退職代行という言葉を聞いて、みなさんはどう感じるでしょうか。「そこまでして辞めたいのか」と思う方もいれば、「使えるなら使いたい」と思う方もいるはずです。
私はキープレイヤーズという人材紹介会社を経営していて、約25年この業界にいます。正直に申し上げると、退職代行が世に出てきた当初、私は懐疑的でした。辞めるという意思を自分の言葉で伝えられないのは、キャリアにとって良いことではないと思っていたからです。
ただ、この数年で考えが変わりました。本当に必要な人がいるということが、相談を受けるなかではっきり見えてきたからです。同時に、業界そのものに深刻な問題があることも明らかになりました。2026年2月には大手事業者の代表が弁護士法違反の疑いで逮捕されるという、業界を揺るがす事件も起きています。
この記事では、退職代行を使うべき人・使うべきでない人、法的にどこまでできるのか、そして2026年の今、どう選べば安全なのかを、人材業界の立場から率直に書きます。サービスを売る側ではないので、忖度なしで書けます。
まず結論:3つの運営主体の違いを理解することがすべて
退職代行選びで失敗する人のほぼ全員が、「どこが運営しているか」を確認していません。ここだけは絶対に押さえてください。
| 運営主体 | 料金相場 | できること | できないこと | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| 民間企業 | 2〜3万円 | 退職の意思を会社に伝えるのみ | あらゆる交渉が違法(有給・退職日・未払い賃金) | 争点がまったくない人。ただし推奨しない |
| 労働組合 | 2.5〜3万円 | 意思の伝達+団体交渉(退職日・有給消化・退職金) | 訴訟、損害賠償請求への法的対応 | 大半の人にとっての最適解 |
| 弁護士 | 5〜10万円+成功報酬 | 交渉+未払い賃金請求・訴訟・損害賠償対応すべて | — | 未払い残業代やハラスメントで争う可能性がある人 |
この違いは好みの問題ではなく、法律で決まっている線引きです。民間企業が「有給を全部消化させてください」と会社に言った瞬間、それは弁護士法違反の可能性がある行為になります。安さだけで民間業者を選ぶと、いざ会社が抵抗したときに何もできず、料金だけ払って自分で対応する羽目になります。
2026年2月「モームリ」代表逮捕——何が起きたのか
この事件を知らずに退職代行を選ぶのは危険なので、事実関係を時系列で整理します。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年10月22日 | 退職代行「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスが家宅捜索を受ける |
| 2026年2月3日 | 同社代表らが弁護士法違反(非弁提携)の疑いで警視庁に逮捕される |
| その後 | 提携していた弁護士に懲役1年6ヶ月の有罪判決 |
| 2026年4月23日 | 代表者を刷新し、新体制での営業再開を発表 |
何が違法とされたのか
報道されている容疑の中身は、報酬を得る目的で退職代行の依頼者を提携弁護士に紹介し、弁護士側がその見返りに金銭を支払っていたというものです。これは弁護士法27条が禁じる「非弁提携」にあたるとされました。
ここで多くの方が「紹介料を取るのがなぜ違法なのか」と疑問に思うはずです。人材紹介業をやっている私からすると、この感覚はよくわかります。他の業界では紹介料はごく普通の商慣行だからです。私たちの業界も、企業に人材を紹介して手数料をいただいています。
しかし弁護士業は違います。弁護士法が非弁提携を厳しく禁じているのは、紹介料が発生すると、弁護士が「依頼者の利益」ではなく「紹介元の利益」を優先する構造ができてしまうからです。紹介元に手数料を払うために、依頼者に不要なサービスを勧める、あるいは紹介元の事業を守る方向で動く。そういう利益相反を防ぐための規制です。
この事件から私たちが学ぶべきこと
誤解しないでいただきたいのは、「退職代行そのものが違法になった」わけではないということです。適法に運営されているサービスは今も多数あります。
問題の本質はこうです。「弁護士監修」「弁護士提携」という表示があっても、それが安全性の保証にはならない。むしろ、その提携の中身によっては違法性を帯びることがある。この事件が突きつけたのはその一点です。
加えて、業界では民間企業が形式だけの労働組合を組成したり、労働組合との提携を主張しながら実態が不明確なケースも指摘されています。「労働組合運営」と書いてあるだけで安心せず、後述する確認方法を必ず実行してください。
退職代行はどれくらい使われているのか——2026年の実態
感覚論を排して、データで見ていきます。
- マイナビの調査では、直近1年間の転職者のうち16.6%が退職代行を利用。年代別では20代が18.6%と最も高く、年代が下がるほど利用率が上がる傾向
- 企業側から見ると、社員が退職代行を使って辞めた経験のある企業は2019年以前は15.7%だったのが、2024年上半期には23.2%に上昇
- 2026年4月1日からの3日間で、ある退職代行事業者には新入社員からの依頼が11件寄せられ、全体の依頼の約3割を占めた
この数字をどう読むか。「若者が忍耐力を失った」という解釈は、私は違うと思っています。企業側の受け入れ経験が15.7%から23.2%へ増えたということは、退職を申し出た社員を素直に辞めさせない会社が、それだけ存在するということでもあるからです。
実際、ご相談を受けていると「3回退職を申し出たが、そのたびに握りつぶされた」「退職届を受け取ってもらえない」という話は珍しくありません。退職代行の普及は、労働者側の問題であると同時に、企業側の退職対応の問題でもあります。
法律上、どこまでできるのか——弁護士法72条と労働組合法
そもそも「辞める権利」は法律で保障されている
まず大前提を確認します。期間の定めのない雇用契約(正社員など)は、民法627条1項により、退職の申し入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了します。会社の承諾は必要ありません。就業規則に「退職は3ヶ月前に申し出ること」と書いてあっても、民法の規定が優先されるというのが一般的な解釈です。
つまり「会社が辞めさせてくれない」という状態は、法的には存在しません。あるのは「会社が辞めさせないと言い張っている」という事実状態だけです。ここを理解しておくと、心理的にかなり楽になります。
「伝達」と「交渉」の間にある決定的な線
弁護士法72条は、報酬を得る目的で法律事務を扱うことを、弁護士以外に禁じています。退職代行の文脈では、この線引きになります。
| 行為 | 法的な位置づけ | 民間企業 | 労働組合 | 弁護士 |
|---|---|---|---|---|
| 「本人が退職したいと言っています」と伝える | 伝達 | ○ | ○ | ○ |
| 退職日をいつにするか話し合う | 交渉 | × | ○ | ○ |
| 有給休暇を全部消化させてほしいと求める | 交渉 | × | ○ | ○ |
| 本人への直接連絡をやめるよう求める | 交渉 | × | ○ | ○ |
| 未払いの退職金を支払うよう求める | 交渉 | × | ○ | ○ |
| 未払い残業代を計算して請求する | 法律事務 | × | △ | ○ |
| 会社からの損害賠償請求に反論する | 法律事務 | × | × | ○ |
| ハラスメントの慰謝料を請求する | 法律事務 | × | × | ○ |
| 労働審判・訴訟を代理する | 訴訟代理 | × | × | ○ |
なぜ労働組合は交渉できるのか
「民間企業がダメなのに、なぜ労働組合はいいのか」という疑問はもっともです。答えは憲法28条と労働組合法が、労働組合に団体交渉権を保障しているからです。
労働組合が組合員のために使用者と交渉することは、憲法上の権利の行使であって、弁護士法72条が禁じる「他人の法律事務への不当な介入」にはあたらない、という整理になります。だから労働組合運営(または労働組合と正式に連携した)退職代行は、退職日や有給消化の交渉ができるのです。
ここが、民間企業運営と労働組合運営の実質的な差です。そして交渉ができるかどうかは、会社が素直に応じない場合に決定的な差になります。
退職代行を使うべき人・使うべきでない人
私は人材業界の人間として、率直な意見を書きます。
使うべき人
- 退職を複数回申し出たのに、受理されず握りつぶされている人——最も正当な利用理由です
- 退職を切り出すと恫喝される、人格否定される環境にいる人——身の安全が最優先です
- 心身の不調が深刻で、会社と直接やり取りすること自体が困難な人——無理をして症状を悪化させる意味はありません
- 退職の申し出後、明らかな嫌がらせや報復を受けている人
- 離職票や必要書類を意図的に出してもらえない状況にある人
- 労働時間や賃金に法令違反があり、争う可能性がある人——この場合は弁護士一択です
使うべきでない人(自分で伝えたほうがいい人)
- 単に気まずいだけの人——気まずさは誰にでもあります。それは2〜3万円を払う理由としては弱い
- まだ一度も退職の意思を伝えていない人——まず自分で伝えてください。多くの会社は普通に受理します
- 同じ業界内で転職する人——業界は驚くほど狭い。人事同士がつながっていることは日常です
- 退職金や功労金の交渉余地が大きい人——円満に話し合ったほうが金額面で有利になることが多い
- 推薦状や前職確認が発生しうるポジションの人——外資系やハイクラス転職では前職照会が入ることがあります
3つ目について補足させてください。私は約25年この業界にいますが、業界の狭さは本当に侮れません。特にベンチャー・スタートアップ界隈は経営者同士のつながりが濃く、「あの人、退職代行で辞めたらしいよ」という情報は想像以上に伝わります。ベンチャーへの転職を考えている方は、この点を認識したうえで判断してください。詳しくはベンチャー転職 完全ガイドでも触れています。
ただし——これは「だから我慢しろ」という意味ではありません。身の安全や健康が脅かされているなら、評判より自分を優先してください。順番を間違えないでいただきたいだけです。
退職代行を使う前にやるべき7ステップ
ステップ1:まず自分で退職の意思を伝えてみる
意外に思われるかもしれませんが、これが最初です。大半の会社は、直属の上司に伝えれば普通に退職手続きに入ります。ここで受理されれば、費用も評判リスクもゼロで済みます。伝え方は退職の伝え方にまとめています。
ステップ2:引き止めに遭ったら、書面で退職届を提出する
口頭で握りつぶされる場合は、退職届を提出します。できれば内容証明郵便で送ると、「申し出た日」が法的に確定します。民法627条の2週間はこの日から起算されます。引き止め対策の具体策は退職交渉完全ガイドを参照してください。
ステップ3:証拠を確保する
これは代行を使う場合でも使わない場合でも必須です。雇用契約書、就業規則、給与明細(直近2年分)、タイムカードや勤怠記録、ハラスメントがあればその記録。会社のPCやサーバーにしかないものは、退職後にアクセスできなくなります。今のうちに自分の分だけ確保してください。
ステップ4:有給休暇の残日数を確認する
給与明細か勤怠システムで確認します。有給が20日残っていれば、実質的に約1ヶ月出社せずに退職できます。「即日退職」を謳うサービスの多くは、この有給消化と欠勤扱いを組み合わせて実現しています。
ステップ5:運営主体を確認する(最重要)
ここで具体的に何を確認するかは次章に詳しく書きます。この確認を飛ばさないでください。
ステップ6:返却物と受け取るべき書類をリスト化する
返却物は健康保険証、社員証、PC、携帯、制服、名刺、鍵など。受け取るものは離職票、雇用保険被保険者証、年金手帳(または基礎年金番号通知書)、源泉徴収票です。これらは失業保険の受給や次の会社での手続きに必須で、後述するとおり最もトラブルになりやすい部分です。
ステップ7:退職後のお金と手続きの段取りを立てる
健康保険の切り替えは退職後14〜20日以内、失業保険の申請、住民税の支払い方法の変更など、期限のある手続きが並びます。代行業者はここまで面倒を見てくれません。転職のお金と手続き完全ガイドに期限ごとの一覧をまとめてあるので、退職前に目を通しておいてください。
2026年時点で安全なサービスを見分ける5つのチェック項目
モームリの事件を踏まえ、私が今おすすめする確認手順です。
| チェック項目 | 確認方法 | 危険なサイン |
|---|---|---|
| ① 運営主体が明記されているか | 特定商取引法に基づく表記・会社概要を見る | 運営会社名や所在地が書かれていない |
| ② 労働組合の実体があるか | 組合名・所在地・代表者名を確認し、検索する | 組合名が書かれていない/サービス名と同一で実体不明 |
| ③ 弁護士運営なら弁護士名と所属会 | 日本弁護士連合会の弁護士検索で実在確認 | 「弁護士監修」とだけ書かれ、氏名がない |
| ④ 交渉範囲が明記されているか | 「できること/できないこと」の記載を探す | 「何でも対応」「必ず退職できます」など断定的な表現 |
| ⑤ 料金体系が明確か | 追加費用・オプションの有無を確認 | 「業界最安値」の強調のみで、総額が不明瞭 |
特に②が最重要です。「労働組合が運営」と書いてあっても、組合の名前すら書かれていないサービスがあります。正規の労働組合であれば、組合名・所在地・代表者を隠す理由はまったくありません。書かれていない時点で候補から外して構いません。
③についても補足します。「弁護士監修」と「弁護士が代理人として対応」はまったく別物です。前者は単に記事や手順を弁護士が確認したという意味で、あなたの案件を弁護士が担当するわけではありません。未払い賃金や損害賠償で争う可能性があるなら、最初から弁護士に直接依頼してください。
退職代行でよくある失敗パターン8選
1. 安さで民間業者を選び、交渉が必要になって詰む
最頻出パターンです。会社が「退職日は3ヶ月後だ」と言い出した瞬間、民間業者は何もできません。差額はわずか数千円です。労働組合運営を選んでください。
2. 離職票や源泉徴収票を送ってもらえない
退職自体は成立しても、その後の書類でもめるケースです。会社が心証を害して、嫌がらせ半分で発送を遅らせることがあります。離職票が出ない場合はハローワークに相談してください。会社に交付を督促してもらえます。源泉徴収票も税務署に相談窓口があります。
3. 会社の貸与物を返さずトラブルになる
PCや制服、健康保険証を返却しないまま放置すると、損害賠償の火種になります。退職代行に依頼した当日中に、記録が残る形(追跡付きの宅配便)で返送してください。
4. 有給が残っているのに消化せず辞めてしまう
20日分の有給は、額面月給19万円の人なら約19万円の価値があります。民間業者だと有給消化の交渉ができないため、まるごと捨てることになりかねません。
5. 転職活動を始める前に辞めてしまう
退職代行は「辞める」ことの手段であって、次を用意してはくれません。空白期間が長引くと、次の選考で不利になります。可能なかぎり、在職中に転職活動を進めてください。判断材料は転職活動をするなら働きながら?辞めてから?にまとめています。空白期間の影響については転職の空白期間(ブランク)完全ガイドを参照してください。
6. 短期離職を繰り返す入口になってしまう
これが一番心配なパターンです。退職のハードルが下がりすぎると、合わないと感じた瞬間に辞める癖がつきます。転職回数が増えることの実際の影響は転職回数が多いと不利?完全ガイドで解説しています。
7. 面接で退職理由を説明できなくなる
退職代行を使ったこと自体を申告する義務はありませんが、「なぜ前職を辞めたのか」は必ず聞かれます。感情的な説明ではなく、事実ベースで語れるよう準備してください。面接でネガティブな退職理由を伝える秘訣が参考になります。
8. 損害賠償を持ち出されて動揺する
会社側が牽制で「損害賠償請求する」と言ってくることがあります。実際に認められるケースは限定的ですが、ゼロではありません。詳細は次章で書きます。
損害賠償リスクの実際
不安を煽る情報が多い領域なので、事実に即して整理します。
結論から言うと、通常の退職で損害賠償が認められることはほとんどありません。労働者には退職の自由があり、退職しただけで会社に直ちに損害が生じるとは評価されないためです。会社側が請求をちらつかせるのは、実際には引き止めの牽制であることが大半です。
ただし、以下のケースでは責任を問われる可能性があります。
- 退職の効力が発生するまでの期間も無断欠勤した——入社1週間で退職し、効力発生までの期間も出勤しなかった従業員に対し、70万円の支払命令が出た事案があります
- 機密情報や顧客データを持ち出した
- 会社の名誉や信用を毀損する行為をした
- 会社負担の研修や留学の直後に退職した(費用返還規定がある場合)
- 意図的に業務を妨害した
逆に言えば、これらに該当しなければ過度に恐れる必要はありません。ポイントは「退職の意思表示から効力発生までの期間を、無断欠勤ではなく有給消化または欠勤届で処理すること」です。ここを適切に処理できるかどうかが、民間業者と労働組合・弁護士の差が出る場面でもあります。
年代別・退職代行との向き合い方
20代
利用率が最も高い年代です。20代は転職市場での評価が高く、辞めること自体のリスクは相対的に小さい。ただし短期離職の連鎖には注意してください。1回目は事情として説明できますが、2回3回と続くと「環境のせいにする人」という見方をされます。使うなら、次のキャリアの方向性をある程度定めてからにしてください。
30代
30代は即戦力として評価される年代です。この年代で気をつけたいのは、退職代行を使った事実そのものより、引き継ぎの放棄です。マネジメントや専門職を担っている場合、後任への引き継ぎがないことが業界内で問題視されることがあります。可能なら、代行を使いつつ引き継ぎ資料だけは残す。これで印象はまったく変わります。
40代以上
40代以上は転職市場でリファレンス(前職照会)が入る可能性が高まります。役職者ほど、円満退職の価値は大きい。この年代で退職代行を使うのは、ハラスメントや健康被害など、明確な事情があるケースに限るのが賢明です。年代ごとの転職戦略は年齢別転職ガイドに整理しています。
そもそも辞めるべきかどうか、迷っている方へ
退職代行を検索している方のなかには、実はまだ「辞めるかどうか」を決めきれていない方が一定数いらっしゃいます。手段を先に調べてしまうのは、心理的にはよくあることです。
もしそうであれば、まず判断のほうを整理してください。今の会社・仕事を辞めたいけど、決められないというあなたにで、私なりの考え方を書いています。また、今の会社の問題が構造的なものかどうかはブラック企業の見抜き方完全ガイドのチェック項目で確認できます。
そして、辞めたあとに何をするかが決まっていないなら、先に転職活動を始めるべきです。転職エージェントの選び方ガイドを参考に、まず市場価値を確認してみてください。次の選択肢が見えると、今の会社への向き合い方も変わります。転職して年収がどう動くかは年収・手取りガイドで相場を確認できます。
逆に、勢いで辞めて後悔するパターンも見てきました。ベンチャー転職 失敗・後悔ガイドには、そうした事例を集めています。
退職代行に関するよくある質問
Q1. 退職代行を使うと本当に辞められますか?
ほぼ確実に辞められます。期間の定めのない雇用契約であれば、民法627条1項により退職の申し入れから2週間で契約は終了し、会社の承諾は不要だからです。実際、「退職できなかった」というトラブルの報告はほとんど見られません。ただし有期雇用(契約社員など)は民法628条が適用され、やむを得ない事由が必要になるため、契約社員の方は弁護士または労働組合に相談してください。
Q2. 即日で辞められますか?
厳密には、2週間の経過が必要です。ただし残っている有給休暇を消化する、または会社の合意を得て即時退職とすることで、「翌日から出社しない」という状態は実現できます。「即日退職」を謳うサービスは、この方法を指しています。有給が残っていない場合は欠勤扱いの交渉が必要になるため、民間業者では対応できません。
Q3. 料金の相場はいくらですか?
民間企業運営が2〜3万円、労働組合運営が2.5〜3万円、弁護士運営が5〜10万円程度です。弁護士の場合は未払い賃金などを回収した際に成功報酬(回収額の20%前後)が加算されることがあります。民間と労働組合の差は数千円しかないため、労働組合運営を選ぶのが合理的です。
Q4. 転職先に退職代行を使ったことがバレますか?
通常の中途採用では、企業が前職に問い合わせることは個人情報保護の観点から一般的ではないため、バレる可能性は高くありません。ただし、同じ業界内の転職や、外資系・ハイクラス求人でリファレンスチェックが実施される場合は、伝わる可能性があります。また業界が狭い領域では、人づてに広まることは十分あり得ます。
Q5. 有給休暇は消化できますか?
労働組合運営または弁護士運営であれば交渉可能です。民間企業運営では有給消化の交渉は法的にできません。有給の取得は労働者の権利であり、会社は原則として拒否できませんが(時季変更権はあります)、退職時は変更する時季がないため実質的に拒否できないというのが一般的な解釈です。
Q6. 会社から直接連絡が来ることはありますか?
労働組合や弁護士が「本人への直接連絡を控えるよう」交渉すれば、通常は止まります。民間業者ではこの交渉ができないため、連絡が続く可能性があります。これも運営主体で選ぶべき理由のひとつです。なお、離職票などの書類送付に関する事務連絡は、会社から本人宛に届くのが通常です。
Q7. 退職代行を使うと失業保険はどうなりますか?
退職代行を使ったこと自体は失業保険の受給に影響しません。影響するのは自己都合退職か会社都合退職かです。なお2025年4月の改正により、自己都合退職の給付制限期間は原則2ヶ月から1ヶ月に短縮され、教育訓練を受講する場合は給付制限が解除されるようになりました。詳しくは転職のお金と手続き完全ガイドで解説しています。
まとめ:手段としては認めるが、順番を間違えないでほしい
この記事の要点を整理します。
- 運営主体で選ぶ。民間企業は交渉が一切できない。労働組合運営が大半の人にとっての最適解。争点があるなら弁護士
- 2026年2月のモームリ代表逮捕は「弁護士監修」表示が安全性の保証にならないことを示した。組合名・弁護士名を必ず実在確認する
- 民法627条により、辞める権利は法律で保障されている。会社の承諾は不要
- 使う前に、まず自分で伝える。それでも受理されないなら正当な利用理由になる
- 証拠の確保、有給日数の確認、返却物と受取書類のリスト化を先に済ませる
- 損害賠償は通常認められないが、無断欠勤・情報持ち出しは例外
最後に、私の率直な考えを書きます。退職代行は、必要な人にとっては命綱です。恫喝される職場、心身を壊しかけている職場から抜け出すために、2〜3万円で安全に離脱できるなら、それは十分に合理的な投資です。私はそれを否定しません。
ただ、順番だけは間違えないでいただきたい。先に考えるべきは「どうやって辞めるか」ではなく「辞めたあと、どこへ行くか」です。この順番が逆になっている方が、私のところに相談に来られるケースは本当に多い。辞める手段は最後の一手であって、キャリアの中心ではありません。
キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップを中心に、転職とキャリアのご相談を受けています。「辞めるべきかどうか迷っている」「次に何をすればいいかわからない」という段階からで構いません。転職を前提としないご相談も歓迎しています。まずは状況を整理するところから、ご一緒させてください。
※本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。個別の法律問題(未払い賃金、損害賠償、ハラスメント等)については、必ず弁護士など有資格の専門家にご相談ください。

