こんにちは、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を27年続けているキープレイヤーズの高野秀敏です。東北大学の特任教授(客員)も務めており、大学発スタートアップの経営者の方とお話しする機会が増えています。
そこで必ず出てくる相談があります。「技術は自信がある。でも、人を採るのがこんなに難しいとは思わなかった」
これは能力の問題ではありません。構造の問題です。経済産業省の調査を見ると、その理由がはっきり数字に出ています。
この記事では、大学発スタートアップの経営者が最初に詰まるところを、公表データと私がご相談を受けてきた実感の両方から整理します。経営者の方に向けて書きますが、これから入ろうとしている方にも、会社の内情を知る材料になると思います。
この記事でわかること
- 大学発ベンチャーは6,220社。企業数も増加数も過去最高という現状
- CEOの最終経歴で最も多いのが「大学の教職員・研究者」である意味
- 1人目の採用でつまずく典型的なパターン
- CTOとVPoEを取り違えると何が起きるか
- 博士を採りたいのに採れない理由(経産省の調査から)
- 顧問や社外役員を、いつ、どう使うか
大学発ベンチャーは6,220社。増加数も過去最高

まず現状です。経済産業省が2026年6月12日に公表した「令和7年度大学発ベンチャー実態等調査」の速報によると、2025年10月末時点の大学発ベンチャー数は6,220社。2024年度に確認された5,074社から1,146社増え、企業数・増加数ともに過去最高を更新しました。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 大学発ベンチャー数(2025年10月末時点) | 6,220社 |
| 前年度(2024年度調査) | 5,074社 |
| 増加数 | 1,146社(増加数も過去最高) |
1年で1,146社です。毎日3社以上、どこかの大学から会社が生まれている計算になります。
そして、ここからが本題です。これだけ生まれているのに、経営と採用のノウハウが共有されていません。研究の世界には論文という共有の仕組みがありますが、「1人目をどう採ったか」を書き残す人はほとんどいない。
CEOの最終経歴で最も多いのは「大学の教職員・研究者」

同じ調査に、経営人材についての分析があります。
大学発ベンチャーのCEOが、CEOになる前の最終経歴として最も多いのは「大学・公的研究機関の教職員・研究者」でした(n=495)。経産省は「依然としてアカデミア出身者がCEOとなるケースが多い」としています。
この1行が、すべてを説明していると私は思っています。
つまり、採用をやったことがない人が、採用の責任者をやっている。これは本人の能力とは関係ありません。研究者としてどれだけ優秀でも、求人票を書いた経験も、オファーを出した経験も、人が辞めるのを見た経験もないのが普通です。
私がご相談を受けていて感じるのは、多くの経営者がこれを「自分の努力不足」だと捉えてしまっていることです。そうではありません。初めてやることが、いきなりうまくいくほうがおかしい。
最初に詰まるのは「1人目の採用」

具体的に、どこで詰まるのか。いちばん多いのは1人目です。
| よくあるつまずき | 何が起きるか | 対処 |
|---|---|---|
| 研究室の後輩を誘う | 気心は知れているが、同じ強みの人が増えるだけで弱点が埋まらない | 自分にない能力を持つ人を1人目にする |
| 「一緒に夢を」で口説く | 志に共感する人は来るが、実務が回らない | 志は前提。そのうえで何ができる人かを見る |
| 役職を先に決めてしまう | CTOと名乗ってもらったが、実態は1人目のエンジニアだった | 最初は役職を付けない。実績が出てから付ける |
| 条件を曖昧にする | ストックオプションの話を口頭で済ませ、後で揉める | どんなに親しくても書面にする |
| 採用を後回しにする | 技術開発に集中しているうちに、資金調達の条件に人員計画が入ってくる | 調達の前から候補者と会っておく |
3行目は特に多いです。創業期に「CTO」という肩書きを気前よく出してしまい、会社が大きくなったときに身動きが取れなくなる。本人に悪気はなく、経営者にも悪意はない。ただ、後から役職を下げるのは、ほぼ不可能です。
私がお伝えしているのは、創業期は「役職ではなく役割で合意する」ということです。肩書きは、組織が20人を超えたあたりで初めて意味を持ちます。
CTOとVPoEを取り違える

もう少し先の段階で起きるのが、この取り違えです。
| CTO | VPoE | |
|---|---|---|
| 見るもの | 技術の方向性、アーキテクチャ、技術的な意思決定 | 組織、採用、評価、people management |
| 解く問題 | 「何を作るか」「どう作るか」 | 「誰が作るか」「どう増やすか」 |
| 大学発で不足しがち | 創業者自身が担えることが多い | ほぼ空白になっている |
大学発スタートアップでは、技術のトップは創業者本人か、研究室の仲間が担えます。足りないのは、人を増やして回す側です。
それなのに「CTOを探しています」というご相談が多い。よく聞いていくと、必要なのはVPoEであることが珍しくありません。ここを取り違えると、採用に半年かけて、来た人が合わないということが起きます。
職種の違いと採り方についてはCxO転職・経営幹部キャリアのガイドにも整理しています。
博士を採りたいのに採れない理由

経産省の調査には、もうひとつ示唆的なデータがあります。
大学発ベンチャーは博士号取得者の在籍割合が高いのが特徴で、技術分野別に見ても一般企業の研究職より高い。そのうえで、今後採用する博士号取得者に求める人材像(複数回答、n=360)として最も多く挙げられたのは「アカデミアで研究をおこなっていた者」でした。
ただし同時に、「ベンチャー企業での勤務経験のある者」「ベンチャー企業以外の企業での勤務経験のある者」も多く挙げられています。経産省は「企業経験のある博士号取得者を求める声も多い」としています。
ここに難しさがあります。アカデミアの研究力と、企業での実務経験。この両方を持つ博士は、絶対数が少ない。6,220社が同じ層を取り合っている構図です。
| 打ち手 | 内容 |
|---|---|
| 両方を1人に求めない | 研究力の人と、実務の人を分けて採る |
| 企業側の言葉に翻訳する | 「当社の研究テーマ」ではなく「どんな課題をどう解くか」で書く |
| 兼業・副業から入ってもらう | いきなり転籍は重い。週1日から関係を作る |
| 学会と研究会に出続ける | 求人サイトには出てこない層。会いに行くしかない |
3行目は実際に効きます。大学の研究者にとって、スタートアップへの完全移籍は人生の決断です。いきなり口説くより、共同研究や週1日の関与から始めたほうが、結果的に早いことが多い。
希薄化しない資金を、どう組み合わせるか

採用の話をしてきましたが、人を採るには原資が要ります。ここで大学発スタートアップには、他の業種にない選択肢があります。
経産省の同じ調査で、大学発ベンチャーの創出・増加に重要な取組として最も多く挙げられたのが「政府などのエコシステム整備・支援(助成金・外部資金拡充など)」でした(複数回答、n=527)。次が「産学連携・共同研究等の推進」です。経営者自身が、公的資金の重要性を最上位に置いているということです。
実際、使える枠は広がっています。
| 制度 | 規模・内容 |
|---|---|
| 宇宙戦略基金 | 総額1兆円規模を目指す。令和5年度補正3,000億円、令和6年度補正3,000億円、令和7年度補正2,000億円。第三期は全19テーマ |
| 安全保障技術研究推進制度 | 令和3年度よりSBIR制度の指定補助金等。研究成果の公表制限はなく、知財は受託者に帰属させることが可能 |
| 防衛省版SBIR | 令和8年度から防衛省で開始。複数企業と同時契約し早期装備化を図る |
| スタートアップ技術提案評価方式 | 公募から契約締結まで約3か月半。スタートアップには大幅な加点 |
経営の観点で大事なのは、これらが株式を希薄化させない資金だということです。エクイティで調達すれば持分が減りますが、委託費や補助金は減りません。
一方で、注意点もあります。公的資金は使途と報告の縛りが強く、管理の工数がかかります。専任の担当がいないまま複数の制度を並行すると、研究よりも報告書に時間を取られます。実際、大学発スタートアップの求人に「補助金管理・運用」の職種が出てくるのは、この負荷が理由です。
私がお伝えしているのは、3件目の採択あたりで、管理できる人を1人入れてくださいということです。それまでは経営者が兼務できますが、そこを超えると回らなくなります。
地方での創業が6割になった

調査からもうひとつ。
前年度から増加した1,146社のうち、海外に所在するもの等を除く1,093社について、約60%(656社)が東京都以外で創業されています。前々年度から前年度の増加分では約54%でしたから、地方の割合が上がっています。
これは採用にとって、有利にも不利にも働きます。
| 内容 | |
|---|---|
| 不利な面 | 東京の候補者に移住を求めることになる。家族の事情で断られる |
| 有利な面 | Uターン・Iターン層に強く刺さる。東京の求人と競合しにくい |
| 実務上の対処 | 引越し支援・住宅補助の有無を明示する。フルリモート可の職種を切り出す |
私の実感として、地方拠点を不利だと思い込んでいる経営者ほど、求人票でそれを隠そうとします。逆です。「仙台で宇宙機を作る」「福岡で衛星を作る」と正面から出したほうが刺さります。実際にどんな求人が出ているかはディープテックの社員求人にまとめました。
採用できる会社と、できない会社の差
最後に、同じ技術・同じ規模でも採用に差が出る理由を書いておきます。私がご相談を受けていて、違いが出るのは次の点です。
| 採用できる会社 | できない会社 |
|---|---|
| 求人票に「何を解くか」が書いてある | 研究テーマの説明で終わっている |
| 経営者が候補者と直接会う時間を確保している | 最終面接まで出てこない |
| 選考が2〜3週間で終わる | 研究が忙しく、返事が1か月空く |
| 条件を最初に提示する | 「相談しましょう」で曖昧なまま進む |
| 地方拠点を前面に出す | 勤務地を小さく書く |
| 断る理由を聞いている | 断られた理由を知らない |
いちばん効くのは3行目です。ディープテックの候補者は、他社の選考も同時に受けています。返事が1か月空けば、その間に決まります。技術の優位性では、この遅れは取り返せません。
そして6行目。断られた理由を聞いていない会社が、本当に多い。給与なのか、勤務地なのか、事業の説明が伝わらなかったのか。ここを集めないと、何度やっても同じところで落とします。
断られたときこそ、「差し支えなければ、決め手を教えてください」と聞いてください。多くの方は答えてくれます。それが次の採用で効きます。
顧問や社外役員を、いつ、どう使うか

最後に、外部の人をどう使うかの話をします。
大学発スタートアップの経営者とお話ししていて感じるのは、相談相手がいないまま走っている方が多いということです。研究の相談はできても、「この人にいくらのオファーを出すべきか」を聞ける相手がいない。
| フェーズ | 外から入れるとよい機能 |
|---|---|
| 創業〜数名 | 1人目の採用の設計。役職と条件の決め方でつまずくと後が重い |
| 10名前後 | 評価と報酬の枠組み。ここを作らずに増やすと、必ず不公平感が出る |
| 20〜30名 | VPoEや管理部門の責任者。経営者が採用に使える時間がなくなる頃 |
| 資金調達の前 | 人員計画の妥当性。投資家は「その計画で採れるのか」を見ている |
顧問を入れるかどうかの判断は、「自分が採用に使っている時間が、研究開発を圧迫し始めたとき」が目安だと思っています。経営者が候補者と会うこと自体は必要なのですが、求人票を書く、媒体を選ぶ、エージェントを管理する、といった作業まで抱えると、本業が止まります。
私自身、これまで30社以上で顧問や社外役員を務め、80社以上にエンジェル投資をしてきました。東北大学発のスタートアップにはシード期から出資している例もあります。技術は分からなくても、人の採り方と組織の作り方なら、先に失敗した例をたくさん知っています。
よくある質問
Q1. 創業期に役職を付けないと、優秀な人が来ないのでは
役職で来る人は、役職で去ります。創業期に効くのは、事業の中身と、意思決定への関与度です。どうしても必要なら「暫定」と明示し、いつ正式に決めるかを合意しておいてください。後から下げるのは、ほぼ不可能です。
Q2. 研究者の採用は、エージェントを使うべきですか
層によります。アカデミアに在籍している方は、求人サイトにもエージェントにも登録していません。学会、研究会、共著者のネットワークから当たるほうが確実です。一方で、企業での実務経験がある博士はエージェント経由で動くこともあります。
Q3. ストックオプションはいつ、どう出せばいいですか
創業期ほど慎重に設計してください。口頭で「株を渡す」と言ってしまい、後で揉める例を何度も見ています。割合、ベスティング、退職時の扱いを必ず書面にしてください。報酬設計全般は年収・報酬・SOのまとめにまとめています。
Q4. CTOとVPoE、先に採るならどちらですか
創業者が技術のトップを担えるなら、先に必要なのはVPoEであることが多いです。人を増やして回す機能が空白になりがちだからです。ただし会社によるので、まず「いま解けていない問題は何か」から逆算してください。
Q5. 地方拠点だと、採用で不利ですか
一概に不利とは言えません。経産省の調査では、増加分の約60%が東京都以外での創業です。東京の求人と直接競合しないぶん、応募者あたりの決定率は上がることがあります。隠さず前面に出したほうが効きます。
まとめ|能力の問題ではなく、経験の問題です
この記事でお伝えしたかったのは3点です。
1つめ、大学発ベンチャーは6,220社まで増え、1年で1,146社生まれていること。企業数も増加数も過去最高です。
2つめ、CEOの最終経歴で最も多いのが「大学・公的研究機関の教職員・研究者」であること。つまり、採用をやったことがない人が採用の責任者をやっているのが標準です。これは能力ではなく経験の問題なので、外から補えます。
3つめ、つまずく場所はだいたい決まっていること。1人目の役職、CTOとVPoEの取り違え、博士に両方を求めること、地方拠点を隠すこと。先に知っていれば避けられます。
キープレイヤーズでは、21年にわたりベンチャー・スタートアップの採用支援と転職支援を行ってきました。私自身が30社以上で顧問・社外役員を務め、80社以上にエンジェル投資をしています。東北大学の特任教授(客員)として、大学発スタートアップにも関わっています。
「このポジションに、いくらのオファーを出すべきか」「CTOとVPoE、どちらを先に採るべきか」といった個別のご相談も承っています。採用の実行までお手伝いすることも、月次の顧問として伴走することもできます。まずは状況を伺うところからで構いませんので、お問い合わせください。
情報収集から始めたい方には、オンラインサロンもご用意しています。
出典
- 経済産業省「令和7年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報)」2026年6月12日 — 2025年10月末時点で6,220社、前年度5,074社から1,146社増(企業数・増加数とも過去最高)、CEOの最終経歴(n=495)、博士号取得者に求める人材像(n=360)、増加分1,093社のうち約60%(656社)が東京都以外での創業
※調査は各大学および大学発ベンチャーから提出された回答等に基づく速報値です。最新の情報は経済産業省の公表資料をご確認ください。

