日本の戦略17分野と官民投資370兆円|62技術の全一覧と、人が足りなくなる分野

執筆者:高野秀敏
株式会社キープレイヤーズ/代表取締役
東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、12,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。80社以上の投資、9社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。178社上場支援実績あり。顧問、アドバイザー、社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。「ベンチャーの作法」ダイヤモンド社5万部を超えるベストセラー

こんにちは、ベンチャー・スタートアップの転職・採用支援を27年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。

2026年6月24日、経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会議で、1枚の表が出ました。

戦略17分野の62の「主要な製品・技術等」ごとに、2040年度までの官民投資額の想定を並べた表です。合計で370兆円超。

この表を、私は採用の資料として読みました。お金が入る場所には、人が要るからです。

この記事では、その62件を全部一覧にしたうえで、どこに人の需要が出そうか、逆に金額が大きくても採用が増えにくいのはどこかを書きます。投資額の順番と、人が足りなくなる順番は一致しません。そこがいちばん大事なところです。

この記事でわかること

  • 戦略17分野それぞれの官民投資額(62技術すべて)
  • 分野別の金額ランキング
  • 金額が大きい分野と、人が足りなくなる分野がズレる理由
  • すでに採用が動いている分野と、これからの分野
  • この表を転職・採用にどう使うか
目次

そもそも、何の表なのか

そもそも、何の表なのか

2026年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」で、国として重点を置く17の分野が決まりました。その17分野について、分野ごとのワーキンググループが「主要な製品・技術等」を特定し、官民投資ロードマップを作っています。

今回の表は、その62件それぞれについて、2040年度までに官民合わせていくら投資される想定かを並べたものです。

  内容
資料名 戦略17分野の「主要な製品・技術等」における官民投資額
出どころ 第8回経済財政諮問会議・第5回日本成長戦略会議 合同会議 資料1
日付 2026年6月24日
対象 戦略17分野の62の「主要な製品・技術等」
合計 2040年度までの累計で370兆円超(重複を排除した数字)

算出方法も資料に書かれています。各WGで「勝ち筋」を特定し、政府担当部局が主要企業や団体にヒアリングして今後の投資予定を積み上げた、とされています。つまり、企業が「このくらい投資する見通しです」と答えた数字が入っているということです。

資料自身も「数字が現時点で明確でないものも含め、今後さらに精緻化していく」と断っています。確定値ではありません。ここは押さえたうえで読んでください。

62件の全一覧

62件の全一覧

資料に記載された62件を、分野ごとにすべて並べます。

分野 主要な製品・技術等 官民投資額(想定)
AI・半導体 フィジカルAI(特にAIロボット) 2040年度までで10.5兆円
フィジカル・インテリジェント・システムの中核を担う半導体 2040年度までで68.0兆円
バーティカルAI(領域特化型AI) 2040年度までで23.1兆円
デジタル・サイバーセキュリティ データプラットフォーム 2035年度までで0.9兆円
セキュリティの確保された政府・地方公共団体のAX/DX基盤 2035年度までで7.4兆円
AI時代に対応した先進的セキュリティ製品・サービス 2035年度までで1.0兆円
クラウド・データセンター、蓄電池 2035年度までで32.7兆円
クラウドネイティブに最適化された医療DX基盤 2040年度までで5.2兆円
自動運転技術 2040年度までで8.2兆円
情報通信 オール光ネットワーク(APN) 2040年度までで5.9兆円
海底ケーブル 2040年度までで2.4兆円
次世代ワイヤレス(非地上系ネットワーク、5G/Beyond5G(6G)等) 2040年度までで20.5兆円
量子 量子コンピューティング 2040年度までで10.3兆円
量子通信・ネットワーク 2040年度までで1.5兆円
量子センシング 2040年度までで1.4兆円
防衛産業 小型無人航空機 2040年度までで0.4兆円。加えて戦略三文書の改定に伴う投資額も今後見込まれる
艦艇 艦艇分野への防衛調達を含む投資は約3,400億円(2026年度予算)
デュアルユース技術 2040年度までで4.3兆円
航空・宇宙 民間航空機(次期単通路機・次世代航空機) 2040年度までで3.5兆円
無人航空機 2040年度までで0.3兆円
空飛ぶクルマ 2040年度までで0.4兆円
ロケット・射場 2040年度までで2.3兆円
人工衛星・サービス 2040年度までで6.4兆円
月面探査・低軌道技術 2040年度までで5.6兆円
海洋 海洋無人機(海洋ドローン) 2040年度までで1.2兆円
海洋状況把握(MDA) 2040年度までで1.2兆円
革新的海底開発技術 2040年度までで0.9兆円
造船 次世代船舶 2034年度までで1.0兆円
船舶修繕 2035年度までで0.1兆円
LNG運搬船 関係者間での検討を引き続き進めつつ、今後精査
マテリアル(重要鉱物・部素材) 永久磁石 2040年度までで0.2兆円
グリーン鉄(GX③と同じ) 2040年度までで4.2兆円
革新的金属部素材 2040年度までで0.3兆円
低炭素金属部素材 2040年度までで0.7兆円
一次原料及び二次原料からの製錬・分離精製、解体選別技術 2040年度までで6.3兆円(海外での鉱山開発や製錬事業への投資を含む)
AI等を活用した複合新素材 2040年度までで5.2兆円
合成生物学・バイオ バイオものづくり 2040年度までで12.8兆円
バイオ医薬品・再生医療等製品等(創薬③と同じ) 2040年度までで20.8兆円
創薬・先端医療 ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品 2040年度までで23.4兆円
感染症対応製品 2040年度までで7.2兆円
バイオ医薬品・再生医療等製品等(バイオ②と同じ) 2040年度までで20.8兆円
革新的デバイス(AI、ロボティクス等)を活用した先端医療 2040年度までで11.6兆円
ライフログデータ等を活用したヘルスケア関連サービス 2040年度までで1.1兆円
資源・エネルギー安全保障・GX 次世代型太陽電池(ペロブスカイト太陽電池等) 2040年度までで4.1兆円
水素等 2040年度までで6.2兆円
グリーン鉄(マテリアル②と同じ) 2040年度までで4.2兆円
次世代型地熱 2040年度までで1.0兆円
洋上風力 2040年度までで5.1兆円
次世代革新炉 2040年度までで5.0兆円
GXケミカル 2040年度までで3.2兆円
フュージョンエネルギー フュージョンエネルギー 2040年度までで3.1兆円(発電実証プラントが一つであると仮定した試算)
防災・国土強靱化 防災技術 2030年度までで2.6兆円。加えて第1次国土強靱化実施中期計画に基づき2030年度までに官民合わせて概ね20兆円強程度の内数
港湾ロジスティクス 港湾荷役機械 2040年度までで0.4兆円
サイバーポート(港湾物流DX) 2040年度までで0.2兆円
次世代型倉庫 2040年度までで0.6兆円
フードテック 植物工場 2040年度までで4.6兆円
陸上養殖 2040年度までで2.9兆円
食品機械 2040年度までで1.2兆円
新規食品 2040年度までで1.0兆円
コンテンツ ゲーム 2033年度までで24.5兆円
アニメ 2033年度までで3.3兆円
マンガ 2033年度までで1.6兆円
音楽 2033年度までで3.0兆円
実写 2033年度までで1.3兆円

※金額は資料の表記どおりです。期限が2030・2033・2034・2035・2040年度と分野によって違うので、横並びで比べるときは注意が必要です。

分野別の金額ランキング

分野別の金額ランキング

資料には分野ごとの合計は載っていません。私が単純に足したものを載せます。

順位 分野 単純合計 技術数
1 AI・半導体 101.6兆円 3
2 創薬・先端医療 64.1兆円 5
3 デジタル・サイバーセキュリティ 55.4兆円 6
4 コンテンツ 33.7兆円 5
5 合成生物学・バイオ 33.6兆円 2
6 情報通信 28.8兆円 3
6 資源・エネルギー安全保障・GX 28.8兆円 7
8 航空・宇宙 18.5兆円 6
9 マテリアル(重要鉱物・部素材) 16.9兆円 6
10 量子 13.2兆円 3
11 フードテック 9.7兆円 4
12 防衛産業 4.7兆円+艦艇 3
13 海洋 3.3兆円 3
14 フュージョンエネルギー 3.1兆円 1
15 防災・国土強靱化 2.6兆円+ 1
16 港湾ロジスティクス 1.2兆円 3
17 造船 1.1兆円+LNG運搬船 3

※「グリーン鉄」と「バイオ医薬品・再生医療等製品等」は2分野にまたがって計上されているため、この単純合計には重複が含まれます。資料の370兆円超は重複を排除した数字です。期限も分野により異なります。

目につくのは2点です。

1つめ。半導体1項目で68.0兆円。これは下位9分野を全部足しても届きません。国の重点のかかり方が、ここまで偏っているということです。

2つめ。ゲーム単独で24.5兆円。コンテンツ分野全体では33.7兆円で、マテリアルや量子を上回ります。ディープテックの話にコンテンツが並んでいるのが、この17分野の特徴です。

金額の大きさと、人が足りなくなる度合いは別です

金額の大きさと、人が足りなくなる度合いは別です

ここがこの記事の本題です。

私は採用のご相談を受ける立場で17分野を見ていますが、投資額の順位をそのまま求人の多さと読むのは危ないと思っています。理由は3つあります。

ズレる理由 内容
設備にお金が行く分野がある 半導体工場や洋上風力は、金額の大半が設備投資。人数より1人あたりの装置額が大きい
すでに人がいる分野がある ゲームやアニメは産業として成熟していて、採用の枠組みも人材市場もすでにある
小さくても人しかいない分野がある フュージョンや量子は金額は小さいが、ほぼ人件費と研究開発費。少人数の取り合いになる

たとえばフュージョンエネルギーは3.1兆円で下から4番目です。でも、採用の現場での難しさは上位分野より大きい。国内でその技術を扱える人が数百人規模しかいないからです。

逆にコンテンツは33.7兆円で5位ですが、ゲーム会社の中途採用はすでに仕組みができていて、「誰も採れない」という状態にはなっていません。

転職を考える方に申し上げたいのは、金額が大きい分野ではなく、「金額に対して人が少ない分野」を見てくださいということです。そこがいちばん、個人の交渉力が上がる場所です。

分野を4つに分けて考える

分野を4つに分けて考える

17分野を、採用の観点で分けるとこうなります。

タイプ 分野 転職で見るポイント
人材市場が既にある AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、コンテンツ 競争も激しい。給与は高いが差別化が要る
民生から人を引っ張っている 航空・宇宙、防衛産業、マテリアル、フードテック 前職が業界外でも入れる。組込、制御、材料、プラント経験が効く
研究者の絶対数が少ない 量子、フュージョンエネルギー、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療 博士・ポスドクの移籍が中心。1人の採否が事業計画を動かす
既存産業の人手不足と重なる 造船、海洋、港湾ロジスティクス、防災・国土強靱化、資源・エネルギー 技術より現場の担い手と、それを束ねる人が足りない

キープレイヤーズでは、このうち航空・宇宙と防衛産業はすでに記事にしました。

さらに、個別の分野についても書きました。

この表の使い方

この表の使い方

転職を考えている方に、実際の使い方を3つ書きます。

使い方 やること
自分の技術が何分野に当たるか調べる 62件の技術名で検索し、自分のスキルが名指しされている項目を探す
面接で使う 「御社は62項目のどれに当たりますか」と聞く。答えられる会社は政策の文脈を理解している
期限を見る 2030・2033・2035・2040年度と差がある。期限が近い分野ほど、採用も直近で動く

2つめを補足します。この62項目に自社が当たると分かっていれば、公的資金や実証事業にアクセスできる可能性があります。資金が入る会社は採用も続きます。逆に、分野の話が出ない会社は、政策の追い風を受け取れないかもしれません。

採用する側へ

採用する側へ

企業の方に向けても書いておきます。

私がご相談を受けていていちばん多い失敗は、「その業界の経験者」を探してしまうことです。17分野のうち、経験者が国内に十分いる分野は多くありません。全社で奪い合っても採れません。

うまくいっている会社がやっているのは逆です。必要な能力を、民生の言葉に翻訳して出しています。

そのまま出すと採れない 翻訳して出すと採れる
量子コンピューティング経験者 低温計測、FPGA、制御系ソフト、誤り訂正の数理
合成生物学の経験者 発酵・培養のスケールアップ、分析化学、ラボ自動化、バイオインフォマティクス
フュージョンの経験者 超伝導、高真空、プラズマ計測、大型装置のプロジェクト管理
マテリアルの経験者 金属材料、分離精製プロセス、リサイクル、マテリアルズインフォマティクス

右側で書けば、化学メーカー、素材メーカー、重工、半導体装置、医療機器から人が来ます。左側で書いているうちは、国内の数十人を全社で取り合うことになります。

よくある質問

Q1. 17分野はどこで決まったものですか

2026年7月21日に閣議決定された「日本成長戦略」で定められた重点分野です。投資額の表は、それに先立つ2026年6月24日の経済財政諮問会議・日本成長戦略会議の合同会議で示されました。

Q2. 370兆円は確定した予算ですか

違います。官民合わせた投資額の「現時点での想定規模」です。資料自身が今後さらに精緻化していくと書いています。予算として確定したものではありません。

Q3. 投資額が大きい分野に転職すれば安泰ですか

そうとは限りません。金額の多くが設備に向かう分野では、人数はそれほど増えません。人件費と研究開発費の比率が高い分野のほうが、1人あたりの需要は強く出ます。

Q4. 未経験の分野に移れますか

分野によります。研究者の絶対数が少ない分野(量子、フュージョン、合成生物学)は博士課程や研究経験が前提になることが多い一方、航空・宇宙、防衛、マテリアル、フードテックは民生からの転職が実際に起きています。

Q5. 大企業とスタートアップ、どちらがよいですか

分野によって構造が違います。半導体や造船は大企業が主役、宇宙・防衛・バイオはスタートアップの比率が高い。62項目のうち自分が関心のある技術について、誰が担っているかを先に調べてください。

Q6. この表に自社が入っていない場合は

62項目は「主要な製品・技術等」であって、産業の全部ではありません。資料には今後追加されれば投資額も加算されると書かれています。入っていないことが不利を意味するわけではありません。

まとめ|370兆円は、人が要るという意味です

3点に絞ります。

1つめ。戦略17分野の62技術で、2040年度までの官民投資額の想定が370兆円超。半導体1項目で68.0兆円、ゲーム単独で24.5兆円です。

2つめ。金額の順位と、人が足りなくなる順位は一致しません。設備に向かう分野、既に人材市場がある分野、人しかいない分野。この3つを分けて見てください。

3つめ。採る側は、分野名ではなく能力の言葉で求人を書いてください。「量子の経験者」ではなく「低温計測・FPGA・制御系」と書けば、来る人がまったく変わります。

キープレイヤーズでは、21年にわたりベンチャー・スタートアップの転職支援と採用支援を行ってきました。私自身も複数のディープテック企業で顧問や社外役員を務め、エンジェル投資もしています。求人票になっていないポジションのほうが多い領域です。転職をお考えの方も、採用にお困りの企業の方も、お気軽にお問い合わせください。

すぐに動かない方には、オンラインサロンもご用意しています。

出典

  • 内閣府「戦略17分野の『主要な製品・技術等』における官民投資額」第8回経済財政諮問会議・第5回日本成長戦略会議 合同会議 資料1(2026年6月24日)— 62の主要な製品・技術等ごとの官民投資額、合計370兆円超、算出方法
  • 「日本成長戦略」2026年7月21日閣議決定 — 戦略17分野

※投資額は現時点での想定規模であり、確定した予算ではありません。期限(2030・2033・2034・2035・2040年度)が項目ごとに異なります。分野別の合計は資料に記載がなく、本記事で単純に合算したものです(重複計上されている2項目を含みます)。採用・人材需要に関する記述は、私がご相談を受けてきた経験にもとづく見方です。

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この記事を書いた人

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。1万2000件以上のキャリア面談、4,000名以上の経営者と採用相談にのる。80社以上のエンジェル投資、投資して上場は9社。うち2社は役員として上場(クラウドワークス、メドレー)。178社以上の上場支援実績。顧問・社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数300回以上。「ベンチャーの作法」(ダイヤモンド社)5万部を超えるベストセラー

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