こんにちは、ベンチャー・スタートアップ・CxO転職の支援をしているキープレイヤーズの高野秀敏です。27年、経営者・CxO・幹部人材の転職を1,000人以上、面接前後で伴走してきました。
銀行員の方からの転職相談は、この仕事を始めた頃から途切れたことがありません。ただ、ここ数年で相談の中身がはっきり変わりました。以前は「銀行が肌に合わない」「年功序列から抜け出したい」という理由が中心でしたが、いまは「同期がもう3人辞めた」「支店が統廃合されて先が読めない」「中途で入ってきた人のほうが評価されている」という、銀行そのものの構造変化を理由にした相談が増えています。1年目から転職活動をしている方も珍しくありません。
この記事は2019年に「銀行からベンチャーへ転職を希望する若手に読んでほしいメッセージ」として書いたものを、2026年の市場データで全面的に書き直しました。当時の記事で引用していた知人の元銀行員CFOやベンチャーキャピタリストの言葉は、いまでも本質は変わっていないので本文に織り込んでいます。銀行員がベンチャー・スタートアップで活きる職種はどこか、年収はどう変わるのか、なぜ「若いうちに」なのか、CFOはなぜ狭き門なのか、失敗する人は何を間違えているのかまで整理します。
ベンチャー転職の全体像はベンチャー転職完全ガイド、銀行員がCFOを目指す場合の具体論は銀行からベンチャー・スタートアップCFOに転職する6つのポイント、同じ「大手から」の転職として大手メーカーからベンチャー・スタートアップへ転職する方法もあわせてご覧ください。
- 2026年の銀行業界——平均年収684万円(98行)、メガバンク中途採用1,170人、大手金融7社の離職率5.33%(2022年の1.7倍)
- 銀行員がベンチャー・スタートアップに転職する理由と、企業側が銀行員を欲しがる理由
- 銀行とベンチャーの働き方・評価・報酬の比較表
- 銀行員の経験が活きる職種7つ(経理財務・経営企画・BizDev・エンタープライズ営業・フィンテックの審査/コンプラ・VC・M&A/IPO準備)と年収目安
- なぜ「銀行員の転職は若いうちに」なのか、30代・40代はどう戦うか
- 銀行からベンチャーCFOが狭き門である理由(デットとエクイティの違い)
- 銀行出身の起業家・経営者の実例
- 転職の7ステップ、メリット・デメリット、向いている人・向いていない人、年代別戦略、失敗パターン8つ、FAQ 10問
今回の相談
相談者(メガバンク法人営業・27歳・入行5年目):高野さん、支店で中堅中小企業の法人営業をしています。仕事自体は嫌いではないのですが、同期の3割がすでに辞めていて、自分だけ残っている理由が説明できなくなってきました。スタートアップに興味はあるのですが、銀行の経験が本当に通用するのか、年収が下がるのが怖いのと、CFOになれるなら行きたいという気持ちもあります。どう考えればいいでしょうか。
高野の回答:まず、27歳・法人営業5年目という条件は、銀行員がベンチャーに転職するうえでもっとも評価が高いゾーンです。ただ、「CFOになれるなら」は一度切り離してください。銀行員からいきなりCFOはほぼ無理で、CFO候補としての経理財務や経営企画、あるいは経営者と話し慣れている強みを活かしたエンタープライズ営業やBizDevから入るのが現実的なルートです。年収は一時的に100万〜150万円下がるケースが多いですが、27年見てきた実感として、20代のうちに動いた人は30代前半で銀行時代の年収を超えていることが多いです。この記事の順番で整理していきましょう。
2026年の銀行業界——数字で見る「銀行員の現在地」
感覚で「銀行は先が見えない」と言うのではなく、数字で現在地を押さえておきます。面接で「なぜ銀行を辞めるのか」を語るときにも、この数字が使えます。
| 指標 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 銀行員の平均年収(国内98行) | 684万円(中央値675.5万円、前年比+30.7万円・+4.6%) | 東京商工リサーチ「銀行の年収ランキング」2025年度(有価証券報告書ベース) |
| 業態別の平均年収 | 大手行854.4万円/地方銀行698.9万円/第二地銀613.5万円 | 同上 |
| 上位行 | 三井住友銀行933.8万円(平均41.1歳)/あおぞら銀行927.7万円/三菱UFJ銀行914.3万円 | 同上 |
| 銀行員の総数(98行) | 23万9,757人(大手行9.9万/地銀11.2万/第二地銀2.4万)、平均年齢40.1歳 | 同上 |
| 3メガバンクの中途採用計画 | 1,170人(2025年度計画、過去最高の2023年度実績1,102人を上回る。5年前の5.7倍) | 日本経済新聞 2025年4月 |
| 3メガバンクの新卒採用 | 2023年春は5年前比で約3分の1(直近ピークの2016年は計5,000人超)。2025年は職種別採用が665人・全体の4割弱 | 日本経済新聞 |
| 大手金融7社の離職率 | 業界平均5.33%(2022年3.14%→2023年3.58%→2024年3.98%→2025年5.33%)。三井住友FG 3.0%/三菱UFJFG 5.1%/みずほFG非公表 | Career Reveal 集計(各社開示資料ベース、2025年) |
| 20代銀行員の転職のきっかけ | 「業界の将来性に不安」33.3%が最多。解消したい課題は「ワークライフバランス」55.6% | アドバイザーナビ「20代銀行員の転職に関するアンケート」2024年7月(n=18、参考値) |
この表から読み取ってほしいのは3点です。
- 銀行の年収はむしろ上がっている。金利上昇で銀行の収益が改善し、平均年収は98行平均で+4.6%。「銀行はもう儲からないから辞める」という理由は、2026年の面接では通用しません。
- それでも離職率は3年で1.7倍になった。年収が上がっているのに人が辞めている。つまり辞める理由はお金ではなく、キャリアの見通しと働き方です。
- 銀行自身が「純血主義」をやめた。3メガバンクの中途採用は5年で5.7倍。新卒一括で入って40年勤め上げるモデルは、銀行の側がもう前提にしていません。「一度出たら戻れない」という時代でもなくなっています。
なぜ銀行員はベンチャー・スタートアップに転職するのか
私が実際に相談を受けている銀行員の方の転職理由を、多い順に整理します。
①キャリアの先が読めてしまった
支店の統廃合、業務のデジタル化、リテール部門の縮小。30代で「本店の企画部門に行けなければ、あとは支店長レースか関連会社への出向」という道筋が見えてしまう。特に法人営業で優秀な方ほど、「この仕事の先に何があるのか」を早く見切ります。
②評価と報酬が年次で決まる
メガバンクは若手のうちは横並びの給与で、30代以降の昇進で差がつく構造です。20代で成果を出しても、同期と年収がほとんど変わらない。「成果に対して報酬が動く場所に行きたい」という相談は、営業成績が良い人からほど来ます。
③ノルマと「顧客本位」の矛盾
投資信託・保険・カードローンの販売ノルマと、金融庁が求める「顧客本位の業務運営」のあいだで消耗する。前述のアンケートでも「顧客本位の提案をしたい」が解消したい課題として挙がっています。
④転勤と働き方
全国転勤、住居の指定、休暇中の連絡。ワークライフバランスは20代銀行員の転職理由で最大(55.6%)です。フルリモートや裁量労働のスタートアップとの差は、まだ大きい。
⑤「自分で決める」経験がない
これは本人が気づいていないことも多いのですが、銀行では稟議・判子・本部照会が前提で、20代で自分の判断で何かを決めた経験がほとんどありません。ベンチャーに転職して一番驚くのがこの点で、以前キャリア面談をしたスタートアップの幹部の方も「転職して一番変わったのは、決断の打席に立てる回数と裁量」と話していました。
企業側はなぜ銀行員を欲しがるのか
一方で、ベンチャー・スタートアップの経営者から「銀行出身の人を紹介してほしい」と言われる場面も確実にあります。理由は次の5つです。
- 経営者と話し慣れている。法人営業で社長・オーナーと日常的に会っている。これは新卒でベンチャーに入った同年代にはない経験です。
- 数字が読める。決算書・キャッシュフロー・与信判断の基礎がある。事業計画を「読める」人材は、スタートアップの若手層に意外と少ない。
- デットファイナンスがわかる。2024年以降、スタートアップの資金調達でも銀行借入(ベンチャーデット、日本政策金融公庫の資本性ローンなど)の比重が上がっています。銀行と交渉できる人の価値は上がっています。
- 正確さと完遂力。1円の誤差も許されない文化で育っているので、契約・請求・コンプライアンスまわりでの信頼感が高い。
- 金融ライセンスの実務を知っている。フィンテック領域では、資金移動業・貸金業・前払式支払手段の登録対応、AML/CFT、内部監査の実務経験者を銀行から採ろうとする会社が増えています。
逆に言うと、企業側が銀行員に期待していないこともあります。それは「銀行の看板」です。銀行を辞めた瞬間に、三菱UFJ・三井住友・みずほの名前で開けていたドアは閉まります。看板ではなく、上の5つのどれを自分は持っているかを言語化できるかが、転職の成否を分けます。
銀行とベンチャー・スタートアップの比較表
| 項目 | 銀行(メガバンク・地銀) | ベンチャー・スタートアップ |
|---|---|---|
| 年収の決まり方 | 年次・職階でほぼ決まる。30代後半から差がつく | 職種×成果×フェーズ。20代で差がつく。SO(ストックオプション)が加わる |
| 20代後半の年収目安 | メガバンク600万〜750万円/地銀450万〜600万円 | 450万〜700万円(職種による。営業はインセンティブ込みで上振れ) |
| 意思決定 | 稟議・本部照会。個人の裁量は小さい | 現場で即決。決めた人が責任を持つ |
| 評価 | 減点主義。ミスをしないことが評価 | 加点主義。動いて成果を出したことが評価 |
| 転勤 | 全国転勤あり(地銀は県内中心) | 原則なし。リモート・ハイブリッドが多い |
| マネジメント経験 | 20代で部下を持つことはほぼない | 20代で5〜30人を見ることがある |
| 研修・教育 | 体系的。手厚い | ほぼOJT。自分で取りに行く |
| 安定性 | 高い。ただし離職率は3年で1.7倍 | フェーズ次第。資金調達の状況で変わる |
| 退職金・福利厚生 | 手厚い(住宅補助・企業年金) | 薄い。退職金制度がない会社も多い |
| 身につく力 | 財務・与信・折衝・正確さ | 事業を作る力・決める力・採用や組織を作る力 |
年収の目安は私が支援している案件と各社の公開情報からの実感値です。年収ダウンの実態と中長期リターンの考え方はスタートアップ転職で年収は下がる?年収ダウンの実態と中長期リターン、報酬パッケージ全体の見方は年収・手取りガイドにまとめています。
銀行員の経験が活きる職種7つと年収目安
「銀行員はベンチャーで何をするのか」が一番多い質問です。銀行での担当業務(法人営業・リテール・審査・本部企画・市場部門)によって向き先は変わりますが、私が実際に紹介・決定している職種を7つに整理します。年収はキープレイヤーズの支援実績ベースの目安で、フェーズと本人の経験で上下します。
| 職種 | 活きる銀行経験 | 年収目安 | 向いている銀行員 |
|---|---|---|---|
| ①経理・財務(CFO候補) | 決算書の読解、資金繰り、銀行折衝 | 500万〜800万円(財務部長クラス800万〜1,200万円) | 審査・融資・本部財務の経験者。簿記2級以上あると強い |
| ②経営企画・IR | 事業計画の分析、KPI管理、資料作成 | 600万〜900万円 | 本部企画・法人営業で事業計画を見てきた人 |
| ③事業開発(BizDev)・アライアンス | 経営者との折衝、提案、金融機関ネットワーク | 600万〜1,000万円 | 法人営業でオーナー企業を担当していた人 |
| ④エンタープライズ営業(SaaSのAEなど) | 大企業の決裁構造の理解、目標達成へのコミット | 550万〜900万円(インセンティブ込みで1,000万円超も) | 法人営業で表彰経験がある人。数字で語れる人 |
| ⑤フィンテックの審査・与信・コンプライアンス | 与信判断、AML/CFT、金融規制の実務、金融庁対応 | 600万〜1,000万円 | 審査部・コンプライアンス部門・本部リスク管理の経験者 |
| ⑥VC・CVC・投資 | 企業分析、与信、ソーシング(企業との接点) | 600万〜1,200万円(アソシエイト〜) | 銀行系VCへの出向経験者、投資業務経験者 |
| ⑦M&A・IPO準備(管理部門) | 財務DD、資本政策の理解、証券会社・監査法人との折衝 | 700万〜1,200万円 | M&A・投資銀行部門、上場企業担当の経験者 |
それぞれの職種の詳細は、経理・財務への転職ガイド、経営企画への転職完全ガイド、事業開発(BizDev)転職ガイド、アカウントエグゼクティブ(AE)転職ガイド、FinTech(フィンテック)業界の転職ガイド、ベンチャーキャピタル(VC)に転職する方法、M&A業界への転職完全ガイドで解説しています。
「手を動かせるか」が経理財務では決定的
ひとつ、銀行員の方に正直に伝えておきたいことがあります。銀行員がベンチャーの経理財務に行くと、知識はあるのに手を動かせないという壁に必ずぶつかります。公認会計士なら決算を締められますが、銀行員は「出来上がった数字を見る」側にいたので、「数字を作る」経験がない。新卒で銀行に入り2年半で辞めてベンチャー経理に転職した知人(現在は取締役CFO)は「役立ったスキルは銀行との融資交渉くらい。数字を作るのと、出来上がった数字を見るのでは世界が違う。ExcelとPowerPointは最低限おさえておくべき」と言っていました。これは10年以上前の話ですが、いまも変わりません。
対策は、転職前に短期のインターン・副業・業務委託で実務を覗くことです。2026年は副業や業務委託からのお試し入社が一般的になっています。詳しくは副業・業務委託からのスタートアップ転職ガイドを参照してください。銀行は副業禁止のところが多いので、その場合は簿記の勉強と、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計を個人で触っておくだけでも面接での説得力が変わります。
なぜ「銀行員の転職は若いうちに」なのか
2019年の記事から一貫して書いていることですが、銀行からベンチャー・スタートアップへの転職を考えているなら、早ければ早いほど良いです。三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、地銀、信用金庫の20代の方から相談を受けたときは、迷っているなら動いたほうがいいと伝えています。理由は3つです。
①銀行の評価は「年次」、ベンチャーの評価は「実績」
銀行で5年目と8年目の差は、年次の差です。ベンチャーでの5年目と8年目の差は、実績の差です。銀行に長くいるほど「銀行の年次」は積み上がりますが、ベンチャー側から見た評価はほとんど上がりません。30代で本店企画部門にいる方以外は、年次の割に評価されない、という事態が起こります。
②キャッチアップ力と馬力
スタートアップの環境に適応するには、新しいツール・スピード・曖昧さに慣れる必要があります。若いほど適応が早いのは単純な事実です。
③年収ダウンを取り返せる時間
20代で100万円下がっても、30代前半で取り返せます。37〜39歳で初めてベンチャーに転職する場合、年収ダウンを取り返す前に、家族・住宅ローンの制約が先に来ます。既婚者の方は既婚者のベンチャー転職ガイドも参考にしてください。
ただし「若いうちに」は「焦って」ではありません。銀行に3年いて法人営業の基礎を身につけてから動いた人と、1年目で辞めた人では、前者のほうが選べる職種が広いのも事実です。年代別の考え方は年齢別転職ガイドにまとめています。
銀行からベンチャーCFOは狭き門——デットとエクイティの違い
「CFOになりたい」という銀行員の方は多いのですが、簡単な道ではありません。理由は、スタートアップの資金調達の主流がエクイティ(株式)だからです。
私自身もベンチャー投資をしていますが、大型上場を目指すスタートアップはVCから株式で資金を集めます。この場合、CFOに求められるのはエクイティストーリーを描き、投資家に説明し、資本政策を設計する力で、投資銀行・証券会社出身者か、会計士・経理財務あがりの管理部長が候補になりやすい。銀行員の強みであるデット(借入)の知識は、この場面では主役になりません。
一方で、銀行員のニーズがはっきりある領域もあります。
- デットが必要な事業。不動産テック、飲食・小売の多店舗展開、リース・ファイナンス系、製造業系ベンチャー。借入で成長する会社では、銀行と有利な条件で交渉できる人が経営に直接効きます。
- ベンチャーデットの拡大。2024年以降、シリーズB以降のスタートアップが銀行借入や新株予約権付融資を組み合わせるケースが増えています。「銀行がスタートアップにどう貸すか」を内側から知っている人の価値は上がっています。
- IPO準備の管理部門。上場準備で監査法人・証券会社・銀行と同時に折衝する場面では、銀行員の正確さと折衝力が活きます。
私が支援した金融機関出身のCFOの方も、デットファイナンスで銀行と調整して低金利で資金を調達し、事業拡大に貢献していました。ルートとしては「経理財務・経営企画で入社→管理部長→CFO」が王道で、いきなりCFOではありません。詳しくはスタートアップCFO転職ガイドとベンチャーCFO転職の甘い罠と苦い現実、CxOキャリア全体はCXO転職ガイドをご覧ください。
銀行出身の起業家・経営者は多い
銀行員で起業を志望している方にもよく会います。銀行出身の起業家・経営者は、一見縁遠いようで実は多い。
- 三木谷浩史さん(楽天グループ)——日本興業銀行(現みずほ銀行)出身
- 出雲充さん(ユーグレナ)——東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)出身
- 松田公太さん(タリーズコーヒージャパン創業者)——三和銀行(現三菱UFJ銀行)に約7年勤務して起業
- 南章行さん(ココナラ創業者)——住友銀行(現三井住友銀行)出身
- 田島聡一さん(ジェネシア・ベンチャーズ)——さくら銀行(現三井住友銀行)出身
- 石坂茂さん(IBJ)——日本興業銀行(現みずほ銀行)出身
私の友人にも、メガバンクを1年で辞めて起業した社長がいます。彼が言っていたのは「わずか1年でも、資金調達のときに投資家が『銀行にいたなら会計と資金繰りはわかっているだろう』と安心してくれる」ということでした。私も投資家として若手起業家を見るとき、経験の少なさへの不安が先に立ちますが、銀行出身と聞くとその不安がひとつ減るのは確かです。実際の経験以上に「銀行出身」という信用が使える。これは起業だけでなく、スタートアップの管理部門に転職するときも同じです。
銀行員がベンチャー・スタートアップに転職する7ステップ
ステップ1:スキルの棚卸し——「銀行の看板」を外して残るもの
銀行の経験がそのまま活きるわけではないことは、企業側もわかっています。だからこそ、「融資に関わったなら、自分が借りる側になったときにどうすれば銀行から有利な条件で借りられるか」「法人営業でオーナー社長とどう関係を作ったか」「1円の誤差も出さない仕組みをどう回したか」を、ベンチャーで使える言葉に翻訳してください。銀行から有利な条件で資金を引く方法を経営者に語れる人を、欲しいと思わない経営者はいません。
ステップ2:時期を決める——ボーナス・住宅補助・退職金の確認
銀行は賞与の支給日在籍要件、社宅・住宅補助、退職金の勤続年数条件が細かく決まっています。何月に辞めるといくら損するかを先に計算しておきましょう。転職とボーナス完全ガイドと転職のお金と手続き完全ガイドを参照してください。
ステップ3:情報収集——ベンチャーに強いエージェントとスカウトを併用
銀行員の方は、総合型エージェントに登録して「金融→金融」の求人ばかり紹介される、というケースが本当に多い。ベンチャー・スタートアップに行きたいなら、その領域に特化したエージェントを必ず1社は入れてください。エージェントの選び方は転職エージェント選び方ガイドにまとめています。
ステップ4:職務経歴書——数字と「決めた経験」を書く
「法人営業として中堅中小企業○社を担当」では弱い。「担当先○社、融資残高○億円、新規開拓○件、表彰○回」と数字で書き、さらに「自分の判断で提案した案件」を1つ入れる。ベンチャーの経営者が見たいのは、指示されたことをやった実績ではなく、自分で考えて動いた実績です。書き方はベンチャー転職の職務経歴書完全ガイドを参照してください。
ステップ5:面接——「なぜ銀行を辞めるのか」に前向きな答えを用意する
必ず聞かれます。「銀行の将来性が不安」だけでは、この記事の冒頭のデータのとおり、銀行の年収は上がっているので説得力が弱い。「銀行で経営者と向き合う中で、貸す側ではなく事業を作る側に回りたくなった」「稟議で決まる環境ではなく、自分で決めて責任を取る環境に身を置きたい」というように、銀行で得たものを踏まえた前向きな理由にしてください。ベンチャー面接の頻出質問はベンチャー転職の面接対策にまとめています。
ステップ6:オファー比較——年収だけでなくSOと役割を見る
年収が100万円下がっても、SOが付いて、2年後に管理部長になれる道筋があるなら、銀行に残るより期待値は高い場合があります。オファー面談で確認すべき項目はベンチャー転職のオファー面談・条件交渉完全ガイド、SOの見方はストックオプション(SO)完全ガイドを参照してください。
ステップ7:退職交渉と入社90日
銀行は辞めるのが大変です。上司・人事の引き止めは強く、「銀行員だと思って結婚した」というパートナーから「何言ってるの?」と言われた、という話も本当によく聞きます。家族への伝え方は転職を家族に相談する完全ガイド、入社後の立ち上がり方は転職後の最初の90日 完全ガイドにまとめています。
銀行員がベンチャーに転職するメリット・デメリット
メリット
- 20代で裁量と決断の打席が回ってくる。稟議ではなく、自分で決める経験が積める。
- 成果が報酬に反映される。年次ではなく実績で年収が動く。SOで資産形成の可能性がある。
- マネジメント経験が早い。20代で5〜30人を見る機会がある。銀行では30代後半まで回ってこない。
- 「事業を作る側」に回れる。貸す側・見る側から、作る側へ。
- 転勤がない。働き方の自由度が上がる。
- 銀行への出戻りも現実的になった。3メガバンクの中途採用は5年で5.7倍。一度出たら戻れない時代ではない。
デメリット
- 年収は一時的に下がることが多い。20代で100万〜150万円、30代で150万〜300万円下がるケースがある。
- 福利厚生が薄い。社宅・住宅補助・企業年金・退職金が無くなる影響は、額面以上に大きい。
- 「銀行の看板」が消える。社名で開いていたドアが閉まる。
- 研修がない。自分で取りに行かないと何も教えてもらえない。
- 会社が無くなるリスクがある。フェーズと資金調達の状況次第。見極め方はベンチャー企業の選び方・見極め方を参照。
- 周囲の反対。親・配偶者・上司からの引き止めは、他の業界からの転職より強い。
向いている人・向いていない人
向いている銀行員
- 環境のせいにせず、自分でどうにかしようとする人。銀行からの転職で成功している人は例外なくこのタイプです。
- 法人営業で経営者と向き合い、「この会社をこうしたら伸びる」と考えたことがある人
- ノルマ達成の再現性を、自分の言葉で説明できる人
- 銀行の「正確さ」は残しつつ、「全員の判子をもらう」文化は捨てられる人
- 年収が一時的に下がっても、3年後の期待値で判断できる人
向いていない銀行員
- 「銀行が嫌だから」だけで、行きたい理由がない人
- マニュアルと研修がないと動けない人
- 年収・福利厚生の水準を絶対に落とせない人(住宅ローンや家族の事情で落とせない場合は、時期を見直したほうがいい)
- 「CFOになれるなら」という条件付きの人(いきなりCFOはほぼありません)
- 「ベンチャーなら楽そう」と思っている人(銀行より忙しい会社のほうが多い)
年代別・銀行員の転職戦略
20代前半(入行1〜3年目)
第二新卒・ポテンシャル採用の枠で、職種を選べる幅が一番広い時期です。営業・BizDev・カスタマーサクセスなど、銀行の経験に縛られない職種にも行けます。ただし、1年未満で辞めると「銀行の経験」自体が評価されにくいので、最低でも法人営業の基礎を一通り経験してからのほうが有利です。
20代後半(入行4〜7年目)
もっとも評価が高いゾーン。法人営業の実績、与信判断、経営者との折衝経験が揃っていて、まだ年収も上がりきっていない。経理財務・経営企画・BizDev・エンタープライズ営業のどれにも行けます。CFO候補として管理部門に入るなら、ここが最後のチャンスと考えてください。
30代前半
本店の企画・審査・市場部門の経験があれば、即戦力として評価されます。支店の営業だけの場合は、マネジメント経験(係長・課長代理として何人を見たか)を強調してください。年収ダウンの幅は大きくなるので、SOや役職の道筋込みでオファーを判断する必要があります。
30代後半〜40代
正直に言うと、初めてのベンチャー転職は難易度が上がります。狙うなら、①デットが必要な事業のCFO・財務責任者、②フィンテックのコンプライアンス責任者、③IPO準備企業の管理部長、のように銀行の専門性がそのまま役職に直結するポジションに絞ってください。「なんとなくベンチャー」は40代では通用しません。
失敗パターン8つ
- 「銀行が嫌だ」だけで動く。行きたい理由がないと、面接で見抜かれ、入っても続きません。
- いきなりCFOを狙う。投資銀行・会計士と競合して負けます。経理財務・経営企画から入るのが王道です。
- 「銀行の看板」が通用すると思っている。辞めた瞬間にドアは閉まります。
- 手を動かせないまま経理財務に入る。「知識はあるが実務ができない」で3ヶ月で苦しくなる。事前に簿記とクラウド会計を触っておく。
- 年収だけでオファーを比較する。SO・役職の道筋・フェーズを見ずに、年収が一番高い会社を選んで後悔する。
- 判子文化を持ち込む。全員の承認を取ってから動こうとして、「遅い」と評価される。銀行の良い習慣(正確さ)は残し、不要な習慣(承認待ち)は捨てる。
- 家族に事後報告する。銀行員の配偶者は「安定」を前提にしていることが多い。決める前に相談する。
- 会社を見極めずに入る。資金調達の状況、経営者の経歴、離職率を確認しない。銀行員なら与信の目を自分の転職先にも向けてください。ベンチャー転職 失敗・後悔ガイドも参考に。
よくある質問(FAQ)
Q1. 銀行員はベンチャー・スタートアップで通用しますか?
通用します。ただし「銀行員として」ではなく、「経営者と話せる」「数字が読める」「デットがわかる」「正確に完遂できる」「金融規制の実務を知っている」という個別のスキルとして評価されます。看板ではなく中身を言語化してください。
Q2. 年収はどれくらい下がりますか?
20代で100万〜150万円、30代で150万〜300万円下がるケースが多いです。ただし営業職はインセンティブで上振れ、管理部門はSO付与で中長期の期待値が上がります。私の実感では、20代で動いた人は30代前半で銀行時代の年収を超えていることが多いです。
Q3. 銀行を辞めるベストなタイミングは?
キャリアの観点では入行4〜7年目。お金の観点では、賞与支給日を過ぎ、退職金の勤続年数条件(多くは3年)を超えたあと。両方を満たすのが20代後半です。
Q4. 銀行からベンチャーCFOになれますか?
いきなりは難しいです。エクイティ調達が主流のスタートアップでは、投資銀行・会計士出身者が優先されます。デットが必要な事業(不動産・多店舗・製造)か、経理財務・経営企画から入って管理部長→CFOを目指すルートが現実的です。
Q5. 地銀・信用金庫出身でも大丈夫ですか?
大丈夫です。むしろ地域のオーナー企業と深く付き合っている経験は、BizDevやエンタープライズ営業で評価されます。地方のスタートアップ、地銀系のVC・CVC、地方創生系の事業会社は、地銀出身者を積極的に採っています。ただし、東京のスタートアップに行く場合はメガバンク出身者との比較になるので、担当先の規模や実績を数字で示してください。
Q6. 一度ベンチャーに出たら、銀行には戻れませんか?
以前はそう言われていましたが、3メガバンクの中途採用は2025年度計画で1,170人、5年前の5.7倍です。デジタル・フィンテック・リスク管理などの領域では、外で経験を積んだ人を銀行が採り始めています。出戻りの考え方は出戻り転職ガイドを参照してください。
Q7. 資格は何が有利ですか?
経理財務なら簿記2級以上(1級・会計士があれば圧倒的に有利)、フィンテックのコンプラなら銀行での実務経験そのものが資格より重視されます。証券アナリスト・FP・中小企業診断士は、無いよりはいい程度で、決定打にはなりません。資格より実績です。
Q8. 副業でスタートアップを試すことはできますか?
銀行は副業禁止・許可制のところが多く、現実的には難しいケースが多いです。その場合は、簿記の勉強、クラウド会計ツールを個人で触る、スタートアップのイベントに参加して経営者と話す、といった方法で「向いているか」を確かめてください。
Q9. 面接で「なぜ銀行を辞めるのか」にどう答えればいいですか?
「将来性が不安」だけでは弱いです。銀行の年収は上がっているので、「銀行で経営者と向き合ううちに、貸す側から作る側に回りたくなった」「稟議で決まる環境ではなく、自分で決めて責任を取りたい」という、銀行で得たものを起点にした前向きな理由にしてください。
Q10. どのフェーズのスタートアップが銀行員に向いていますか?
経理財務・経営企画で入るなら、管理部門が固まり始めるシリーズA後半〜Bが入りやすく、IPO準備期(シリーズC〜)は銀行員の正確さと折衝力が最も評価されます。営業・BizDevなら、フェーズは問いません。フェーズごとの違いはスタートアップのフェーズ別転職ガイドを参照してください。
まとめ——転職相談が第一歩
銀行の年収は上がり、それでも人は辞めている。銀行自身が中途採用を5.7倍に増やし、一度出た人を採るようになった。2026年の銀行員にとって、ベンチャー・スタートアップへの転職は「思い切った決断」ではなく、キャリアの選択肢のひとつになっています。
ただ、銀行員がベンチャーで成功するかどうかは、銀行の看板ではなく、環境のせいにせず自分でどうにかしようとする気概があるかで決まります。銀行時代の良い習慣(正確さ・完遂力・経営者との向き合い方)は残し、必要ないもの(判子・承認待ち)は捨てる。それができる人には、ベンチャーは銀行より広い打席を用意しています。
キープレイヤーズでは、銀行員の方が実際に転職している企業、大々的には募集していないスタートアップの管理部門・BizDevの求人まで、面談の中で具体的にお話しできます。「同期が転職しているから」ではなく、自分の意思でベンチャー・スタートアップを考え始めた方は、ぜひ一度ご相談ください。


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