こんにちは、ベンチャー・スタートアップの採用支援と転職支援を約25年続けているキープレイヤーズ代表の高野秀敏です。
この記事の要点:離職率には、実は「これが正解」という統一定義はありません。厚生労働省が使う式・企業が採用広報で使う式・投資家がIRで見る式は、それぞれ違います。定義を理解して計算式を統一しなければ、他社比較は意味を持ちません。
離職率は、企業選びでも会社経営でも重要な指標です。しかし「離職率3%」を掲げる企業と「離職率15%」の企業を並べて、単純に前者を選ぶのは危険です。期間の取り方・分母の作り方・カウントに含める人の範囲で数字は大きく変わります。この記事では、厚生労働省の公式定義・実務で使う計算式のバリエーション・令和6年の業界別平均・改善策・企業選びでの見方までを、25年の採用支援の実感を含めて解説します。採用担当者にも、転職検討中の方にも、そのまま使える内容です。
▶ あわせて見たい高野の解説動画:「【転職相談】スタートアップの離職率の目安は?」
結論:離職率は「式」ではなく「定義」を疑え
- 計算式は複数ある:厚労省式・3年以内離職率・年度離職率・入社別離職率
- 期間・分母・対象によって数字は倍以上ぶれる
- 他社比較は同じ定義で計算した数字同士でのみ意味を持つ
企業選びで「離職率◯%」の数字だけを見て判断するのは、売上高だけを見て会社の健全性を判断するのと同じくらい危うい行為です。定義と背景を必ず確認してください。
厚生労働省の公式定義と計算式
離職率の最も権威ある定義は、厚生労働省の「雇用動向調査」で用いられている以下の式です。
離職率(%) = 1年間の離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
出典:厚生労働省「雇用動向調査」
ポイントは3つあります。
- 期間は1年:1月1日〜12月31日の1年間で離職した人数を分子に置く
- 分母は年初時点の常用労働者数:期中の入退社を反映しない、シンプルな断面
- 離職者の定義:自己都合退職・会社都合退職・出向・死亡・定年退職などをすべて含む
この計算式は「その年、会社の何%の人が離職したか」を測るためのものです。ちなみに雇用動向調査は上半期・下半期の年2回実施されており、年計としても公表されています。
実務で使われる計算式のバリエーション【4種類】
厚労省式は公式ですが、実務では目的別に4種類の計算式が使い分けられています。目的が違えば式が違うのは当然で、どれか一つが正しいわけではありません。
| 計算式 | 用途 | 期間 | 分母 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 厚労省式(年次) | 統計・IR | 1年 | 年初常用労働者数 | 国の統計と比較しやすい |
| 年度末式 | 採用広報 | 1年 | 年度末在籍者数 | 数字が小さめに出やすい |
| 3年以内離職率 | 新卒定着 | 3年 | 入社時の人数 | 入社時コホートで見る |
| コホート式(入社年別) | 組織診断 | 任意 | そのコホートの入社人数 | 採用施策の質評価に有効 |
厚労省式(年次)
離職率 = 1年間の離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100
統計としては最も一般的。例:年初500人、年内退職30人 → 6.0%
年度末式
離職率 = 1年間の離職者数 ÷ 年度末在籍者数 × 100
採用広報でよく使われる式。期中に大量採用していれば分母が大きくなり、離職率が低く見える。例:年度末800人、年内退職30人 → 3.75%(同じ退職数でも数字が半分近くに)
3年以内離職率(新卒コホート)
3年以内離職率 = 入社3年以内に退職した人数 ÷ その年の新卒入社人数 × 100
厚生労働省が新卒の定着指標として公表している数字。大卒全体では約32%(令和2年3月卒:32.3%)、企業規模別・業界別で大きく差があります。
コホート式(入社年別)
コホート離職率 = 特定年の入社者のうち退職済み人数 ÷ その年の入社者数 × 100
採用施策・オンボーディングの質を評価する内部指標。「2023年入社の1年後離職率」「2024年入社の2年後離職率」のように、期間を切って見ます。
令和6年 業界別・産業別の離職率【最新公式データ】
厚生労働省が2025年8月に公表した「令和6年 雇用動向調査結果の概況」によると、日本全体の離職率は14.2%で、前年(令和5年:15.4%)から1.2ポイント低下しました。産業別では以下の通り差があります(常用労働者ベース)。
| 産業 | 離職率の傾向 | コメント |
|---|---|---|
| 宿泊業、飲食サービス業 | 25〜30%前後で最高水準 | 季節労働・アルバイト比率が高く構造的に高い |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 20%前後 | 令和5年は20.8%と全産業トップクラス |
| サービス業(他に分類されないもの) | 18%前後 | 人材派遣・警備・清掃を含み流動性が高い |
| 医療、福祉 | 15%前後 | 介護職の定着課題が影響 |
| 卸売業、小売業 | 13%前後 | 非正規雇用の入れ替わりが多い |
| 情報通信業 | 10〜12% | 転職市場が活発な分、能動的離職が多い |
| 金融業、保険業 | 9%前後 | 大手を中心に定着志向が高い |
| 製造業 | 9%前後 | 安定した定着率、規模が大きいほど低い |
| 建設業 | 10%前後 | 職種による差が大きい |
出典:厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」
業界平均を無視して、自社の数字だけで「高い/低い」を判断してはいけません。飲食業で離職率20%は業界平均を下回っており優秀、逆に金融業で20%は明確に高い、という具合です。
離職率の目安【一般的な判断基準】
厳密な基準ではありませんが、私が経営者・採用責任者と会話する中で使っている経験則です。
| 離職率(年次) | 状態 | 解釈 |
|---|---|---|
| 3%未満 | 極めて低い | 安定or硬直化。新陳代謝が乏しい可能性も |
| 3〜10% | 健全 | 自然な流動性、組織の新陳代謝が回っている |
| 10〜15% | やや高い | 業界平均前後。特別な問題があるとは限らない |
| 15〜20% | 高い | 採用orマネジメントに課題の可能性 |
| 20%超 | 要注意 | 構造的な問題。原因分析と改善が急務 |
ただし、これはあくまで「非季節労働・正社員中心の企業」の目安です。飲食業や小売業のようにアルバイトが多い業種では、20%超えも珍しくありません。
離職率が「低ければ良い」わけではない
これは経営者にも転職検討中の方にも知っておいてほしいポイントです。離職率3%以下の会社が良い会社とは限りません。
- 硬直化のサイン:誰も辞めない=新しい発想が入りにくい
- 低評価者の滞留:成果を出さない人も残り続ける状態
- 外部労働市場から遮断:社員に転職する選択肢がない可能性
- ぬるま湯化:居心地は良いが、成長機会が乏しい
ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2』にある「誰をバスに乗せるか」という考え方が参考になります。成功企業は「だれを選ぶか」をまず決め、その後に「何をすべきか」を決める。人材の入れ替えも含めて組織を作っています。離職率が高い=悪、低い=善という単純な捉え方ではなく、「誰が辞めているか」「どんな人が入っているか」を合わせて見るのが本質です。
離職率が高くなる主な原因【5つの構造】
| 原因 | 典型的な症状 | 放置した場合の帰結 |
|---|---|---|
| 採用ミスマッチ | 入社3〜6カ月の早期退職が多い | 採用コストが売上を圧迫 |
| マネジメント不全 | 特定部署だけ離職率が突出 | 組織の中に無風地帯が生まれる |
| 評価・報酬制度 | 成果を出す人ほど辞める | 低評価者だけが残る組織に |
| キャリアパスの欠如 | 入社2〜3年の中堅層が転職 | 幹部候補が育たない |
| 過重労働・カルチャー | 体調不良・メンタル不調が続出 | 採用ブランドの毀損 |
最も対処しやすいのは「採用ミスマッチ」です。面接のプロセス設計と、入社前の期待値調整で解決できます。一方、最も難しいのは「マネジメント不全」。特定の管理職が原因の場合、その人を動かさない限り離職は止まりません。詳しい採用戦略はスタートアップ採用ガイドにまとめています。
離職率を改善する実務的な打ち手【10選】
採用フェーズの改善
- ①リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP):面接で仕事のネガティブ面も正直に開示する。ミスマッチによる早期離職を減らす
- ②複数人での面接評価:一人の感覚ではなく、複数評価者の合議で判断する
- ③既存社員との面談機会:内定前に配属予定チームの社員と話してもらう
オンボーディングの改善
- ④入社90日プランの明示:何を、いつまでに、どこまでできれば合格かを言語化
- ⑤メンター制度:業務外の相談ができる先輩を1名アサイン
- ⑥30日・60日・90日面談:違和感を放置せず、早期に拾う仕組み
継続的な組織改善
- ⑦1on1の定着:週次or隔週の短時間1on1で信頼関係を維持
- ⑧評価制度の透明化:何が評価され、何が昇給・昇格につながるかを明示
- ⑨退職理由の構造化ヒアリング:退職者インタビューで根本原因を把握
- ⑩キャリアパスの複線化:マネジメント以外の道(スペシャリスト等)も用意
この10個をすべてやる必要はありません。自社の離職者数の多い階層・在籍年数・部署を分析し、原因を特定してから打ち手を選ぶのが正解です。
転職者向け:企業の離職率を見抜く4つの方法
企業側は離職率を都合よく見せる自由があります。転職検討者としては、複数の角度から実態を確認する必要があります。
- 採用HP・IR資料をチェック:上場企業は有価証券報告書に「平均勤続年数」を必ず開示している。10年以上なら安定的、3年以下なら要確認
- 3年以内離職率を直接聞く:「新卒の3年以内離職率と、中途採用の1年以内離職率は?」と面接で確認。答えられない企業はデータを取っていない可能性
- 口コミサイトを複数横断:OpenWork、転職会議、ライトハウスなどを見る。ただし1件のネガコメで判断せず、複数年で傾向を見る
- エージェント経由で数字を確認:企業と関係のあるエージェントは、実態値の目安を知っている。個別に聞くと教えてくれるケースも
特に重要なのは「なぜ離職しているか」の理由です。成長のためのポジティブ離職(独立、大手への転身)と、ネガティブ離職(疲弊、パワハラ、給与不満)では意味がまったく違います。ベンチャー転職 失敗・後悔ガイドで、離職につながる失敗パターンを詳しく解説しています。
スタートアップの離職率は「別の物差し」で見る
スタートアップの離職率を大企業と同じ物差しで比較するのは不適切です。私の実感では以下の特徴があります。
- 創業3〜5年目に第二創業期がある:創業メンバーが役割を終えて退職するケース。これは健全な離職
- ミッションフェーズが変わると人が変わる:PMF前→PMF後→Growthで、必要な人材要件が変わる
- 年20%の離職も許容範囲:高速成長期には自然な数字。ただし主力メンバーの離職なら要注意
- 年収レンジの上下差が大きい:急成長組は年収が跳ね、伸び悩み組は不満で離職
私の経験では、スタートアップで「離職率が異常に低い」場合、むしろ成長ステージが停滞しているサインのこともあります。ベンチャー転職全般の視点はベンチャー転職 完全ガイドで整理しています。
離職率と経営指標の関係
離職率は、実は経営指標として複数の数字と連動しています。
| 連動指標 | 関係性 | 目安 |
|---|---|---|
| 採用コスト | 離職率が高いほど、採用に費用がかかり続ける | 採用コスト=離職者数×1人あたり平均採用コスト |
| 1人あたり生産性 | 離職→新規採用→立ち上がりの繰り返しで下がる | 立ち上がりに3〜6カ月×人数分の機会損失 |
| ノウハウ蓄積 | 離職により組織知が流出 | 特に暗黙知は継承が難しい |
| 採用ブランド | 離職率の高さは求職者に伝わる | 口コミサイトで数年単位で影響が残る |
| 売上・利益 | 営業組織の離職は直接的に売上減 | キーマン離職で四半期売上が10〜20%減も |
経営者としては、離職率を「結果」ではなく「先行指標」として見る視点が大切です。離職率の上昇は、その後の売上減・採用コスト増・ブランド毀損の兆候として、早めに手を打つべきシグナルになります。
採用担当者向け:離職率の見せ方【広報の実務】
採用広報で離職率を出す場合、以下のルールを守ってください。
- 計算式を明示する:どの期間・どの分母・どの対象で計算したかを注記
- 業界平均と併記する:数字だけでなく比較の基準を示す
- 推移で見せる:単年ではなく3〜5年の推移で公開すると信頼性が上がる
- 3年以内離職率を分けて開示:全体と新卒3年以内、中途1年以内を分けると誠実
- ポジティブ離職とネガティブ離職を分ける:キャリアアップ独立と早期退職は意味が違う
都合の良い期間だけを切り取って「離職率3%」と出しても、応募者は口コミで実態を知ります。数字を盛るよりも、正直に開示して背景を語れる企業のほうが、結果的に採用ブランドが強くなるのが今の求職者の傾向です。
FAQ:離職率でよくある質問
Q1. 離職率と定着率の違いは?
定着率は「一定期間、在籍し続けた人の割合」で、離職率と裏表の関係にあります。3年間の定着率90%と、3年以内離職率10%は同じ意味。ただし、定着率のほうがポジティブな響きがあるため、採用広報では定着率を使う企業が多いです。
Q2. 新卒3年以内離職率の全国平均はどれくらいですか?
厚生労働省が発表している最新データ(令和2年3月卒)では、大卒3年以内離職率は32.3%。企業規模が小さいほど離職率が高く、業種別では宿泊業・飲食サービス業が最も高い傾向にあります。
Q3. 有価証券報告書の平均勤続年数から離職率を推定できますか?
推定はできます。ざっくり「離職率 ≒ 1 ÷ 平均勤続年数」という近似式があります。例:平均勤続年数10年 → 離職率約10%。ただし成長企業は分母が急拡大するため、この式が過大評価されます。あくまで目安として。
Q4. 転職エージェントに離職率を聞いたら教えてもらえますか?
企業と関係の深いエージェントは、大まかな傾向を教えてくれるケースがあります。ただし守秘義務の範囲があるため、詳細な数字までは出せません。「この会社は定着していますか?」「エージェント経由で入社した人の1年定着はどうですか?」と聞くほうが答えやすいです。
Q5. 離職率が上がっている会社に転職するのはリスクですか?
「上がっている理由」で判断してください。組織再編・事業ピボット・成長痛による離職なら、むしろチャンスの可能性もあります。逆に、経営不振・パワハラ・評価制度崩壊が理由なら、避けるべきです。転職エージェントや現社員のリファラルで、背景まで確認しましょう。エージェント選びの基準は転職エージェント選び方ガイドを参考にしてください。
Q6. 経営として、離職率のKPIはどのくらいに設定すべきですか?
業界平均の70〜80%を目標に置くのが現実的です。例:業界平均15%なら、目標は10〜12%。ゼロを目指すのは非現実的で、むしろ組織を硬直化させます。大切なのは「誰が」辞めているかであり、ハイパフォーマーの離職率をKPIとして分けて見るのがおすすめです。
Q7. 「離職率0%」を採用広報で見かけますが、これは信じていいですか?
期間の切り方次第で0%は作れます。「直近◯カ月の離職者ゼロ」を「離職率0%」と表現するケースが多いので、注意してください。年次で0%は、社員数10名以下の小規模組織か、期間定義に恣意性がある可能性が高いです。
まとめ:離職率は「見方」と「原因」で本質を捉える
離職率は、企業の健康診断における「体温計」のような指標です。数字だけを見ても病名はわからず、期間・部署・退職理由まで踏み込んで初めて意味を持ちます。採用担当者は、計算式を統一して自社の変化を追う。転職検討者は、単年の数字ではなく複数年の推移と背景を確認する。この視点があれば、離職率の数字に振り回されずに済みます。
そして経営者として最も大切なのは、離職率を「下げる」ことより、「なぜ離職したかを構造で理解する」ことです。原因を特定できれば、打ち手は必ず存在します。原因不明のまま数字を追うと、必要な離職まで止めてしまい、組織を硬直化させてしまいます。
キープレイヤーズは、スタートアップ・ベンチャーの採用支援と経営者の壁打ちを25年続けています。離職率の改善、採用ミスマッチの解消、CxOクラスの人材紹介まで、お気軽にご相談ください。CxOポジションの採用はCXO転職ガイド、年収設計は年収・手取りガイド、若手のキャリア設計は年齢別転職ガイドもあわせてご覧ください。


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