こんにちは、キープレイヤーズ代表の高野秀敏です。リクルート出身後に独立し、約25年にわたりベンチャー・スタートアップ・大手企業の採用強化と離職防止のご支援をしてきました。年間でご相談いただく人事課題のうち、最も多いのが「優秀な社員の離職が止まらない」「中途入社と既存社員の給与格差で不満が噴出している」という2つです。
結論から言うと、離職防止と採用強化は、年収査定(給与テーブル)の整備なしには成立しません。「評価制度を作った」「エンゲージメント調査をした」だけでは離職は止まりません。給与の決まり方が納得できない組織では、優秀な人ほど早く辞めます。これは2026年の初任給引き上げ競争と中途相場高騰で、さらに深刻になっています。
この記事では、①2026年の離職・採用市場の実態、②なぜ年収査定が離職防止の起点なのか、③給与テーブルの作り方、④中途入社と既存社員の格差対応、⑤リテンション施策15選、⑥失敗パターン8選、⑦FAQ 8問——を、現場で見てきた実例をもとに率直に解説します。合わせてスタートアップ採用ガイドと年収・手取りガイドも読むと、採用と報酬の設計が立体的に見えてきます。
- 2026年の離職率と人材流出の実態データ
- 年収査定が離職防止の起点になる3つの理由
- 給与テーブルの作り方(職務等級・役割等級の設計)
- 中途入社と既存社員の給与逆転問題の解消方法
- 金銭的・非金銭的なリテンション施策15選
- 離職防止で絶対にやってはいけない失敗パターン8選
- 50人/100人/300人規模別のリテンション設計
- FAQ 8問と年収査定の実務チェックリスト
▶ あわせて見たい高野の解説動画:「人事評価制度に満足していますか?優秀な社員の離職を防ぐ方法」
2026年の離職・採用市場の3つの事実
①優秀社員の離職は「適正報酬の遅れ」で起きる
2024年の各種人事調査では、既存社員の給与見直しを怠った企業では、優秀社員の離職率が2倍以上になるという結果が繰り返し出ています。離職理由の上位は「人間関係」「仕事内容」が目立ちますが、本音の退職要因としては「市場相場より自分の年収が1〜2割低い」というケースが大半です。
私が約25年支援してきた経験でも、辞める時に「給与が理由」と明言する人は少数で、「成長できない」「文化が合わない」などの表層的な理由で退職します。しかし裏側を聞くと、ほぼ全員が「市場相場と自社の年収ギャップ」を把握しており、転職してギャップを埋めています。
②初任給引き上げで「給与逆転」が全業界で起きている
2026年の初任給引き上げ競争で、新卒・若手の給与が急上昇しました。これに伴い、既存の中堅社員(入社3〜7年目)との給与逆転が全業界で発生しています。「後輩の方が給与が高い」という状態が放置されると、中堅層の離職が連鎖的に進みます。
2026年のCompensation Best Practices Reportでは、33%の雇用主が「新卒と既存社員の小さな給与ギャップが不公平感を生んでいる」と認識している、との結果が出ています。この認識はあっても、給与テーブル全体を見直す決断ができないのが現場の実情です。
③中途採用の相場高騰で「中途>既存」の構造が常態化
ベンチャー・スタートアップでは、中途採用の相場が1〜2割上がったことで、新しく入ってくる中途入社者の方が、同職位の既存社員より給与が高いケースが増えています。既存社員からすると「自分の方が長く貢献しているのに、新人の方が給与が高い」という状況になります。
この格差は、放置すれば必ず社内に漏れ、既存社員のモチベーション低下と離職を招きます。年収査定の整備は、この構造を正面から解消する唯一の方法です。
年収査定が離職防止の起点になる3つの理由
理由① 「評価されている感」の7割は年収で決まる
社員が「会社に認められている」と感じる要素のうち、7割は年収と年収の決まり方の透明性です。評価面談や称賛制度を整備しても、年収が市場相場より低ければ「言葉だけの評価」と見なされます。「言うは易し、金で示せ」が社員のホンネです。
理由② 給与テーブルが無いと、評価の納得感が得られない
給与テーブルが整備されていない会社では、「なぜAさんは年収800万円で、Bさんは700万円なのか」が説明できません。説明責任を果たせない評価は、受け手の納得感を得られません。給与テーブル(職務等級・役割等級と給与の対応表)は、評価制度の背骨です。
理由③ 相場との乖離を定期的に埋めないと、リファラル採用も崩れる
優秀社員からのリファラル採用は、「自分の会社の報酬が市場相場並み」であることが前提です。既存社員が自分の年収に不満を持っていると、「ウチに来ない方がいいよ」と内側からブレーキがかかります。採用強化と離職防止は、年収査定で地続きなのです。
給与テーブルの作り方(職務等級・役割等級の設計)
ステップ① 職務等級(グレード)を定義する
まず5〜8段階のグレードを設計します。例えばG1(オペレーター)、G2(担当)、G3(シニア担当)、G4(リーダー)、G5(マネージャー)、G6(シニアマネージャー)、G7(部長)、G8(事業部長・CxO)のような構造です。会社規模が小さい場合は5段階で十分。
ステップ② グレードごとの役割を言語化する
各グレードで「何を期待されるか」を1枚で言語化します。G3は「担当業務の中で改善提案ができる」、G5は「3〜5名のメンバーの採用・育成に責任を持つ」、など。曖昧なら「G4の人と G5の人は何が違うか」を上司・社員の両方に聞いて精緻化します。
ステップ③ 市場相場を調べ、レンジを決める
グレードごとの市場相場レンジを外部データ(人材紹介会社の提示する相場、採用媒体のオファーレンジ、競合企業の求人)から調べます。レンジは「下限・中央・上限」の3点で設定し、下限は中央の90%、上限は中央の115%程度に。
ステップ④ 既存社員を仮配置してギャップを可視化
既存社員全員をグレードとレンジ上にプロットします。レンジの下限より下に落ちている人、上限を超えている人を可視化。下限より下の人は是正対象、上限を超えている人は特別な理由があるか確認。
ステップ⑤ 是正スケジュールを決める
一度にすべてを是正すると人件費が爆発するので、2〜3年かけて是正するのが実務的。優先順位は「市場相場との乖離が大きい」「離職リスクが高い」「代替困難なキーパーソン」から。年次評価のタイミングで段階的に是正します。
ステップ⑥ 社員に給与テーブルを開示する(または説明する)
完全開示が難しくても、「どの等級がどのレンジか」の説明責任は果たす。「自分がどの等級で、どのレンジのどこにいるか」を説明できる状態にします。この透明性が、離職防止の最大の武器になります。
比較表:給与テーブル有りvs無しの組織
| 観点 | 給与テーブル有り | 給与テーブル無し |
|---|---|---|
| 評価の納得感 | 説明可能・透明 | 「社長の気分」と疑われる |
| 中途入社の給与設定 | 既存社員とのバランスが取れる | 案件ごとに相場で決まり逆転発生 |
| 市場相場との整合 | 年1回の見直しで是正可能 | 1〜2割の遅れが常態化 |
| キャリアパスの明示 | 「次のグレードに行くには〇〇」が示せる | 昇進基準が不透明で成長感が弱い |
| リファラル採用 | 社員が自信を持って誘える | 「ウチは給与がね」とブレーキ |
| 離職の予兆把握 | レンジ下限者を事前にケア | 辞表が出てから慌てる |
| マネージャーの納得 | 自分の報酬の立ち位置が分かる | 役職と報酬の整合に疑問 |
| 昇給交渉 | ルールベースで感情的にならない | 個別交渉で不公平発生 |
| 採用の意思決定 | 「このレンジで出せるか」が即判断可 | 毎回社内調整で遅くなる |
| 辞める時の本音 | 年収理由が減り成長・挑戦理由が増える | 年収理由が隠れた本音になる |
中途入社と既存社員の給与逆転の解消方法
対応① 給与テーブルを基準に全員のレンジを再計算
中途入社者を特別扱いせず、給与テーブル上のレンジに全員を乗せるのが基本。中途入社がレンジの中央より上の場合、既存社員のレンジ内位置と比較して不公平が起きていないか確認。
対応② レンジ下限の既存社員を優先的に是正
中途入社の受け入れと同時に、既存社員のレンジ下限者の昇給を同じサイクルで実施します。「中途は上げるが既存は据え置き」が社員の最大の離職誘因。
対応③ 役割変更をセットにする
単に昇給するだけでなく、「〇〇の役割を担うので、グレードが上がり給与が上がる」というロジックを作ります。役割なき昇給は「場当たり」と見られるため、必ずセットで。
対応④ 市場相場の情報を社員と共有
人事担当者が入手する市場相場情報を社員にも開示すると、「ウチだけ低い」の誤解が解けます。「市場相場はこうで、ウチは中央に対してこの位置」と説明できると、信頼感が増します。
対応⑤ 中途入社の報酬は「レンジ内」で絞る
中途入社者に市場相場より1〜2割高いオファーを連発すると、短期で採用強化はできても、既存社員の離職が加速。中途入社も「レンジ内」に収める方が、組織の持続性は高い。
金銭的・非金銭的なリテンション施策15選
金銭的施策(7選)
- ① 市場相場との乖離を年1回チェック・是正:外部データとの比較を年次イベント化
- ② 給与テーブル・レンジの明文化:グレードと報酬レンジの対応表を社内公開
- ③ 業績連動賞与の設計:会社業績と個人業績の両方を反映
- ④ ストックオプション(SO)の付与:ベンチャー・スタートアップはSOで中長期インセンティブ
- ⑤ 退職金・企業型DC:長期インセンティブとして見直し
- ⑥ 住宅手当・通勤手当の見直し:生活コストに応じた柔軟な設計
- ⑦ 子育て・介護支援の金銭的サポート:家族サポートが離職防止に直結
非金銭的施策(8選)
- ⑧ キャリアパスの明示:「次のグレードに行くには何が必要か」を文書化
- ⑨ 1on1の定着:月1回以上、キャリア・業務・コンディションを対話
- ⑩ 学習支援(書籍・勉強会・外部研修):成長機会への投資
- ⑪ 社内公募・副業制度:キャリア選択肢の拡張
- ⑫ リモート・フレックス制度:柔軟な働き方で離職抑制
- ⑬ 心理的安全性の醸成:失敗を責めない文化、建設的フィードバック
- ⑭ サンクスカード・称賛制度:日常的な承認の仕組み化
- ⑮ エクジットインタビュー&オフボーディング改善:辞める人から学ぶ
絶対やってはいけない失敗パターン8選
失敗① 中途は上げるが既存は据え置き
最大のタブー。「中途入社だけ給与を引き上げる」のは、既存社員への最強の離職誘因になります。中途と既存は常にセットで見直す。
失敗② エンゲージメント調査だけやって施策に落とさない
調査は実行の前提であって、ゴールではありません。「調査しただけで何も変わらない」が続くと、社員の信頼を一気に失います。調査結果に対する具体的アクションを3つ以上公開する。
失敗③ 給与の決まり方をブラックボックスにする
「社長の判断で決める」は、規模30人を超えた瞬間に機能しなくなる方式。グレード・レンジ・評価ロジックを明文化し、少なくともマネージャーには開示します。
失敗④ 一律の福利厚生で満足感を狙う
社員食堂・社内イベント・社内ジムなど、一律の福利厚生は離職防止効果が限定的。個別のニーズ(子育て・介護・学習・住居)に合わせたカフェテリアプランの方が効果が高い。
失敗⑤ 業績が下がった時に報酬だけ下げる
業績悪化時に報酬だけ下げると、優秀社員から順に辞めます。業績悪化こそ、優秀社員の定着が最重要。報酬維持と非金銭施策の強化でカバー。
失敗⑥ マネージャー教育を疎かにする
離職の7割は「直属の上司との関係」で起きます。マネージャー教育(1on1・フィードバック・評価)に投資せず、人事施策だけ整備しても離職は止まらない。
失敗⑦ 「辞めそうな人」だけに個別対応
辞める予兆が出てから個別対応すると、「予兆を出せば交渉で得する」という文化が生まれます。レンジ下限者には全員同じ対応をするのが公平。
失敗⑧ 退職者のインタビューをしない
退職者は組織の課題を最も正直に語る存在です。エクジットインタビューで本音を聞かないのは、組織改善の機会損失。退職後3ヶ月のタイミングで聞くと、本音が出やすい。
規模別のリテンション設計
50人規模:まず給与テーブルの骨格を作る
50人規模では、完璧なテーブルは不要。5グレード程度の骨格と、各グレードの役割言語化、市場相場レンジの大枠が揃えば十分。社長・CxOが直接関与できる規模なので、人間関係での離職防止もしやすい。
100人規模:マネージャー育成に投資
100人を超えると、社長の目が全員に届かなくなり、マネージャーの質が離職率を左右します。マネージャー教育プログラム(1on1・評価・フィードバック)に本格投資。採用の詳細はスタートアップ採用ガイドにまとめています。
300人規模:等級制度の精緻化とキャリアパス明示
300人規模になると、キャリアパスが見えないことが離職の最大要因。「このグレードから次のグレードに行くには何が必要か」を全社員が理解できる状態にします。社内公募・副業制度も必要になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 給与テーブルを一度作ると変更できないのでは?
いいえ、年1回の市場相場見直しで、レンジを柔軟に動かすのが前提です。固定的な制度ではなく、生き物として毎年更新していくのが実務。初版は粗くて構いません。
Q2. 社員に給与テーブルを開示すべきですか?
完全開示(個人の年収を全員が見られる)は賛否がありますが、グレードとレンジの対応表は原則開示すべきです。少なくともマネージャー層には開示しないと、評価面談で説明できません。
Q3. 中途入社の年収交渉はどう対応すればいいですか?
「レンジの中で、どの位置に置くか」を基準に判断します。レンジを超える要求は、グレードを一段上げる要件を満たしているかで判断。レンジを超えて個別対応すると、既存社員との不整合が起きます。
Q4. 給与テーブルを作る前に、既存社員の格差を是正すべき?
順序としては①テーブル作成→②既存社員の仮配置→③ギャップ是正です。テーブル無しで是正すると、是正の根拠が主観的になり不公平が生まれます。
Q5. 年収を上げる以外に離職防止で効果があるのは?
最も効果が高いのは「キャリアパスの明示」と「マネージャーとの関係」です。年収は最低ラインを満たせば、それ以上は限界効用が逓減します。市場相場の下限を下回っていなければ、非金銭施策の方が ROI が高い。
Q6. 退職者を引き止めるべきですか?
原則引き止めない方が良いです。引き止めで残る人は、翌年に再度辞表を出す確率が極めて高い。引き止めるコストより、退職理由を聞き次の離職予防に活かす方が ROI が高い。
Q7. 役員・CxOクラスの報酬はどう設計しますか?
役員クラスは固定給+業績連動+ストックオプションの3層設計が基本。市場相場より、会社のステージと役員の責任範囲で決めます。詳しくはCXO転職ガイドも参考に。
Q8. 離職率は何%以下に抑えるべきですか?
業界によりますが、IT・ベンチャーで年間離職率10〜15%、大手で5〜8%が目安。ただし「どの層が辞めているか」が重要。優秀社員の離職率を分けて計測し、優秀層の離職率が全社平均より高い場合は要注意です。
まとめ:離職防止と採用強化は年収査定で地続き
約25年の経験で見てきた結論は、「離職防止と採用強化は、年収査定(給与テーブル)を起点に設計しないと機能しない」ということです。評価制度・エンゲージメント施策・1on1——どれも大切ですが、報酬の設計が歪んでいれば、他の施策はすべて砂上の楼閣になります。
大切なのは、①給与テーブルの骨格を作る、②市場相場と年1回比較する、③中途入社と既存社員の格差を同じサイクルで是正する、④マネージャー教育に投資する、⑤キャリアパスを明示する、⑥退職者から学ぶ、⑦金銭的・非金銭的施策を両輪で回す——この7つです。
キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップ・成長企業の法人向け年収査定サービス(給与テーブル作成、市場相場比較、既存社員のレンジ診断)と、採用強化・リテンション設計を25年提供してきました。「優秀社員の離職が止まらない」「中途と既存の給与格差で困っている」とお悩みの経営者・人事責任者の方は、お気軽にご相談ください。


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