転職のオファーレター・労働条件通知書・雇用契約書の見方完全ガイド【2026年最新】3つの書類の違いと法的効力、2024年4月改正で追加された「変更の範囲」、求人票と実際が違う申出3,297件(賃金20.2%)のデータ、みなし残業・試用期間・SO・競業避止のチェック15項目、条件が違ったときの対処法を高野秀敏が解説

執筆者:高野秀敏
株式会社キープレイヤーズ/代表取締役
東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、12,000人以上のキャリア面談、4,000人以上の経営者と採用相談にのる。80社以上の投資、9社上場経験あり、2社役員で上場、クラウドワークス、メドレー。178社上場支援実績あり。顧問、アドバイザー、社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上。「ベンチャーの作法」ダイヤモンド社5万部を超えるベストセラー

こんにちは、ベンチャー・スタートアップ・CxO転職の支援をしているキープレイヤーズの高野秀敏です。約25年、経営者・CxO・幹部人材の転職を1,000人以上伴走し、その何倍ものオファーレターと雇用契約書を候補者と一緒に読んできました。

「内定が出た!」の次に届くのが、オファーレター(内定通知書・採用条件通知書)、そして労働条件通知書や雇用契約書です。ところが、この書類をきちんと読まずにサインしてしまう方が驚くほど多い。「年収は口頭で聞いた額と同じだったので大丈夫だと思った」「みなし残業が45時間含まれているのを入社後に知った」「『就業場所:会社の定める場所』と書いてあり、フルリモートの約束が書面にはなかった」——こういう相談が、私のところには毎月のように来ます。

数字でも裏付けられています。厚生労働省の集計では、ハローワークの求人票と実際の労働条件が違うという申出は令和6年度だけで3,297件、内訳の1位は「賃金」20.2%、2位「就業時間」14.4%、3位「職種・仕事の内容」12.9%。これはハローワーク経由の求人だけの数字で、民間の転職サイト・エージェント経由の分は含まれていません。

この記事では、オファーレター・労働条件通知書・雇用契約書の3つの違いと法的効力、法律で明示が義務づけられている項目、2024年4月の改正で追加された「変更の範囲」の読み方、サイン前に確認すべき15項目、ベンチャー・スタートアップ特有の注意点(SO・年俸制・裁量労働・競業避止)、そして「書いてあることと違った」ときの対処法までを整理します。

この記事でわかること

  • オファーレター・労働条件通知書・雇用契約書の違い——発行義務・署名の要否・法的効力
  • 労働基準法15条で明示が義務づけられた項目と、2024年4月改正で追加された4つの事項
  • 求人票と実際が違う申出3,297件の内訳と、「入社後ギャップ87%」のデータ
  • サイン前に確認すべき15項目——固定残業代・試用期間・就業場所の変更範囲・賞与の在籍要件・SO・競業避止
  • ベンチャー・スタートアップ・CxOで特に注意すべき書類の落とし穴
  • 内定からサインまでの7ステップ、条件が違ったときの対処法、失敗パターン7つ、年代別アドバイス、FAQ 8問
目次

結論:転職のゴールは「内定」ではなく「条件を書面で確認して合意する」こと

先に結論をまとめます。

  • 口頭やオファー面談で聞いた条件は、書面に落ちていなければ「ないもの」と考える。年収、役職、リモート勤務、SO、入社後のミッション——すべて書面で確認します。
  • 労働条件通知書の交付は法律上の義務(労働基準法15条)で、雇用契約書は義務ではない。ただし実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」として1枚にまとめ、双方が署名する形が主流です。
  • オファーレターは「内定通知」であり、法的には労働契約の成立(始期付解約権留保付労働契約)を意味する。承諾した時点で契約は成立しているため、オファーレターの内容と後から届く通知書の内容が違えば、その場で指摘する権利があります。
  • 2024年4月からは「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が義務化された。「転勤なし」「職種限定」の約束は、この欄を見れば書面で確認できます。
  • 書かれた条件と実際が違えば、労働基準法15条2項により即時に契約を解除できる。ただし、そうなる前に入社前の書面確認で防ぐのが本筋です。

私が候補者に必ず言うのは、「サインするまでが転職活動、サインしたら入社準備」ということです。オファー面談での条件交渉はベンチャー転職のオファー面談・条件交渉完全ガイドで詳しく書きましたが、この記事はその「次」、届いた書類をどう読むかの話です。

オファーレター・労働条件通知書・雇用契約書——3つの書類の違い

まず、転職で受け取る3種類の書類の違いを整理します。名前が似ているうえに、会社によって呼び方も運用も違うので、混乱しやすいところです。

書類 別名 発行義務 署名 法的な位置づけ 受け取るタイミング
オファーレター 内定通知書、採用条件通知書、採用内定通知書 法律上の義務なし(企業の任意) 承諾書に署名を求められることが多い 内定=労働契約の成立(始期付解約権留保付労働契約)。承諾すれば契約成立 最終面接通過後〜オファー面談後
労働条件通知書 雇入通知書、労働条件明示書 義務あり(労働基準法15条1項)。違反は30万円以下の罰金 不要(会社から労働者への一方的な通知) 会社が「この条件で雇う」と明示する書面。契約書ではないが、内容は労働契約の内容になる 労働契約の締結時(実務では内定承諾後〜入社日)
雇用契約書 労働契約書、労働条件通知書兼雇用契約書 法律上の義務なし(労働契約法6条:契約は合意で成立し、書面は要件ではない) 会社と労働者の双方が署名・押印 双方が合意した証拠。トラブル時に最も強い 入社前〜入社日

ポイントは3つです。

  1. 労働条件通知書は必ずもらえる。労働基準法15条で会社に交付義務があります。「まだもらっていない」なら、入社前に必ず請求してください。なお2019年4月からは、労働者が希望した場合に限り、FAX・メール・SNSなどの電子交付も認められています(PDFで届くのはこのためです)。
  2. 雇用契約書は義務ではないが、あるほうが安全。「通知書」は会社からの一方通行ですが、「契約書」は双方が署名した合意の証拠になります。実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」として1枚にまとめ、双方が署名する形が最も多いです。
  3. オファーレターは「軽い書類」ではない。内定は法的には労働契約の成立です(大日本印刷事件・最高裁1979年7月20日判決)。承諾した内容と、後から届く通知書の内容が違えば、契約違反として指摘できます。内定の法的効力と取り消しについては転職の内定取り消しは違法?口頭内定の効力と対処法で詳しく書いています。

法律で明示が義務づけられている労働条件——絶対的明示事項と相対的明示事項

労働条件通知書に何が書かれていなければならないかは、労働基準法15条と労働基準法施行規則5条で決まっています。「必ず書面で明示しなければならない項目(絶対的明示事項)」と「制度がある場合に明示しなければならない項目(相対的明示事項)」の2種類があります。

区分 項目 転職者が見るべきポイント
絶対的明示事項
(必ず書面で明示)
① 労働契約の期間 「期間の定めなし」か「有期」か。正社員なのに有期になっていないか
② 有期契約の更新の基準・更新上限(2024年4月〜) 有期の場合、更新の有無と上限回数・年数
③ 就業場所・業務内容と、それぞれの変更の範囲(2024年4月〜) 転勤の可能性、職種変更の可能性がここでわかる(後述)
④ 始業・終業時刻、所定外労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制 所定労働時間、フレックス・裁量労働の有無、年間休日数
⑤ 賃金の決定・計算・支払方法、締切日・支払日 基本給と手当の内訳、固定残業代の有無・時間数・金額
⑥ 昇給に関する事項 昇給の時期・基準(※昇給のみ書面でなく口頭でも可)
⑦ 退職に関する事項(解雇の事由を含む) 定年、自己都合退職の手続き、解雇事由
相対的明示事項
(制度があれば明示)
退職手当(退職金)の有無・計算方法 退職金制度の有無、勤続年数の条件
臨時の賃金・賞与 賞与の有無、支給基準、支給日在籍要件
安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職 休職制度の有無と期間
労働者負担の食費・作業用品など 制服代・機材代などの自己負担

出典:労働基準法15条、労働基準法施行規則5条、厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更」パンフレットをもとに作成。

通知書にこれらの項目が欠けていたら、それ自体が法令違反です。特に「賞与」「退職金」「休職」は相対的明示事項なので、制度がなければ書かれません。「書いていない=ない」と読むのが正解で、「聞いていた賞与の話が書かれていない」なら、その場で確認してください。

2024年4月の改正で追加された4つの明示事項——転職者にとって何が変わったか

2024年4月1日から、労働条件明示のルールが改正され、次の4つが追加されました。転職者にとって最も重要なのは①です。

追加された明示事項 対象 転職者にとっての意味
就業場所・業務内容の「変更の範囲」 すべての労働契約 「雇い入れ直後」の勤務地・業務に加えて、将来変わりうる範囲が書面でわかる。「転勤なし」「職種限定」はここで確認
② 有期契約の更新上限の有無と内容 有期労働契約 「最長3年」「更新2回まで」などが明示される
③ 無期転換申込機会 無期転換申込権が発生する契約更新時 通算5年を超える有期契約者は無期転換を申し込めることが書面で示される
④ 無期転換後の労働条件 同上 無期転換後の条件が事前にわかる

「変更の範囲」の読み方——「会社の定める場所」と書かれていたら

①の「変更の範囲」欄は、次のように書かれます。

  • 就業場所(雇入れ直後):東京本社/(変更の範囲):会社の定める事業所 → 全国転勤の可能性がある、という意味。フルリモートやエリア限定の約束は、ここに書いてもらう必要があります。
  • 就業場所(雇入れ直後):東京本社および本人の自宅/(変更の範囲):東京本社および本人の自宅 → フルリモート・在宅勤務が書面で担保されている状態。
  • 業務内容(雇入れ直後):法人営業/(変更の範囲):会社の定める業務 → 職種変更(営業→CS、企画→管理部門など)の可能性がある。
  • 業務内容(雇入れ直後):ソフトウェア開発/(変更の範囲):ソフトウェア開発およびこれに付随する業務 → 職種限定に近い書き方。

「オファー面談でフルリモートOKと言われた」「職種は変えないと約束された」という方は、必ずこの欄を確認してください。変更の範囲が「会社の定める〜」になっている限り、口頭の約束は法的には担保されていません。フルリモート求人の実態と確認方法はフルリモート転職完全ガイドでも書いています。

データで見る「求人票と実際が違う」の実態——申出3,297件、1位は賃金20.2%

「書面を確認しろ」と言われても、実際にどれくらいの人が困っているのか。厚生労働省が公表しているハローワークの数字を見てみましょう。

申出の内容(令和6年度) 件数 割合 典型例
賃金に関すること 929件 20.2% 基本給に固定残業代が含まれていた、手当が求人票と違う
就業時間に関すること 661件 14.4% 所定労働時間が違う、残業が「なし」と書いてあったのにある
職種・仕事の内容に関すること 591件 12.9% 募集職種と違う仕事を任された
選考方法・応募書類に関すること 470件 10.2%
休日に関すること 320件 7.0% 年間休日数が違う、土日出勤がある
雇用形態に関すること 274件 6.0% 正社員のはずが契約社員だった
就業場所に関すること 207件 4.5% 勤務地が違う、転勤があった
雇用期間に関すること 201件 4.4% 期間の定めがあった
社会保険・労働保険に関すること 152件 3.3% 社会保険に入れてもらえない

出典:厚生労働省「令和6年度 ハローワークにおける求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数」。申出等の総数3,297件(令和5年度3,761件)。1件で複数の内容を含むものは各内訳に計上。要因別では「求人票の内容が実際と異なる」1,478件、「求人者の説明不足」932件、「求職者の誤解」364件。

読み取れることは2つあります。

  1. トラブルの半分近くが「お金」と「時間」。賃金・就業時間・休日を合わせると41.6%。この3つは、通知書で数字を突き合わせれば入社前に必ず防げるものです。
  2. 「求職者の誤解」も364件ある。会社が嘘をついているケースだけではなく、求職者が「年収600万=基本給600万」と思い込んでいた、というケースも少なくありません。だからこそ、書面で内訳を確認する必要があります。

なお、この数字はハローワーク経由の求人だけです。民間では、エン・ジャパンの調査(『AMBI』利用者929名、2024年5〜6月)で入社後にギャップを感じた人が87%、そのうち「事前に防げた」と思う人が42%という結果があります。ギャップの内容は「仕事内容」39%、「職場の雰囲気」38%。仕事内容のギャップは、通知書の「業務内容」欄と「変更の範囲」欄を見ておくだけで、かなりの部分が事前にわかります。

サイン前に確認すべき15項目——固定残業代・試用期間・変更の範囲・賞与の在籍要件

ここからが本題です。私が候補者に必ず確認してもらう15項目を、要注意の書き方とセットでまとめました。

# 項目 確認すること 要注意の書き方・落とし穴
1 契約期間 「期間の定めなし」になっているか 正社員募集なのに「1年契約・更新あり」。有期なら更新上限も確認
2 試用期間 期間の長さ、試用期間中の給与・待遇の差、本採用の条件 6ヶ月超は長い。「試用期間中は給与の80%」「本採用は会社が判断」など。法律上の上限はないが、判例では1年を超えると無効になりうる。詳細は転職の試用期間完全ガイド
3 就業場所と変更の範囲 雇入れ直後の勤務地と、将来の変更範囲 「会社の定める事業所」=全国転勤あり。リモートは「本人の自宅」の記載があるか
4 業務内容と変更の範囲 雇入れ直後の職種と、変更の範囲 「会社の定める業務」=職種変更あり。オファー面談で聞いたミッション・役職と一致しているか
5 基本給と内訳 基本給・各手当の金額。月額と年額の両方 オファーレターの「年収600万円」が、基本給+固定残業代+賞与見込みの合算になっていないか
6 固定残業代(みなし残業) 時間数・金額・超過分の支給の3点が明記されているか 「月給35万円(固定残業代含む)」だけで時間数がない。45時間分が含まれていると実質時給は大きく下がる。詳細はみなし残業(固定残業代)完全ガイド
7 賞与 有無、支給基準、回数、支給日在籍要件、初年度の扱い 「業績により支給」「初年度は対象外」。年収提示に賞与見込みが含まれていると、初年度年収が下がる。詳細は転職とボーナス(賞与)完全ガイド
8 昇給・評価制度 昇給の時期・基準、評価サイクル 「会社業績により」のみで基準がない。ベンチャーでは制度自体が未整備のことも
9 労働時間制度 所定労働時間、フレックス・裁量労働制・変形労働時間制の有無 「裁量労働制」は対象業務が法律で限定されており、専門業務型は2024年4月から本人の同意が必須。営業職に裁量労働制は適用できない
10 休日・休暇 年間休日数、週休の形態、有給の付与時期 「週休2日制」(週2日休みの週が月1回以上)と「完全週休2日制」は別物。年間休日105日と120日では年15日違う
11 社会保険 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災の加入 「試用期間中は未加入」は違法。加入要件を満たせば初日から加入
12 退職金・退職に関する事項 退職金制度の有無と条件、自己都合退職の予告期間、解雇事由 「退職は3ヶ月前に申し出ること」など長すぎる予告期間(民法上は2週間で退職可能)
13 SO・RSU・インセンティブ 付与の有無、株数・行使価格・ベスティング条件、別途契約書の有無 SOは雇用契約書には通常書かれず、別途「新株予約権割当契約書」が必要。口頭の「SOも出します」は書面がなければ存在しない。詳細はストックオプション(SO)完全ガイド
14 競業避止・秘密保持の誓約書 入社時に署名を求められる誓約書の内容、競業避止の期間・範囲・代償措置 「退職後2年間、同業他社への転職を禁止」など広すぎる条項。判例上、代償措置のない広範な競業避止は無効になりやすい。詳細は競業避止義務は転職でどこまで有効?
15 役職・レポートライン 肩書き、直属の上司、管轄範囲 オファー面談で「部長候補」と言われたのに書面には「メンバー」。管理監督者扱い(残業代なし)なのに実態は権限がない「名ばかり管理職」

15項目のうち、私の経験上トラブルになりやすいのは6(固定残業代)、7(賞与の初年度扱い)、3・4(変更の範囲)、13(SO)、15(役職)の5つです。ここだけは、書面を指で押さえながら確認してください。

ベンチャー・スタートアップ・CxO転職で特に注意すべき書類の落とし穴

大手企業は人事制度が整っているので、通知書も定型で漏れが少ない。一方、ベンチャー・スタートアップは書類そのものが未整備なことが珍しくありません。私が実際に見てきた落とし穴を挙げます。

1. 「年俸制」=残業代なし、ではない

ベンチャーで多い年俸制ですが、年俸制でも法定労働時間を超えた分の残業代は発生します。「年俸に残業代を含む」とするなら、固定残業代として時間数と金額を明示する必要があります。「年俸制なので残業代はありません」と説明されたら、それは間違いです。

2. SOは雇用契約書に書かれない——「別契約」がなければ存在しない

ストックオプションは雇用契約とは別の「新株予約権割当契約」で付与されます。オファーレターに「SO付与予定」と書いてあっても、割当契約書が来なければ付与されていません。「入社後1年で付与」「次回の割当時に」といった口頭の話は、いつ・何株・行使価格いくら・ベスティング条件は何かまで書面にしてもらってください。SOで後悔するパターンはストックオプションで後悔する人の特徴にまとめています。

3. CxO・役員は「雇用契約」ではなく「委任契約」になることがある

取締役として入る場合、会社との関係は雇用ではなく委任(会社法330条)で、労働基準法の保護(解雇規制・残業代・有給)が原則として及びません。執行役員は「雇用型」と「委任型」があり、どちらかで待遇がまったく変わります。役員報酬の決め方、任期、退任時の条件、SOの扱いは、雇用契約書ではなく「役員任用契約書」「委任契約書」で確認します。ベンチャー役員の年収相場とリスクはベンチャー役員の年収相場CXO転職ガイドを参考にしてください。

4. 「業務委託からスタート」の場合は労働者ではない

「まず業務委託で3ヶ月、その後正社員に」という入り方が増えていますが、業務委託の間は労働者ではないので、労働条件通知書も社会保険もありません。正社員転換の条件・時期・転換後の条件を、業務委託契約書とは別に書面(メールでも可)で残しておくこと。副業・業務委託からのスタートアップ転職ガイドで詳しく書いています。

5. 「書類が来ない」「入社日に渡す」は要注意サイン

入社日にまとめて署名させる会社は、内容を吟味させたくない意図がある場合と、単に人事が未整備な場合があります。どちらにせよ、入社日より前に通知書のドラフトをもらうのが原則です。「入社前に労働条件通知書の内容を確認させてください」と言って嫌がる会社なら、その時点で入社を再考する材料になります。伸びる会社かどうかの見極めは伸びるベンチャー企業の特徴7つを参考にしてください。

内定からサインまでの7ステップ——「オファー面談→書面→質問→合意」の順番を守る

  1. 内定連絡を受ける(口頭・メール)。この時点では条件の詳細は決まっていないことが多い。「条件は書面でいただけますか」と伝える。
  2. オファー面談で条件を確認する。年収の内訳、役職、ミッション、勤務形態、SOの有無を聞く。確認すべき15項目はオファー面談・条件交渉完全ガイドを参照。
  3. オファーレターを受け取る。面談で聞いた内容と一致しているか、1行ずつ突き合わせる。回答期限は通常1週間前後。延長したい場合は理由を添えて依頼する。
  4. 不明点・相違点を書面(メール)で質問する。「固定残業代の時間数」「賞与の初年度の扱い」「変更の範囲」など。回答も必ずメールでもらい、記録を残す。
  5. 条件交渉があればここで行う。年収交渉のタイミングはオファーレター受領後〜承諾前が最後。承諾後の交渉は原則できない。交渉のやり方はベンチャー転職の年収交渉術で。
  6. 内定を承諾する。承諾した時点で労働契約が成立。承諾後の辞退は法的には可能だが、信頼を大きく損なう。承諾・辞退の判断は内定辞退・内定承諾完全ガイドを参照。
  7. 労働条件通知書(兼雇用契約書)を受け取り、オファーレターと再度突き合わせて署名する。ここで違いがあれば、署名前に訂正を依頼する。署名した控えは必ず手元に保管する。

複数の内定が出ている場合は、ステップ3の段階で各社の書面を並べて比較してください。比較の仕方は複数の内定が出たらどちらを選ぶ?完全ガイドで書いています。

「書いてあることと違う」ときの対処法——タイミング別

タイミング 状況 対処法 法的根拠
求人票 → オファーレター 求人票の年収・勤務地・職種とオファーの内容が違う 変更理由の説明を求める。納得できなければ承諾しない。ハローワーク求人なら「ハローワーク求人ホットライン」に申出可 職業安定法5条の3(求人時の労働条件明示義務。当初の明示と異なる条件で契約する場合は変更内容の明示が必要)
オファーレター → 労働条件通知書 承諾したオファーの内容と、届いた通知書の内容が違う 署名前に、相違点を具体的に示して訂正を依頼(メールで)。オファーレターの内容で契約は成立しているので、修正を求める権利がある 内定=労働契約の成立(始期付解約権留保付労働契約)
入社後 通知書に書かれた条件と、実際の労働条件が違う ①まず人事に書面で是正を求める。②是正されなければ労働基準監督署に相談。③即時に契約を解除して退職することもできる 労働基準法15条2項(明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できる)。同3項(就業のために転居した場合、解除日から14日以内に帰郷するなら会社が旅費を負担)
エージェント経由の場合 上記のいずれか 必ずエージェントに報告する。エージェントは企業に是正を求める義務があり、企業との交渉窓口になる 職業安定法(職業紹介事業者の労働条件明示義務)

ひとつ強調しておきたいのは、「入社後に15条2項で即時解除できる」は最後の手段だということです。短期離職の履歴は残りますし、精神的な消耗も大きい。だからこそ、入社前の書面確認ですべて潰しておく。ベンチャー転職の失敗・後悔ガイドで書いている失敗の多くは、この段階で防げるものです。

書類確認で失敗するパターン7つ

  1. 「年収600万円」の内訳を見ずにサインした。基本給400万+固定残業代120万+賞与見込み80万で、初年度は賞与対象外だった、というケース。年収提示は必ず「基本給」「固定残業代」「賞与」「その他手当」に分解して確認する。
  2. 固定残業代の時間数を確認しなかった。45時間分が含まれていて、実質の時給が前職より下がっていた。時間数・金額・超過分支給の3点セットを確認する。
  3. 「フルリモートOK」を口頭で信じた。通知書の就業場所は「会社の定める事業所」で、半年後に出社を命じられた。変更の範囲欄に「本人の自宅」があるかを見る。
  4. 「SOも出す」を書面にしてもらわなかった。入社2年経っても割当契約書が来ない。株数・行使価格・ベスティングを書面で。
  5. 試用期間中の条件差を見落とした。試用期間6ヶ月は給与80%、社会保険は本採用後、と書いてあった。試用期間中の社会保険未加入は違法。
  6. 賞与の「支給日在籍要件」を知らずに退職日を決めた。これは前職側の話ですが、転職先の賞与も同じ。入社時期と賞与の支給日・在籍要件・初年度扱いを合わせて確認する。入社時期の決め方は転職の入社時期はいつがおすすめ?を参照。
  7. 入社日に渡された誓約書に、読まずにサインした。退職後2年間の競業避止、広範な秘密保持、損害賠償の予定など。誓約書は「入社日に初めて見る」のではなく、事前にドラフトをもらって読んでおく。

書類確認を怠りやすい人・きちんとできる人

怠りやすい人 きちんとできる人
「内定が出た」で気が緩み、書類は流し読み 「サインするまでが転職活動」と考えている
細かいことを聞くと印象が悪くなると思っている 条件確認は当然の権利で、むしろ誠実さの証明だと理解している
年収の「総額」だけを見る 基本給・固定残業代・賞与・手当に分解して見る
口頭で聞いた約束を信じる 口頭の約束は、メールでもいいので書面にしてもらう
誓約書を入社日にその場でサインする 事前にドラフトをもらい、競業避止・秘密保持の範囲を確認する
エージェントに任せきりで自分では見ない エージェントに確認してもらいつつ、自分でも1行ずつ読む

「細かいことを聞くと印象が悪くなる」という心配は、私の経験上ほぼ杞憂です。むしろ、条件を書面で確認する候補者を「仕事も丁寧そうだ」と評価する経営者のほうが多い。逆に、確認を嫌がる会社はその時点で要注意です。

年代別:書類確認で特に見るべきポイント

20代——固定残業代・年間休日・試用期間。「若いから」で条件を飲まない

20代は提示年収が低い分、固定残業代の比率が高くなりがちです。月給30万円のうち固定残業代が8万円(40時間分)といった構成は珍しくありません。基本給がいくらか、年間休日が何日か、試用期間中の待遇差はあるか——この3つを確認してください。「若いうちは条件より経験」という考えは正しい面もありますが、条件を「知らずに」飲むのと「知って」飲むのはまったく別です。20代の転職戦略は20代のベンチャー転職完全ガイドを参考にしてください。

30代——賞与の初年度扱い・役職・変更の範囲。家族がいるなら勤務地条項は必須

30代は年収の絶対額が上がる分、賞与の初年度扱いで初年度年収が100万円単位で変わります。また、マネージャー・部長候補として入る場合、役職とレポートラインが書面と一致しているかを確認する。家族がいる方は、就業場所の変更の範囲(転勤の有無)を必ず見てください。ベンチャーに移る30代の年収変化は30代で大手からベンチャーに転職する方法で書いています。

40代以上・CxO——雇用か委任か、SOの割当契約、退任時の条件

40代以上の幹部・CxO転職では、そもそも「雇用契約」なのか「委任契約」なのかから確認が必要です。役員報酬の決め方、任期、退任時の扱い、SOの割当契約書、競業避止の範囲と代償措置——ここは雇用契約書ではなく役員任用契約書・割当契約書の話になります。弁護士に契約書レビューを依頼する費用(数万円〜)は、報酬額を考えれば安い投資です。役員のリスクはベンチャー取締役のリスクとは?で詳しく書いています。年代ごとの戦略全体は年齢別転職ガイドにまとめています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 労働条件通知書がまだ届きません。入社前にもらえるものですか?

もらえますし、もらうべきです。労働基準法15条で、会社は労働契約の締結時に労働条件を書面で明示する義務があります。「入社日に渡します」と言われたら、「事前に内容を確認したいので、入社前にドラフトをいただけますか」と依頼してください。嫌がる会社は要注意です。

Q2. オファーレターと労働条件通知書で年収の記載が違います。どちらが正しいですか?

承諾したオファーレターの内容で労働契約は成立しているので、通知書のほうを訂正してもらう権利があります。署名する前に、相違点を具体的に示してメールで訂正を依頼してください。多くの場合は人事の記載ミスですが、意図的に下げてくる会社もゼロではありません。

Q3. 雇用契約書がなく、労働条件通知書だけです。問題ありますか?

法律上は問題ありません。雇用契約書の作成は義務ではなく、労働契約は合意だけで成立します(労働契約法6条)。ただし通知書は会社からの一方的な通知なので、可能なら「労働条件通知書兼雇用契約書」の形で双方署名のものをもらうと、トラブル時の証拠として強くなります。

Q4. 「就業場所の変更の範囲:会社の定める事業所」と書いてあります。フルリモートの約束はどうなりますか?

その記載のままだと、フルリモートは法的には担保されていません。「変更の範囲」に「本人の自宅」を含めてもらうか、少なくとも「原則在宅勤務とする」旨を通知書や別紙・メールで書面化してもらってください。2024年4月の改正で変更の範囲の明示が義務になったのは、まさにこのトラブルを防ぐためです。

Q5. 固定残業代が「月給に含む」とだけ書いてあり、時間数がありません。

時間数・金額・超過分の支給の3点が明示されていない固定残業代は、法的に無効と判断されるリスクがあり、そもそも求人段階での明示が求められています。署名前に「固定残業代の時間数と金額を明記してください」と依頼してください。回答を渋る会社は、その時点で判断材料になります。

Q6. 入社後に、通知書と実際の条件が違いました。すぐ辞められますか?

労働基準法15条2項により、明示された労働条件が事実と違う場合は即時に労働契約を解除できます。転居を伴った場合は、14日以内の帰郷旅費を会社が負担します(同3項)。ただしその前に、人事への書面での是正要求、労働基準監督署への相談を試してください。エージェント経由なら必ずエージェントに報告を。

Q7. 内定承諾書にサインした後で、条件交渉はできますか?

原則できません。承諾した時点で労働契約は成立しており、後からの交渉は「契約内容の変更の申し入れ」になります。年収や役職の交渉は、オファーレター受領後〜承諾前が最後のタイミングです。交渉の進め方は年収交渉の方法と注意点を参考にしてください。

Q8. 取締役として入社します。労働条件通知書はもらえますか?

取締役は会社と委任関係にあり、労働者ではないため、労働条件通知書の交付義務は原則ありません。代わりに「役員任用契約書」「委任契約書」で、報酬・任期・退任条件・SO・競業避止を確認します。「取締役兼従業員(使用人兼務役員)」の場合は従業員部分について通知書が必要です。契約書のレビューは弁護士に依頼することをおすすめします。

まとめ——口頭の約束は「ないもの」。15項目を書面で確認してからサインする

転職のゴールは内定ではなく、条件を書面で確認して合意することです。オファーレターは内定通知であり、承諾した時点で労働契約が成立する。労働条件通知書は法律上必ず交付され、そこには2024年4月から「就業場所・業務の変更の範囲」が明示される。雇用契約書は義務ではないが、双方署名の形でもらえばトラブル時の最強の証拠になる。

そして、ハローワーク経由だけで年間3,297件、内容の1位は「賃金」20.2%——書面と実際が違うトラブルは、決して珍しいものではありません。固定残業代の時間数、賞与の初年度扱い、就業場所と業務の変更の範囲、SOの割当契約、役職とレポートライン。この5つだけでも、指で押さえながら確認してからサインしてください。

キープレイヤーズでは、ベンチャー・スタートアップ・CxO転職のオファーレターや契約書について、「この条件は相場としてどうか」「この条項は飲んでいいのか」を企業側の視点も踏まえてご一緒に確認しています。書類の読み方で迷ったら、サインする前にお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

東北大→インテリジェンス出身、キープレイヤーズ代表。東北大学特任教授(客員)、文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。1万2000件以上のキャリア面談、4,000名以上の経営者と採用相談にのる。80社以上のエンジェル投資、投資して上場は9社。うち2社は役員として上場(クラウドワークス、メドレー)。178社以上の上場支援実績。顧問・社外役員30社以上、キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数300回以上。「ベンチャーの作法」(ダイヤモンド社)5万部を超えるベストセラー

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