと、「年俸600万・固定残業45時間込み」は、今の「年収480万・残業代別」と単純比較できません。今の会社で月45時間残業していたら、残業代込みの年収はいくらだったか——それと比べる必要がある。仮に今の基本給ベースで月45時間残業すれば年収は600万近くになっているかもしれない。この記事の計算式で、まず「実質の基本給」を出しましょう。そのうえで、スタートアップに行く意味(裁量・成長・SO)と天秤にかける。順番が大事です。
みなし残業・固定残業代・みなし労働時間制——3つの言葉を整理する
まず言葉の整理です。ここを混同したまま話す人が、転職者にも採用担当にも多い。
| 用語 | 意味 | 法律上の位置づけ | 転職者への影響 |
|---|---|---|---|
| 固定残業代(定額残業代) | 一定時間分の残業代を、実際の残業の有無にかかわらず毎月定額で支払う制度 | 法律に直接の規定はなく、判例で有効要件が形成されている | 「年収○○万」の中身が変わる。超過分は追加支払いが必要 |
| みなし残業 | 固定残業代の通称。「みなし残業手当」「みなし残業30時間」などと使われる | 法律用語ではない | 固定残業代と同じ |
| みなし労働時間制 | 実労働時間にかかわらず「○時間働いたとみなす」制度。事業場外みなし・専門業務型/企画業務型裁量労働制 | 労基法38条の2〜38条の4に規定。対象業務・手続きが厳格 | そもそも残業という概念が変わる。エンジニア・企画職で多い |
この記事で扱うのは上2つ、つまり固定残業代です。裁量労働制は別の論点なので、ここでは「オファーレターに『裁量労働制』と書いてあったら、固定残業代とは別の確認が要る」とだけ覚えておいてください。
固定残業代の3つの形
- 手当型:「基本給30万円+固定残業手当6.5万円(30時間分)」のように、別建ての手当で支給。最も一般的で、要件を満たしやすい
- 基本給組み込み型:「基本給36.5万円(うち30時間分の固定残業代6.5万円を含む)」。区分が曖昧になりやすく、争いになりやすい
- 年俸組み込み型:「年俸600万円(うち固定残業代○○万円・45時間分を含む)」。スタートアップに多い。年俸制でも残業代の支払い義務はあり、区分と時間数の明示が必要
固定残業代が「有効」になる4要件——3つの最高裁判例
固定残業代は、要件を満たさなければ「残業代を1円も払っていない」扱いになります。しかも、その場合は固定残業代として払っていた分も基本給に組み込まれるので、残業代の単価まで跳ね上がる。会社にとって最悪、労働者にとっては(争えば)有利な構造です。
| 要件 | 内容 | 根拠となる判例 |
|---|---|---|
| ①明確区分性 | 通常の労働時間の賃金部分と、残業代部分が判別できること | 国際自動車事件(最高裁令和2年3月30日)ほか |
| ②対価性 | その手当が「残業の対価」として支払われていると言えること。契約書の記載、会社の説明、実際の労働時間を総合判断 | 日本ケミカル事件(最高裁平成30年7月19日) |
| ③付け替えでないこと | 基本給の一部を名目だけ固定残業代に振り替えたものは対価性を否定 | 熊本総合運輸事件(最高裁令和5年3月10日) |
| ④超過分の精算 | 固定時間を超えた残業には、別途割増賃金を支払っていること | 厚労省の行政解釈・多数の下級審 |
2020年の国際自動車事件(タクシー会社が歩合給から残業代相当額を控除していた事案)で、最高裁は「通常の労働時間の賃金と割増賃金を判別できるか」を厳しく見ました。2023年の熊本総合運輸事件では、会社が新賃金体系で基本給を大幅に下げ、その分を「時間外手当」に付け替えたケースで、名目が残業代でも実態が基本給の付け替えなら残業代として認めないと判断しました。この2つで、「とりあえず固定残業代と書いておけばいい」という運用は終わりました。
違法・無効になる5条件——求人票とオファーレターでここを見る
- 時間数・金額が書かれていない:「固定残業代を含む」だけで、何時間分・いくらかが不明。明確区分性を欠く
- 超過分を払わない:「固定残業代があるから残業代は出ない」と説明する会社。固定時間を超えた分は必ず追加支払いが必要
- 基本給を最低賃金以下に圧縮している:固定残業代を除いた基本給を時給換算すると最低賃金を下回る。2026年10月以降、全国加重平均は1,176円、東京は1,280円に上がるので、「月給25万・固定残業45時間込み」のような求人は要注意
- 固定時間が36協定の上限を超えている:月45時間・年360時間が原則上限。83時間分(穂波事件・岐阜地裁平成27年10月22日)や95時間分(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件・札幌高裁平成24年10月19日)の固定残業代は、長時間労働を前提とし公序良俗に反するとして無効とされた
- 入社後に基本給を下げて固定残業代に付け替える:不利益変更であり、熊本総合運輸事件型で対価性も否定される
「固定残業45時間」がグレーな理由
スタートアップの求人でいちばん多いのが「固定残業45時間分」です。45時間はぴったり36協定の原則上限。これ自体が直ちに違法というわけではなく、多くの裁判例で45時間分の固定残業代は有効とされています。ただし、「毎月45時間残業するのが前提」の会社設計になっていることは意識しておくべきです。dodaの2025年調査で、正社員の平均残業時間は月20.6時間。45時間はその2倍強です。
私が候補者に言うのは「45時間分は、会社が『それくらい働いてほしい』と言っているのと同じ。実際の残業が月15時間なら得だが、月60時間なら超過分がきちんと払われるかを確認しろ」ということです。
求人票の3点明示義務——2018年1月からのルール
2018年1月1日施行の改正職業安定法とそれに基づく指針で、固定残業代を採用する場合、求人票には次の3点を明示することが義務づけられました。
- 固定残業代の金額(例:固定残業手当 68,000円)
- 何時間分の残業に相当するかの時間数(例:30時間分)
- 固定時間を超えた分は追加で支払う旨
記載例としては「月給34.1万円(基本給28万円、固定残業手当6.1万円〈30時間分〉を含む。30時間を超える時間外労働分は追加支給)」のような形です。この3点が書かれていない求人票は、それだけで法令違反の可能性がある。応募前に見分けられる、いちばん簡単なブラックフィルターです。ブラック企業の見抜き方完全ガイドでも触れています。
さらに、入社時には労働基準法15条に基づき労働条件通知書の交付が義務で、2024年4月からは就業場所・業務内容の「変更の範囲」も明示必須になりました。オファーレターと労働条件通知書で固定残業の記載が食い違っていたら、必ず書面で確認してください。口頭説明だけで進めるリスクは転職の内定取り消しは違法?口頭内定の効力と対処法で解説しています。
「年収600万・固定残業込み」の実質年収を逆算する——計算式と早見表
ここが本記事でいちばん使ってほしい部分です。
計算式
月の所定労働時間を173時間(年間休日約105日・1日8時間の一般的な会社)、時間外の割増率を25%とすると、
固定残業代 = 月給 − 基本給
残業1時間の単価 = 基本給 ÷ 173 × 1.25
例:月給50万円(年俸600万円)・固定残業45時間の場合
基本給 = 500,000 ÷ (1 + 1.25 × 45 ÷ 173)= 500,000 ÷ 1.325 ≒ 377,000円
固定残業代 ≒ 123,000円(残業単価 約2,726円 × 45時間)
つまり、「年俸600万」の実質の基本給ベース年収は約453万円。もし今の会社が基本給50万円・残業代別で、月45時間残業していれば、残業代は約16万円/月、年収換算で約795万円。「600万にアップ」と思っていたら、実質は約200万のダウンだった、ということが起こりえます。
早見表:月給別・固定残業時間別の「実質基本給」
| 月給(年収換算) | 固定残業20時間 | 固定残業30時間 | 固定残業45時間 |
|---|---|---|---|
| 30万円(360万) | 基本給 26.2万/残業代 3.8万 | 基本給 24.7万/残業代 5.3万 | 基本給 22.6万/残業代 7.4万 |
| 40万円(480万) | 基本給 34.9万/残業代 5.1万 | 基本給 32.9万/残業代 7.1万 | 基本給 30.2万/残業代 9.8万 |
| 50万円(600万) | 基本給 43.7万/残業代 6.3万 | 基本給 41.1万/残業代 8.9万 | 基本給 37.7万/残業代 12.3万 |
| 60万円(720万) | 基本給 52.4万/残業代 7.6万 | 基本給 49.3万/残業代 10.7万 | 基本給 45.3万/残業代 14.7万 |
| 80万円(960万) | 基本給 69.9万/残業代 10.1万 | 基本給 65.7万/残業代 14.3万 | 基本給 60.4万/残業代 19.6万 |
※月所定173時間・割増25%・賞与なしの概算。会社の所定労働時間や割増率(月60時間超は50%)で変わります。あくまで比較の目安にしてください。
最低賃金との関係もチェック
基本給22.6万円(月給30万・固定残業45時間)を173時間で割ると時給約1,306円。東京の最低賃金は2025年度1,226円、2026年10月以降は1,280円に上がります。月給28万円・固定残業45時間なら基本給約21.1万円、時給約1,221円で、東京では最低賃金を下回る。若手向けの「月給28万・固定残業45時間」求人は、2026年の東京ではもう成り立たない水準だということです。
データで見る残業の実態——2025年の平均は月20.6時間
固定残業代の損得は、「自分が実際に何時間残業するか」で決まります。基準になるデータを載せます。
| 区分 | 月平均残業時間(2025年) | 前年比 |
|---|---|---|
| 全体(正社員15,000人) | 20.6時間 | −0.4時間(3年連続減少) |
| 20代 | 16.5時間 | −1.5時間 |
| 30代 | 19.7時間 | −0.5時間 |
| 40代 | 22.5時間 | −0.6時間 |
| 50代 | 21.6時間 | +0.3時間 |
| 残業が多い職種:総合商社の営業 | 29.8時間 | — |
| 残業が少ない職種:医療事務/一般事務 | 10.5時間/11.0時間 | — |
出典:パーソルキャリア「平均残業時間の実態調査【2025年版】」(2025年4〜6月の月平均、20〜59歳の正社員15,000人)。
平均20.6時間の世界で「固定残業45時間分」を払っている会社は、①本当に45時間働かせる前提か、②人件費を「残業込み」に見せて年収を高く見せたいか、③かつての長時間労働時代の制度が残っているか、のいずれかです。面接で「実際の平均残業時間は?」を聞き、その答えと固定時間の差を見ると、その会社の本音がわかります。
メリット・デメリット——転職者の立場で
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 残業が固定時間より少なければ、働いていない分まで支払われる(実質の時給アップ) | 「年収○○万」の額面が実質より高く見え、比較を誤りやすい |
| 月々の収入が安定し、ローン審査などでは有利 | 固定時間まで「残業して当然」という空気が生まれやすい |
| 業務効率化のインセンティブが自分に向く | 超過分の請求を言い出しにくく、サービス残業化しやすい |
| 賞与の算定基礎が「基本給」なら、固定残業代分は賞与に影響しない(会社による) | 基本給が低く設定されるため、賞与・退職金・昇給の基礎額が小さくなる |
最後の行は見落とされがちです。賞与や退職金が基本給ベースの会社では、固定残業代の比率が高いほど、長期で受け取る総額が減る。逆に、年俸制・賞与なしのスタートアップでは影響は小さい。転職とボーナス完全ガイドとあわせて考えてください。
向いている人・向いていない人
固定残業代の会社が向いている人
- 成果で仕事を終わらせるタイプで、実残業が固定時間を下回る自信がある人
- 収入の安定を重視する人(住宅ローンの審査を控えている等)
- スタートアップの裁量とスピードを取りに行く覚悟があり、時間で働く発想をすでに手放している人
向いていない人・慎重になるべき人
- 現職で残業代が全額別支給で、月30時間以上残業している人(額面が同じなら実質ダウン)
- 賞与・退職金の基礎額を重視する人(基本給が圧縮される)
- 「固定時間を超えたら請求する」と会社に言える自信がない人
- 求人票に時間数・金額の記載がない会社を検討している人(制度自体が無効の可能性)
ベンチャー・スタートアップの固定残業の実態
私が日々見ているスタートアップの給与設計を、率直に書きます。
- シード〜シリーズA:年俸制+固定残業30〜45時間が主流。賞与なし、SOで補う設計。実残業は人によって0〜80時間とばらつきが大きい
- シリーズB〜C:労務体制が整い始め、固定残業20〜30時間に下げる会社が増える。エンジニアは裁量労働制に移行することも
- IPO準備期(N-2以降):上場審査で労務コンプライアンスを見られるため、無効リスクのある固定残業設計は是正される。IPO準備企業への転職ガイド参照
- 管理職・CxO:「管理監督者」として残業代の対象外になる。ただし名ばかり管理職(権限・待遇が伴わない)は無効。役員報酬は労基法の外なので別の話。ベンチャー役員の年収相場参照
スタートアップ転職で年収が下がる構造そのものはスタートアップ転職で年収は下がる?で整理しています。固定残業の話は、その「見た目の年収」をさらに割り引いて考えるべき要素です。
オファー面談で聞くべき5つの質問
- 「固定残業代は何時間分で、金額はいくらですか?基本給はいくらになりますか?」
- 「固定時間を超えた分は、どのように計算・申請・支払われますか?」
- 「このポジションの直近6か月の平均残業時間は何時間ですか?」
- 「賞与・昇給・退職金の算定基礎は基本給ですか、年俸総額ですか?」
- 「労働条件通知書に固定残業の時間数と金額は明記されますか?」
5つとも即答できる会社は、労務がまともです。3つ目で「人による」としか答えられない会社は、勤怠管理そのものが弱い可能性がある。この確認の進め方はオファー面談・条件交渉完全ガイドを参照してください。
固定残業込みの年収を比較する6ステップ
- 現職の年収を分解する:基本給・残業代・賞与・各種手当。給与明細12か月分を並べる
- 現職の平均残業時間を出す:直近12か月の実残業の平均
- オファーの年収を分解する:基本給・固定残業代(時間数)・賞与・SO。上の計算式で逆算
- 「同じ残業時間で働いた場合」の年収を両者で揃える:現職の残業時間を、オファー先の条件に当てはめて年収を再計算
- 基礎額の違いを長期で見る:賞与・退職金・昇給率の基礎が基本給なら、3年・5年の累計で比較
- お金以外の価値を乗せる:裁量・成長・SO・役職。ここまで来て初めて「年収以外」の話をする
私の経験上、1〜4をやると「アップだと思っていたオファーが横ばい」になるケースが3割くらいあります。それでも行く価値がある会社なら行けばいい。ただし、数字を知ったうえで決めるのと、知らずに決めるのでは、入社後の納得感がまったく違います。
年代別のポイント
20代:固定残業45時間の求人は「最低賃金割れ」を疑う
20代向けの月給25〜30万円の求人で固定残業45時間分が含まれていると、基本給の時給換算が2026年の最低賃金(東京1,280円)に近づきます。給与の低さ以前に、労務がずさんな会社の可能性がある。年齢別転職ガイドでも書いていますが、20代は「年収の額面」より「制度がまともか」で会社を選ぶべき時期です。
30代:残業代込みの年収を「基本給ベース」に戻して比較する
30代は現職で残業代が別支給の人が多く、額面比較でいちばん誤りやすい。上の計算式で、必ず基本給ベースに戻してから比較する。既婚者は既婚者のベンチャー転職ガイドも参照を。
40代:管理監督者扱いの妥当性を確認する
40代の管理職採用では「管理監督者なので残業代なし」が普通ですが、部下も決裁権もないのに管理監督者扱いされる「名ばかり管理職」は無効です。職位・権限・待遇の3点を確認してください。管理職・マネージャーの転職完全ガイド参照。
50代・CxO:報酬設計そのものを交渉する
CxOクラスは委任契約や役員報酬になることが多く、固定残業代の議論の外に出ます。その代わり、報酬総額・SO・任期・解任条件をオファーレターで詰める。CXO転職ガイドで詳しく解説しています。
失敗パターン7つ
- 「年収600万」の額面だけ見て即決する:固定残業45時間込みで実質453万だった
- 求人票の3点明示がない会社に応募する:入社後に「固定残業代を含む」と初めて聞かされる
- 超過分の請求をしない:固定時間を超えても「うちは固定だから」と言われて黙る。法的には請求できる
- 賞与・退職金の基礎額を確認しない:基本給が圧縮され、5年で数百万円の差になる
- 裁量労働制と固定残業代を混同する:「裁量労働だから残業代は出ない」と言われ、対象業務でもないのに受け入れる
- 入社後の「給与体系変更」に署名する:基本給を下げて固定残業代に付け替える不利益変更にサインしてしまう
- 面接で実残業時間を聞かない:固定30時間の会社で実態は60時間。超過分は「自己申告制」で誰も申告していない
よくある質問(FAQ)
Q1. みなし残業と固定残業代は同じものですか?
実務上は同じ意味で使われます。法律用語としては「固定残業代」「定額残業代」で、「みなし残業」は通称です。「みなし労働時間制(裁量労働制など)」とは別物なので注意してください。
Q2. 固定残業45時間は違法ですか?
45時間分そのものは直ちに違法ではなく、多くの裁判例で有効とされています。ただし36協定の原則上限と同じ水準であり、基本給が最低賃金を下回る、超過分を払わない、時間数・金額の明示がない、といった要件違反があれば無効になります。83時間分・95時間分の固定残業代を公序良俗違反で無効とした裁判例もあります。
Q3. 固定残業時間より実際の残業が少なかったら、減額されますか?
されません。固定残業代は「残業の有無にかかわらず」支払う制度なので、残業ゼロでも全額支払われます。減額する運用は、固定残業代の性質と矛盾し、無効の根拠になります。
Q4. 固定残業時間を超えた分は、本当に請求できますか?
できます。超過分の割増賃金の支払いは会社の義務で、払わなければ労基法37条違反です。未払い残業代の時効は3年(2020年4月以降の分)。勤怠記録・メールの送信時刻・PCログなどを保存しておいてください。
Q5. 年俸制なら残業代は出ないと言われました
誤りです。年俸制でも、管理監督者や裁量労働制の対象でない限り、残業代の支払い義務はあります。年俸に固定残業代を含める場合も、時間数と金額の区分明示が必要です。
Q6. 固定残業代の分、基本給が低くて賞与が少なくなるのは合法ですか?
賞与の算定基礎を基本給とすること自体は合法です。だからこそ、オファー面談で「賞与・退職金・昇給の基礎額は何か」を確認する必要があります。
Q7. 求人票に「固定残業代を含む」とだけ書いてあり、時間数が不明です
2018年1月施行の改正職業安定法に基づく指針で、金額・時間数・超過分の追加支給の3点明示が義務です。書かれていない時点で法令違反の可能性があり、応募前に問い合わせるか、見送ることをおすすめします。
Q8. 入社後に基本給を下げて固定残業代に振り替えると言われました
労働条件の不利益変更であり、あなたの同意なく一方的にはできません。また熊本総合運輸事件(最高裁令和5年)の考え方では、基本給の付け替えは残業代の対価性が否定されます。安易に同意書にサインしないでください。
Q9. スタートアップは固定残業が多いですが、避けるべきですか?
固定残業があること自体は避ける理由になりません。要件を満たし、超過分をきちんと払い、実残業が固定時間内に収まっているなら、むしろ得な制度です。避けるべきは「時間数不明」「超過分なし」「実残業が固定時間を常に大きく超えている」会社です。
Q10. 転職エージェントは固定残業の内容まで確認してくれますか?
本来は確認すべきです。求人票の3点明示は職業紹介事業者にも求められるルールなので、時間数・金額・超過分の扱いを答えられないエージェントは、その求人の理解が浅い。転職エージェント選び方ガイドでも書いているとおり、条件面の解像度はエージェントの実力差が出るところです。
まとめ:固定残業代は「悪」ではない。「知らずに比較する」のが損
- 固定残業代は一定時間分の残業代を定額で払う制度。有効には明確区分性・対価性・付け替えでないこと・超過分の精算が必要
- 求人票には金額・時間数・超過分追加支給の3点明示が義務(2018年1月〜)。書いていない会社は要注意
- 「年収600万・固定残業45時間込み」の実質基本給は約453万。必ず計算式で逆算し、現職と同じ残業時間で揃えて比較する
- 2025年の平均残業は月20.6時間。固定45時間はその2倍強で、会社の設計思想を示している
- 2026年10月からの最低賃金(東京1,280円)で、低年収×長時間固定残業の求人は成り立たなくなる
キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップ・CxO転職の支援のなかで、オファーレターの固定残業・年俸・SOの内容を一緒に分解し、現職との実質比較をしたうえで条件交渉まで伴走しています。「このオファー、本当にアップなのか判断できない」という段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。
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